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資料9

税関における水際取締りに係る著作権法上の強化について

平成18年3月30日
文化庁著作権課

1 問題の所在>
1. 現状について
   経済のグローバル化の進展により、企業等による国境を越えた経済取引が活発化する一方で、模倣品・海賊版が国際的に取引される事例も増大している。

  知的財産侵害物品の輸入差止状況
  (出典:「平成16年の知的財産侵害物品の輸入差止状況」財務省関税局)

 
   また、模倣品・海賊版問題が世界各国に拡散しており、反社会的勢力等の資金源となるとともに、こうした模倣品の国境を越えた移動を未然に防ぐことが日本の著作物の国際的信用を高めるために非常に重要であると考えられるため、「知的財産推進計画2005」においては、各国が模倣品・海賊版の輸出及び通過を規制すること等を内容とする「模倣品・海賊版拡散防止条約」を提唱している。
 また、2005年7月に開催されたグレンイーグルスサミットにおいて、小泉総理大臣から模倣品・海賊版の拡散を防止するための国際約束の必要性が提唱され、模倣品・海賊版取引の削減に関する文書(「より効果的な執行を通じた知的財産権海賊行為及び模倣行為の削減」)が合意された。

  ○「知的財産推進計画2005」(抄)
  ※ 下線は当方で付したものである
 
2 模倣品・海賊版対策を強化する
  2.水際での取締りを強化する
  (5)模倣品等の流通態様に応じた取締りを強化する
 
1)  模倣品・海賊版の税関での取締りを強化する
2  模倣品・海賊版が侵害品発生国・地域から第三国で積み替えて輸出を行うなどの新たな手口が発生している現状を踏まえ、税関が輸出・通過貨物についても水際で機動的に取締りを実施できるよう、2005年度から、模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)の議論と並行して制度面から幅広く検討し、必要に応じ法改正等制度改善を行い、税関での取締りを強化する。
(法務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

2. 関税定率法と著作権法との関係について
   現在、輸入禁制品については関税定率法に規定があるものの、輸出禁制品については関税関係法令に記載がない。
 この点、財務省関税・外国為替等審議会関税分科会に設けられた「知的財産侵害物品の水際取締りに関するワーキンググループ」において平成17年12月にまとめられた座長取りまとめによると「輸出・通過の取締りの仕組みを関税関係法令の中で規定する場合、貨物の輸出及び輸入についての税関手続の適正な処理を図ることを目的とする関税関係法令の性格上、他の法令によりその輸出・通過が何ら規制されていない物品の輸出・通過を関税関係法令により独自に禁止することは適切ではないと考えられること、関税関係法令の中で税関が自らの権限をもって特定の貨物の水際取締りを行っているのは輸入禁制品であること等を踏まえると、…(中略)…各知的財産法上、輸出等が侵害行為とされる場合は、輸出を禁止する制度を設けることにより水際取締りを行う」と見解を示している。
 そのようなことから、水際で取締りを行うことができるようにするためには、知的財産各法において、輸出が侵害行為とされていることが必要となっている。

3. 著作権法における考え方について
 
(1) 現行規定の考え方(適用範囲)
  1  輸出
   「輸出」とは「内国貨物を外国に向けて送り出すこと」を指す(関税法第2条第1項第2号)。
 現行の著作権法において、「輸入」に関する侵害みなし規定は存在するものの(第113条第1項第1号)、「輸出」に関する侵害みなし規定は存在しない。
 ただし、侵害品を情を知って「頒布」し、又は「頒布の目的をもって所持」する行為は侵害とみなされる(第113条1項2号)。この点、「頒布」は有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい(第2条第1項第19号)、この場合の「公衆」は「特定かつ多数の者を含むもの」であり(第2条第5項)、「頒布」とは、国内とともに国外への頒布も含むものと考えられている(加戸守行著『著作権法逐条解説四訂新版』(著作権情報センター)p646)。
 したがって、「輸出」行為のうち、「頒布」行為の一部として、海外在住者等へ(情を知りつつ)侵害品を譲渡又は貸与する行為は、頒布権侵害となると考えられる。
 
   一方、「輸出」行為の形態に当たるが、以下の行為については現行著作権法において、侵害とみなされる行為に当たらない、もしくは当たるか否か不明である。
  (a) 特定少数の者に対する侵害物の譲渡又は貸与の一環として、海外在住者等へ侵害品を譲渡又は貸与する行為
 
  (b) 海外における頒布を目的として、特定少数の海外在住者等へ(情を知りつつ)侵害品を譲渡又は貸与する行為
 
  (c) 「頒布」目的で、海外在住者等へ侵害品を譲渡又は貸与するために(情を知りつつ)所持する行為(「頒布」目的で海外に侵害品を携帯する行為
 
  (d) 「頒布(譲渡・貸与)」以外の目的(個人使用目的など)で海外に侵害物を携帯する行為
 
  2  通過
   「通過」について、関税法等含めて、明確に定義する規定はないが、一般的に、日本の領域に一度入ったのち、他国へ送付される行為形態として、用いられている。
 日本の領域に入るということは一般的に「輸入」と考えられるが、著作権法上において、第113条第1項第1号に国内において頒布する目的をもって「輸入」する行為について侵害とみなされる行為として規定されている。
 したがって、「通過」行為の形態のうち、日本で頒布することを目的として「輸入」したのち、その貨物を第三国(外国)に送り出す行為については、輸入の時点で、現行法上侵害とみなされる行為に該当し、著作権侵害となる。
 なお、著作権法上は「輸入」について定義規定はないが、加戸・前掲641頁によれば、輸入とは、「日本国の法令が及ぶことのできない領域から日本国の法令が及ぶ領域内に物を引き取ること」をいうとしている。したがって、侵害品が税関を通過するより以前の、日本に陸揚げされた時点で、「輸入」があったと考えられる。

 
   一方、以下の行為についても、「通過」行為の形態に当たると考えられるが、現行著作権法において、侵害とみなされる行為に当たらない、もしくは当たるか否か不明である。 

  (a) 外国からの貨物が単に我が国の領域を通過する場合
 
  (b) 日本を仕向地としない貨物が荷繰りの都合上いったん日本で陸揚げされた後(保税地域に置かれる場合も含む)、日本において通関手続きを経ずに当初の仕向地に向けて運送される場合

 

4. 産業財産権各法における「輸出」「通過」の考え方について
   特許法をはじめとした産業財産権各法については、平成17年に産業構造審議会知的財産政策部会のもとに設置された各小委員会において、以下のような検討がなされた。

 
(1) 「輸出」について
   商標法を除く産業財産権各法における「実施」行為及び商標法における「使用」行為には、侵害物品を国内から国外に送り出す「輸出」行為について規定されていない。また、国内から国外へ侵害物品が搬送されることに伴い所有権の移転がなされる場合、こうした行為が「譲渡」に該当するか否かについては、裁判所による明確な判断は示されていない。
 したがって、関係の小委員会においては、商標法を除く産業財産権各法における「実施」行為及び商標法における「使用」行為のそれぞれの内容として、「輸出」を新たに追加するとともに、産業財産権各法の「侵害とみなす行為」に「輸出を目的とした所持」を追加すべきであると判断している。
 この検討結果を踏まえて、本年改正法案が国会に提出されたところである。

(2) 「通過」について
   まず「通過」と考えられる行為について、以下のような類型化がおこなわれた。
 
(a) 外国から到着した貨物が単に我が国の領域を通過する場合、
(b) 我が国を仕向地としない貨物が荷繰りの都合上いったん我が国で陸揚げされた後当初の仕向地に向けて運送される場合
(c) 我が国を仕向地として保税地域に置かれた貨物が必要に応じ改装、仕分け等が行われた後、通関されることなく、我が国を積み出し国として外国に向けて送り出される場合
   このうち、(a)については、我が国に陸揚げされていないため、特許法に仮に「通過」に関する規定を設けたとしても、その特許法の効力が及ぶと考えることは困難であると考えられるとした。
 また(b)及び(c)については、侵害物品がいったん我が国に陸揚げされていることから、形式的には「輸出」に該当すると考えられるが、(b)については、陸揚げの行為形態によっては、侵害物品の拡散には必ずしもつながらず、権利者の利益を害する蓋然性も低いと考えられる場合もあることから、個別に判断することが必要である。
 以上を踏まえて、「通過」に関する新たな規定について設けないこととしたところである。
   
2 論点>

1. 「輸出」規定の必要性について
〜他法の動向を鑑みたときに、著作権法においても「輸出」を侵害行為と明示する必要性があるのではないか
2. 「通過」に対する対応の必要性について


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