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.権利制限の見直しについて
4 図書館関係の権利制限について
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第31条の「図書館資料」に、他の図書館等から借り受けた図書館資料を含めることについて |
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○問題の所在 図書館等は、著作権者の許諾なく「図書館資料」(図書館等の図書、記録その他の資料)を用いて著作物を複製することができ、公表された著作物の一部分に限り、図書館等の利用者の求めに応じて著作物の複製物を提供することができる(第31条第1号)。 国立国会図書館、公共図書館(地方公共団体が設置する図書館及び私立図書館をいう。)、大学図書館(短期大学及び高等専門学校が設置する図書館を含む。)等の間では、総合目録3を用いた図書館資料の現物貸借4が実務上広く行われている。しかし、第31条に基づき図書館等がその複製物を提供できる「図書館資料」に、他の図書館等から借り受けた資料5が含まれるかどうかが明確でない。このため、遠隔利用者等に対して資料の複製物を迅速に提供できるよう、現物貸借された図書館資料を、貸出先の図書館等で複製することについて認めてもらいたいとの要望がある。
3 複数の資料所蔵機関(図書館、資料センターなど)の蔵書を一覧できるようにした目録。図書館間の資料相互貸借(ILL:inter-libraryloan)を行うために資料の所在を確認するツールとして作成する(日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編『図書館ハンドブック第6版』(日本図書館協会、2005)296頁)。主なものとして、NACSIS-CAT(後掲脚注6参照)や国立国会図書館総合目録ネットワークなどがある。
4 国立大学図書館協議会現物貸借申合せ(国立大学図書館協議会平成元年6月29日採択)―定義参照。
5 国立国会図書館が貸し出す資料については貸出期間が1月以内(国立国会図書館資料利用規則(平成16年国立国会図書館規則第5号)第47条第1項)、国立大学図書館が貸し出す資料については20日間(国立大学図書館協議会現物貸借申合せ七貸出期間.A)と規定されている。
なお、現物貸借された資料について、国立国会図書館資料利用規則第50条第2項では、「資料の貸出しを受けた図書館等は、当該資料を、当該図書館等が定めた利用規則等に基づいて、所定の閲覧室において閲覧させるものとし、複写その他の方法で利用させてはならない。」とされている。他の図書館等間の現物貸借においても、現行の著作権法制度の趣旨及び資料の安全管理の観点から、同様の取扱いが一般的に普及している。
○検討結果 図書館等の間で図書館資料の現物貸借が行われている場合、現行法の下においても、()図書館資料を貸出先から貸出元の図書館に戻し、()複製を希望する図書館利用者から改めて複製の申請をさせ、()図書館資料を所蔵する貸出元の図書館において複製し、()申請者に郵送するという手順を踏むことで、利用者がコピーを入手することは可能である。しかし、公共図書館においては郵送による複製物の送付を行わない施設が過半数あり、現物貸借により文献を閲覧した利用者は実際にはそのコピーを入手できない場合が少なくない。
【郵送複写の実態】
(出典:社団法人 日本図書館協会『図書館における著作権対応の現状 |
「日本の図書館2004」付帯調査報告書』57頁) |
公共図書館数は増加傾向にあるものの、年間受け入れ図書冊数や資料費は伸び悩んでいる。図書館等が増え続ける資料数に対応し、地域住民の生涯学習の拠点としての役割を担っていくためには、図書館等の間での図書館資料の相互協力が重要であることに着目する必要がある。このため、現物貸借された図書館資料については、借用を依頼し現に責任を持って当該資料を管理している貸出先の図書館等において、著作権法第31条第1号の条件を満たす場合には、当該資料の複製をすることができるとする方向で権利制限を行うことが適当であるとする意見が多かった。 他方、本件の複製を認めることとすると権利者の利益を害するおそれがあるとの懸念から、権利制限をするのであれば、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料に限定すべきではないかとの意見があった。また、現物貸借において扱われている図書館資料やそれらのうちどのような図書の複製が求められているかについての実態が明らかではなく、さらに、現在、権利者団体と図書館団体が、現物貸借された図書館資料の複製の取扱いに係る合意の内容について協議を行っているところである。 したがって、本件については、権利者団体と図書館団体との間の協議における合意の内容・推移を見守ることとし、今後、この合意の下では図書館による複製が必ずしも円滑に行われないとして、なお権利制限の必要有りとされる場合には、その具体的な条件について、現物貸借において扱われている図書館資料や図書館の蔵書の実態などを踏まえて検討することが適当である。
【公共図書館数等の経年変化】 (出典:社団法人 日本図書館協会『日本の図書館統計と名簿2004』27頁より)
注1 |
私立図書館を含む公共図書館の経年変化。 |
2 |
図書館数については「年」を指す。 |
3 |
資料費は経常的経費 |
年度(注2) |
図書館数 |
年間受入図書冊数 (千冊) |
資料費(注3) |
決算 (億) (万) |
1974 |
989 |
4,681 |
505788 |
1984 |
1,569 |
11,157 |
1603538 |
1989 |
1,873 |
14,568 |
2393605 |
1994 |
2,207 |
18,977 |
3403027 |
1995 |
2,297 |
18,409 |
3490813 |
1996 |
2,363 |
19,320 |
3636370 |
1997 |
2,450 |
19,318 |
3696972 |
1998 |
2,524 |
19,757 |
3616139 |
1999 |
2,585 |
19,347 |
3564338 |
2000 |
2,639 |
20,633 |
3519525 |
2001 |
2,681 |
19,617 |
3541654 |
2002 |
2,711 |
19,867 |
3522070 |
2003 |
2,759 |
20,460 |
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2004 |
2,825 |
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【相互協力状況】
<公共図書館集計>図書館相互協力(2003年度実績)
(出典:社団法人 日本図書館協会『日本の図書館統計と名簿2004』22頁)
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都道府県立 |
市区立 |
町村立 |
広域市町村圏 |
私立 |
計 |
前年度 |
貸出冊数 |
925,913 |
791,347 |
114,059 |
703 |
240 |
1,832,262 |
1,721,355 |
借受冊数 |
113,810 |
1,237,336 |
289,920 |
1,480 |
435 |
1,642,981 |
1,421,711 |
<大学図書館集計>相互協力業務(2003年度実績)
(出典:社団法人 日本図書館協会『日本の図書館統計と名簿2004』263頁)
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国立 |
公立 |
私立 |
大学計 |
短大 |
高専 |
図書貸借貸出冊数 |
57,943 |
7,112 |
62,313 |
127,368 |
1,432 |
121 |
図書貸借借受冊数 |
53,411 |
8,075 |
56,126 |
117,612 |
2,833 |
991 |
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図書館等の間においてファクシミリ、電子メール等を利用して、著作物の複製物を送付することについて |
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○問題の所在
大学図書館等間における文献複写に関する業務は、国立情報学研究所(旧文部省学術情報センター)(NII)が平成4年より提供するNACSIS-ILL6を通じて、著作権管理団体との契約又は合意に基づき、ガイドラインに基づいて規律されており、郵送のほか、通信回線を利用した送信により複製物の無償提供が行われている。NACSIS-ILLの参加図書館数(平成16年現在で945図書館)、複写件数は年々増加し、図書館実務において主要なものとなっていると考えられる。 現行制度の下では、図書館等は、著作権者の許諾なく「図書館資料」を用いて著作物を複製することができ、公表された著作物の一部分に限り、図書館等の利用者の求めに応じて著作物の複製物を提供することができる(第31条第1号)が、著作物の複製物をファクシミリ送信、インターネット送信等の通信回線を利用する送信を通じて提供できることについて規定はない。このため、大学図書館等の間で実務上広く行われている、図書館等の間における通信回線を利用した文献複写(当該図書館等で所蔵していない図書館資料の複製物を、他の図書館等から取り寄せることをいう。)7について、広く著作権者の許諾なく行えるようにし、遠隔利用者等に対して文献の複製物の迅速な提供という便宜を図ることが適当であるとの要望がある。
6 NACSIS-CAT(オンラインによる共同分担目録、総合目録形成・提供サービス)で作成された総合目録データベースを利用して、参加機関間で相互貸借、文献複写の依頼、料金決済などを行うサービス(日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編『図書館ハンドブック第6版』(日本図書館協会、2005) 301頁)。
7 国公私立大学図書館間相互貸借に関する協定(平成12年10月12日実施国公私立大学図書館協力委員会決定)第2項及び国公私立大学図書館間文献複写マニュアル参照。
○検討結果 本件の要望は、NACSIS-ILLを通じて大学図書館等において行われている複製物の提供方法と同様に、大学図書館等に限らず、利用者が身近な公共図書館等を窓口として所蔵館からの所蔵資料の複製物を受け取る方法として、ファクシミリや電子メール等を利用した送信を可能にしようとするものである。特に外国からの複製依頼に関して郵送のみによる対応に限定することは、研究活動等の著しい制限になり不合理であり、我が国が文化の発信に消極的であるとの批判を受けかねないことから、利用者の便宜を拡大することが強く望まれるとする意見があった。 このようなことから、最終的な利用者に、窓口となる図書館から紙媒体による複製物1部を交付した後、中間的に発生した電子的複製物は所蔵館におけるものを含めてすべて廃棄することを条件に、認めてはどうかとする意見が多かった。ただし、大学図書館等に関しては、現状でもNACSIS-ILLを通じて、適切に運用されていると考えられるが、それ以外も含めて広く権利制限を行うことの適否については、大学図書館等間その他公共図書館等間におけるファクシミリ送信等の利用実績・ニーズを踏まえ、現行制度における権利処理の限界、権利制限の対象となる権利の種類、具体的な権利制限の規定の在り方、図書館における執行上のルールなどについて、具体的な問題点の整理が必要である。また現在、権利者団体と図書館団体との間で、図書館がファクシミリ等により複製物を提供できるようにすることについて、協議事項としている。 したがって、本件については、上記の点を踏まえた、図書館関係者による具体的な提案が得られた段階で、権利者団体及び図書館関係者間の協議の状況も踏まえつつ検討することが適当である。
なお、図書館等の間の送信だけでなく、更に進んで、所蔵館から利用者に直接通信回線を利用した送信をすることについて権利制限を行うべきとの見解もあったが、これについては、そもそも図書館の機能を超えているのではないか、権利者の利益が相当に害されるのではないかという指摘があった。
【参考】NACSIS-ILLシステムについて〜ILLシステムでの処理概念図
(出典:国立情報学研究所『ILLシステム操作マニュアル第5版2.ILLシステムの概要と運用』(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/INFO/ILL/MAN5/ILL5/02/02_01.html))
【NACSIS-ILLによる依頼レコード件数及び参加組織数の推移】
(出典:国立情報学研究所『NACSIS−ILL利用統計』(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/nill_stat_reqnum.html))
【参考】大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン (平成17年7月15日国公私立大学図書館協力委員会) (抄)
7. |
受付館は、当該資料の複製ができるとき、以下の(1)又は(2)のいずれかの方法によって複製物を作成して依頼館に送付する。 |
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(1)受付館は当該資料の複製物を作成し、それを依頼館宛に郵便又は宅配便により送付し、依頼館は申込みをした利用者に渡す。
(2)受付館は当該資料の複製を行い、依頼館宛に通信回線を利用して送信し、依頼館は紙面に再生した複製物を申込みをした利用者に渡す。通信回線を利用する送信とは、ファクシミリ送信、インターネット送信(画像イメージを電子メールに添付して送信することを含む8)を含み、当該資料の版面の画像イメージを電気信号に変換して電話回線あるいは専用回線などを用いて電送することをいうが、著作権管理団体との契約及び合意の趣旨にかんがみ、利用者には紙面に再生された複製物のみを提供すること、本ガイドライン第8項に従って中間複製物を破棄することの2点を必ず履行するものとする。いかなる場合にも受付館は、利用者に対して電気信号そのものの電子的乃至磁気的な記録としての複製物は提供しない。 |
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(中間複製物の破棄) |
8. |
前項(2)の場合、当該資料の版面の画像イメージの中間複製物を作成する必要がある場合があるが、そのような中間複製物は、その種類にかかわらず破棄する。すなわち、受付館は、送信のために紙面に再生した複製物又は電子的乃至磁気的な記録としての複製物の一方または両方を中間複製物として作成することになるが、そのいずれも破棄することとし、依頼館は、通信回線を利用する送信を受信したとき、利用者に渡す紙面に再生した複製物以外にも電子的乃至磁気的な記録としての複製物を中間複製物として作成する場合があるが、それも破棄するものとする。 |
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(契約及び合意の内容) |
10. |
著作権管理団体との契約及び合意において規定されている、以下の点について留意しなければならない。
(1)契約及び合意の当事者について
現在、契約を締結している相手方は、株式会社日本著作出版権管理システムであり、合意書を取り交わしている相手方は、有限責任中間法人 学術著作権協会である。 |
8 例えば、米国INFOTRIEVE社が提供するArielがあり、このソフトにより「LANに接続されたWindows PCを用いて、論文や写真などの様々なドキュメントをスキャンして作成した電子的なイメージデータを、FTPやE-mailを介して他のPCと送受信することができる」と説明している(http://www.maruzen.co.jp/home/irn/library/ill/ariel.html)。
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図書館等において、調査研究の目的でインターネット上の情報をプリントアウトすることについて |
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○問題の所在
図書館等は、著作権者の許諾なく「図書館資料」を用いて著作物を複製することができ、公表された著作物の一部分に限り、図書館等の利用者の求めに応じて著作物の複製物を提供することができる(第31条第1号)が、それと同様に、図書館等が利用者の求めに応じ、図書館等が設置するインターネット端末からインターネット上の情報をプリントアウトして提供することについても、著作権者の許諾なくできるようにすることが適当であるとの要望がある。
○検討結果 第31条第1号に基づく著作物の複製が図書館等による行為と解されるのに対して、図書館や公民館等に設置されたインターネット端末を使用して情報をプリントアウトする行為については、その端末の利用者が行為主体であると考えられる。したがって、利用者のこうした行為が、第30条第1項の「私的使用のための複製」に該当する場合や、インターネット上の情報の複製に明示又は黙示の許諾があると考えられる場合など、現行法の枠組みでも自由に行い得るケースが存在するという意見があった。また、図書館等に限り権利制限を行うとした場合、反対解釈により他の目的や施設では不可能と解されるおそれがあるとの意見もあった。 現在までのところ、企業活動を目的とする場合を含めて、インターネット上に公開された情報のプリントアウトについて紛争になったことはほとんどない状況である。また、このようなインターネット端末からインターネット上の情報をプリントアウトして複製物を提供する施設は、社会教育施設における利用者用コンピュータの設置や情報システムネットワークの整備等に伴い、図書館等のみならず公民館、博物館等にも広がっており、本件は図書館等に限った問題ではない。 したがって、図書館等のみならず一般的にどのように提供されているのか、現行法の枠組みで十分であるか否か、どのような手法により対応することが適切か等について、今後必要に応じ検討することが適当である。
【社会教育施設の情報化の状況(平成14年度)】
(出典:文部科学省『データからみる日本の教育2005』37頁)
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「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存のため例外的に許諾を得ずに複製することについて |
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○問題の所在 近年、記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により、SPレコード、5インチフロッピーディスク、ベータビデオのように、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となり、事実上閲覧が不可能となってしまうような状態が生じていることから、新しいメディアに媒体を移し替えて保存するための複製をできるようにすることが適当であるとの要望がある。
○検討結果 再生手段の技術革新が進むことによって、図書館等で利用できる資料が減ってしまうことになるため、図書館等の使命にかんがみて、本件要望の趣旨に賛同する意見が多数であった。 ただし、当該著作物について新形式の複製物が存在する場合は除くべきではないか、また、入手の困難性に関して判断基準を明確にする必要があるのではないかとの指摘があった。また、現行の第31条第2号は、「図書館資料の保存のため必要がある場合」は著作権者の許諾を得ることなく複製が可能であることを規定しており、このような現行法の枠組みで対処が可能ではないかとの意見もあった。 したがって、このような現行法の枠組みや権利処理の取組みにより、どこまで対処が可能であるかの限界や、どのような場合に対処可能であるかの判断基準について、今後必要に応じ検討することが適当である。
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図書館等における、官公庁作成広報資料及び報告書等の全部分の複写による提供について |
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○問題の所在 図書館等は、著作権者の許諾なく「図書館資料」(図書館等の図書、記録その他の資料)を用いて著作物を複製することができ、公表された著作物の一部分に限り、図書館等の利用者の求めに応じて著作物の複製物を提供することができる(第31条第1号)が、官公庁広報資料等(国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人 又は地方独立行政法人 が、一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物をいう[第32条第2項参照]。)については、一般への周知を目的としていることから、図書館等において報告書等の全部分の複製物を提供できるようにすることが適当であるとの要望がある。
○検討結果 官公庁作成広報資料については、資料の性格上国民が利用しやすい形で提供すべきではないか、広範に読まれることに意味があり全文の複写はむしろ歓迎すべきことではないか、本来公益目的で作成されたものであり、第32条第2項の対象となる資料については自由に複製を認めて差し支えないのではないか等、本件要望の趣旨に賛同する意見が多数であった。また、米国著作権法第105条の規定9を踏まえて、図書館に限らず一般的に全部分の複製を認めるべきとの意見もあった。 ただし、官公庁が作成した報告書等について図書館等が全部分の複製物を提供できるように権利制限を行うに当たっては、いかなる機関又は法人が、一般への周知を目的として作成し、そのような権利制限を課すことが適当であるかを検討し、対象となる官公庁の範囲について整理する必要がある。
本件については、基本的に何らかの措置を検討すべき事項と考えるが、著作権者である国等が「図書館における複製可」などの表記を行えば問題は解決し、あえて権利制限規定を見直す必要はないという意見もあったところであり、今後、「自由利用マーク」10等の積極的な活用も含め、著作権処理の運用が適切に行われない場合には、複写の実態を踏まえ、権利制限を行うべき官公庁(国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人 又は地方独立行政法人)の対象範囲などについて、必要に応じ検討することが適当である。
9 「第105条 著作権の対象:合衆国政府の著作物 本編に基づく著作権による保護は、合衆国政府の著作物には及ばない・・・。」(『外国著作権法令集(29)アメリカ編』(社団法人 著作権情報センター、2000年)〔山本隆司・増田雅子共訳〕21〜22頁) 10
著作者が自分の著作物を他人に自由に使ってもらってよいと考える場合にその意思を表示するためのマーク。自由利用マークには、「コピーOK」、「障害者OK」及び「学校教育OK」の3つの種類がある。(https://www.bunka.go.jp/jiyuriyo)
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著作権法第37条第3項について、複製の方法を録音に限定しないこと、利用者を視覚障害者に限定しないこと、対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと、視覚障害者を含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めることについて |
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○問題の所在 第37条第3項は、専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために、著作権者の許諾なく著作物を録音することができる旨を規定しているが、対象施設としては、視聴覚障害者情報提供施設等に限られ、公共図書館等は含まれていない(著作権法施行令第2条)。また、録音データの公衆送信については権利制限規定がないため、著作権者の許諾を得る必要がある。 一部の公共図書館、点字図書館では、視覚障害者等に対して、著作権者の許諾を得た録音データのインターネット配信を実施している。現行制度は貸出しの用に供するための複製の方法は録音に限定されており、録音以外の複製やこのような録音データ等の公衆送信については著作権者の許諾が必要である。 また、現行制度では、視聴覚障害者情報提供施設等に当たらない国立国会図書館、公共図書館、大学図書館等においては、視覚障害者向けの録音資料の作成につき、著作権者の許諾が必要である。 さらに、現行制度では、上肢障害でページをめくれない人、高齢で活字図書が読めない人、ディスレクシア(難読・不読症)、知的障害者等、読書の手段として録音資料を利用している視覚障害者以外の障害者に対して貸し出すために録音資料を作成するには、著作権者の許諾が必要である。 このような、図書館が障害者に対して行う資料の提供について著作権者の許諾なく行えるようにし、多様な障害者の情報環境の改善を図ることが必要であるとの要望がある。
○検討結果 障害者による著作物の利用を促進するという趣旨に対しては支持する意見が多数であった。 ただし一方で、一般に読書に障害を持つ人々の用に供するために図書館が複製や公衆送信を自由に行い得るとすることは問題がある、要望の範囲が広範に過ぎる、目的外利用されないようにどのように担保されるかが明らかにされていない、趣旨の明確化が必要であるなどの指摘があり、現行法の基本的な枠組みを変更することなく、障害者への一層の配慮をどのように具体化し得るのか、整理が必要である。 また現在、権利者団体と図書館団体との間で、録音図書の作成に関してガイドラインが締結され、一定の条件の下で公共図書館での複製が可能となっており、あえて権利制限規定を見直す必要性は小さいという意見があった。 したがって、本件については、図書館関係者から障害者にとっての権利制限の必要性を十分踏まえた、より具体的で特定された提案を待って、権利者団体及び図書館関係者間で行っている協議の状況や、国民全体が均等に、より高いレベルでの文化の享受しうるという観点も踏まえつつ検討することが適当である。
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