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資料4−1

ハードディスク内蔵型機器等の指定に関する論点整理

平成17年9月30日
文化庁著作権課

1 現行制度

(1) 現行の補償金制度導入の趣旨(第10小委員会報告の考え方)

 法律第30条が、私的録音・録画を自由かつ無償であると規定したのは、立法当時(昭和45年)私的録音・録画は著作物の利用としては零細なものと予想されたためであるが、補償金制度導入(平成4年)前には、私的録音・録画は広範かつ大量に行われており、かつ、デジタル技術の発達普及によって質的にも市販のCDやビデオと同質の高品質の複製物が作成されうる状況にあった。
 こうした状況は、著作権者等の利益を害している状態に至っており、デジタル化の進展によっては「通常の利用」に影響を与えうるような状況も予想される。
 先進諸国では私的録音・録画について何らかの補償措置をとることが大きな流れとなってきており、これはベルヌ条約との関係でもなんらかの対応策が必要であることを示している
 わが国においても制度的措置をとることが必要。

注)  平成3年(1991年)当時の各国の補償金制度の導入状況
制度を導入している国 13カ国 機器・記録媒体ともに指定 4カ国
記録媒体のみ指定 9カ国
税制で対応している国 2カ国 機器・記録媒体ともに指定 1カ国
記録媒体のみ指定 1カ国

(2) 現行制度

1  制度の概要

 著作権者等は、デジタル方式の録音・録画機器及び記録媒体を用いて行われる私的な録音・録画に関し、補償金を受ける権利を有する。
 補償金を受ける権利は、文化庁長官が指定する団体(指定管理団体)があるときは、指定管理団体によってのみ行使することができる。

<指定管理団体>
 録音:社団法人私的録音補償金管理協会(sarah)
 録画:社団法人私的録画補償金管理協会(SARVH)

2  私的録音録画補償金の徴収及び分配の流れ
  私的録音録画補償金の徴収及び分配の流れの図
 
 補償金は、機器・記録媒体のメーカー等の協力により、その購入時に販売価格に上乗せした形で徴収され、指定管理団体に支払われている。
 補償金の支払いの対象となる特定機器・特定記録媒体は、政令で指定された機器・記録媒体であって、主として録音・録画の用に供するものである。

3  私的録音録画補償金の対象となる機器・記録媒体
録音 機器 DAT(デジタル・オーディオ・テープ)レコーダー
DCC(デジタル・コンパクト・カセット)レコーダー
MD(ミニ・ディスク)レコーダー
CD-R(コンパクト・ディスク・レコーダブル)方式CDレコーダー
CD-RW(コンパクト・ディスク・リライタブル)方式CDレコーダー
記録媒体 上記の機器に用いられるテープ,ディスク
録画 機器 DVCR(デジタル・ビデオ・カセット・レコーダー)
D-VHS(データ・ビデオ・ホーム・システム)
MVDISC(マルチメディア・ビデオ・ディスク)レコーダー
DVD-RW(デジタル・バーサタイル・ディスク・リライダブル)
方式DVDレコーダー
DVD-RAM(デジタル・バーサタイル・ディスク・ランダム・アクセス・メモリー)方式DVDレコーダー
記録媒体 上記の機器に用いられるテープ,ディスク

4  補償金の額

 指定管理団体が請求する補償金の額は、指定管理団体が定め、文化庁長官が認可することとされている。

【録音】
 (1) 特定機器・・・基準価格注釈の2パーセント
(上限:シングルデッキは1,000円、ダブルデッキは1,500円)
(2) 特定記録媒体・・・基準価格注釈の3パーセント

【録画】
(1) 特定機器・・・基準価格注釈の1パーセント(上限:1,000円)
(2) 特定記録媒体・・・基準価格注釈の1パーセント

注釈基準価格 特定機器・・・最初に流通に供した価格またはカタログに表示された標準価格の一定割合(65パーセント)
特定記録媒体・・・最初に流通に供した価格またはカタログに表示された標準価格の一定割合(50パーセント)

5  補償金の分配
a. 分配割合
 指定管理団体に支払われた補償金は、関係団体を通じて、以下の割合で分配。

【録音】
 社団法人日本音楽著作権協会・・・36パーセント
 社団法人日本芸能実演家団体協議会・・・32パーセント
 社団法人日本レコード協会・・・32パーセント

【録画】
 私的録画著作権者協議会(会員11団体)・・・68パーセント
社団法人日本民間放送連盟
日本放送協会
社団法人全日本テレビ番組製作社連盟
社団法人日本映画製作者連盟
有限責任中間法人日本動画協会
社団法人日本映像ソフト協会
協同組合日本映画製作者協会
36パーセント
社団法人日本音楽著作権協会・・・16パーセント
協同組合日本脚本家連盟
協同組合日本シナリオ作家協会
社団法人日本文藝家協会
16パーセント
 社団法人日本芸能実演家団体協議会・・・29パーセント
 社団法人日本レコード協会・・・3パーセント

b. 私的録音録画補償金の徴収額の推移

単位:百万円(消費税抜き)*年度表示は出荷年度
年度 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
録音 111 177 978 1,762 2,429 2,912 3,709 3,844 3,146 2,690 2,228
録画 該当なし 該当なし 該当なし 該当なし 該当なし 該当なし 62 128 285 838 1,483

6  共通目的事業

 指定管理団体が受け取った補償金は、著作権者等に分配されるが、補償金の20パーセントに相当する額については、著作権者等全体の利益を図るため、著作権及び著作隣接権の保護に関する事業等(共通目的事業)のために支出することとされている。
a.  著作権及び著作隣接権の保護に関する事業
 パンフレットの作成・配布
 国際セミナーの開催
 著作権等に関する調査・研究 等
b.  著作物の創作の振興及び普及に資する事業
 コンサート、講演会等への助成
 国際文化交流事業への助成 等

2 問題の所在

(1) ハードディスク内蔵型機器等(以下、「内蔵型機器」という)の普及状況

 「内蔵型機器」は、オンライン音楽配信事業との連携もあり、急速に売り上げが増加している。
 出荷台数を見る限り、携帯型機器として市場においてMDに代わりつつあると考えられる。

  携帯オーディオ機器の国内出荷台数の推移のグラフ
 
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年予測
ヘッドホンステレオ 1,490 977 552 355 246注釈1
ポータブルCDプレーヤー 2,492 2,350 1,737 1,311 1,000注釈2
ポータブルMDプレーヤー 3,036 3,082 3,173 2,907 1,800注釈2
携帯デジタルオーディオプレーヤー 該当なし 300注釈2 650注釈2 1,700注釈2 2,700注釈2
7,018 6,709 6,112 6,273 5,746
数値はJEITA統計資料「民生用電子機器国内出荷台数」による
注釈1は上記統計資料2005年6月現在までの実績値を倍にしたもの
注釈2は電波新聞社推計値(同紙2005年4月8日刊より)

 
オンライン音楽配信事業等の売り上げ推移
(単位 億円)
2001年 2002年 2003年 2004年
インターネット配信(音楽配信) 11 17 36
着信メロディ・「着うた」・「着うたフル」 503 664 897 1,099
「デジタルコンテンツ白書2005」より

(2) 著作権者・著作隣接権者が受ける経済的な影響

資料4−2 参照

(3) 諸外国の状況

私的録音録画補償金制度のある国(計25カ国) ハードディスク内蔵型録音機器が補償金制度の対象となっている国(計9カ国) フラッシュメモリー内蔵型録音機器が補償金制度の対象となっている国(計12カ国)
1 ドイツ 該当 該当
2 フランス 該当 該当
3 イタリア 該当 該当
4 スウェーデン 該当 該当
5 フィンランド 該当 該当
6 オーストリア 該当 該当
7 ギリシャ 該当 該当
8 チェコ 該当 該当
9 アイスランド 該当 該当
10 スペイン   該当
11 ポーランド   該当
12 ハンガリー   該当
13 日本    
14 アメリカ    
15 オランダ    
16 スイス    
17 デンマーク    
18 ベルギー    
19 カナダ (注)    
20 スロベニア    
21 スロバキア    
22 コンゴ    
23 ブルガリア (調査中) (調査中)
24 ポルトガル (調査中) (調査中)
25 ロシア (調査中) (調査中)
(2005年8月1日現在)
出典: Stichting de Thuiskopie(オランダ私的複製協会)調査に基づくsarah資料等により作成
注: カナダについては、音楽用録音媒体が補償金制度の対象となっているが、iPod等が音楽用録音媒体に該当するかについては、裁判で否定された。

(4) いわゆる「DRM」(コピーガードなど権利管理システム)の普及の状況

 録音録画専用機の分野では、CDやMD、DVD、さらに地上波デジタルTV放送では、一定のシステムが導入されている。
 音楽配信事業においては、提供されるいずれのサービスにおいても、何らかのシステムが導入されているが、複製の制限の程度は、サービスや提供される楽曲により異なっている。

(5) 補償金制度の認知度

 社団法人私的録音補償金管理協会(sarah)による平成13年度調査では、私的録音補償金制度について「知っている」とした人の割合は9.8パーセントであった。
 また、ビジネスソフトウェアアライアンス(BSA)が本年6月に行った調査では、内容をよく知っている者2.0パーセント、ある程度知っている者15.1パーセント、名前だけしっている者19.4パーセントであり、まったく知らない者は63.4パーセントであった。

3 これまでの議論の整理

【1】 現在の補償金制度を巡る諸課題

(1)  現在の補償金制度が抱える問題点
 実際に著作物の私的録音・録画を行わない者も機器や記録媒体を購入する際負担することとなる。この問題点を解消するための返還金制度も、そもそも返還額が少額であり実効性のある制度とすることが難しい。(複製を行う者の正確な捕捉の困難性)
 汎用的な複製に用いられる機器(パソコン)や記録媒体(データ用CD―R)は、私的録音・録画に用いられる実態があるが、仮に指定すると音楽録音等に使用しない者にも負担を強いることとなり、指定は困難(しかし、指定されないことにより、現実に行われている多くの複製が捕捉されない結果となっている)。(複製の対象となる機器や記録媒体の正確な捕捉の困難性)
 権利者への分配は、放送・レンタル等他の音楽使用データより推計して行っており、緻密に算出しても、実態の捕捉の困難性から、著作物等を複製されているのに配分を受けることができない権利者が生じ得る。(配分を受ける権利者の正確な捕捉の困難性)

(2)  現在の補償金制度の運用上の問題点
 消費者に制度が知られておらず、機器や記録媒体購入の際負担していることを認識していない消費者がほとんどである。
 補償金の返還制度は十分に機能していない。
 共通目的事業の内容が十分知られていない。また、本来であれば国の予算等により実施されるべき、広く社会全体が利益を受けるような事業への支出も見られる。

(3)  補償金制度の前提となる状況の変化
 現在の補償金制度は、私的録音録画が零細であり、その捕捉が事実上困難であることを前提とした制度であったが、DRM等の技術の普及により捕捉が可能となりつつある。個別の捕捉実現のため社会全体が負担するコストにもよるが、「機器や記録媒体の購入の際にすべての消費者が補償金を支払わなければならない」という現在の制度を正当化する根拠は失われつつある。

(注) 「二重徴収」の問題
 なお、消費者が、配信サービスにより楽曲の提供を受けた場合に、配信についての「課金」と、私的録音に対する「補償金」が「二重徴収」されているのではないかとの問題が提起されている。
 これについては、配信サービスの対価はあくまでも「消費者への音源の配信」や「ダウンロードに際しての複製」ついての対価であり、その後の私的複製は対象としていないとの反論がある。また、CDの購入又はレンタルについてはそもそも二重徴収の問題は生じていないにもかかわらず、それらを含めて「二重徴収」の議論がされるのはおかしいとの反論がある。
 しかし、配信サービスによっては、消費者に一定の限度複製が認められている場合があり、その場合、権利者側はそれを認識した上で料金をうけ取っているのであるから、その料金には事実上複製の対価が含まれると考えるのが適切であり、やはり「補償金」との「二重徴収」となるのではないかとの再反論がある。

【2】 今後の補償金制度のあり方(案)

(1)  基本的考え方

 平成4年に現在の制度が導入された際には、国際条約との関連に大きな留意が払われており、今後の検討にあたっては、これを踏まえる必要がある。

 我が国の保護の現状は、以下のとおりであり、現在の補償金制度が一定の機能を果たしていることによって、他の先進諸国に比して保護が不十分とのそしりを受けずにすんでいるものと考えることができる。
1  法制上、私的録音録画は自由(ただし、技術的保護手段の回避は自由でない)。
2  デジタルの録音、録画が広範に行われている。
3  他国では見られないレンタルCDからの複製の実態がある。
4  CDについて、DRMの普及は現時点では限定的。

 したがって我が国としては、我が国の国際的な地位・果たすべき役割にも考慮し、

1 今後とも、補償金制度の見直しを図りながら機能させていく
2 現在の補償金制度にかわる実効ある代替的な「補償的措置」を導入する

のいずれかの対応が必要である。なお、2の新しい「補償的措置」に移行する場合には、移行までの間現在の補償金制度が一定程度機能する等の必要がある。

(2)  今後の具体的な施策の方向(案)

1 「内蔵型」の指定について

案1  録音録画に供される機器や記録媒体が市場に投入されるごとに、今後とも必要な指定を行うべき。
案2  市場において現在指定されている機器や記録媒体に取って代わるものがあれば、複製手段の利用実態の変化に対応するものとして、追加指定は行うべき。
案3  現在の補償金制度は、制度上の問題を抱えており、追加指定は行わない。
案4  補償金制度の抜本的な見直しの中で追加指定の是非を検討すべき。

案1、2により「内蔵型」指定する場合、検討すべき点は以下の通り。

 「内蔵型」の中には汎用機のものもあり、指定すべきでないものか。
 市場に投入されている一部機種は、写真その他のデータを保存できる機能を有するものもあるが、概ね音楽の録音を最大のセールスポイントとして販売され、また購入されている実態。したがって、主として「音楽の録音に用いられるもの」であり、それを要件とすれば、指定の対象として差し支えないと考えられる。

 「内蔵型」は、現在の著作権法が想定している機器であるか。
 著作権法第30条第2項は、機器と媒体を分離して規定している。機器や媒体の指定は、国民の権利・利益に関連する事項であることから、この条文は厳格に解釈する必要があり、現在の条文で想定されていない「内蔵型」指定のためには、法改正が必要となる。

2 私的録音・録画についての抜本的な見直し

 現在の補償金制度が抱える問題点、私的録音・録画全体のあり方について抜本的な検討を開始する。
 その際、複製の実態・音楽などコンテンツ配信事業等の今後の推移や消費者の意向を配慮しながら、現行補償金制度の縮小・廃止と、より優れた代替措置(私的録音録画により失われる権利者の利益の補償等)の採用(プラスそれを実現可能とする条件の整備)を視野に入れる。

 【仮に現在の補償金制度に代わる「代替措置」をとる場合のイメージ】
 ・  「DRMプラス契約」により、私的複製行為を具体的に把握するとともに「実際に複製を行う者イコール受益者」のみが、複製の対価を支払う。(配信サービスの対価と複製の対価を整理し、消費者にとって納得いく価格構造とする必要がある。)
 DRM等の技術により具体的に把握した私的複製に応じて、権利者に対価を分配。
 代償措置の導入・維持のためのコストが、消費者を含む社会全体にとって公平でありかつ大きな負担とならない。

3 現在の制度の運用上の改善

 ・  「返還制度」を実効あるものにする。
 「消費者への理解」につとめる。(更なる広報活動の充実・商品パッケージ記載の充実)
 「共通目的事業」の理念の再検討又は見直し、「20パーセント」の見直し。


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