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「著作権法に係る検討事項(仮題)」の整理に向けた意見について

委員名 飯村 敏明
 著作物利用権の法律上の整備及び登録制度との連携
 産業財産権法は,権利の利用権について法定し,その登録を効力発生要件ないし対抗要件として,法律上明確に位置付けている(例えば,特許法における専用実施権,通常実施権)。これに対して,著作権法においては,著作物の利用に関する権利(制限物件的な権利)を法律上規定していない。このため,実務上,著作権の譲渡に時間的,場所的に限定を付して,第三者に譲渡して,利用させるという方法も採られている。このような実務は,法律関係を複雑にするため,必ずしも好ましいとはいえない。今後,著作権ビジネスを発展させていく上では,法的に確かな位置付けがされた著作物利用権を整備していく必要があるものと思われる。
 また,産業財産権の分野では,権利者が破産等した場合にも専用実施権者の権利が消滅せず,管財人にも対抗できるように法律を改正しようという動きもあるが,著作権の分野においてこれと同様の方向を目指すためには,その前提として,法定の利用権を整備し,その効力発生要件ないし対抗要件として登録制度を利用する方法等が考えられよう。

 共有著作物の持分の譲渡ないし共有著作権の行使について
 共有著作権の持分の譲渡(法65条1項)については,他の共有者との権利調整の制度的な整備が図られていない。
 商法上,定款による譲渡制限のある株式については,譲渡につき取締役会が承認しなかった場合における譲渡人の保護の手続が詳細に規定されている(商法204条の2以下参照)。共有著作権において,他の共有者の同意が得られなかった譲渡人の保護のために,同様の規定を設けるべきである。
 また,共有著作権の行使(法65条2項)についても,同様に制度的な整備が図られていない。著作権法の規定のとおりに運用するならば,事実上共有著作権の行使は不可能となろう。持分割合による多数決原理の導入などが必要と考える。なお,近年は,映画,テレビゲーム等の著作物について,共同企業体(ジョイントベンチャー。その性質は民法上の組合であろう。)が著作権者となる場合があるが,著作権法65条2項と民法670条の関係も不明確であり,著作権の行使のためには全員の合意が必要なのか,多数決で決し得るのかも不明である。

 同一性保持権について
 著作権法20条1項は,その著作物について,著作者の意に反して,変更,切除その他の改変を受けないものとする旨規定する。そして,同条2項1号の「やむを得ないと認められる改変」は,厳格に解釈されているので,ごく僅かな改変であっても,同一性保持権を害したとされる場合が少なくない。しかも,著作権の制限規定は,著作者人格権に影響を与えない(法50条)と規定されていることから,第三者が他人の著作物を変更を加える行為は,著作者の有する同一性保持権との関係で,著しく制約される。
 この点に関連して,ベルヌ条約の文言にも照らし,「名誉声望を害する改変」とすることも考えられよう。

 著作者と著作権者の整理
 著作権法は,21条ないし28条で著作権に係る規定を置く。これらは,いずれも「著作者は,その著作物を複製する権利を専有する。」という形式で規定されている。しかし,複製する権利を専有するのは,「著作者」ではなく,「著作権者」であり,現行の規定は,必ずしも適切ではない。すなわち,著作権が,原始取得者である著作者AからBに譲渡された場合,複製権を有する者は,専らBであって,Aではないので,上記の規定では説明できない。この点,特許法68条本文は,「特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有する。」という形式で規定されており,著作権法も,同様の形式とすべきであろう。

 著作権の制限について
 著作権法は,支分権を規定し,それぞれの支分権に対して権利制限規定を設けている。このような支分権についての権利制限を設けるだけではなく,権利制限規定を列挙した上で,公正利用と認められるような場合の一般的権利制限規定を設けることも考えられよう。

 行政手続に関する制限
 行政庁が行政行為をする過程で使用した文書中に,第三者の著作物が含まれているとき,行政行為の名宛人が,当該文書を複製をする行為について,何らかの制限を設けることが考えられよう。



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