ここからサイトの主なメニューです

資料2−2

文化審議会著作権分科会審議経過報告(平成15年1月)(抜粋)


第1章   法制問題小委員会における審議の経過

2   検討の結果

1   著作権法制全般に関する事項

(1) 著作権法の単純化

   近年,パソコンやインターネットの普及など,「情報化」の進展に伴う創作手段・利用手段の急速な普及により,著作権に関する知識や適切な契約の習慣は,全ての国民にとって必要不可欠のものとなってきており,著作権法そのものについても,できる限りわかりやすいものとすることが極めて重要になってきている。
   このような状況に鑑み,例えば次のような諸側面について,必要な場合には協議・調整や条件整備を行いつつ,できるところから著作権法の単純化に着手していくとともに,今後ともこの課題について引き続き検討していくことが適当である。
   なお,「『契約』に関する規定の見直し」については,契約・流通小委員会においても検討が行われているため,同小委員会との連携を図りつつ,引き続き検討することとする。


1   著作権法制の全体的な「構造」の単純化
  (例:著作権と著作隣接権の統合)
(検討の視点)
   関係条約の構成も含め,現在の著作権制度は,「創作性」に着目した「著作権」(著作者の権利)と,「行為」に着目した「著作隣接権」に分けられており,様々な点で後者は前者よりも弱い権利とされてきた。しかし近年,著作隣接権における許諾権の増加や実演家の人格権の創設など,著作隣接権を強化する(「著作者」に近づける)動きが生じており,著作権法を単純化する観点からも「著作権」と「著作隣接権」を統合して様々なコンテンツを広く共通のルールで保護する可能性を検討する必要があるのではないか。

2   「権利」に関する規定の単純化
  (例:公衆伝達系統の権利の統合)
(検討の視点)
   「公衆伝達」系統の権利には,「公衆への提供」(譲渡,貸与など複製物の占有の移転を伴うもの)や「公衆への提示」(実演,送信など複製物の占有の移転を伴 わないもの)に関する権利などが含まれるが,「複製権」とは異なり,これらは,「公衆に伝達された」という「結果」ではなく,「公衆に伝達されるような行為を行う」という「行為」に着目して設定されている。このため,著作物等の伝達手段の急速な発達・多様化により,この系統の権利は,条約上も各国国内法上も増加の一途をたどってきたが,法律の規定内容を単純化してよりわかりやすくするため,これらの権利の整理・統合を検討する必要があるのではないか。

3   「権利制限」に関する規定の単純化
  (例:詳細な規定の廃止)
(検討の視点)
   著作権法に置かれている種々の「例外規定」(権利制限規定)については,著作物等の利用形態の変化・多様化等に対応して,その「範囲」を拡大・縮小する法改正を逐次行ってきたが,範囲の問題とは別に,これらの例外の「規定ぶり」についても,より詳細な規定ぶり(適用関係は明確になるが条文は難解になる)を求める意見と,大まかな規定ぶり(条文は読みやすくなるが適用関係は曖昧になる)を求める意見がある。著作権法を単純化する観点からは,米国著作権法の「フェア・ユース」の規定のような「大まかな規定ぶり」とし,具体的な適用関係は司法判断に委ねるようにすることを検討する必要があるのではないか。

4   「契約」に関する規定の見直し
  (例:次のような規定の廃止)
    1 第61条第2項   (「著作権のすべてを譲渡する」という契約では,「翻案権」と「二次的著作物の利用に関する権利」は譲渡されていないと推定する規定)
    2 第15条 (雇用契約等に著作権に関する規定がない場合には,従業員の著作物について,一定の条件のもとに「雇用者」を「著作者」とする規定)
    3 第44条 (放送の許諾を得た著作物について,放送事業者がこれを一時的に録音・録画することができることとする規定)
  第93条 (放送の許諾を得た実演について,放送事業者がこれを録音・録画することができることとする規定)

(検討の視点)
   契約内容が明確な書面による契約が少ないという我が国の著作権に関する契約の実態を踏まえ,著作権法の中には,本来は当事者同士の契約に委ねるべき事項を法定している規定が存在するが,適切な契約を行う習慣の拡大によって,著作物等の創作・利用形態の変化・多様化に対応していくためには,これらの規定を廃止して著作権法を単純化することについて,契約慣行の定着状況を踏まえつつ,検討する必要があるのではないか。

5   特定の著作物等のみを対象とした規定の見直し

(例: 美術の著作物,写真の著作物,映画の著作物,建築の著作物,プログラムの著作物,商業用レコード,視聴覚的実演等のみに係る特別の規定の必要性の見直し)
(検討の視点)
   特定の種類の著作物等のみを対象とした規定の中には,今後とも存続が必要であると思われるものもあり,また,その存廃について関係者間の協議が行われているものもあるが,多くの種類の著作物等がデジタル化されネットワークを通じて流通する時代においては,できる限り同じ法律ルールがすべての著作物等に適用されることが望ましいため,これらの特別の規定の必要性について,改めて見直しを行う必要があるのではないか。

第2章   契約・流通小委員会における審議の経過

2   検討の結果

3   「契約」に関わる法制の改正

(2) 契約のシステム・慣行が十分に定着した段階で廃止する方向とすべき規定の検討

   「契約システム」の構築は,基本的には当事者同士の努力に委ねられるべきものであるが,法律による契約秩序の構築が図られているものとして,「著作権等管理事業法」などの例がある。著作権法においても,契約に関する特別の規定があるが,著作物の利用形態の急速な多様化,契約による自助努力や「選択と自己責任」の考え方の普及等に対応し,契約関係に関わる規定の在り方について検討する必要がある。
   そのため,本年度は,以下の検討を行った。
 
1    著作権法第61条第2項(翻訳権・翻案権等,二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の留保の推定)
   本項については,「全ての著作権を譲渡する」という契約を結んでも第27条,第28条の権利は譲渡されていないと推定されるため,契約書の文言と実態が乖離してしまい,書面による契約慣行の定着の妨げとなる恐れがあるとの意見や,どのような権利が譲渡されるかについては本来契約書に書き込むべきものであり,本項を廃止しても特段の問題はないとする意見があった。
2    第15条(職務上作成する著作物の著作者)
   本条については,法人とその業務に従事する者の間に契約がないことを前提としており,将来的には廃止もあり得るものの,同条の廃止は使用者と従業者の間の契約秩序を変えるものであり,慎重に検討する必要があるとの意見があった。
3    第44条(放送事業者等による一時的固定),第93条(放送のための固定),第94条(放送のための固定物等による放送)
   第44条に関しては,放送関係事業者同士においては一定の契約秩序が形成されているが,それ以外の人との契約時には問題が生じることが考えられること,第93条及び第94条については,録画物に関する実演家の権利の確立を待って検討すべきであるとの意見があった。
     「契約」に関わる法制については,法制問題小委員会でも,著作権法の単純化の観点から議論を進めているところであり,契約慣行の定着状況も踏まえつつ,今後とも,必要に応じて,同小委員会とも連携し検討することとする。


ページの先頭へ