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資料3

平成15年9月29日
委員   細川   英幸


間接侵害規定導入の必要性について


   間接侵害規定導入の是非については、これまでにもさまざまな場で論議されてきたところであるが、ここでは著作権管理の実務を通して、「侵害の予防」と「権利の実効性の確保」という観点から、いくつかの事例を挙げてその導入の必要性について提案したい。
1. 演奏会場提供者への協力依頼
(1) 全国各地で開催される音楽発表会やコンサートなどの管理のためには、まず何よりも重要なのが催物の開催予定の早期把握であり、その手段として最も有効なのが各演奏会場における利用予定情報の入手である。
(2) JASRACでは、会場管理者に対してその情報の提供を日常的に要請しているが残念ながら協力が得られている会場は、全国約6000ヶ所のうちの1300ヶ所、21%に過ぎないのが実情である。
JASRACの著作権管理が公益性の高い業務であることを説明しても、「法律上の協力義務はない」などの理由で応じてもらえていない。
(3) 会場提供者の間接侵害責任が明定されれば、侵害の予防のためにも必要な情報であるとの認識も高まり、これまで以上の理解と協力が得られるものと期待できる。
(4) また、悪質な侵害常習者に対しては、貸館拒否などの措置についても検討されることが期待され、権利の実効性の確保という観点からも有効であると考える。

2. 音源提供事業者による元栓処理
(1) 附則第14条の撤廃を受けて平成14年度から管理を開始した、デパートや飲食店におけるレコード演奏や有線音楽放送の伝達については、その音源提供者であるBGM配給事業者や有線放送事業者の理解を得て、いわゆる元栓処理方式での許諾システムを導入している。
(2) これにより、全国で120万件以上と推定される管理対象のうち、約95%にああたる115万件が、管理開始と同時に適法利用状態とすることができた。
(3) しかしながら、この音源提供事業者による元栓処理は、各事業者の理解と協力があってはじめて実現することができた許諾方式であり、いわゆる「第三者のためにする契約」という性格のものである。
(4) したがって、何らかの理由で各事業者がこの元栓処理の継続を拒否した場合は、幇助による共同不法行為責任などを理論構築して争うこととなるが、その間この115万件という膨大な数の事業所は、違法利用状態に置かれることになる。
(5) かといって、個々の事業者ごとの個別契約に切り替えることは、管理経費の観点からも非現実的な管理方法であり、安易に採用することは適当でない。
(6) 議論の余地をなくす、立法措置による間接侵害規定の導入を要請する所以である。

3. カラオケリース事業者の責任と義務
(1) 飲食店での著作権侵害事件におけるカラオケリース事業者の法的責任については、大阪高裁の「魅留来事件」判決や最高裁の「ビデオメイツ事件」判決等により、その共同不法行為責任が判例上確定したということができる。
(2) また、平成15年2月13日の大阪地裁における「ヒットワン事件」の判決では、当該リース事業者は、その管理・支配の内容と程度および利益の帰属等に照らして、侵害主体に準じるものと評価できるとして、112条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」に当たるものと解するのが相当である、と判示して権利者による差止請求権を認容した。
(3) JASRACでは、これらの判例等を背景としてカラオケリース事業者との間において、侵害の予防と解消を目的とした業務協定を締結し、一定の成果を挙げているところであるが、相手方の理解と協力を基礎とする協定という性格上、その協力内容にも一定の限度があり、無断利用があとを断たないのが現状である。
(4) また、これらの判例はいずれも事例判決であるため、事案ごとに詳細な理論構成と立証が必要となり、また反論する余地も残されることから、訴訟提起までに相当の時間を要することとなる。
(5) 間接侵害について条文上明定されれば、議論の余地をなくすとともにより強い協力要請も可能となり、管理の実効性も格段に向上することが期待できる。

4. CD等プレス事業者への協力依頼
(1) JASRACでは、大手レコード会社やビデオ製作者以外の、いわゆるインディーズあるいはマイナーと呼ばれる利用者に対しては、許諾の条件としてその複製物に許諾証紙の貼付を義務付けている。
(2) 一方、複製物の増製を請け負うプレス事業者との間では、同社が複製枚数の監査に応じることを条件に、同社にプレスを依頼した利用者については許諾証紙の貼付を免除する旨の協定を締結しており、プレス事業者はこれを営業上のセールストークとして活用している。(全国のプレス事業者の約半数、16社が締結している)
(3) この許諾証紙の貼付は、海賊版やオーバープロダクトを防止するために必要な措置ではあるが、利用者にとっては経済的にも作業的にもかなりの負担になっていることも事実であり、環境が整えば全面的に廃止したいところである。
(4) しかしながら、いま直ちに全面廃止することはプレス事業者のメリットをもなくすこととなり、業務協定の継続は不可能となって、無断録音・録画物がはびこるなどの無法状態を招来する結果となりかねない。
(5) 間接侵害規定が導入されれば、違った形でのプレス事業者との業務協定による侵害の予防や権利の実効性の確保も考えられるので、許諾証紙貼付の全面廃止に踏み切ることが可能になるものと思われる。

5. 規定の仕方
(1) 間接侵害規定の規定の仕方について、差止請求の場合のみ条文に書き込むことの不都合について指摘のあるところである。
(2) これについては、角田政芳東海大学教授が示されている案文などが参考になると思われる。
    「著作権の間接侵害を、一般的に規定するとすれば、例えば『著作物、実演、レコード、および放送の利用権限を有する者以外の者に対して当該著作物を利用するための手段を供給し提供する行為は著作者人格権、著作権、出版権および著作隣接権を侵害するものとみなす』と定めることが考えられる。」
(著作権研究所研究叢書No.4「寄与侵害・間接侵害に関する研究」11頁)

 
以上

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