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資料5

フォークロアの保護について

1. フォークロアの定義と検討の経緯
 
(1)  フォークロアの定義
   フォークロアとは、「民間伝承」や「民族文化財」等と呼ばれ、ある社会の構成員が共有する文化的資産である伝統的文化表現(Traditional Cultural Expressions; TCEs)を意味する。具体的には、民族特有の絵画、彫刻、モザイク等の有形なもののほか、歌、音楽、踊り等の無形のものも含まれる。これまでも、様々なモデル規定や枠組み等によって定義がなされてきた。
 なお、「遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会(IGC)」の議論では、幾つかの参加国から「フォークロア」という言葉に異議がなされ、TCEsという単語を用いている。

(2)  フォークロアの保護に関する検討の経緯
   フォークロアの保護に関する国際的な検討の経緯としては、1967年、ベルヌ条約改訂を行う外交会議において、フォークロアの保護の可能性について議論がなされ、ベルヌ条約第15条第4項(a)が規定された。
 また、1982年には、WIPOとユネスコが共同で「不法利用及びその他の侵害行為からフォークロアの表現を保護する各国国内(立)法のためのモデル規定」を策定した。
 さらに、WIPOにおいて検討が進められ、2000年の一般総会では、遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアを検討するための政府間委員会としてIGCの設置が決定された。その後、7回にわたってIGCにて議論がなされてきており、本年6月には第8回会合が予定されている。

2. WIPO・IGCにおける検討状況
 
(1)  これまでの経緯
   現在、IGCでは、遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアの保護に関する1目的、2基本原則、3制度選択肢、4法的メカニズムについて、事務局から作業文書が提出され、これに基づいて検討が行われている。

(2)  個別の制度課題
   作業文書には、フォークロアの保護を行うための様々な制度選択肢とこれらの課題が述べられている。今後、フォークロアの保護の目的、制度の基本的な在り方について議論が行われた後、具体的な制度の内容・課題についても検討がなされる予定である。現時点で提起されている課題は以下のとおりである。
 
1 保護の対象
  保護するフォークロアの対象をどのように定めるか、1982年のモデル規定の定義を修正すべきか。
2 保護の要件
  保護の要件として、創造的な知的活動の産物である必要はあるのか、コミュニティーの文化的特性を具現している必要はあるのか、オリジナリティは必要か(派生した二次的産物も保護する必要はあるのか)。
3 受益者
  受益者については、知的財産制度の創造者の要件を緩和し、フォークロアを保有する先住民や文化的地域社会としてよいか。
4 保護の手法
  知的財産法、特別の権利(sui generis)制度、不正競争法、通商法、契約法、慣習法、文化遺産保護法など既存の制度を活用した保護が考えられるが、いずれも本件に適しない要因があり、適用に当たっては様々な課題を有する。
5 権利管理
  権利の管理や利益の還元を行うために権利管理組織が提案されている。そもそもそのような組織は必要か、必要と考える場合、どのよう機能を有するべきか、運営はどのように行うべきか。
6 保護期間
  フォークロアを生んだ地域社会が当該フォークロアを維持・利用する限り、保護するとの案も提示されているが、既存の知的財産制度の保護期間との関係をどのように考えるべきか。
7 エンフォースメント
  保護の実効性を確保する観点から、紛争処理メカニズム、制裁措置、救済措置の制度を構築すべきか。

3. 我が国の基本的方向性
 
(1)  我が国の基本的方向性
   フォークロアの保護に関する国際的な議論において、何を最終的な目標とするのかについて、いまだ国際的な合意は得られていない。今後検討する具体的な制度の在り方は、この保護の目的の設定によって変わると考えられる。国際的な議論においては、フォークロアの保護の目的として、1地域社会の福祉向上や経済発展のため、フォークロアの保護を生み出した地域社会に利益が還元されること、1フォークロアを文化財としてとらえ、部外者の乱用から守ること、3各国が自主的に行ってきたフォークロアの保存を国際的に推進することが挙げられる。
 これまでのIGCの議論では、一部の途上国はフォークロアを財産的に価値あるものとしてとらえ、フォークロアを有する地域社会に一定の経済的な還元がなされることを求めている。これに対して、先進国を中心に、フォークロアの重要性は合意されても、既存の知的財産制度等との整合性から、公有(パブリックドメイン)となっているフォークロアに経済的な利益をもたらす権利を付与すべきではないと主張している。
 我が国は、将来のフォークロアの保護の在り方も視野に入れつつ、フォークロアの保護の目的をどのように考えるべきか。具体的には、1フォークロアを経済的価値のある知的財産等の一つとしてとらえて、フォークロアの保護をフォークロアを生み出した地域社会へ財産的な利益を還元する政策としてとらえるべきか、1文化財としての保護政策としてとらえるべきか、3現在も我が国が行っている途上国発展・支援の政策の一つとしてとらえるべきか。また、その理由をどのように考えるべきか。

(2)  保護の方策について
   現行制度においても、フォークロアの保護に関する規定が設けられている。具体的には、「国際的な実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」第2条の「実演家」の定義に「民間伝承の表現を実演する者」が規定されており、フォークロアの実演がWPPTの保護の対象であることが明示されている。また、フォークロアの一種である「先住民の伝統的なシンボル」については、商標登録により半永久的な保護を確保することができる。たとえば、カナダのアボリジニは伝統的工芸品から食品、衣類、旅行サービスに至るまで、広範に商標登録することにより、部族のフォークロアを保護している。また、米国では、登録済みのフォークロアのシンボルを第三者が商標登録することを禁止するなど、防衛的保護(defensive protection)を行っている。また、織物、彫刻、陶器、木工などのハンディクラフトなどは、意匠制度による保護が可能である。具体例としては、中国の茶器やカザフスタンのカーペットなどが挙げられる。
 しかしながら、これらの現行制度がフォークロアの保護の目的が十分に達成されているわけではない。WPPTによる保護は、保護期間があるため、大抵の実演は保護されない。意匠による保護は、新規性の説明が難しく、また、先住民の「非公開としたい」との意向も実現されないデメリットもある。 

 IGCの議論では、事務局から様々な方策が提案され、議論がなされている。具体的には、1知的財産権制度を活用した排他的許諾権の付与、2特別な権利(sui generis)の付与、3報奨金制度の活用、4人格権による保護、5不正競争制度や通商法による保護、6契約法や慣習法による保護が提案されている。また、7文化遺産の保護・保存による取組みも考えられる。さらに、法制度に拠らない保護の方策として、フォークロアの普及啓発や人材育成のプログラムなども提案されている。

 これらの多様な制度の提案に対し、我が国を含めいくつかの国は、フォークロアの保護に関する「柔軟性と包括性」の確保を提案している。すなわち、これまでも各国が地域の特性や文化に合わせた保護の制度が確立しており、これらの取組を尊重しつつ、IGCで提言された新たな方策も加えた上で、各国が制度を「柔軟に」選択し、自国の文化・慣習に合わせた保護制度を「包括的に」構築することが望ましいと主張している。
 今後、我が国はフォークロアの保護の基本的な方向性として、「柔軟性と包括性」を目指していくべきか、あるいは各国が一律に守るべき制度の構築を目指していくべきか。

(3)  保護の方策について
   これまでのIGC及び一般総会での議論において、最も途上国と先進国の意向が対立した事項が制度の効力である。1982年にWIPOとユネスコが共同でモデル規定を策定しているが、近年、途上国はフォークロア等に関する法的拘束力のある制度構築を求めている。今年6月の第8回IGCにおいては、本課題が検討される予定である。
 しかしながら、フォークロアの保護は、前述のとおり、一つの枠組みで達成されるもの(single one-size-fits-all)ではなく、各国が地域や民俗の特性に応じて柔軟に対応すべきものであり、多様なアプローチが認められることが望ましい。このような観点からも、基本原則を実現するためには、制度を法的拘束力のあるものにするのではなく、ガイドラインやモデル規定に位置づけるべきではないか。また、ガイドラインを策定する場合には、制度のフォローアップや各国の取組状況の把握など、どのようなメカニズムをつくるべきか。

以上


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