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放送機関の定義(第2条)
ローマ条約等では、放送機関等の定義はなされていないが、本テキストでは、放送機関、有線放送機関、ウェブキャスティング機関の定義がなされている。
著作権法では、「放送事業者」は「放送を業として行う者」として規定されているが、本テキストでは、「音若しくは影像若しくは影像及び音又はこれらを表すものの公衆への送信、及び送信のコンテンツの収集及びスケジューリングについて、主導し、かつ責任を有する法人」として「送信する内容に責任を持つ」ことが求められている。
従来の我が国の著作権法では、その行為に着目して著作隣接権を付与してきたこと、一方、近年、放送など同一の行為を行う者が多様化してきていることなどから、本テキストにおいて、放送機関等の定義を規定する必要があるか、また、規定する場合、著作隣接権の趣旨、放送の実態などから、本規定を修正する必要があるか。
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保護の適用範囲(第3条)
条約テキスト第3条では、本条約の保護の対象が規定されている。このうち、ウェブキャスティングに関する規定はE案(EU提案)とF案(米国提案)がある。
F案は「ウェブキャスティング機関がウェブキャスティングを行う場合に本条約の適用を受ける」というもの。また、E案は「放送事業者がウェブキャスティングを(地上波)放送と同時に内容を変更せずに行う場合には本条約の適用を受ける」というもの。
E案については、近年、欧州において、放送機関がウェブキャスティングを開始したことが理由である。本案によれば、同じウェブキャスティングを行う場合でも、放送機関であれば権利が付与されるのに対し、ウェブキャスティング機関には権利が付与されない。著作隣接権の趣旨から、E案についてどのように対処すべきか。
なお、我が国は、F案に関して、ウェブキャスティングの取扱いは別途条約で手当てすべきと主張している。ウェブキャスティングの保護の要否、定義、保護の在り方について別途検討する必要がある。
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単純再送信の取扱い(第3条)
条約テキスト第3条において、「単純再送信」が保護の対象から外されている。本規定は、(2)と同様、放送行為よりも放送内容への責任に重点を置いて、保護の主体をとらえている。なお、条約テキストでは、「単純再送信」の範囲が不明確である。著作隣接権の趣旨、放送の実態などから、「単純再送信」の保護の在り方について、いかに対処すべきか。
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同時・異時の再送信権の付与(第2条、第11条、第12条)
条約テキスト第2条では、「再送信」が定義されており、第6条、第11条では、それぞれ、同時・異時の「再送信権」が規定されている。ローマ条約では、「再放送権」に限定されているのに対し、条約テキストでは、同時・異時の「再送信権」の付与が検討されており、「再送信」としては、有線、無線のみならず、コンピュータネットワークなどあらゆる手段による送信行為が含まれる。
「コンピュータネットワークを通じた再送信」はWPPTでは認められていない「自動公衆送信権」と保護の範囲が一部重なる。他の著作隣接権とのバランスを考慮すれば、「再送信権」の対象を限定する必要はないか、むしろ、「利用可能化権」(第12条)の対象を「固定物」だけではなく「非固定物」にも広げることにより、同様の法的効果が得られないか。
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暗号解除に係る措置(第16条)
条約テキスト第16条では、暗号化された番組信号の暗号解除に対する法的措置が規定されている。近年の放送のデジタル化などから、暗号解除に対する法的措置が求められるが、暗号解除への法的保護は、著作物へのアクセスを制御することとなることから、慎重な対応が求められる。また、暗号化が放送以外の他の手段でも用いられており、他の著作権・著作隣接権とのバランスを考慮する必要がある。
暗号解除を技術的手段として保護することは、著作権制度の趣旨から受け入れられるか、また、条約テキスト第16条の規定を修正する必要があるか。
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禁止権の取扱い
条約テキストでは、米国の提案を受けて禁止権が規定されている。具体的には、無許諾固定物を複製、譲渡、利用可能化する場合には、権利者は許諾権ではなく、禁止権を有するというものである。本規定は、海賊版対策を重視したものであるが、著作権関連条約の趣旨から、いかに対処すべきか。 |