第3節 各分野の研究開発の推進方策

5.宇宙・航空分野

(1)研究開発の推進方策

 宇宙開発利用は,人類の将来の発展に向けて無限の可能性を秘めた活動であり,人類にとって広大なフロンティアを開拓するという挑戦的な取組です。また,通信・放送,測位(人工衛星からの信号を用いて行う位置の決定),気象予報,地球観測,災害監視などを通じて,国家の総合的な安全保障,国民生活の質の向上,産業の発展などに大きく貢献する分野です。さらに,宇宙科学における天文観測や惑星探査などを通じて人類の知的資産を拡大し,国民が夢と希望を抱くことのできる分野です。このように,宇宙開発利用は我が国の持続的発展の基盤であり,長期的な国家戦略を持って取り組むべき重要なものです。第3期科学技術基本計画に基づく分野別推進戦略においても,「宇宙輸送システム」と「海洋地球観測探査システム」が国家の総合的な安全保障に密接にかかわる重要技術として国家基幹技術に選定されました。
 宇宙分野については,平成15年9月に宇宙開発委員会の議決を経て定められた「宇宙開発に関する長期的な計画」に基づき,16年9月に総合科学技術会議で決定された「我が国における宇宙開発利用の基本戦略」を踏まえつつ,宇宙開発利用を進めています。
 また,平成15年のH-2Aロケット6号機の打上げ失敗などを受け,宇宙開発委員会において原因究明や今後の対策について,また,宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))とメーカーにおける製造・責任体制の見直しについての調査審議を行うとともに,JAXA(ジャクサ)においてロケットや衛星の総点検を行い,技術と体制の両面から信頼性の向上に向けた取組を進めたました。その結果,17年2月に運輸多目的衛星新1号「ひまわり6号」を搭載したH-2Aロケット7号機の打上げに成功するなど,19年2月末までにH-2Aロケット,ミューファイブロケット合わせて連続9機の打上げに成功しています。
 一方,航空科学技術は,現代の生活に不可欠な社会基盤の一つである航空輸送システムの安全性・環境適合性の確保や向上を支えると同時に,航空産業の発展のみならず,情報通信,ナノテクノロジー・材料などの幅広い関連分野への技術波及効果も期待されています。航空分野については,第3期科学技術基本計画を踏まえ,平成18年7月に,科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会において「航空科学技術に関する研究開発の推進方策」が策定され,その方策の下,研究開発を推進しています。

(2)宇宙・航空分野における取組

1宇宙輸送技術

 宇宙輸送技術のうち,基幹ロケットであるH-2Aロケットの開発・製作・打上げ,H-2Aロケットの能力を向上させたH-2Bロケットと国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を担う宇宙ステーション補給機(HTV)は,第3期科学技術基本計画に基づく分野別推進戦略において「宇宙輸送システム」として国家基幹技術に選定されました。
 H-2Aロケットは,第1段,第2段ともに液体酸素・液体水素エンジンを採用した2段式ロケットで,我が国に必要な大型衛星などの打上げを行う基幹ロケットとして位置付けられています。平成18年は,1月24日に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)をH-2Aロケット8号機で,2月18日に運輸多目的衛星新2号「ひまわり7号」(MTSAT-2)をH-2Aロケット9号機で,9月11日に情報収集衛星光学2号機をH-2Aロケット10号機で,12月18日に技術試験衛星8型「きく8号」(ETS-8)をH-2Aロケット11号で打ち上げることに成功し,19年2月24日には情報収集衛星レーダ2号機及び光学3号機実証衛星をH-2Aロケット12号機で打ち上げることに成功し,H-2Aロケットの打上げについては13年の1号機以来,12機中11機の打上げに成功しており,これは初期運用段階における打上げ成功率としては世界水準を超えるものです。
 H-2Aロケットの開発・製作・打上げについては,平成18年度で開発を基本的に完了し,技術を民間に移管することで,19年度には民間の衛星打上げ輸送サービスによる初めての打上げが行われる予定となっています。
 H-2Bロケットは,H-2Aロケットで使用している第1段エンジンを2基集約することで打上げ能力を増強する基幹ロケットシリーズの一つです。同ロケットはHTVの打上げを主な目的としつつ,複数衛星同時打上げによるコスト低減という国際競争力確保の視点も含めて,適正な役割分担の下,官民共同による開発を行っています。
 HTVは,H-2Bロケットに搭載され,国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を行った後,廃棄物を乗せて大気圏で燃焼廃棄される軌道間輸送機です。HTV開発においては,既に実績のあるISS関係の共通機器を多く採用することにより,新規開発要素を極力減らしています。また,ISSへの無人ランデブー技術(自動でISS接近する技術)については,平成10年に行った技術試験衛星7型「きく7号」(ETS-7)による実証経験を活用することにより,リスクの低減に努めた確実な開発を進めています。なお,固体ロケットであるミューファイブロケットは,18年2月22日に8号機による第21号科学衛星「あかり」(ASTRO-F)の打上げ,9月23日に7号機による太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)の打上げに成功しました。
 この他,民間と共同で開発中の中型ロケットであるGXロケットの第2段エンジンとして,将来輸送系のキー技術の有力な候補である液化天然ガス(LNG)推進系の開発を推進しています。

▲技術試験衛星8型「きく8号」(ETS-8
(資料提供:JAXA(ジャクサ))

2社会的要請への対応

 人工衛星は広域性・耐災害性等に優れており,衛星による全球規模での観測監視技術は総合的な安全保障を実現する上で欠かせない要素です。さらに,我が国は地球観測サミットにおいて承認されたGEOSS(複数システムからなる全球地球観測システム)10年実施計画への貢献など,各種衛星による全球地球観測の推進を提唱しており,その観測網の構築において先導的役割を果たすことが求められています。
 そのような中で,第3期科学技術基本計画に基づく分野別推進戦略において「海洋地球観測探査システム」が国家基幹技術として選定され,「衛星観測監視システム」は「海洋地球観測探査システム」を構成する重要な技術の一つとなっています。「衛星観測監視システム」を構成する衛星としては,地図作製,災害状況把握,資源探査などを目的に開発された陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)が平成18年1月24日に打ち上げられ,10月から定常運用段階に移行しました。「だいち」は,特に災害状況把握において,国際災害チャータなどの枠組みを通じ,アジア地域の大規模災害の画像データを提供するなど国際貢献が期待されています。また,二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの観測や地球全球の水循環メカニズムの解明などのため,温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の開発,全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR),地球環境変動観測ミッション(GCOM),準天頂高精度測位実験技術の開発研究などを推進しています。これらの技術開発・運用を通して,我が国の衛星による観測監視体制を確立し,国内外への貢献を目指します。また,人工衛星を利用した通信の分野では,18年12月18日に打ち上げられた技術試験衛星8型「きく8号」(ETS-8)の運用や超高速インターネット衛星(WINDS)により,移動体通信やインターネットなどでの利用拡大を図ります。

▲「だいち」が観測した富士山の様子
(資料提供:JAXA(ジャクサ))

3宇宙環境利用の総合的推進

 我が国は,国際協力プロジェクトである国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加し,日本実験棟「きぼう」(JEM)及びISSへの物資補給を行う宇宙ステーション補給機(HTV)の開発等を進めるとともに,「きぼう」を中心とした宇宙環境利用を総合的に推進しています。
 平成15年2月に発生した米国のスペースシャトル「コロンビア号」の事故以来,ISSの組立ては中断していましたが,18年9月のスペースシャトル「アトランティス号」の飛行により,ISSの組立てが再開され,22年の完成に向けて,着実に計画が進められています。「きぼう」は,19年度から20年度にかけて,スペースシャトルで3回に分けて打ち上げられる見込みであり,「きぼう」の組立て後は,宇宙環境を利用した様々な実験などが行われることになっています。

▲国際宇宙ステーション(ISS)
(資料提供:JAXA(ジャクサ))

4宇宙科学研究の推進

 太陽系探査,X線・赤外線天文観測,電波天文観測,太陽観測などを推進している宇宙科学においては,小惑星探査機「はやぶさ」が平成17年11月に小惑星「イトカワ」への離着陸に成功(小惑星に着陸後離陸したのは世界初)するなど,これまでに世界トップレベルの成果を上げてきました。18年度には,太陽大気構造と太陽磁気活動などの太陽活動の要因を解明するために,第22号科学衛星である太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)をミューファイブロケット7号機で打ち上げ,順調に観測を続けています。また,月周回衛星(SELENE),第24号科学衛星である金星探査機(PLANET-C),欧州宇宙機関との国際協力により計画されている水星探査機(Bepi Colombo(ベッピコロンボ))の開発などを進めています。

▲太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B
(資料提供:JAXA(ジャクサ))

5航空科学技術に関する研究開発

 航空科学技術については,「要素から統合へ」「安全・効率」「超音速」の三つのキーワードを掲げ,研究開発を推進しています。「要素から統合へ」では,YS-11以来40年ぶりの国産旅客機の実現に向け,国産旅客機・エンジンの開発に先進技術を提供するなどの貢献を行っています。「安全・効率」では,航空機の運航数の増加に対応するため,安全性の向上や運航の効率化を実現する次世代運航システムの研究開発を行っています。「超音速」では,将来の超音速旅客機実現に最大のネックとなっているソニックブーム(航空機が超音速で飛行する場合にのみ生じる,落雷に例えられるような爆音)を解決するための研究開発などを行い,世界をリードする優位な技術の獲得を目指しています。
 国産旅客機技術の一環として低コスト複合材の大型構造模型を世界に先駆けて製作したほか,平成17年10月には,オーストラリア・ウーメラで実施された小型超音速実験機の飛行実験に成功し,世界に類のない貴重なデータを取得するなどの大きな成果を上げています。

▲小型超音速実験機
(資料提供:JAXA(ジャクサ))

6天文学研究の推進

 天文学については,自然科学研究機構国立天文台において,ハワイ島マウナケア山頂の大型光学赤外線望遠鏡「すばる」が,平成17年12月に約120億光年の彼方にある,生まれて間もない銀河が「暗黒物質の塊」の中にある証拠を得るなど,人類の観測の目が届かなかった宇宙深部の貴重なデータを取得し,観測と解明を進めています。
 また,世界で初めて三角測量を用いて銀河系全体の立体構造と運動を明らかにしようという「天文広域精測望遠鏡(VERA)計画」を進めています。さらに,日米欧の国際協力により,銀河や惑星などの形成過程を解明することを目的とする,「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ)計画」に参加し,平成23年度からの観測を目指して準備を進めています。

▲アルマ完成予想図
(資料提供:国立天文台)

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