我が国の原子力の研究開発や利用は,原子力基本法(昭和30年)及び「原子力政策大綱」(平成17年10月原子力委員会決定)に基づき,厳に平和利用に限り,安全確保を大前提として,行われてきています。
現在,原子力は我が国の主要なエネルギー源の一つとして電力供給の約3割をまかなっています。原子力エネルギーは,経済的で電力の安定供給が可能な準国産エネルギーである上,二酸化炭素などを発電過程で排出せず,環境負荷が少ないという特色があるため,我が国は,原子力発電を国の基幹電源として位置付けています。今後,我が国のエネルギー供給システムにおける原子力の役割をより一層確かなものとするには,高速増殖炉サイクル技術などの核燃料サイクル技術の研究開発が重要です(参照:本章第2節2(3))。
また,物質の最小の構成要素や基本法則の解明,ライフサイエンスや物質・材料系の分野での各種分析など様々な科学技術分野の発展を支える加速器や,将来のエネルギーの安定供給の有望な選択肢の一つである核融合などの原子力科学技術に関する研究についても,着実に進めていくことが重要です。
さらに,放射線利用についても,医療,農業,工業,環境保全など広範な分野で,国民の健康で豊かな生活の実現に貢献しており,更なる普及が期待されています(図表2-6-8)。
原子力施設が立地する地域の住民の理解と協力を得るためには,原子力施設の安全確保や防災対策,情報公開などに加え,原子力施設の運転を通じて事業者と地域社会が共に発展し共存共栄するという「共生」を図っていくための取組が重要です。
このため,国や事業者は,原子力施設の立地促進活動を引き続き実施していくとともに,国においては,立地の円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるよう,福祉の向上などを目的とした各種支援措置などを着実に推進し,地域振興を進めています。
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市,電気出力28万kw(キロワット))は,MOX燃料(酸化ウランと酸化プルトニウムの混合燃料)とナトリウム冷却を基本とする技術を用いた原子炉で,発電設備を有する我が国唯一の高速増殖炉です。「原子力政策大綱」において,「もんじゅ」は我が国における高速増殖炉サイクル技術の研究開発の中核として位置付けられており,「発電プラントとしての信頼性の実証」と「運転経験を通じたナトリウム取扱い技術の確立」を達成することを所期の目的としています。「もんじゅ」は7年12月に2次冷却材のナトリウムが漏えいする事故を起こし,それ以来運転を停止していますが,17年9月から,運転再開に向けた安全性を向上させるための本格的な改造工事を進めています。改造工事終了後は,ナトリウム漏えい対策に関する改造工事終了後の工事確認試験,長期停止状態にある設備機器の復旧機能などの健全性の確認を含むプラント確認試験を実施し,燃料取替等を経て,20年に運転再開(原子炉を再起動)することを目指しています。
また,昭和58年5月に住民が提訴した国による高速増殖原型炉「もんじゅ」の原子炉設置許可の無効を求める裁判については,平成17年5月に最高裁判所において,高裁判決を破棄し,原告住民の控訴を棄却する国側勝訴の判決が出されました。
今後とも,安全の確保を大前提として,地元の理解の下,「もんじゅ」の早期の運転再開を目指します。
高速増殖炉サイクル技術の研究開発については,その技術の多様性に着目し,柔軟性を持った研究開発を行うことが重要です。日本原子力研究開発機構は,高速増殖炉サイクル技術に関して適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を2015年(平成27年)ごろに提示することを目的として,平成11年7月から,電気事業者とともに関連する機関の協力を得つつ,「実用化戦略調査研究」を実施しています。13年度から17年度までのフェーズ(第2段階)においては,炉型,再処理法,燃料製造法などの高速増殖炉サイクルの実用化候補技術を明確化し,17年度末に最終報告書が取りまとめられました。
現在,国において,高速増殖炉サイクルの適切な実用化像と2050年ごろからの商業ベースでの導入に至るまでの段階的な研究開発計画について,2015年(平成27年)ごろから国としての検討を行うことを予定しています。このため,原子力分野の研究開発に関する委員会において調査審議を重ね,高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズ最終報告書の評価を実施し,18年10月に今後の高速増殖炉サイクル技術の研究開発の進め方などについて方針が取りまとめられました。今後は,この研究開発方針に従って,「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」として,高速増殖炉サイクルの実用施設に採用する革新技術の決定と実用施設の概念の構築を目指し,革新技術の成立性を評価するための要素試験研究,革新プラントシステムの概念設計研究などを進めていく予定です(図表2-6-9)。
また,平成18年7月に文部科学省,経済産業省,日本原子力研究開発機構,電気事業者及びメーカーからなる「高速増殖炉サイクル実証プロセスへの円滑移行に関する五者協議会」が設置され,研究開発側と導入者側とが適切に連携協力し,高速増殖炉サイクル技術の研究開発段階から実証・実用段階への円滑な移行を図るため検討を開始しました。
これらの取組等を踏まえ,「高速増殖炉サイクル技術の今後10年程度の間における研究開発に関する基本方針」(平成18年12月原子力委員会決定)が,我が国の基本方針として示されました。
近年,高強度・高品位の粒子線や電磁波を,基礎科学からライフサイエンスやナノテクノロジー・材料開発などの産業応用に至る幅広い分野で利用する「量子ビームテクノロジー」への期待が高まっています。
日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構は共同で,大強度陽子加速器(J-PARC)計画を推進しています。世界最大強度の中性子源を用いて物質・生命科学の発展へ貢献することとともに,中間子,ニュートリノなどの二次粒子(注1)を用いた原子核・素粒子研究の成果が期待されています(図表2-6-10)。
また,理化学研究所では,放射性同位元素(RI)ビームを世界最大の強度で発生させる加速器施設(RIビームファクトリー)の整備を進めており,原子核モデルの構築や元素誕生の謎の解明などへの貢献を目指しています。
核融合研究開発の推進は,未来のエネルギー選択肢の幅を広げ,その実現可能性を高める観点から重要です。現在,我が国の核融合の研究開発は,日本原子力研究開発機構,自然科学研究機構核融合科学研究所,大阪大学をはじめとする大学などで相互に連携・協力しながら進められています。
ITER(イーター)(イーター:国際熱核融合実験炉)計画については,2005年(平成17年)6月28日にモスクワで開催された閣僚級会合において,ITER(イーター)建設地がフランス・カダラッシュに決定されるとともに,日欧協力による研究開発プロジェクトである「幅広いアプローチ」(注2)を我が国で実施することが決まりました。できるだけ早期にITER(イーター)の建設や幅広いアプローチが開始できるよう,関係国が協力して取り組んでいます。
高い経済性と安全性を持ち,熱利用などの多様なエネルギー供給や原子炉利用の普及に適した革新的な原子炉を開発することや,核拡散抵抗性,環境負荷低減性の向上などの特徴を有する革新的な核燃料サイクルシステムを実現することが期待されています。このような中で,平成14年度から,多様なアイデアの活用に留意しつつ,革新的原子力技術に関する公募方式の研究開発が産学官の連携により実施されています。また,17年度には競争的研究資金制度を適用した「原子力システム研究開発事業」が開始されており,18年度から国が評価した高速増殖炉サイクル技術に関する研究開発(参照:本章第3節6(2)(イ))を特別推進分野で実施しています。さらに,日本原子力研究開発機構では,革新的原子力技術開発の一環として,水素製造などへの貢献も期待される高温工学試験研究炉(HTTR)などの研究開発を推進しています。
原子力科学技術の基礎・基盤的研究は,原子力の多様性,将来の技術革新につながる基礎を生み出し,原子力分野のプロジェクト研究や他の科学技術分野の発展にも寄与するものです。日本原子力研究開発機構においては,先端基礎研究センターにおける重元素科学などの先端基礎研究や,関西光科学研究所(関西文化学術研究都市)における光量子科学研究,ITBL(注3)を活用した高度計算科学技術研究などの基礎・基盤的研究の充実を図っています。
放射線は医療,農業,工業,環境保全など幅広い分野で私たちの生活の向上に役立っています。例えば医療分野において,患者の身体的負担が小さく,術中術後も高い生活の質が保持できるがん治療の研究が進められています。特に,放射線医学総合研究所で研究されている重粒子線がん治療は極めて効果の高い治療法として注目されており(参照:本章Topics 2),難治がんに対する臨床試験や先端照射装置などの研究開発,装置小型化・低価格化による全国普及に向けた取組などが進められています。
また,工業分野では製品の非破壊検査や材料の改質など,農業分野では品種改良や害虫駆除などに放射線が利用されています。今後も,放射線の特長を生かした研究開発を進め,その利用拡大を図っていくことが重要です。
放射線利用や原子力関連の研究などに伴って発生する放射性廃棄物(RI・研究所等廃棄物)の処理処分対策は,今後も原子力開発利用を幅広く進めていく上で重要な課題です。これらの廃棄物は,現在のところ,日本原子力研究開発機構などの事業所で安全に保管・管理されていますが,その最終処分がいまだ実現していません。
この問題に関しては,平成10年5月に原子力委員会において「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について」が取りまとめられ,RI・研究所等廃棄物の安全かつ合理的な処理処分方策などが示されました。また,文部科学省は,16年3月に「RI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会」の報告書を取りまとめ,処分事業の実施主体の要件と今後の課題を示しました。これらの検討を踏まえ,科学技術・学術審議会の原子力分野の研究開発に関する委員会にRI・研究所等廃棄物作業部会を設置して,処分事業の実現に向けた検討を行い,この検討に基づき,同委員会にて18年9月に「RI・研究所等廃棄物(浅地中処分(注4)相当)処分の実現に向けた取り組みについて」が取りまとめられました。本報告書においては,主として以下のことが示されています。
現在,上記報告書を受け,国,日本原子力研究開発機構,社団法人日本アイソトープ協会などが,できるだけ早期にRI・研究所等廃棄物処分事業が開始できるように検討を進めています。
原子力の平和利用や高水準の原子力安全を確保するためには,国際的な取組を推進していくことが重要です。そのため,各国との間で,研究開発・原子力安全分野における協力などを積極的に行っています。
文部科学省は,試験研究用原子炉等(平成18年11月末現在,運転中15基,廃止措置中8基)に対して,設計・建設・運転・廃止の各段階で厳格な安全規制を実施しています。また,核燃料物質を研究などに使用する事業所(18年11月末現在,206事業所)に対して使用及び使用変更の許可において審査を行うなど,厳しい安全規制を実施しています。さらに,一定量以上の核原料物質の使用者に対しては使用の届出を義務付けています。
なお,現在,原子力安全委員会が平成18年9月に改訂した発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針等の内容を参考にして,既設試験研究用原子炉施設の耐震安全性の評価を進めているところです。
放射性同位元素や放射線発生装置は,医療,農業,工業,環境保全など様々な分野で利用されています。これらの利用に伴う放射線障害を防止するため,放射線障害防止法に基づいて安全規制を実施しています。平成17年6月の法改正にあたり,国際的に基準とされている規制値の取入れなどに伴って規制を合理化しました。同法に基づいて許可を受け,又は届出をした事業所は約5,000か所あります(18年11月末現在)。
環境放射能調査は,国民の安全を確保し安心感を醸成することを目的に,原子力施設や原子力艦寄港地周辺及び環境中における放射線(能)水準の監視と把握に必要な調査研究を進めています。これらの調査で得られたデータの一部は,ホームページ「日本の環境放射能と放射線」(参照:http://www.kankyo-hoshano.go.jp(※日本の環境放射能と放射線ホームページへリンク))で公開しています。
「原子力災害対策特別措置法」などに基づき,災害発生時に備えた体制整備などの原子力防災対策を実施しています。
原子力事業者は,「原子力損害の賠償に関する法律」などに基づき,原子力損害発生時の被害者救済などのため,損害賠償措置を講じる義務があります。損害が措置額を超える場合は,国が事業者に援助を行うことができます。