第3章 科学技術システム改革

第4節■国際活動の戦略的推進

 技術や人材など「知」をめぐる世界大競争時代の到来により、科学技術の国際活動の重要性はこれまでになく大きくなっている。
 また、世界共通の課題への取組を通じた国際社会への貢献や、東アジアサミットを踏まえたアジアにおける連携強化など、我が国としても、科学技術分野の国際活動を戦略的に推進することが求められている。
 かかる観点から、平成18年3月に閣議決定された第3期科学技術基本計画に基づき、国際活動に対する戦略的な考え方を明確にし、アジア諸国との連携や、国際的な研究人材の養成・確保、国際標準化活動(第3部第3章第4節4参照)、これらを支える国際活動強化のための環境整備を推進している。

1 国際活動の体系的な取組

 科学技術は、人類が共有しうる知的財産を生み出すとともに、地球規模の諸問題の解決等にも資するものである。このような科学技術活動を国際的に積極的に展開することは、我が国の国際社会における役割を主体的に果たすとともに、我が国における科学技術の一層の発展に資するために重要である。このため、OECD(経済協力開発機構)等の多国間枠組みや、相手国のニーズ及び科学技術力に応じた二国間における協力を推進している。

(1)主要国首脳会議(サミット)

 2006年(平成18年)7月に開催されたG8サンクトペテルブルク・サミットでは、エネルギー安全保障、教育、感染症が主要議題として話し合われた。具体的には、原子力エネルギーの発展やITER(イーター)プロジェクトの推進、発展途上国・先進諸国間の感染症分野における国際科学技術協力の重要性、教育を通じたイノベーション社会の構築、などに関して議論が行われた。

(2)国際連合

 国際連合では、科学技術分野において地球観測や防災に関する取組が行われている。特に我が国は、国連の専門機関である国連教育科学文化機関(ユネスコ)の多岐にわたる科学技術分野の事業活動に積極的に参加協力している。
 ユネスコでは、国際水文学計画(IHP)を通じて世界の水問題に取り組んでおり、我が国は、2006年(平成18年)3月に「水災害・リスクマネジメント国際センター」(ICHARM)をつくば市に設立し、水災害とそのリスク管理に関する研究、研修、情報ネットワーク活動を推進している。また、地球規模の気候変動に関する海洋観測や津波警戒システム構築等を行う政府間海洋学委員会(IOC)への津波専門家の派遣や、国際生命倫理委員会(IBC)などの活動に、我が国から専門委員を派遣し議論に参画している。

(3)経済協力開発機構(OECD)

 OECDにおいては、科学技術政策委員会(CSTP)、情報・コンピュータ及び通信政策委員会(ICCP)、産業・イノベーション・起業委員会(CIIE)、農業委員会(AGR)、環境政策委員会(EPOC)、原子力機関(NEA)、国際エネルギー機関(IEA)等を通じて、加盟国間の意見・経験等及び情報の交換、人材の交流、統計資料等の作成及び共同研究の実施をはじめとした科学技術に関する活動が行われている。
 また、CSTPには、“グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)”、“科学技術系人材に関するするアドホック会合(SFRI)”、“イノベーション・技術政策ワーキンググループ(TIP)”、“バイオテクノロジーに関するワーキング・パーティー(WPB)”及び“科学技術指標専門家会合(NESTI)”の五つのサブグループを設置しており、日本主導の具体的な活動は以下のとおりである。

1グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)

 同フォーラムは、科学技術政策担当者が国際協力・協調が必要な科学技術分野の重要事項について意見交換し・提言を行うための場として設立された。世界各国においての論文データ偽造問題を契機として、科学上の不正行為防止に関する国際的な関心が高まる中、本問題への対策を国際的な枠組みの中で積極的に検討していく観点から、同フォーラムの下で、2007年(平成19年)2月にOECDと文部科学省の主催により『研究公正性及び研究上の不正行為防止に関するワークショップ』が開催され、我が国の強いイニシアティブの下で活発な議論が行われた。

2科学技術系人材に関するアドホック会合(SFRI)

 同会合は、科学技術分野における人材に関する問題を議論する場として設立された。頭脳流出等の科学技術人材問題が、数多くの国から提起されている中で、特に研究者の国際流動性という点に着目し、特定の国から国への一方的な頭脳流出という現状を超えて、各国間で優秀な研究者が双方向的に流動していくような頭脳循環を起こすような政策の可能性を議論するために、同会合の下で、2007年(平成19年)3月にOECD、文部科学省及び日本学術振興会の主催により『研究者の国際流動性に関するワークショップ』が開催された。我が国からは国際活動において先駆的な取組を行っている大学数校をモデルケースとして紹介し、我が国の取組を世界各国に強くアピール・牽引(けんいん)した。

3イノベーション・技術政策ワーキンググループ(TIP:生産性の拡大、知識の創造・活用の促進、持続的な成長の助長及び高度な技術者の雇用創出の促進を主な目的としている)

 同ワーキンググループでは、ナショナル・イノベーション・システム(NIS)を中心に産学官連携、知的財産権制度等の技術政策について議論や事例研究を行っている。2005年(平成17年)から2006年(平成18年)での2年間においては、イノベーション政策の評価、グローバル化とオープンイノベーション、知的財産権・イノベーション・知識の拡散、中国のNIS等について議論が行われた。

4バイオテクノロジーに関するワーキング・パーティー(WPB)

 WPBでは、バイオテクノロジーに関する調査分析や加盟国政府に対する政策提言に係る検討を行っている。
 2006年度(平成18年度)は、各国の微生物資源への効率的なアクセスを可能とすることなどを目的とした生物資源センターのグローバル・ネットワークの枠組みについて議論が行われた。
 また、個人情報を含む臨床遺伝子データ等の取扱いに関し、OECD加盟国共通の「遺伝子検査の質的保証に関するガイドライン」作成について議論が行われた。

5科学技術指標専門家会合(NESTI)

 同会合は、CSTPに提供する科学技術関連統計の調整と助言を主な目的として設置され、研究開発費や科学技術人材等の科学技術関連指標について、国際比較のための枠組み、調査方法や指標の開発等に関する議論と検討を行っている。我が国は、ビューロー・メンバーとして参画するとともに、2006年(平成18年)2月の同会合において検討された博士号取得者のキャリアに関する調査のガイドラインの作成では、その作業グループにも加わり、原案の作成等を通じ貢献を行った。

(4)ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)

 本プログラムは,1987年(昭和62年)6月のベネチアサミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで、生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際共同研究などを推進することを目的としている。2006年(平成18年)から新たにニュージーランドが加わり、日本・米国・フランス・ドイツ・EU・英国・スイス・カナダ・イタリア・オーストラリア・韓国の計12極で運営されている。具体的には、国際共同研究チームへの研究費助成(研究グラント)、若手研究者が国外で研究を行うための旅費、滞在費等の助成(フェローシップ)及び受賞者会合の開催等を実施している。
 本プログラムは2006年(平成18年)度までに研究グラントを受賞した研究者の中から、12名がノーベル賞を受賞するなど、内外から高く評価されており、我が国は本プログラムの創設以来、積極的な支援を行ってきている。

(5)国際科学技術センター(ISTC)

 旧ソ連邦諸国の大量破壊兵器等に関係した科学者及び技術者に平和的活動に従事する機会を与えること、旧ソ連邦諸国内及び国際的な技術問題の解決に寄与することなどを目的として、1994年(平成6年)3月、日本、米国、EU、ロシアの4極により設立された。
 旧ソ連邦諸国の科学技術には高度で独自性が高いものもあり、民間企業等(パートナー)が支援するプロジェクトも増加してきており、我が国としては、パートナーの拡大、地球規模の問題解決に貢献するプロジェクトの実施に積極的に取り組む方針である。

(6)日本学術会議における国際活動

 日本学術会議では、国際学術会議(ICSU(注1))、インターアカデミーパネル(IAP(注2))をはじめ48の国際学術団体に我が国を代表して参画するとともに、地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP(注3))等の国際学術協力事業に積極的に寄与する等、諸外国との連携に努めている。
 また、各国学術会議等に二国間学術交流団を派遣し、各種学術関連の意見・情報交換を行うとともに、平成17年以降、G8各国の学術会議が毎年のG8サミットの議題に関して、科学的立場から発出する共同声明に参画しており、平成18年においては、7月にロシアのサンクトペテルブルクで開催されたG8サミットにおける主要議題「エネルギー」及び「感染症」に関して、6月にG8各国及び関係国(中国、インド、ブラジル及び南アフリカ)の学術会議と共同で声明を発出し、日本学術会議会長から内閣総理大臣に共同声明を手交した。平成19年のG8学術会議のテーマは、平成19年1月29〜31日にオランダ・アムステルダムで行われたIAC理事会において、1Innovation and Intellectual property(イノベーションと知的財産権保護)及び2Climate protection(気候保護)についてEnergy efficiencyの観点から取り上げることを考えており、サミットのテーマであるアフリカ問題にリンクさせることが話し合われた。
 さらに、毎年、世界各国から幅広い分野の研究者の参加を得て地球規模の課題解決のための国際シンポジウムを開催しており、平成18年9月、京都において、「持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議2006−グローバル・イノベーション・エコシステム−」を開催した。
 このほか、我が国で開催される重要な学術関係国際会議を閣議の了解を得て、国内の関連学術研究団体と共同で主催しており、平成18年度においては「第20回国際生化学・分子生物学会議」をはじめ、8件の共同主催国際会議を開催した。
 また、アジア11か国の学術会議等で構成されているアジア学術会議(SCA(注4))は、アジア地域の各国と学術研究分野での連携・協力を図ることを目的とし、日本学術会議が事務局となり、アジアの持続的発展をテーマとして毎年各国持ち回りで開催しており、平成18年4月に第6回会議をインドで開催した。

  • (注1)ICSU(International Council for Science):人類の利益のために、科学とその応用分野における国際的な活動を推進することを目的として、1931年に非政府・非営利の国際学術機関として設立。
  • (注2)IAP(InterAcademy Panel on International Issues):世界の科学アカデミーのフォーラムとして、1995年に設立。日本学術会議は、2006〜2009の執行委員会委員。
  • (注3)IGBP(International Geosphere-Biosphere Programme):ICSUが主催する学際的な国際研究計画であり、1986年に設けられ、地球変動に関する科学の遂行のために、国際的かつ学際的な枠組みを提供している。
  • (注4)SCA:Science Council of Asia

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