第3章 科学技術システム改革

第3節■科学技術振興のための基盤の強化

3 知的財産の創造・保護・活用

 独創的かつ革新的な研究開発成果を生み出し、それを社会・国民に還元するためには、知的財産の創造・保護・活用という知的創造サイクルの活性化が不可欠であり、そのための様々な取組を推進している。
 総合科学技術会議では、基本特許につながる国際的な権利取得、論文と特許情報の統合検索システムの整備、大学知的財産本部の国際機能の強化、国際的な知的財産専門人材の育成・確保等の取組を盛り込んだ「知的財産戦略について」を平成18年5月に決定し、関係大臣に意見具申した。また、併せて、大学等の研究における知的財産権の使用の円滑化を図るため、「大学等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関する指針」を決定し、関係大臣に意見具申した。

(1)大学等における知的財産体制等の整備

 大学等においては、平成15年度より大学知的財産本部整備事業等により、モデルとなる知的財産の創出・保護・活用を戦略的にマネジメントする体制整備が行われており、大学における特許出願件数や実施件数は年々増加している(第3-3-21図、第3-3-22表、第3-3-23図)。さらに平成18年度においては、我が国の国際競争力の強化に向けて科学技術・学術審議会産学官連携委員会において大学知的財産本部の国際機能の強化等、我が国の国際競争力の強化に向けた国際的な産学官連携を進める上での諸課題について検討が行われ、平成18年8月に「審議状況報告」として一定の取りまとめがなされた(第3-3-24図)
 経済産業省では、大学等における研究成果の民間事業者への移転の促進、大学等の研究成果を活用した新産業・新市場の創出及び大学等の研究活動の活性化を図るため、平成10年に施行された「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」に基づき、実施計画が承認されたTLO(承認TLO)に対して、大学等における研究成果の特許化や産業界への移転の促進を支援するために、技術移転事業に必要な資金及び大学研究成果の海外特許出願に関する費用の一部補助を行っている。現在、承認TLOは42機関となっており、ライセンス収入も8.4億円(平成17年度)に上るなど着実に成果を上げてきている。

第3-3-21図 「大学知的財産本部整備事業」の実施機関 地域別分布図

第3-3-22表 知的財産の管理活用体制(大学知的財産本部等)の整備状況(平成17年度)

第3-3-23図 大学における知的財産の創造・保護・活用

第3-3-24図 科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会審議状況報告

(2)知的財産活動の推進

 大学等が優れた知的財産について適切に権利を取得し活用していくことができるよう、文部科学省では科学技術振興機構の実施する技術移転支援センター事業により海外特許出願関連の支援を行っている。
 また、質の高い優れた研究成果が得られるよう、科学技術振興機構では、様々な研究開発支援情報及び研究成果情報をデータベース化し、インターネットを通して広く情報提供を行っている。具体的には、大学等の公的研究機関に関する機関情報、研究者情報、研究課題情報、研究資源情報をデータベース化した情報提供システム(ReaD)や、大学等の公的研究機関で得られた研究成果を、関連の特許と併せてデータベース化した情報提供システム(J-STORE)があり、平成18年6月には、インターネットを用いて大学等が公開している技術シーズ情報集の一元的な検索と企業による研究者等への直接アクセスを可能とするシステム(e-seeds.jp(イーシーズ))を開始した。
 さらに、ライフサイエンス等の先端科学技術分野が抱える知的財産の諸問題について、科学技術・学術審議会産学官連携推進委員会において有識者からのヒアリングを実施するなど、検討を行っている。
 経済のグローバル化が進展する中にあって、我が国産業の国際競争力強化に資する観点から、知的財産を早期に権利化するための環境を整備することは極めて重要である。経済産業省では、こうした問題意識の下、平成17年12月、経済産業大臣を本部長とする「特許審査迅速化・効率化推進本部」を設置し、平成18年1月には、同本部において、特許審査件数の拡大、企業における出願・審査請求構造の改革等、官民挙げた取組やそれらの実施に当たっての中小企業等への配慮に関する行動計画を策定し、各般にわたる取組を推進している。平成19年1月には、国際的な制度調和・審査協力体制の進展等、状況の変化を踏まえ、従前からの施策を深化・発展させる形で、「イノベーション促進のための特許審査改革加速プラン2007」を同本部において策定した。同プランでは、1グローバルな権利取得の促進と知財保護の強化、2特許庁による審査迅速化・効率化に向けた更なる取組、3企業における戦略的な知財管理の推進、4地域・中小企業の知財活用に対する支援の4分野で26項目の重点施策を掲げており、経済産業省では、このプランに沿って、産業界等の協力も仰ぎながら、従前以上に特許審査の迅速化・効率化に努めるなど、知的財産政策の充実・強化に全力を傾注している。
 近年の企業活動のグローバル化や、東アジア諸国・地域の急速な追い上げ、模倣品問題等を背景として、我が国企業における知的財産戦略にも変革が求められている。特許庁では、企業の経営者との意見交換を積極的に進め、グローバルな観点での企業の戦略的な知財管理の充実やその体制整備を慫慂(しょうよう)することをはじめ、更なる先行技術調査環境の充実、企業の知財戦略策定に資する各種事例集の作成等の環境整備を進めている。
 大学等における知的財産活動については、近年活発化しているものの、その実効性を高めるため、重要な発明については海外でも積極的に権利を取得するとともに、取得した権利の活用を図るといった特許戦略の構築に向けた取組が重要となっている。
 農林水産省では、平成18年2月に農林水産省知的財産戦略本部を設置し、平成19年3月に農林水産省の「知的財産」に関する総合的な戦略として、「農林水産省知的財産戦略」を策定した。また、「農林水産研究知的財産戦略」を策定し、農林水産省自らが取り組む事項及び研究機関における研究計画立案時から成果の権利化を図り技術移転を行う段階までの、知的財産に関する望ましい取組を指針として示した。このほか、農林水産大臣認定TLOの活動を支援し、試験研究独立行政法人の研究成果の産業界における実用化を図るため、「農林水産技術移転促進事業」を実施している。
 特許庁では、大学における知的財産活動の実践的な取組を示した「大学における知的財産管理体制構築マニュアル」を公表するとともに、これから知的財産管理体制を構築する大学に「大学知的財産アドバイザー」を派遣し、大学独自の知的財産管理体制の構築を促している(平成18年度は23大学に派遣。当該事業は、平成19年1月より工業所有権情報・研修館で実施)。さらに、特許庁では、工業所有権情報・研修館を通じ、大学等が取得した特許であって他者の実施に供する用意のあるもの(開放特許)が、中小・ベンチャー企業等において有効に活用されるよう、技術移転機関(TLO)や自治体等に対し、特許流通アドバイザーを派遣して(平成19年3月現在110名)両者のマッチングを図るとともに、開放特許の情報を、特許流通データベースを通じて広く公開している。
 さらに、第3期科学技術基本計画における重点推進4分野、推進4分野や近年成長が著しい産業や技術革新の影響が大きい産業を中心に注目技術を取り上げ、その技術に関する特許情報を分析し特許出願状況や研究開発の方向性を明らかにする技術動向調査を行い、企業や大学等における研究・技術開発や特許戦略の構築に資するため、その結果を公表した。特許庁では、工業所有権情報・研修館を通じ、企業・大学等が優れた研究成果を質の高い特許として権利取得し活用していけるように、インターネット上で特許情報等の検索・抽出を可能にする特許電子図書館(IPDL)の整備、運用を行っている。特許電子図書館では、毎年、ユーザーの利便性向上やサービスの拡充を図っており、平成18年度には、国内公報と外国公報(和文抄録)とを同時に検索するサービスの追加等を行った。
 平成18年5月23日には、総合科学技術会議において、我が国の知の創造拠点である大学等が知的財産権を円滑に使用し、自由な研究活動を推進するため、「大学等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関する指針」が取りまとめられた。また、先端技術分野であるライフサイエンス分野における研究開発を促進し、その成果をイノベーションにつなげ、我が国の国際競争力を向上させるため、総合科学技術会議において、遺伝子改変動物やスクリーニング方法等、ライフサイエンス分野における研究を行うための道具となるリサーチツール特許に関し、これらが大学等や民間企業の研究において円滑に使用されるための基本的な考え方を示す「ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許の使用の円滑化に関する指針」が取りまとめられた。

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