第3章 科学技術システム改革

第3節■科学技術振興のための基盤の強化

2 知的基盤の整備

 研究開発等の安定的・効率的な推進のためには、実験、計測、分析、評価等といった研究開発の基本となる活動を支える材料、標準、手法、装置等の質・量両面での安定供給及び安全性・信頼性の確保等が必要である。このため、知的基盤(生物遺伝資源(バイオリソース)等の研究用材料、各種計量標準、計測・分析・試験評価方法やそのための先端的なツール、各種データベース)の整備を体系的に推進する必要があり、第3期科学技術基本計画において、平成22年(2010年)までに世界最高の水準を目指して整備を促進することとされている。これを受け、科学技術・学術審議会では、関係省庁の協力を得て平成22年までの知的基盤整備の具体的方策を示した「知的基盤整備計画」を定め、平成13年8月に文部科学大臣に答申した。
 文部科学省においては、平成14年度から、ライフサイエンス研究の基盤となる実験動植物(マウス等)や各種細胞、各種生物の遺伝子材料等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。
 計測・分析・試験評価方法やそのための最先端の技術や機器を独自に研究開発していくことは、それらが研究開発活動を支える基盤であるばかりでなく、その研究開発自体が多くのノーベル賞を受賞していることからも分かるように、我が国が科学技術で世界のフロントランナーとしての役割を果たしていくためには極めて重要な課題である。しかしながら、我が国の先端計測・分析機器の海外依存割合は高く、ほとんどを海外企業に依存している(第3-3-19図)。このような状況を踏まえ、平成16年度より世界最先端の研究者ニーズに応えられる世界初のオンリーワン/ナンバーワンの技術・機器開発を推進するための先端計測分析技術・機器開発プロジェクトを実施しており、「4探針STMの制御系および多機能ナノチューブ探針の開発」や「低速・軽イオン励起特性X線の精密分析技術」等の研究開発を推進している。


低速・軽イオン励起特性X分析装置

X線励起源として、電子銃、並びに低速・軽(ガス)イオン銃、Ga(ガリウム)イオン銃を用い、X線検出にエネルギー分散型、並びに小型波長分散型を用いる軽元素分析装置
写真提供:科学技術振興機構

第3-3-19図 主な先端計測・分析機器の国内・国外企業別シェア(平成17年度)

 厚生労働省においては、ライフサイエンス、特に医学・薬学分野における研究に必要なヒト及び動物由来の培養細胞及び遺伝子の収集・保存を行うマスターバンクを医薬基盤研究所に設置するとともに、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団を通じ研究者等に対する供給を行っている。また、ヒト組織について、平成10年12月16日厚生科学審議会先端医療技術評価部会(答申)「手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方について」を踏まえ、生命倫理問題にも配慮しながら、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団が、医療機関の協力を得て、研究利用に係る同意の得られた組織を収集し、必要な研究者に分譲する事業を開始した。このほか、医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターにおいて、良質な資源の確保が難しくなってきている薬用植物について、同一形質を持つクローン植物の増殖(マイクロプロパゲーション)技術の研究を行うとともに、薬用植物資源の体系的な収集、保存及び提供を行っているほか、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターにおいて、カニクイザル等の繁殖、共同利用施設を利用する国内の研究者に研究用サルの供給を行っている。農林水産省では、ジーンバンク事業として農林水産業等に係る植物、動物、微生物、林木、水産生物等の生物遺伝資源について、収集、分類・同定、特性評価、増殖及び保存を行うとともに、生物遺伝資源及び生物遺伝資源情報を国立試験研究機関、民間企業、大学等に提供している。また、ゲノム研究等遺伝子レベルの研究成果であるDNA及びDNA情報を収集、蓄積、提供するDNAバンク事業を行っている。さらに、平成15年4月に農業生物資源研究所イネゲノムリソースセンターを設置し、ゲノム研究データと試料の一括管理による利便性の向上と民間企業・大学等への円滑な供給体制の確立を図るとともに、一括管理した試料等が有する情報の管理、分析等により、高い精度で関連付けされた試料及びデータ等を提供している。平成18年度から、イネ、カイコ、ブタ等農林水産物のゲノムや遺伝子の情報等を大学・民間企業等の研究者に提供するため、当該情報を統合したデータベースの整備や他生物ゲノム情報等とのリンクによる高精度情報検索システムの構築に取り組んでいる。
 経済産業省では、産業構造審議会産業技術分科会及び日本工業標準調査会の合同会議である知的基盤整備特別委員会において、毎年知的基盤整備目標の見直しを行っている。計量標準の整備については、産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ(注1))が、国家計量標準機関として計量標準の整備・拡充を行うとともに国際相互承認に向けた取組を行っており、NMIJが開発したものを中心に、平成18年度末までに物理標準252種、標準物質242種の標準が整備されている。また、平成13年度より平成20年度までの計画で遠隔校正のための研究開発を新エネルギー・産業技術総合開発機構の研究開発として実施している。
 生物遺伝資源情報基盤については、製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源保存施設において、平成18年度には約4,300件の微生物を新たに収集・保存(微生物株総計約4万件)し、それらを分譲するとともに、国内の主要な生物遺伝資源機関のデータベースを統合し運営・管理主体として公開した。また、生物遺伝資源開発施設においては、生物多様性条約に則り、新たにモンゴルと覚書きを締結し協力体制を構築する等、アジア諸国と共同で探索等を行い微生物資源の利活用を図っている。特許微生物寄託センターにおいては、受託範囲を拡大(動物細胞及び受精卵)した。ゲノム解析施設においては、生物遺伝資源の利活用を促進するため、清酒酵母、アセトバクター属酢酸菌ほか7菌の微生物について塩基配列を確定するとともに、ヒトインフルエンザの遺伝子解析を行った。さらに、微生物資源の共同管理・利用を目的とした世界初のアジア地域における政府レベルでの多国間協力の枠組みである「微生物資源の保存と持続可能な利用のためのアジア・コンソーシアム」において、参加各国の微生物株情報のネットワーク化を推進するなど、生物遺伝資源利用に関する国際的ルールづくりへの貢献も行っている。また、産業技術総合研究所では、ゲノム情報及びプロテオーム情報を用いたデータベース整備を行うとともに、同研究所特許生物寄託センターにおいて特許に係る微生物及び動植物細胞の受託・分譲等を行っている。
 化学物質安全管理基盤の整備としては、化学物質のハザード(有害性)データの収集・整理、それらの安全性の評価を的確に実施するための簡易・代替試験方法、内分泌かく乱物質のスクリーニング試験方法等の開発を行うとともに、新エネルギー・産業技術総合開発機構で化学物質のリスク評価手法開発等の研究開発も行っている。
 人間生活・福祉関連基盤の整備については、人間特性を考慮した製品等の開発を支援するための3次元データ等の整備に向け、高度化を行うとともに、福祉用具の機能や性能に関する評価手法の開発等を行っている。
 産業技術総合研究所では、地質情報について、平成18年度に新たに10種類の地質図幅を作成するなど地質の調査を推進している。また、これまで地質情報に関わる様々なデータベースを整備・更新してきている。平成18年度には、一例として、WebGIS技術を取り入れ、既出版の各種の地質図類を統合した「統合地質図データベース(GeoMapDB)」を試験公開した。そのほか、材料データべースの高度化に関する開発等を行っている。
 国土交通省においては、地理情報システム(GIS(注2))に関する各種情報について、数値地図等のGIS基盤情報の整備、インターネットによる提供及びクリアリングハウスの拡充等の流通環境の整備等を行っている。

  • (注1)NMIJ:National Metrology Institute of Japan
  • (注2)GIS:Geographic Information System(地理情報システム)地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術。

 なお、各府省による知的基盤の保存・供給施設の整備状況については第3-3-20表のとおりである。

第3-3-20表 知的基盤の主な整備状況

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