第3章 科学技術システム改革

第2節■科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

 内閣府では、人類の将来の可能性を切り拓(ひら)き、成長の大きな原動力となるイノベーションを絶え間なく起こすため、2025年までを視野に入れた、長期の戦略指針「イノベーション25」の取りまとめ作業を進めている。平成19年2月には、その中間取りまとめとして、イノベーションで20年後の国民生活が安全や利便性の面も含めてどうなるのかを示すとともに、そのために目指すべきイノベーションについて取りまとめた。
 総合科学技術会議は、イノベーション創出に向けて、政府が取り組むべきこととして、1イノベーションの源の潤沢化、2イノベーションを種から実へ育て上げる仕組みの強化、3イノベーションを結実させる政策の強化、4イノベーション創出に向けた制度改革の推進、5イノベーションを担う人材育成の強化を掲げた「イノベーション創出総合戦略」を策定し、関係大臣に意見具申した(平成18年6月14日)。
 日本学術会議は、イノベーション担当大臣の依頼を受けて、政府の「イノベーション25」の策定に資するため、「イノベーション推進検討委員会」を設置し、様々な学術分野を俯瞰(ふかん)した検討を行い、平成19年1月25日に報告「科学者コミュニティが描く未来の社会」を公表した。同報告は、2025年に目指す社会を5つの視点から明らかにし、そのために推進するべきイノベーションの分野と課題とともに、そのイノベーションを生み出すために必要な基盤について提言している。
 経済産業省では、「経済成長戦略大綱」(平成19年7月6日財政・経済一体改革会議)に基づき、先導的な研究開発プロジェクトにおいて、省庁連携、異分野融合、科学に遡った研究、国際標準化等を組込んで実施するなどの取組により、研究開発の成果を迅速に市場化につなげる仕組みを構築する「イノベーション・スーパーハイウェイ構想」を推進している。

1 競争的環境の醸成

(1)競争的資金及び間接経費の拡充

 競争的な研究開発環境の形成に貢献する競争的資金については、平成18年度予算額4,701億円(平成17年度予算額4,672億円)と、着実に拡充が図られた。また、競争的資金を獲得した研究者の属する機関に対して研究費の一定比率が配分されることで、研究者の属する組織間の競争を促す効果を持つ間接経費についても、平成18年度においては、36制度中31制度が30パーセントの措置が可能であり、また3制度が一部のプログラムで可能としており、一層の拡充が図られた。
 各府省の競争的資金一覧を示す(第3-3-6表)

第3-3-6表 競争的資金総括表

(2)組織における競争的環境の醸成

(大学における基盤的資金と競争的資金の有効な組合せ)

 我が国の大学においては、基盤的資金が教育研究の基盤となる組織の存立(人材の確保、教育研究環境の整備等)を支えることに重要な役割を果たすとともに、競争的資金が多様な優れた研究計画や教育プログラムを支援するという体制が構築されている。
 このように、基盤的資金と競争的資金はそれぞれ固有の機能を持ち、重要な役割を果たしていることを踏まえ、文部科学省では、国立大学法人運営費交付金や私学助成等の基盤的経費の確保に努めつつ、競争的資金の拡充を目指すなど、政府研究開発投資全体の拡充を図る中で、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せを検討している。

(3)競争的資金に係る制度改革の推進

 総合科学技術会議は、平成18年12月に「科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた制度改革について」により、研究費の公正で効率的な使用の実現のため、繰越事由の明確化とすべての研究費への拡大、交付時期の早期化を求めた。
 上記に関連して、文部科学省所管の科学研究費補助金では、平成18年4月に、研究費の年度間繰越しについての事例を多く追加し、適正な活用が図られるよう取扱いの明確化を図る通知を研究機関等に発出するとともに、平成18年度から、年複数回応募の試行等の制度改正を行っている。また、厚生労働省所管の厚生労働科学研究費補助金及び保健医療分野における基礎研究推進事業では同様の年度間繰越しについての事由の明確化及び交付時期の早期化、経済産業省所管の産業技術研究助成事業では年複数回応募の試行及び交付時期の早期化、国土交通省所管の建設技術研究開発助成制度及び運輸分野における基礎的研究推進制度では交付時期の早期化等の制度改正が推進されている。
 また、平成18年12月には、競争的資金等の研究資金の使用・配分・評価を含む更なる制度改革の推進に向け、総合科学技術会議基本政策推進専門調査会の下に「研究資金WG」が設置され、検討を進めている。

(公正で透明性の高い審査体制の確立)

 競争的資金の配分に当たっては、申請内容と実施能力を重視した公正で透明性の高い研究課題の審査が不可欠であり、各制度においては、審査業務の合理化を図りつつ、審査員の増員、研究計画書の充実、審査基準の見直し、多様な分野からの審査員の登用等の改革を推し進めている。具体的な取組として、文部科学省所管の科学技術振興調整費においては、平成18年度より審査委員の選定基準の明確化を行っており、また、厚生労働省所管の厚生労働科学研究費補助金では、国立研究機関等にそれらの業務を移管する際には、評価委員会委員の選定基準の明確化等のために留意すべき事項を示すなどして、公正で透明性の高い審査体制の確立のための取組を推進している。

(審査結果のフィードバック)

 競争的資金に係る各制度において、審査結果が研究者に適切にフィードバックされるよう、その詳細な開示を推進している。平成17年度には36制度中24制度が実施していた、審査の結果、不採択だった場合にも審査委員のコメントを連絡する取組を、平成18年度には36制度中28制度が実施するなど、審査結果の開示を推進している。

(配分機関の機能強化)

 競争的資金の資金配分機関においては、プログラムオフィサー・プログラムディレクターを配置するとともに、その活動を支援するための調査分析機能や、審査・交付・管理等に係る実務機能の充実・強化を図り、体制整備を行っている。文部科学省所管の資金配分機関である日本学術振興会においては、学術システム研究センターをおき、学術振興方策に関する調査・研究等を行うことで、同振興会の活動支援を行っている。科学技術振興機構においても、研究開発戦略センターをおき、重点的に推進すべき研究領域等の企画・立案を行っている。厚生労働省所管の厚生労働科学研究費補助金では、学術的知見等を生かした評価や研究企画、研究費配分事務等を行うために、国立研究機関等にそれらの業務の移管を進めているところである。

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