(序文)

 主要先進国は、経済のグローバル化とそれに伴う世界経済の競争の激化、エネルギー、食料、地球環境問題等地球的規模の課題の重要性の高まりなどの中、競争力と雇用の確保、地球的規模の課題の解決などに向けた積極的な科学技術政策を展開している。
 我が国では、平成17年度の名目国内総生産(GDP)は対前年度比1.0パーセント増となる中で、研究開発投資は民間企業部門等で増加したことにより同5.4パーセント増と6年連続で増加し、国内総生産に占める研究開発投資の割合は前年度から0.15ポイント伸びて3.55パーセントとなった。また、平成18年の研究者数は5年連続で増加し、研究補助者、技能者等を含む研究関係従事者全体では3年連続の増加となった。
 このように、我が国の研究開発投資が増加傾向にあることは科学技術創造立国を目指す我が国として望ましい方向である。しかしながら、現在、世界各国においても科学技術政策を重視し、研究開発投資の拡大を目指しているところであり、我が国が今後とも、国際競争力の強化、国民生活の質の向上、さらには、地球規模の諸課題への対応等を図っていくためには、厳しい財政事情等を踏まえつつ、引き続き研究開発活動の強化に向けた努力を行っていかなければならないと考えられる。
 第2部では、研究費、研究人材など科学技術に関する指標による主要国(注1)間の比較等を行うことにより、我が国の科学技術活動の特色を概観し、それを踏まえて我が国の研究活動を述べることとする(注2)

(科学技術指標の国際比較に際して)

 統計データについての国際比較のためには、対象となる各国統計データが統一的な基準に基づいて測定されることが前提となる。経済協力開発機構(OECD)は、科学技術活動に関するデータの収集・分析のためのガイドライン(指針)として、フラスカティ・マニュアル(注3)を取りまとめており、加盟国は本マニュアルに基づいて科学技術指標を測定するよう求められている。
 フラスカティ・マニュアルでは、研究者数の勘定方法については、頭数と、実際に研究業務に専従した時間割合を勘案した専従換算(FTE換算)値(注4)の2種類のデータがあるとしながらも、後者が研究人材の本来の量的測定法であり、正確な国際比較のため、すべてのOECD加盟国が専従換算値を支持すべきとしている。
 我が国においては、文部科学省が平成14年に大学等の教員を対象にして実施した標本調査結果から推計した専従換算係数と、平成18年科学技術研究調査の大学等における研究者数、使用研究費を用いて専従換算値が求められている(第2-1-1表)。なお、専従換算により頭数から変化するのは、教育活動にも従事している大学等の研究者数であり、これに伴って大学等における使用研究費が変化する。
 第2部では、最近の年度での研究者数及び研究費に係る国際比較の際には、頭数と専従換算値を並記する。

第2-1-1表 頭数と専従換算値の比較(平成17年度)

(欧州連合の研究開発)

 欧州連合条約(通称:マーストリヒト条約)が1992年に調印され、欧州連合(以下、EUという。)が設立された。これを受けて、1999年1月には通貨統合が実施され、2002年1月から通貨ユーロの現金流通が始まったところである。2004年5月には新たに中東欧10か国が加盟し、それまでの15か国体制(EU-15(注5))から25か国体制(EU-25(注6))へ、さらに2007年1月1日に東欧2か国が加盟し、現在では27か国体制(EU-27(注7))となっている。近年、EUは様々な国際舞台においてその存在感を発揮しており、その世界的位置づけは急速に高まっている。科学技術に関する指標で見てもEUは米国に次ぐ存在であり、今後、日本が世界の中で国際競争力を有していくという観点から、EUとの関係を無視することはできない(第2-1-2表)
 EUの科学技術政策の基本的な目的としては、「共同体産業の科学的および技術的基盤を強化し、かつその国際競争力の発展を促進し、またこの条約の他の章を理由に必要とされるすべての研究活動を支援する」(ヨーロッパ共同体を設立する条約(通称:EC条約))ことが掲げられており、このような方針に基づき、EUにおける研究開発活動の基本的な枠組みを示したフレームワーク計画(現在は第7次計画:2007年〜2013年)が実施されている。

第2-1-2表 世界の3極の比較

 EUは、第2部で国際比較を行う際に対象としている国家とは異なり、構成する国家の連合体であるが、この第2部では、EU諸国における科学技術指標(注8)を合計したEUに関する指標を可能な限り取り入れていくこととする。

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