第2章 今後の科学技術振興に向けて

3 今後の科学技術振興の在り方

(1)科学技術への投資

 各国は未来への先行投資として研究開発費を増大させている。特に中国等の伸びは著しく、OECDによれば、購買力平価ベースでは2006年に我が国を超したと推計している(第1-2-2図)。我が国は政府負担研究費の増加を図ってきたものの、近年はほぼ横ばい状態であり、急速な拡大を続ける中国、韓国等とは対照的な状況にある(第1-2-3図)。諸外国と比較すると、政府の研究開発投資や基礎研究の割合が低く(第2-1-6図、第2-1-18図)、高等教育への公財政支出のGDP比が0.5パーセントしかなく、米国・フランス・ドイツの半分、英国の3分の2程度に過ぎない(第1-2-4図)。科学技術分野に進み、大学院で高度な知識を身につけて社会で活躍するキャリアパスの魅力を減じないためには、十分な教育研究を行える環境の整備と、修士や博士課程に進むことの経済的負担を減らす方策を講じるとともに、身に着けた知識や能力が社会でも通用するような教育内容、方法の改善・充実が強く求められる。

第1-2-2図 研究開発への国内総支出(単位:購買力平価10億米ドル)

第1-2-3図 2000年度を1とした主要国等の政府負担実質研究費の推移

第1-2-4図 高等教育に対する公財政支出の対GDP比

(2)選択と集中

 政府研究開発投資の投資効果を最大限に発揮させるには、支援する研究内容の適正な評価、研究施設や設備等の有効な活用とともに、研究成果の有効な伝達と活用の促進が重要である。第3期科学技術基本計画においては、効果的・効率的な科学技術政策の推進という観点から、選択と集中による政府研究開発投資の戦略的重点化を更に進めることとし、分野内において第3期基本計画期間中に重点投資する対象を「戦略重点科学技術」として選定している。さらに、戦略重点科学技術の中でも「国が主導する一貫した推進体制の下で実施され世界をリードする人材育成にも資する長期的かつ大規模なプロジェクトにおいて、国家の総合的な安全保障の観点も含め経済社会上の効果を最大化するために第3期基本計画期間中に集中的な投資が必要なもの」を「国家基幹技術」と位置づけている。国家基幹技術には、世界最先端・最高性能の「次世代スーパーコンピュータ」や「X線自由電子レーザー」、我が国の自律的な宇宙開発利用活動の展開を可能とする「宇宙輸送システム」、地球環境観測、災害監視や資源探査などの総合的安全保障に不可欠な観測・探査活動の基盤となる「海洋地球観測探査システム」、長期的なエネルギー安定供給の確保のための「高速増殖炉(FBR)サイクル技術」を選定して、研究開発を進めることとしている。
 一方、個人研究者の独創的・挑戦的な着想を伸ばすことが可能になるよう、一定の基盤経費の確保とともに、競争的資金の拡充と評価の充実が重要である。このことは、被引用度の高い論文の著者へのアンケートで、拡充が図られている「政府の競争的資金」が研究成果に肯定的な影響を与えている一方、「経常的な研究資金の量」が肯定的な影響を与えるものでありながら、不十分であるために制約要因になっているという回答に表れている(第1-2-5図)

第1-2-5図 研究環境の各項目についての“障害・制約”と“好ましい影響”の関係

(3)社会・国民に支持される科学技術の振興の在り方

 科学技術の発展により、人類は長寿や物質的な幸福を手に入れた。しかし、今後、多くの国で生活水準が向上し、世界の人口も増加していくことを考え合わせると、現在の技術水準のままでは、我々及びその子孫はいずれ環境面の制約に直面することは避けられない。このような中で、限られた資源を利用して、どのような科学とどのような技術を発展させていくべきなのか、これは我々とその子孫の将来を決める重要な選択になる。これらの選択を行う上で、進めるべき科学技術の内容と進め方について納税者の理解を得ることが重要であり、研究者及び科学技術の振興に携わる関係者は、その内容を分かりやすく紹介し、一般市民の参加の下に科学技術が適切な方向に発展するよう不断に努力することが必要である。

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