大学等における研究は、教育と一体として行われ、その過程において、大学院生をはじめとする若手研究者は、先人の研究の成果である「知」を継承し、自らも新たな「知」の創造に向けて研究活動を遂行することで、問題発見・問題解決の能力や態度を獲得していく。
このような教育研究活動は、研究者のみならず、社会のあらゆる分野で活躍する人材を社会に輩出する機能を有する。創出された知的資産は、大学をはじめとする高等教育機関の人材育成機能を通じて社会に還元され、広く社会の貢献にもつながっていくものである。
多様化した社会のニーズに対応するため、我が国の大学院においても、様々な形で教育研究の場を提供することが求められてきた。また、経済のボーダーレス化や高度情報通信社会の実現などを背景に、教育研究の世界的規模での交流と国際競争の激化が進み、高度な専門的知識・能力を有する人材や国際的な場で活躍できる人材の必要性が高まってきた。
このような状況を踏まえ、積極的に大学院制度の改革が進められてきており、学部を置くことなく大学院のみを置く大学院大学、通信制大学院、専門職大学院など新しい形態の大学院が設置されるとともに、飛び入学や修士1年コース、長期在学コースなどの入学資格や修業年限の弾力化、連携大学院や夜間・昼夜開講制大学院などの教育方法・形態の多様化が図られている。また、大学院学生数についても、欧米に比べいまだ少ないものの、過去20年間で約3.5倍と着実に増加しており、量的充実が図られてきている(第1-1-32図)。
近年、大学等では、資金の重点配分による研究活動の活性化、若手教員等に対する支援、柔軟な研究実施体制の整備などの改革が進められている。
多くの大学等で、学長裁量経費等を活用した学内での公募型研究プロジェクト制度の創設や予算の部局間の傾斜配分等、資金の重点的配分による研究活動の活性化を推進している。例えば、新たな研究領域や分野での取組を奨励するための研究奨励費を総長裁量経費により学内で措置して学内公募を行っているほか、教育研究活性化経費等の配分基準に科学研究費補助金の採択率等を設定して傾斜配分を実施することによって、研究活動の活性化を図っている大学がある。
また、若手教員や大学院生に対する支援策を講じ、学術研究の中核を担う人材養成を推進している。例えば、大学院博士後期課程に重点を置いたリサーチ・アシスタント(RA)経費を学内で措置し、大学院生への支援の充実を図っている大学や、独創性豊かな若手教員に対する顕彰制度を設け、数名を表彰するとともに、総額数千万円の研究費を配分して研究支援を行っている大学がある。
さらに、柔軟な組織編制を可能とする法人化のメリットを活かし、機動的な研究や効果的な研究が実施できる体制の整備を推進している。具体的には、複数の大学共同利用機関及び関連分野における大学等研究者との分野を超えた連携研究を促進し、新しい学術分野の創出とその育成を目指すため、機関内に研究連携に関する企画を行う委員会とその企画を実施する組織を設置し、「イメージングの科学」等のテーマを設定し、連携活動を開始した研究機関もある。
これらの改革によって、各大学等で教育研究の活性化が促進され、科学技術や学術活動の基盤となる人材の養成・確保が図られてきている。
ポストドクター(注)としての経験は、様々な指導者の下で研究活動を行い、自らに最も適した研究環境を見つけ出し、研究の幅を広げ、新たな分野に挑戦するなどの意味で、若手研究者の創造性と自立性の涵養(かんよう)のためにも重要である。科学技術政策研究所が、ポストドクターの経験の意義について調査したところ、ポストドクターとしての経験は、研究者本人にとって、自立のための登竜門や、研究分野の幅を広げる期間であるとの回答が多かった(第1-1-33図)。
優れた研究者の養成・確保を図るためには、若手研究者の自立性を向上させ、優れた若手研究者がその能力を最大限発揮できるようにすることが必要である。このため第1期科学技術基本計画(平成8年)では、ポストドクター等1万人支援計画が提唱され、ポストドクター等に対する多様な支援制度が創設・推進されてきた。本支援計画の数値目標は、平成11年度中に達成され、我が国の若手研究者の層を厚くし、ポストドクター等が研究に専念できる環境の構築に貢献してきた。
一方で、ポストドクターのキャリアパスが不透明であることが課題となっているため、若手研究者の採用過程の透明化や自立支援、ポストドクターに対するアカデミックな研究職以外の進路を含めたキャリアサポートの推進等の取組を進めていくことが重要となっている(具体的な施策は、73、77頁)。
平成17年度の文部科学省の調査結果によれば、平成16年度に、延べ1万4,854人のポストドクター等が雇用されており、機関別内訳では大学が57パーセント、独立行政法人が38パーセント等、また、財源別内訳では、競争的資金・その他の外部資金が43パーセント、運営費交付金・その他の財源(内部資金)が33パーセント等となっている(第1-1-34図)。
特別研究員事業(日本学術振興会)は、我が国のトップクラスの優れた若手研究者に対して、自由な発想の下に主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図ることを目的として、大学院博士課程在学者及び大学院博士課程修了者等で、優れた研究能力を有し、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する者を「特別研究員」に採用し、研究奨励金を支給する制度であり、昭和60年度から推進している。平成18年度の採用は5,032人となっており、研究者養成の中核と言える。本事業は、特に次代を担う優秀な若手研究者がアルバイト等をせず、主体的に研究課題や研究従事機関を選びながら研究に専念できるよう、若手研究者の主体性を重視し、研究者としての資質や潜在能力を飛躍的に向上させることに貢献してきた。
また、特別研究員-PD終了後の常勤の研究職への就職状況は、終了直後で約4割、1年経過後で約5割、4年経過後で約7割、10年経過後で8割以上とキャリアを重ねることで着実に「常勤の研究職」に就いている。さらに、特別研究員終了後もポストドクトラルフェローとして研究活動を継続している者が、研究実績を評価されるなどして、「常勤の研究職」となっていくことも推察される(第1-1-35図)。
このように、特別研究員事業は、優れた若手研究者に対して、常勤の研究者へのキャリアパスを確保し、我が国の研究者の養成に大きな役割を果たしてきた。
我が国の大学が、世界トップレベルの大学と伍(ご)して教育及び研究活動を行っていくためには、第三者評価に基づく競争原理により競争的環境を一層醸成し、国公私を通じた大学間の競い合いがより活発に行われることが重要である。そこで、我が国の大学に世界最高水準の研究教育拠点を形成し、研究水準の向上と世界をリードする創造的な人材育成を図るため、重点的な支援を行うことによって、国際競争力のある個性輝く大学づくりを推進することとする「大学の構造改革の方針」(平成13年6月)に基づき、平成14年度から文部科学省の事業(研究拠点形成費等補助金)として21世紀COEプログラムを実施している。
平成17年12月には、文部科学省において、大学院を置く全ての大学(558大学)の学長に本事業についてのアンケート調査を実施するとともに、「21世紀COEプログラム委員会」において、拠点リーダー及び審査・評価委員を対象にした調査を行って、本プログラムの評価・検証を実施した。これらの評価・検証に基づいて、本事業の成果について紹介する。