第1章 科学技術の振興の成果

第1節■科学技術の振興の意義

3 科学技術振興の成果

 我が国は、平成8年度以来10年余にわたり、科学技術基本計画の下、計画的な科学技術の振興を図ってきている。科学技術の成果は長期にわたる取組の結果初めて花開くことも多く、現在実現している技術や広く利用されている製品のもととなる発見や発明が20年、30年の昔にさかのぼることも珍しくない(第1-1-2表)

第1-1-2表 技術シーズの発明・発見から実用化までの期間

 ここでは、近年新たな発見がなされ、あるいは国民生活や経済に大きなインパクトを与えた科学技術の成果を中心に、過去にさかのぼりその発展の過程にも触れつつ、三つの観点から概観する。

(1)人類の知的資産の創造 −知の創造−

 日本人初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹(ゆかわひでき)博士をはじめ、我が国の科学者は、物質の根源を探求する素粒子物理学の分野で世界をリードする研究成果を上げてきたが、特に近年では、ニュートリノ物理学という新たな学問分野を生み出し世界の研究を牽引(けんいん)する成果を上げている。また、宇宙の分野では、小惑星の詳細な科学観測により、地球誕生のころの様子を探る手がかりを得た。
 生命科学の分野では、国際協力の下でヒトゲノムの解読を完了したり、自然免疫の研究成果として、世界的に引用されることの多い論文が最も多く執筆されるなど、世界レベルの成果を上げている。

(2)科学技術の成果の社会への還元 −知の活用−

 近年の我が国の科学技術の成果が、社会的課題の解決に寄与したり、国民生活をより豊かにしたりすることに貢献した例は枚挙に暇(いとま)がない。
 現在、人類が直面する最大の課題の一つである地球温暖化については、気候変動予測の科学的データを提供する上で世界的な貢献を果たしたり二酸化炭素削減に効果のある太陽光発電においては世界最大の太陽電池生産量を達成している。
 また、我が国発の研究成果が国民生活に密接に関わる技術・製品にブレイクスルーをもたらし、経済的に大きなインパクトを与えたり、疾病の新たな治療法、早期診断手法の開発、治療薬の開発などの社会的要請の高い課題に関して成果を上げている。
 また、科学技術の成果が社会に十分に活用されるための鍵となる産学官連携により、大学等と産業界との共同研究が急速に増加し、大学等の研究成果をもとに新製品が生み出されて経済効果を生んだり、環境問題への対応策など社会的意義の大きい成果につながる例も現れている。

(3)次代を担う人材の育成 −知の継承−

 科学技術の発展は、科学技術研究活動に関わる人々の能力と努力にかかっているといっても過言ではない。そのため、優れた人材を育成し、その能力が発揮できる環境を提供することは、科学技術振興の基盤となるものである。
 大学等における研究は、教育と一体として行われ、その過程において、大学院生をはじめとする若手研究者は、先人の研究の成果である知を受け継ぎ、自らも新たな知の創造に向けて研究活動を遂行することで、問題発見・問題解決の能力や態度を獲得していく。
 こうした教育研究活動は、研究者のみならず、社会のあらゆる分野で活躍する人材を社会に輩出する機能を有する。創出された知的資産は、大学をはじめとする高等教育機関の人材育成機能を通じて、社会に還元され、広く社会の発展につながっていく。科学技術の振興においても人材育成は重要な要素であるが、知の継承の成果は、科学技術に直接携わる者にとどまらないのである。
 経済のグローバル化が進展し、国際競争がますます激化する中、各国も熾烈(しれつ)な科学技術の人材確保競争を演じている。我が国においても、優秀な研究者を我が国に惹(ひ)きつけ、研究環境を活性化し、研究者がその持てる能力を十分に発揮できるような条件整備を目指して、若手研究者の支援やキャリアパスの多様化、研究拠点の整備に向けた施策を推進している。
 第3期科学技術基本計画においても、その基本姿勢として、人材育成と競争的環境の重視を掲げており、科学技術振興施策において人材育成の重要性は一層大きくなるものと考えられる。

 第2節以下では、三つの観点からの科学技術の成果を具体的に紹介する。

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