第4章 3実証実験の取組

3. 実証実験の取組
(1)  実証実験実施の背景と目的
 目指すべき課題解決型の公共図書館を目指して、前項までに述べた各システムやネットワーク化要件を、実際に導入するにあたっては、それぞれの取組みが有効に機能するのか、検証する必要がある。特に、各システムの全国導入を推進していくためには、レファレンス事例、有用な情報源、課題の整理等各システムのベースデータが、一定量格納され、多種多様な検索が実行される必要がある。一方、優先度の高いと評価した取り組むべき課題について、地域住民や地域からどのような要求や期待がなされるのか、国民的ニーズを検証する必要性がある。
 そのため、本研究会が提言する公共図書館をハブとした地域情報連携システムの必要性を検証する上では、対象地域や対象課題等を限定し、モデル事業形式で実証実験を行うことが望ましいと言える。また、国家施策として全国の公共図書館や地方公共団体に普及を促進していくためには、前述の4つのシステム化要件が可能な限り標準化されることが望ましい。なお、地域情報連携システムとして新規開発するだけでなく、ウェブ形式によるネットワークを構築することで、実証実験の成果をフィードバックすることが可能になると言える。

(2)  実証実験における検証項目
 実際に実証実験を実施するにあたっては、それぞれの取組課題の必要性を把握できるように課題別にモデル事業推進地域注釈46を設定した上で、地域や地域住民にとっての利用満足度やモデル開発する情報連携システムの技術課題等を検証する必要がある。具体的な検証項目例は、以下のとおりである。検証結果に応じてサービスモデルの構築と情報連携システムの見直しが行われ、標準的なシステムとして示すことが可能となる。

 
事業の有用性に関する検証項目例;
利用者側からみて、使いやすい、満足できるサービスであるか?
レファレンス・サービスの問い合わせ件数とその推移
取組課題に関する問い合わせ件数が多ければ、それだけ地域における課題解決の必要性が高いと言える。また、良質なサービス提供を継続する事によって、問い合わせ件数、すなわち情報連携システムに対するアクセス回数も、モデル事業期間内において、増加することが期待される。
レファレンス・サービスにおける問い合わせ回答までの期間設定と期間遵守率注釈47
利用者は、直ぐにでも課題を解決したいから問い合わせしている以上、問い合わせから回答までの期間は、短ければ短いほど好ましいのは確かである。但し、問い合わせ内容によっては、外部機関・外部施設への問い合わせが必要になったり、広範囲な調査を要したりする場合がある。そこで、問い合わせを受けた時に、問い合わせ内容と自館における資料・情報の保有状況から回答期間を適切に設定し、利用者に案内することが重要となる。設定した回答期間よりも短く回答できたかどうかで、利用者の満足度は上下すると言える。
問い合わせに対する回答期間までに時間を要した課題について、司書のノウハウ・経験の共有化によって短縮可能かどうか、検証が必要となる。その上で、問い合わせ内容の難易度に応じた標準的な解決要求期間を設けることが可能になると言える。
モデル地域内の外部機関・外部施設に対する問い合わせ件数、及びモデル地域外に対する相互貸借依頼件数
いずれも、件数の多さは、当該課題に関する公共図書館をハブとしたネットワークの利用度が高く、公共図書館が地域の情報拠点となっていることを示していると言える。
また、利用者の問い合わせ内容と外部の問い合わせ先・相互貸借依頼先との対応関係を検証することによって、課題別に必要とされる資料・情報の範囲や類縁機関が明確にすることができる。
アンケート調査による実証実験全体に対する満足度及び改善要望
モデル事業となった地域におけるアンケート調査等を行うことによって、利用者及び非利用者双方からの実証実験全体に対する満足度や改善要望を把握することが可能となる。
利用者に対する質問内容としては、課題解決の可否、得られた資料・情報に対する満足度、公共図書館側の業務に対する満足度、等があげられる。利用者にとって、真の課題解決の到達は、資料・情報の獲得時点ではなく、得られた資料・情報に基づいた意思決定(レストラン開店準備資金調達のための融資制度の選択や患者である夫との対話の重要性に対する認知)や報告書作成(調べ学習の成果物の作成)時点であるため、事後的にアンケート調査を行うことによって、課題解決への貢献度を検証することが可能である。
また、モデル事業期間を通じて利用しなかった地域内の住民に、非利用の理由を尋ねることによって、情報連携システムの普及拡大可能性を検証することが可能となる。想定される非利用の理由として、時間的・空間的都合で公共図書館を利用・来館する機会がない、解決したい課題が明確に提供されていない、そもそも公共図書館が課題解決型サービスを提供していることを知らない、等がある。これらの理由を回答者の属性(年齢、職業等)と組み合わせて分析することによって、より利用されやすい公共図書館サービスの在り方を検討できる。

 
技術的課題に関する検証項目例;
モデル開発した情報連携システムについて、どのような改善点が求められるか?
データベース利用ログ解析に基づいたシステム構造の有効性注釈48
「第4章 取組課題への対応施策2.(2)個別システムの機能概要」にて詳述した情報連携システムについて、利用者のテーマ検索やディレクトリ検索の利用ログを解析することによって、利用者の求めている資料・情報への到達状況を分析することが可能である。あちこち検索しているケースが多ければ、設定したツリー構造や検索体系が利用者にとって馴染みにくい検索構造である可能性が高いと言える。また、同じ利用者が何度も検索しているケースが多ければ、個々の検索時に該当する(ヒットする)データ数が過少である可能性が高いと言える。
モデル開発した情報連携システムにおいて、利用頻度の多い画面や画面上のボタンがあるのならば、当該部分は利用ニーズが高いと言える。特に、個別システム4にて指摘した利用環境向上のためのユニバーサルデザインに関するシステム要件については、利用頻度の多寡から、どのような画面構成が望まれているか検証することが可能である。

 
その他の検証項目例;
事業推進上、留意すべき事項があるか?
外部機関・外部施設の職員の負荷
「第4章 取組課題への対応施策2.(2)個別システムの機能概要」にて詳述した情報連携システムの構築においては、外部機関・外部施設との情報連携性を向上するために、レファレンス事例・情報や目録情報について、公共図書館と同じような形式にて管理する必要がある。この場合、情報連携先の職員による既存情報の変換や情報登録のための負荷が最小限になるよう、情報連携先における既存のレファレンス事例や目録情報の体系をそのまま取り込めるような仕組みを構築したり、変換すべき或いは登録すべき情報の標準管理体系の簡素化を図ったりする必要がある。

注釈46  「地域」の単位としては、モデル事業の対象となる公共図書館の現在のサービス範囲(例えば、図書カード登録可能地域等)に応じて設定することが望ましいと言える。従って、都道府県レベル、広域自治体レベル、及び市区町村レベルのいずれもが想定される。
注釈47  例えば、米国のDigital Reference Education Initiative(デジタル・レファレンス相互協力ネットワークサイト、詳細は脚注11参照)におけるデジタル・レファレンスの品質要求(Facets of Quality for Digital Reference)では、問い合わせの10パーセントは2日以内、あるいは問い合わせの50パーセントは5日以内に、回答することを最低限の品質要求としている。
注釈48  データベース利用ログ解析にあたっては、利用者属性をどこまで細かく分析するのか、個人情報のプライバシー保護の視点も勘案して行うことが必要である。

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-- 登録:平成21年以前 --