第4章 2サービス要件及び業務要件実現のためのシステム機能概要

2. サービス要件及び業務要件実現のためのシステム機能概要
(1)  公共図書館情報ネットワークが目指すシステム全体像
 前述したネットワーク化のためのシステム化要件が実現すると、公共図書館を“ハブ”とした情報連携と組織間連携が一体となったネットワークが形成され、利用者からの地域の日常生活に根ざした課題に関する情報検索・問い合わせニーズに対応することが可能となる。
 すなわち、公共図書館が蓄積し発信するのは、各地域の特性に根ざした地域課題ごとに整理された体系化情報となる。もちろん、ここでの“情報”とは、デジタルアーカイブやウェブ情報等の“電子資料”だけでなく、公共図書館本来の特長である図書・定期刊行物等の“紙の資料”や“視聴覚資料”、専門分野ごとに当該課題に対応した外部機関の“相談員(もしくはその連絡先)”が有する情報等から構成されている、広義の意味での“役に立つ情報”である。情報媒体別に従来の公共図書館が管理しやすい形での情報提供から、利用者の視点に立った情報提供に改善するため、地域住民や地域住民の課題解決に対する寄与度が高まることとなる。
 利用者視点に立った情報提供の具体例として、以下のような場面が想定される。例えば、ある日突然、自分の子どもが心臓病等の重病にかかった事がわかり、病気、手術、治療法等に関する情報を調べようとする際、同じように重病の子どもを育てた親が主体となった闘病記等を必要となる場合がある。この場合、「闘病記」そのものはノンフィクションであるから、日本十進分類法(NDC)の分類に従えば、「916:文学-日本文学-記録、手記、ルポルタージュ」に当てはまる。また、将来にわたり重病の子どもをどのように育てていけばいいか、育児の視点からの資料・情報が必要となる場合がある。この場合、「369:社会科学-社会-児童福祉」に分類される図書や「492:自然科学-医学-臨床医学、診断・治療」に分類される専門書、医学専門雑誌も同時に関係することも視野に入れておく必要がある注釈36
 以上のような分野横断的な資料・情報を取り揃えて参考情報として提供することが利用者視点に立った“役に立つ情報、ないしは情報源”の意味するところである。

注釈36  出典:「みんなの図書館2004年9月号/図書館問題研究会編集」における「患者家族が求めた情報と図書館」を参考に作成。

  図4 課題解決型の公共図書館における情報提供イメージ図
  図5 システム化要件検討の全体枠組みイメージ
(2)  個別システムの機能概要
 ここでは、本研究会で提言している4つのシステム化要件のシステム機能概要を記述する。

1 公共図書館及び他施設・他機関保有の資料を課題別に体系化する取組を進め、その整理に従いメタデータを付与することによって、資料目録を総合的にデータベース化し、高度な情報検索を支援するための仕組

   本システムの目的は、司書や利用者の資料検索の支援にある。本システムは、利用者の抱える課題について、公共図書館をハブとしたネットワークにおいて所蔵されている資料群から適切な資料を横断的に検索することを主眼としている。
 従来でも、各公共図書館では館内OPAC端末やウェブサイトより、自館、都道府県内の他の公共図書館、及び都道府県立図書館の所蔵資料を検索することが可能であった。しかしながら、個々の資料が保有する情報のうち検索対象となるのは、タイトル、著者名、出版年、NDC分類、及びISBN等の書誌情報が中心となっており、更に資料内容まで踏み込んで検索可能とするのが、本システムの特徴である。従って、本システムの出力結果は、選択した資料に関する書誌情報、所蔵情報、及び目次、要約、課題分類、課題キーワード等の資料内容に関する二次情報から構成されることになる。
 また、公共図書館以外の外部機関・外部施設所蔵の資料の検索については、検索可能な資料が限られていたり、データベースではなく目録カードで管理されていたりする他、以下のような制約があることに留意しなくてはならない。
原則として、公共図書館所蔵資料の検索と外部機関・外部施設所蔵資料の検索は、別々に行う必要がある。
外部機関・外部施設所蔵資料に関する書誌情報や所蔵情報は、検索に必要な情報が不足していたり、格納されている情報形式が異なっていたりする場合が多い。
   そこで、利用者が公共図書館所蔵資料と外部機関・外部施設所蔵資料を横断的に検索できるようにするためには、外部機関・外部施設が所蔵している多種多様な資料の書誌情報及び目次や要約等の二次情報のうち、公共図書館資料と同じ意味を持つ情報については、同じような形式に変換・生成しておくことが必要となる。なお、各資料が独自に保有する個別検索項目については、それぞれ残しておく必要がある。例えば、地球物理学資料における時間軸は、第四紀、第三紀、白亜紀、ジュラ紀等が必要な検索項目であり、同じ年代(時代)という情報であっても、他の資料とは異なる検索項目として分類する必要がある。
 資料横断検索システムについて、求められるシステム機能とシステム利用イメージは、以下のとおりである。なお、本システム構築にあたっては、情報連携先の資料に関する情報を登録する時において、各施設・各機関の職員の負担を可能な限り軽減し、既存の目録情報システムを活用できるように留意する必要がある。
  表5 資料横断検索システムの機能要件

  システム機能要素区分
システム名 活用(検索)するとき 収集(登録)するとき
資料横断検索システム
館内所蔵資料・情報全般(図書・定期刊行物、電子資料、ウェブページ、地域・郷土資料)及び他図書館所蔵資料・情報全般や博物館等の他の社会教育施設の所蔵資料目録データベースを、同時に横断的に検索可能
検索したい項目をキーワード入力し、資料・情報タイトルや内容全文を対象に検索した上で、関連する資料・情報を抽出
自由文による質問について、入力内容の意味解析に基づいた検索が可能
書誌情報(タイトル、著者名、出版年次等)に加えて、課題分類、要約、キーワード等の拡張2次情報を、統一した記述形式にて入力
統一記述形式にそぐわない、各資料固有の情報については、個別検索項目(地質学資料における年代等)として登録
公共図書館だけでなく、他施設(博物館、学校図書館、専門図書館等)の資料目録(書誌、収蔵品、施設資料等)を収集・登録
  図6 資料横断検索システムの利用イメージ図
 
2 司書のレファレンスに関する経験・ノウハウが集めたレファレンス事例をデータベース化し共有するための環境整備(課題別レファレンス機能等)を通して、司書の課題解決能力の向上と地域課題解決のノウハウの蓄積に資する仕組

   本システムの目的は、司書や利用者の情報検索の支援にある。情報検索の専門家である司書であっても、大量かつ多種多様な情報資源の中から検索を行うよりも、手がかりとなる情報や参照資料、検索事例に基づいて検索を行う方が、迅速かつ適切な情報検索を実現しやすい。また、司書による情報検索機能については、以下のような制約があることに留意しなくてはならない。
個々の司書にとって、得意としている、或いは豊富な経験を有している分野は限られている。すなわち、個々の司書が、利用者からの問い合わせ内容である課題について網羅的に十分な見識を保有しているとは限らない。
司書の勤務体制や人数の制約によって、いつでも、どこでも利用者からの問い合わせニーズに応えられるわけではない。
問い合わせ内容によっては、直ぐに資料の所在や問い合わせ事実を確認できるとは限らず、問い合わせ内容の分類や整理によって問い合わせニーズを具体化させながら情報検索を行う場合がある。
   そこで、司書が対応した利用者からの問い合わせ(レファレンス)事例を蓄積し、統一の分類形式にて、ネットワーク上のデータベースとして構築しておくことが望ましいと言える。本システムで想定する分類形式は、地域の課題をキーに必要に応じた詳細課題に分類された形式であり、各課題に関連するキーワードが付加されている。
 データベースに格納されている情報は、単なる問い合わせと応答結果(提供した資料・情報や確認した事実等)だけでなく、応答結果に到達するまで、どのような資料・情報を利用し、どのように絞り込んだのか、等の情報検索の過程や、外部機関・外部施設に資料・情報紹介注釈37を行った時の問い合わせ先等である。このようなレファレンス事例がデータベースを活用することによって、後から同一事例だけでなく、類似事例の検索を容易にする。
 実際のレファレンス事例データベースの構築にあたっては、プライバシー保護への配慮や、既存データの変換等があるため、すぐに情報量と内容の伴ったデータベースになるわけではない。ウェブサイトでレファレンス事例データベースの構築に取り組んでいる国立国会図書館や、地域的なレファレンスにおいて関係の深い当該広域、都道府県域の他館と連携することが望ましいと言える。なお、プライバシー保護については、何よりもレファレンス事例の基となる利用者からの問い合わせ内容に含まれている個人情報が十分に保護される必要がある。特に、第3章の「5.取組課題候補3:医療関連情報提供」や「6.取組課題候補4:法務情報提供」において指摘したように、問い合わせ行為そのものにプライバシー保護が求められるケースがある。
 一方、レファレンス事例データベースを実際に利用するときにも、司書や公共図書館一般利用者の以下のような情報検索ニーズのパターンに応じた検索機能が具備されていることが望ましいと言える。
予め、検索対象や内容に対応した課題テーマを把握している場合、課題分類検索機能を活用する。
例えば、幼児教育における親向け雑誌の一覧と発行部数や公共図書館における利用状況を知りたい場合、「大分類:生涯教育」から「小分類:子育て」を選択することで、子育てに関連した過去のレファレンス事例が一覧表示され、その中から、問い合わせ内容と同一ないしは類似の事例を参照することができる。
予め、検索対象や内容に対応した課題テーマを把握していないものの、情報検索に必要な関連するキーワードを把握している場合、キーワード検索機能を活用する。
上記と同じ事例を前提にすると、検索画面より「幼児教育」「母親」「雑誌」等のキーワードを入力することによって、そのキーワードと関連性のある課題テーマを介して、子育てに関連した過去のレファレンス事例が一覧表示され、同じように、その中から、問い合わせ内容と同一ないしは類似の事例を参照することができる。
検索対象や内容が判明しているが、対応する課題テーマや関連するキーワードが明確になっていない場合、問い合わせ内容より検索する自然文検索機能を活用する。
上記と同じ事例を前提にすると、「幼児教育に関する雑誌にどのようなものがあるのか知りたい」と、問い合わせ内容をそのまま入力する事によって、質問文章より意味やキーワードを解析し、対応するレファレンス事例を抽出することができる。
   利用者からの問い合わせごとに、質問内容、資料・情報検索に利用したキーワード、検索過程、回答内容、及び課題分類等も含めて、新たなレファレンス事例としてデータベースに登録することになる。但し、データベースはあくまでも事例の集合体である以上、データベースのみでは、利用者の問い合わせニーズの全てについて、適切で十分な数の事例があるとは言えない。そこで、情報検索活動に有効な検索ツールや有用な情報源を課題別にまとめた課題別レファレンス機能が必要となる。すなわち、レファレンス・ブックや参照資料注釈38を課題別に取りまとめると共に、地域特性や各司書の専門性を反映した有用情報源をデータベース化することによって、公共図書館における情報検索のスピードと正確性の向上を図るものである。実際に利用者や司書注釈39の利便性を考慮すると、このレファレンスデータベースは課題別分類による検索ができるように構築することが望ましくなる。具体的には、Yahoo! Japanにおける「Yahoo!カテゴリ」やExcite(エキサイト)における「おすすめリンク集」等のように、課題テーマを分類(カテゴライズ)し、大分類から中分類、小分類の順に選択する事によって、該当するレファレンス資料を一覧表示するディレクトリ構造が想定される注釈40
 レファレンス事例データベース及び課題別レファレンスデータベースについて、登録時と検索時において求められるシステム機能は、以下のとおりである。

注釈37  いわゆる、レフェラルサービス(referral service)のことを指す。
注釈38  具体的なレファレンス・ブックや参照資料としては、事実確認が主目的である、辞書、事典、便覧、ハンドブック、地図、統計、年鑑、図鑑等の資料と、文献調査や文献所在確認が主目的である、書誌、記事索引等の資料がある。
注釈39  ここで記述している「司書」は公共図書館に従事しているすべての司書を示している。このうち、課題別レファレンスデータベースの有用情報源の登録については、当該課題に経験とノウハウを持つ専門性の高い司書が中心となって取り組むものとする。
注釈40  上述の目的に触れたとおり、本システムの導入効果は、司書や利用者の情報検索の迅速化・簡素化にあるものの、定量的な効果を保証するものではない。あくまでも、情報検索行為の支援である。また、問い合わせに対する回答そのものが得られることでもないことを付記しておく。

  表6 レファレンス事例データベース(課題別レファレンス機能含む)の機能要件

  システム機能要素区分
データベース名 活用(検索)するとき 収集(登録)するとき
レファレンス事例データベース
検索したい項目をキーワード入力し、資料・情報タイトルや内容全文まで検索した上で、関連する事例を検索
利用者の課題を基に、関連する事例を検索
他図書館や外部専門機関のレファレンス事例を検索対象可能
事例検索結果における各種情報・資料について、資料・情報の閲覧・貸出予約画面とのリンク、外部専門機関への相談予約画面とのリンクが可能
質問内容、資料・情報検索のための投入キーワード、回答に至るまでの経過、及び回答内容に分けて入力
質問内容に、利用者の抱えていた課題・課題解決ニーズの範囲・緊急性、利用者の質問シーン(曜日・時間帯など)を付加
回答内容にレフェラルサービスを行なった外部機関(他の公共図書館情報、専門機関・専門データベースや専門家等)を付加(関連機関のレファレンス事例の収集可能)
他施設(博物館、学校図書館、専門図書館等)のレファレンス事例を収集・登録
課題別レファレンスデータベース
課題別の分類からレファレンス資料を検索(ディレクトリ検索)
課題別レファレンス資料に関する専門性の高い図書館や他施設・機関とのリンクが可能
専門性の高い司書により、自ら収集した当該課題(分野)の有用な情報源(資料、記事、ウェブサイト、外部データベース、外部機関等)や各情報源に関する目次・あらすじ・解題(著作物の解説)等を登録
各司書による、必要に応じた地域情報(例:地域の医療施設情報等)の登録
共通
自由文による質問について、入力内容の意味解析に基づいた検索が可能
参照した過去事例と新規事例とのリンクが可能
参照した過去事例についての利用評価をコメント可能

   上記2つのシステムは、本研究会の主要目的である地域の情報拠点としての課題解決型公共図書館作りにおいて、情報検索機能と資料検索機能の充実を図るインフラ基盤であり、欠かせない機能と言える。すなわち、公共図書館を“ハブ”とした地域における「情報連携システム」の基本構成要素であり、他施設・他機関と連携関係を明示した利用者から見たシステムの利用イメージは以下のようになる。
  図7 他施設・他機関と連携した情報連携システムの利用イメージの図
 
3 将来にわたり公共図書館及び他施設・他機関の共有・活用に資するための、地域資料(郷土資料)の電子化と、地域のウェブ情報を含む電子資料のアーカイブ化

   公共図書館の情報拠点としての地域性が豊かになるためには、レファレンス・サービスにおける参照資料として、或いは検索対象の資料の一つとして、地域に密着した資料・情報が組み込まれておくことが必要である。本システムの目的は、電子化し体系的に整理されていない地域資料やウェブサイト情報をデジタルアーカイブ化することによって、利用者の資料・情報検索機能や課題解決可能性を向上させることにある。また、地域情報や地域文化財の保存・維持につながるため、他地域居住者による学習需要への対応や他の地域への地域文化発信が行いやすくなると言える。
 本システムでは、以下のような資料・情報を対象とした電子化・アーカイブ化とその効果を想定している。
他の社会教育施設の資料や所蔵品
公民館、博物館、生涯学習センター(生涯学習推進センター)等が保有する資料や所蔵品そのものは各施設に保管されるが、これらをデジタルアーカイブすることによって、原資料や作品を維持・保存しながら、時間的・空間的制約を受けずに利用することが可能となる。
地域内の行政文書、公文書
行政部署のホームページにおいて、全ての行政文書や公文書は網羅的に掲載されているわけではなく、また、過去から現在までの文書は履歴管理されているわけではない。多種多様な資料を分類整理し関連資料同士を参照させる作業に公共図書館はノウハウを持っており、デジタルアーカイブ化された行政文書や公文書は、地域住民による行政情報の把握や文献調査、行政職員・議会議員の業務上のニーズ等に幅広く対応することが可能となる。
地域コミュニティ誌や広報誌、展覧会カタログ、地域内企業の社史等の地域資料や地域の歴史・民俗を記した古文書・地域資料等
これらの資料は、非流通資料であったり、或いは自費出版による限定された範囲のみに流通されている資料であったりするため、初めからISBNコードやMARC注釈41が付番されているわけではない。当該資料を収集した公共図書館が、目録情報(書誌情報及び二次情報)を登録することによって、初めて利用者や他公共図書館が参照することができる。目録情報が統一様式で登録されることによって、地域間の比較も可能となる。
民話・口承等の無形財産
これらの情報は、年月が経るにつれて変容したり、伝承者不在によって消滅するリスクを含んでいたりするケースが多い。普遍性のあるICTを活用して、音声や画像・映像等の形式にて保管し、目録情報を登録することによって、地域文化情報の維持・保存や学習需要への対応が可能となるだけでなく、地域外に地域文化を発信することが可能となる。
学校教育における学習成果物
総合学習や調べ学習等を通じて児童・生徒等の学習成果内容は、以後の学習者にとっての学習参照資料や教職員の教材作成のための参照資料となり得るため、デジタルアーカイブ化によって地域間で情報共有する価値がある。更に、これらの学習成果内容そのものは、一般図書や定期刊行物と異なり児童・生徒の視点による生きた地域情報となる。
地域内の商店街、団体が発信するホームページ等の地域ウェブ情報、行政機関、公共機関、PTA、観光協会等が発信するメールマガジン(会報)等の地域電子情報
ICTの発展や高速インターネットの普及により、地域情報がホームページやメール等により情報発信されることが多くなっている。これらのウェブ情報・電子情報は散逸・消滅しやすいため、従来の紙資料と同様に公共図書館が収集し、整理する必要がある。
   上記各情報を司書や利用者の利用に資するためには、情報を登録するときに従来の公共図書館資料(図書等)と同様に、メタデータとしての目録情報を付与する必要がある。ここにおけるメタデータとしての目録情報の内容は、資料・情報名、登録日、登録者等の書式的事項と、対応する課題分類やキーワード等の二次情報である。なお、このような情報登録にあたっては、公共図書館の職員以外の地域住民自身や他施設の職員自身が情報を登録することを促進するとともに、必要な作業量の負荷軽減に配慮する必要がある。また、電子化・アーカイブ化及びメタデータ付与作業については、当該資料・情報に最も精通する作成者(機関)、保有者(機関)自身が行うことが望ましい。もちろん公共図書館も、外部機関・施設に属する作業を補完的に行ってよいが、主眼はその方法の指導や基盤構築に置くことになる。

4 利用者の公共図書館利用環境の向上や、ウェブ上からの公共図書館サービスの利用等へのアクセスを容易にするため、公共図書館における情報基盤の整備

   公共図書館の基本理念は、利用者あるいは来館者に制限を設けず、地域の誰もが利用・来館することが可能な施設と位置づけられる。
 一方で、公共図書館が地域の情報ハブとして外部機関・外部施設との情報連携を深めていくために、これまでに述べた各システムにあるようにICT利用の多様化や拡大が想定される。こうした場合、ICTの利用を得意としていない利用者にとっては、情報格差に陥る危険性がある。
 そこで、利用者の誰もが、新たな公共図書館を分け隔てなく利用できる環境を設計することが必要となる。まず、紙媒体や電子媒体の区別によらず、各利用者が十分活用できるハイブリッド型の公共図書館に資する情報システムの構築が必要となる。例えば、利用者から見た公共図書館サービスの利用環境を利用者の個人的選択による編集機能(例:My Library機能)を具備したり、利用者ニーズの多様性に対応した公共図書館の各サービス・コンポーネントを組み合わせたりすることが考えられる注釈42
 次に、障害の有無、年齢、性別、文化、国籍等に関わらず、全ての人が公平に利用できるユニバーサルデザイン注釈43に基づいた情報システムの構築が必要となる。
 なお、公共図書館では、現在でも高齢者、障害者、来館困難者向けの公共図書館サービスとして、宅配サービス、対面朗読サービス等のサービスメニュー以外にも、利用者自身が取り扱う形で拡大写本、点字図書、録音図書、デイジー図書注釈44等の資料や、拡大読書機、音声読書機等の機器があるが、これらの資料や機器は、利用者属性を特定化した上で、資料・情報の獲得機会を設けている。それに対して、本システムでは、全ての利用者が同じ情報端末を通じて同じ情報を獲得できるように、以下のような機能が具備されていることが望ましいと言える注釈45
利用者のインターフェースに関する機能
利用者が、資料検索や情報検索のために館内端末を利用するときに、利用者属性(高齢者、障害者、子ども等)別の個別インターフェースを形成することなく、自動的に最適な画面を提供する。あるいは、外部から公共図書館のホームページ等に接続する時、接続形態(パソコン、携帯電話等)を自動的に認知し、最適なホームページを表示する。
画面構成やページ構成に関する機能
利用者属性(高齢者・障害者・子ども等)に応じて、逐次、ページ内容の文字サイズ・配色等を自動的に変換したり、利用者の専門用語・外来語等に対するリテラシー(識字力や内容理解力)に応じて、逐次、ページ内情報を平易に表現したりする。
利用者属性に応じて、利用者の情報端末操作を簡易化するためにナビゲーション機能が付加される。例えば、高齢者やパソコン操作初心者のために、資料・情報検索を行うためのキーワード入力や検索結果に対する資料・情報選択等の場面(画面)において、情報端末操作を誘導する音声が発信されたり、画面上にメッセージが提示されたりする。
また、利用者ニーズや接続方法に応じて、表示されるページ内容の情報量が自動的に変動する。例えば、携帯電話からの公共図書館のホームページに接続したときには、ページ内情報が要約の形で表現されることが望ましい。

注釈41   Machine Readable Cataloging:マーク、機械可読目録。書誌情報を始めとした目録に記載される情報を、一定のフォーマットに基づき、コンピューター処理可能なように記録したものであり、書籍流通に欠かせない。国際的な標準書誌データとの情報交換が可能なJAPAN/MARCや出版情報としてのMARC等がある。
注釈42  ハイブリッド図書館におけるサービス・コンポーネント組合せの要件として、各システムの相互運用性の確保、各種の基盤的なインターフェースの実現、及び利用者が参照するレベルでのメタデータの必要性、等がある。

(出典:ハイブリッド図書館のビジネス・アーキテクチャ/永田 治樹)
注釈43   Universal Design:「万人向け設計」。1990年代、米国ノースカロライナ州立大学の故ロン・メイス氏によって、提唱された概念。大きく、誰もが使える(アクセシビリティの確保)と誰もが使いやすい(ユーザビリティの維持)の2つの概念があるとされる。なお、類似表現として「バリアフリー」がある。両者の違いは、「バリアフリー」は、障害を取り除き誰にとっても使いやすい状態にしてくことを表す考え方であり、「ユニバーサルデザイン」は、初めから誰にとっても使いやすい設計にする事を強調する考え方。(出典:第3回「外来語」言い換え提案/国立国語研究所「外来語」委員会)
注釈44  DAISY(Digital Accessible Information System)、デジタル録音図書館のこと。世界の点字図書館によって合意されたフォーマットにしたがって、図書館資料がCD-ROMに収録されている。
注釈45  なお、従来、障害者向けに個別に許容されていたサービス(例:複写サービス)については、制度的検討の必要が想定されるが、本報告では現状どおり維持されることを前提としている。

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