第2章 4先進事例の整理・分析

4. 先進事例の整理・分析
(1)  先進事例からの所見
 海外の公共図書館では、公共図書館の枠に収まらずに、大学図書館や行政担当部署と連携した形で、情報提供サービスに取り組んでいる事例が多い。これにより、より地域固有の課題との密接度が増し、地域社会における公共図書館の価値が高まっている。
 一方、国内の公共図書館では、公共図書館の保有する資料群を情報資産として活用した事例が多い。また、先進事例の中でも限られた事例では、海外先進事例と同様に類似し、公共図書館が大学図書館や行政担当部署と協調して情報提供サービスを行う事例も見られる。

(2)  公共図書館が提供する主なメニュー
 国内や海外の先進事例や文献資料を参考にすると、公共図書館の特長を活用した利用者に
提供可能な主なメニューとして、以下が想定される。

学習支援:学習者の学習活動に対する資料・情報提供
子育て支援(親に対する子育て講習会等を含む)
学校教育支援(教職員に対する教材提供支援含む)
学校図書館支援
高等教育支援
リカレント教育注釈16支援
就業支援
 
市民生活と活動の支援:個人や地域社会が抱える情報検索ニーズへの対応
行政情報提供(行政職員や議会議員向けの政策立案支援サービスを含む)
地域情報提供(地域の産業、企業、交通、地理、施設、商店等)
法務情報提供(個人・地域社会に対する法律関連情報の提供)
医療情報提供(個人に対する、医療・介護・健康等に関する情報提供、医療・介護機関の情報案内)
防災情報提供(日常生活における防災情報、災害時の生活支援情報の提供)
防犯情報提供(日常生活における防犯・安全情報の提供)
企業・製品情報提供(企業や製品・商品評価情報、消費者センター・相談窓口等の情報案内)
ビジネス情報提供(起業・創業、調査を目的とするビジネス関連情報の提供)
知的権利情報提供(特許情報、知的財産権・著作権情報等)
 
地域文化発信及びその支援:地域文化情報・歴史情報の収集・蓄積・発信
文化情報提供(地域の文化・歴史等資料の収集と提供)
文化発信(地域文化のデジタルアーカイブ注釈17等による発信、ウェブアーカイブの公開)
地域情報循環(地域住民による情報アーカイブ、情報共有コミュニティツールの提供)
   公共図書館は、社会教育施設として、人々が、いつでも、自由に利用できる環境を実現するという任務を持っている。そのため、一般市民のみならず、高齢者や障害者に対しても資料・情報へのアクセス(「アクセシビリティ注釈18」と呼ばれる)を確保することが強く求められている。従って、このような情報機会提供にあたる各項目は、上に述べた「学習支援」「主題別情報提供」及び「地域文化発信」を実現するための手法・手段と位置づけられると言える。
 
情報機会提供
来館困難者支援(図書配送、団体貸出、電話・FAX対応サービス 等)
高齢者支援(高齢者向け資料の作成・収集・提供 等)
障害者支援(障害者向け資料の作成・収集・提供、ネットワーク配信 等)
多文化支援(外国語資料の収集と提供、外国籍利用者向けサービス 等)
情報活用支援(IT講習会の開催、情報探索チュートリアルの提供 等)
環境支援(館内パソコン貸出、インターネット接続環境の提供 等)

注釈16  職業人を中心とした社会人に対して学校教育の修了後、いったん社会に出た後に行われる教育(出典:今後の生涯学習の振興方策について/中央教育審議会生涯学習分科会 平成16年3月29日)
注釈17  デジタルアーカイブ:デジタル技術やネットワーク技術を駆使し、貴重書や文化財等の過去の知的資産や映画・アニメや動画・音声等の現在の知的資産、あるいはウェブ情報、地域の経済社会の枠組となっている行政文書等を電子化された形で保管・蓄積する事。
注釈18   Accessibility:高齢者や障害者を含むすべての人が、情報を容易に操作可能・利用可能であること(出典:PCオープンアーキテクチャー推進協議会、IT用語辞典 e-Words/株式会社インセプトのホームページより作成)

(3)  公共図書館の今後の方向性
 今後、公共図書館の利用需要の多くは、地域における日常生活に密着した疑問・問題、すなわち地域固有の課題に即した情報検索となることが想定される。ここで、想定すべき「情報」なり「資料」は、利用者が抱える課題解決に必要とされる情報や資料であり、公共図書館は、登録館の所蔵資料と登録館以外の施設・機関にある資料・情報とを組み合わせて提供する必要がある。具体的な利用形態は、第3章に記載することになるが、いずれにせよ、公共図書館の今後の方向性として「図1 有機的に結合されたネットワークの概念図」にあるような、資産として付加価値付けられる課題別の資料や情報であると言える。その際、公共図書館から利用者に提供する資料・情報は、紙媒体と電子媒体の混在した形となる。従って、それぞれの公共図書館が情報提供機能を効率よく実践する手段として、紙媒体の資料・情報に加えて電子媒体の資料・情報についても体系的に整理し、公共図書館間で共有して利用できるようなネットワークの構築が望ましい。

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-- 登録:平成21年以前 --