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第1章 本研究会の背景と目的

 本章では、本研究会の設立の背景として、公共図書館を取り巻く環境や政策的背景、国内外における公共図書館の位置づけを指摘した上で本研究会の目的を明示する。

1. 本研究会の背景
(1)  本研究会設置にあたって
 政府の目指す21世紀型経済社会制度の確立に向けて、公共図書館はどのような貢献ができるであろうか。これまでも公共図書館は地域の「知」の拠点であった。しかし、それは、静かな拠点であった。現在全国で進められている情報基盤の整備を受けて、図書館は、地域においてよりダイナミックな役割を果たすことが可能となると考える。
 これまで静的な「知」の拠点であった公共図書館は、情報を体系化・整理し、わかりやすく、使いやすく、利用者の用に供するという重要な使命を果たしてきた。この本来的な使命を核としつつも、ICT技術を活用し地域の情報資産を循環させるエンジンとして機能することによって、図書館は、地域の動的な「知」の拠点へと発展し、今後ますます重要な存在となることが期待されている。
 図書館が新たな役割を担うための情報化については、これまで審議会、検討会においていくつかの提言が行われてきた。「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の振興方策―情報化で広がる生涯学習の展望―」(平成12年11月28日 生涯学習審議会答申)では、図書館に求められる役割・機能として、次の二つを挙げている。
1 『「地域の情報拠点」としての機能の飛躍的拡大』、例えば、デジタル化された資料・情報を住民に提供する「地域からの情報発信」。
2 『新たな図書館サービスの展開』、例えば、ホームページからの資料検索、電子化された情報そのものの閲覧、電子メールによるレファレンス・サービス等。
   また、「2005年の図書館像-地域電子図書館の実現に向けて-(報告)」(平成12年12月文部省地域電子図書館構想検討協力者会議)においては、平均的な市立図書館として求められる地域電子図書館の具体像を示しながら、整備すべき図書館の機能についての提言が行われた。
 その後、平成13年に定められた「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年7月18日 文部科学省告示第132号)においては、電子資料の作成、インターネット等の活用、都道府県立図書館と市町村立図書館とのネットワーク形成などの観点から、情報化に関する一定の基準が示された。これを受けて、蔵書目録の電子化(OPAC)や、都道府県における県内の図書館同士を横断的に検索する総合目録の整備が進められているところである。
 これまでのこうした取組の流れを踏まえつつ、これからますますICT技術が進展することを受けて可能となる図書館の具体的なサービスの在り方や、現在図書館に期待されている役割を果たしていくうえで必要となる課題を中心とした検討を行うため、本研究会は立ち上げられた。

(2)  高まる地域の期待の背景
 すでに、昭和56年(1971年)の中教審答申「生涯教育について」において、「変化の激しい社会にあって、人々は、自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切かつ豊かな学習の機会を求めている」ことが指摘された。その後のバブルの崩壊、「失われた」と形容される1990年代を経て、ようやく回復の兆しが見える日本経済ではあるが、長らく続いた景気の低迷状況下、進行した競争社会、雇用慣行の変化、自己責任原則の流れのなかで、専門的知識・技能の習得や、起業のノウハウの取得等により、組織に依存しない自立を目指した個人の学習意欲は、ますます高まっている。また、サービスがより多様化、専門化するなかで、医療、法律、金融等、専門的知識が必要となる場面において、より適切な判断を下し豊かな生活を享受できるように、情報格差を埋めるための個人の意識も高まっている。このため、このような個人の努力を支えるための環境整備への要望はたいへん強く、その整備が重要な課題となっている。
 また、行財政改革において小さな政府が目指されるとともに、核家族化等から家庭の機能の外部化注釈6が余儀なく進むなかで、特に教育や福祉といった市場原則に則ったサービス提供方法が必ずしもなじまない分野においては、課題解決における地域社会の役割への期待が高まっている。子育て、不登校、介護、環境保護、商店街の活性化、地元特産物のブランド化等、様々な地域の課題に対して、問題意識を持つ地域住民や地域に在住・在勤のその道の専門家が集い、それを契機として、地域の課題に取り組むNPO等の団体が結成されたり、その活動を支援するような環境が整えられたりすることによって、地域の課題を自ら解決できるような「地域の自立」が望まれている。
 更に、以上のような環境整備により養われる公共の意識が高く自立した市民や、地域の課題解決に取り組む団体が、地域の政策決定過程に関わり、その地域の街づくりに参画することとなれば、地方分権による地方の自主性の高まりと相まって、民主主義の揺りかごといわれた地方自治の成熟が、一層、促されると考えられる。また、地域の方言、慣習、祭祀等の地方文化のアーカイブ化を進め、それを住民の利用に供することは、地域の連帯感の醸成に役立つものであり、都市化等により失われつつある共同体としての地域社会の機能を再生させる力となると考えられる。
 平成16年5月に行われた文部科学省と社団法人日本図書館協会の共催によるシンポジウム「ディスカバー図書館2004」の基調講演において、鳥取県の片山知事は、公共図書館の司書の機能を充実するため、県立図書館の司書の募集を全国に向けて行ったことについてコメントし、「現在、司書の就職口は非常に狭き門であるが、その結果、鳥取県としては非常によい人材を採用することができた」と誇らしげに語られていた。また、福井県では、図書館の県民一人当たり貸出数を全国一にしようという知事の働きかけにより、図書館の開館日の増加や、市街地中心部から図書館へのシャトルバスサービスの開始が実施され、目標の達成にあと一息のところにまでやってきたという。このような文化教育政策を重視した個性的な街づくりに励む自治体の取組が、首長のイニシアティブにより行われている。
 一方、同じシンポジウムで紹介された沖縄県石垣島の立派な公共図書館の紹介映像を見て、パネリストとして参加していた俳優の児玉清氏は、「こんな素敵な図書館があるならリタイアした後この街に住んでみたい」という感想を述べていた。
 こうした地方自治体の個性ある取組が街の魅力を高めていくことにつながる。いくつもの大学等が存在し、昔から文教都市として名高い東京都武蔵野市には、多くの大学教授や、文化人等が住む。ここでは、これまで実業界などで活躍してきた経験を持つ地域住民が、NPO等の活動を通じて条例作り等に積極的に関与し、地域づくりに参画しているという。
 このように、街の姿勢が人々を招き入れ、持続的な魅力あるまちづくりの過程を実現するために、公共図書館は一役買っている。

注釈6  社会構成の基礎単位である「家庭」は、本来、生活上の必要機能である、労働、教育、育児、老人介護、扶養を有していたが、経済の発展に伴って社会環境や家族形態が変化し、これらの諸機能が家庭の外部に移行していくことを示している。具体的には、学校に移った「教育」や雇用労働者化の進展を始めに、出産は病院、育児は保育所、家庭学習は塾、老人介護は老人ホーム、外食・調理済み食品の普及等があげられる。(出典:第9次国民生活審議会 総合政策部会報告)

(3)  電子自治体の推進
 本研究会のもう一つの背景としては、現在整備が進められている地域公共ネットワークをより有効に活用し、電子自治体のメニューを充実させたいという地方公共団体の意向もある。地域住民の側でも、国に申請行為を行うのは希であるが、より身近な行政サービスである市町村等の、地方自治体のサービスの電子化には、より大きな期待を寄せている。
 当面は、情報提供や公共施設の予約等、本人確認や決済等の必要がない簡単なサービスの電子化から始められた電子自治体も、先進的な地域においては、より複雑な情報通信基盤が必要となる行政サービスの電子化への取組が行われており、その一環として、教育、医療等の分野における公共アプリケーションの開発注釈7についても関心が高まっている。更に、電子投票や電子的に広く市民の意見を求める試み等も始まっており、政策決定過程における電子化も目指されているところである。そのような電子的基盤が、新たな公共図書館サービスの創造の可能性を技術的に裏付けている。
 更に、これまで図書館等の公共サービスについては、これまで各自治体において独立して自己完結的にサービス提供が行われてきたところであるが、地域公共ネットワークを活用することによって、各自治体が特色あるサービスを行いつつ、ネットワークとして機能しながら、それぞれのサービスが補完しあい、総合的なより質の高いサービスを提供できる可能性が広がっている。実際、財政的な制約や、市町村合併が進むことを受けて、こうした視点から公共サービスの在り方を見直す機運は高まっている。

注釈7   e-Japan重点計画-2004では、電子政府・電子自治体推進のための具体的施策として、「防災・有事・テロ等の危機管理、教育、医療等の公共アプリケーションについて、2005年度以降、全国展開すべき標準的なアプリケーションを順次構築するとともに、公共ネットワーク上において国及び地方公共団体で共同運用し、利活用を図る」とある。

(4)  公共図書館の要素
 公共図書館は、このような地域の期待に対してどのように応えられるのか。その前に、図書館の要素は何かということを考えると、図書館のサービスは、1図書館という建物、2コンテンツである蔵書、資料、データベース、3利用者が必要なコンテンツに到達するためのサービスであるレファレンス・サービス注釈8、及び4レファレンス・サービスを通じた情報検索の案内役である司書、というこれらの四つの要素を持ち、これらの要素が相まって提供されるものである。
 これまで図書館のイメージとして支配的なものは、本を借りたり、新聞・雑誌記事を探したりするところであり、また、勉強場所として自学自習をするところというものであった。これは、これまでの図書館の利用が図書館の要素のうち、12の活用に偏ってきたことを反映するものであろう。それでは、ここに記したような従来の図書館の要素を基本としつつ、それを発展させながら、公共図書館はいかなる機能を果たしていけば、地域の期待にこたえることができるのであろうか。

注釈8   Reference Service:資料、情報を求める図書館利用者に対して、図書館員がその調べ方を案内したり、資料、情報を提供したりするサービスのこと。

(5)  海外における公共図書館の位置づけ
 本を借りるところ、自学自習をするところというイメージが強い我が国の公共図書館に対して、海外における図書館の位置づけはどうであろうか。我が国であれば、本を読みたいときには、書店に行くという人が大勢であろうが、海外では、まず、図書館に行くという傾向のある国もある注釈9。これは、なにも、発展途上国に限ったことではなく、米国においても、本を読みたいときは、まず、図書館に行き、少し読んでみて気に入ったので手元に置いておきたいと思うような本を書店に買いに行くという人が多いという。
 更に、図書館の機能は本を貸すことにとどまらない、ジャーナリストである菅谷 明子氏は、その著「未来をつくる図書館」において、「知のインフラ」としての図書館事例としてニューヨーク公共図書館の様々なサービスを紹介している。例えば、米国の公共図書館は、引越をしたらまず訪れてその地域のことを把握するための場所として市民に定着しているという。それにとどまらず、一般市民の夢をかなえたり、起業したりするための「孵化器(Incubator)」としての役割や、様々な文化活動や歴史的・文化的に重要と考えられる人へのインタビューのアーカイブ化という時代の証人としての役割や、非常時・緊急時において市民が使える実用的な地域情報の迅速な提供者としての役割等を、担っていることを指摘している。こうした役割を、我が国で紹介すると、「本当に図書館でこんなことまでするのですか?」という反応が決まって返ってくるということであるが、市民に広く利用され公共図書館の可能性を生かしきっている事例として、ニューヨーク公共図書館の活躍は、我が国における公共図書館の在り方にも大変参考になるものである。

注釈9  例えば、G7各国の図書館利用を比較すると、人口当たり貸出点数において、日本は4.23とあり、英国(9.77)、カナダ(6.58)、米国(6.13)、及びイタリア共和国(4.50)に続いて5番目である。(出所:日本図書館協会データ(未来をつくる図書館 220ページ/菅谷 明子 より))

2. 本研究会の目的
(1)  課題解決型の公共図書館へ
 公共図書館の役割は、各種資料、情報を集め、組織化し(体系的に整理してカタログ(目録)として示すとともに、書架に配置したり取り扱える状態にしたりする)、それらに収録されている情報そのものを利用者自身が利用できるようにするとともに、司書を仲立ちとして利用者に提供することである。利用者が必要とする情報にたどりつけるよう適切にナビゲートすると同時に、情報そのものを迅速に提供する必要がある。集めた情報をどう活用し役立てるかはその利用者次第である。
 このような公共図書館の機能を前提としても、公共図書館の情報収集及び情報の組織化の機能を、時代の要請、社会の動きに合わせて見直すことや、ICTを活用することにより、我が国においても、図書館をより地域の期待にこたえるような存在とすることができると思われる。
 そこで、まず、公共図書館における情報収集の在り方については、特に、人々の情報源であり、情報収集手段として存在感を増すインターネットをどう位置づけるかということが課題となる。また、地域の人的資源や、地域のNPOの団体等、地域に活動する様々な主体や、地域の祭祀、方言、風俗等、無形の文化等、モノに限らない様々なカタチの情報資産を取り込むことによって、いかに公共図書館のコンテンツを豊かで利用者の役に立つものにするという課題がある。
 次に、公共図書館に集まった情報をどのように利用者に提示し、提供するかという情報の組織化についての課題がある。従来の蔵書を中心とする公共図書館の情報の組織化は、日本十進分類法(NDC)に代表されるような、主題が学術分野ごとに分散される分類方法が一般的であるのに対し、日常生活で直面する課題や地域の課題に即した分類法により、実用的な情報を提供することによって、公共図書館のサービスをより地域の期待に応えるものとするという課題である。
 なお、すでに個別の公共図書館においては、特定のテーマについてこのような工夫を凝らした事例が最近出てきている。例えば、それは、起業のためのビジネス支援情報の提供であり、納得して治療を受けるための医療情報の図書館による提供である。本研究会では、このような先進事例も参考としつつ、図書館のレファレンス・サービスを支援するためのシステムを構築するとともに、公共図書館を“ハブ”としたネットワーク化を図ることにより、課題解決型のサービスを広く共有化する方法について議論を重ね、具体的なモデルを示すことによって、地方公共団体による魅力のある図書館づくりを支援することについて検討することを目的とした。

(2)  地域の情報拠点としての公共図書館
 課題解決型の公共図書館づくりを進めることによって、地域住民が公共図書館へ本を借りに行くばかりでなく、何か困ったときに取り敢えず公共図書館に行ってみようというように、公共図書館が地域の課題解決における総合窓口としての役割を果たすことが期待される。公共図書館に地域の情報資産が集まり、それを利用して個人が力を伸ばし、地域課題の解決に向けての活動の契機となる。そうした活動や成果が新たな情報資産として公共図書館に蓄積される。それを知った他の人や団体が興味を持って、その活動に参加し、協力する。このような好循環によって、個人の相互扶助や地域課題の解決のための大きな力が形成されることになる。このように、地域において情報資産を循環させるエンジンとしての役割を果たし持続的な地域の発展に貢献する「地域の情報拠点となる課題解決型の公共図書館」、これが、本研究会の目指す地域の期待に応える図書館の姿であり、そのために、ICTを活用していかに効率的、効果的にそれを実現するかということが、本研究会の主要テーマである。本研究会では、それぞれの公共図書館が独自の分野で専門性を高め、課題解決型のサービスを提供するとともに、広域的に蔵書等のコンテンツやレファレンス・サービスの蓄積を、共有することによって、幅広くかつ質の高いサービスを公共図書館が提供するための連携についての検討を行った。

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