行政・地域融合型の子育て応援ポータルサイト「くれ子育てねっと」の整備等による情報・窓口一元化の効果(広島県呉市)

行政・地域融合型の子育て応援ポータルサイト「くれ子育てねっと」の整備等による情報・窓口一元化の効果

1  自治体・団体名: 呉市(子ども育成部),呉市すこやか子育て協会(任意団体),くれパステル(任意団体)

2  自治体・団体の概要
 瀬戸内の多島美を市域に持つ「呉市」は,広島市に隣接した県南部に位置し,旧日本海軍と共に発展してきた港町である。5年前に市制百周年を迎え,戦時中は戦艦大和を建造したまち,戦後は造船技術により発展し,海上保安大学校,海上自衛隊基地が置かれるなど,海と船の歴史に支えられたまちとして県内外に知られている。
 平成17年3月,島嶼部を含む周辺8町との合併を完了した市の人口は25万人余りとなった。平成16年の合計特殊出生率は1.32(17年速報値は1.29)で,平成2年の国勢調査時点で,すでに老年人口(65歳以上)が年少人口(0~14歳)を上回っており,平成12年の国勢調査結果では,年少人口の割合が13.1パーセント,老年人口の割合が22.8パーセントと少子高齢化が進んだ地域であることが分かる。

3  地域の特徴
 合併により子育て支援サービス拠点から地理的に分断された地域ができたこと,また,島嶼部では居住地が分散していることなどからも,旧市域で先駆的に進めてきた子育て支援サービスの全域均一化を図るためには十分な計画と準備が必要となる。どのような方法でニーズを捉え,地域住民がサービスを受けるための利便性を高めるかが重要な課題である。
 平成17年4月に,子ども・子育てに関する施策を横断的に,また総合的かつ柔軟に展開するため,福祉保健部から児童福祉関連部門を独立させ,幼稚園,家庭教育関連事業も行う「子ども育成部」を新設。また,旧軍港であったため,保健所政令市として保健所を設置し,食品衛生事務,環境衛生事務から母子保健対策など自治体の地域保健までを担当する大きな組織を備え,子育てや教育部門との相互連携を図っている。
 さらに,児童虐待については,平成17年7月に市内の幅広い関係機関の協力を得て構築した,「呉市要保護児童対策地域協議会(児童虐待防止ネットワーク)」の機能を活用して,迅速な調査とケア,そして対象世帯のフォローアップに努めている。

4  市民協働・関係機関連携による子育て支援
1 「ひとりの子育てからみんなの子育てへ」
 子育て支援拠点施設となる「呉市すこやか子育て支援センター」でつどいの広場事業を運営するのは,本市の外郭団体「呉市すこやか子育て協会」(以下「協会」という。)である。(URL:http://www6.ocn.ne.jp/~kosodate/(※呉市すこやか子育て協会ホームページへリンク)
 平成12年12月に子育て家庭のニーズに合わせた事業を柔軟に展開できるようにと,呉市が協会を設立。ボランティア・利用者とともに様々な子育て支援事業を生み出し,市民協働による居宅系育児支援事業の先駆的取組を続けている。
 「子育て交流広場」では,友達とおしゃべりしたり,プレイルームを飾る季節ごとのディスプレイをスタッフと一緒に創作したり,翌日の行事で使う手作りおもちゃをつくったり,みんなの前で楽器の演奏を披露するための練習をしたり,ブラックライトシアターのシナリオを確認するなど,ある時は利用者がスタッフとなり,ボランティアの方々のパワーも加わって,みんなが楽しめる時間と空間を創り上げている。
 子どもとだけ向き合っていた“ひとりの子育て”から他人の子育てを考えられる存在になろう,そして“みんなの子育て”のために何かできないだろうかという活動につなげていく。それが,5年間,試行錯誤の末にたどり着いた,くれ流「地域で支える子育て支援」のスタイル。子育て支援センターを中心に取り組む様々な事業は,全てそうした流れを地域に創り出すための活動といってよいものである。協働で取り組む,または市民が主役となる子育て支援活動へつなげるための方策に加え,子ども・子育てに関する相談窓口を一元化することで,地域から子育て支援拠点へ,利用者にも,対応するスタッフにもスムーズな流れを創り出している。

2 連携した取組の具体的内容・方法・実施状況
 平成13年7月に本市で初めての子育て支援総合拠点「呉市すこやか子育て支援センター」を開設するにあたり,親子が集い,同じ子育て中の親同士が交流する広場に,様々な子育て支援機能を集約した。子ども・子育てに関する国庫補助事業が次々に打ち出される中,事業単位で展開方法が違った場合,そのためのネットワーキングが欠かせない状況が予想された中で,本市では,従来からあった相談機能を拠点施設に移し,新たな機能を同じ施設内に集約させることで,サポートを必要としている子育て中の親の立場に立った支援体制を構築することができた。このようなケースは全国的にみてもまだ少ない。
 具体的には,つどいの広場に併設して,ファミリー・サポート・センター(直営)を設置したり,児童に関する相談を担当する相談員,女性に関する相談を担当する相談員,子育てヘルパー派遣事業における訪問調査を行う相談員,子育て支援に関する関係機関の総合調整やひろば事業の企画などを行う,子育て支援総合コーディネーター(相談員は全て市非常勤職員)など関連する相談員のほとんどを拠点施設内に配置している。

3 子育てポータルサイト「くれ子育てねっと」
 平成16年度子育て支援総合推進モデル市町村事業補助金により構築した官民融合の子育て応援総合ポータルサイト。全国の49モデル市町村のうち,唯一,ポータルサイトにより常に最新の取組事例の紹介をしている。
(URL:http://www.kure-kosodate.com(※くれ子育てねっとホームページへリンク)
 サイトは子育てママが企画,取材,作成を担当するページや井戸端会議場(掲示板),イベントカレンダーなどを織り交ぜ,毎日チェックしたくなるような工夫を凝らしている。
 また,くれ子育てねっとの特徴でもある官民融合情報発信の「民」情報を受け持つ,「くれパステル」は0歳~2歳の子どもを持つ子育て中の女性グループ。
 平成16年11月から市の呼びかけで「子育て応援サイト作成ワークショップ」に集まった20名のメンバーが,企画,取材,記事作成,Webページ作成,校正などを分担しており,突撃取材で悪戦苦闘しながら,子育て家庭直結の生きた情報を発信している。
 また,ワークショップや編集会議の間,子どもを預かるボランティアの方々の支えもあり,安定した運営が可能になっている。このボランティアの託児環境を提供しているのが,つどいの広場を運営している協会である。
 ワークショップ期間中はページ作りの技術ではなく,コンテンツ選びや情報の見せ方,自分たちを取り巻く子育て環境や専門家の子育てに関する取組等について学び,ワークショップの成果として,市民や関係団体,厚生労働省少子化対策企画室長の前で実施した市民プレゼンテーションを開催した。その経験が,彼女たちの社会参加への意欲を駆りたてたのではないかと考えている。
 くれ子育てねっとページ閲覧数全体の実に60パーセント近いシェアをもつ「くれパステル」(URL:http://pastel.kure-kosodate.com(※くれパステルホームページへリンク)は,子育てママ自身の思いや感じたことを素直に綴ることで,多くの子育てをしている女性の共感を呼び,訪問者は順調に増加。新聞・テレビ・雑誌など多くのメディアから注目を集めている。

4 協働・連携の効果
 つどいの広場が全国的な広がりをみせ,運営方法やスタッフの意識が成熟してきた中で,全国各地の広場を運営するスタッフの間から聞かれる課題のうち最も大きなものの一つに,専門機関へのスムーズな引き継ぎが挙げられる。
 広場で過ごす様子を見て気になる親や子どもがいた場合に,専門的な相談窓口を案内したとしても,改めて相談所(室)や保健センターなどを訪ねて行くことは,親子にとって広場に参加する以上に勇気が必要で,敷居が高く感じられる。
 スタッフ同士は連携できていても,対象者に必要な窓口への引き継ぎが必ずしもうまく行っているとはいえないのが,単独施設の悩みである。
 親子の交流広場をメインにした拠点施設内に,管轄するほとんどの相談機能を併設したことで,そういった利用者まかせになりがちな不安定要素を無くし,確実にフォローアップできるのが,本市の子育て支援拠点運営方法の最大のメリットだといえる。
 また,他機能との併設のメリットは,地域ぐるみで子育てを支えようという市民の動きを幾重にもフォローすることが可能な点である。
 本市の場合,ファミリー・サポート・センター事業を同じ施設内で展開していることで,広場に関わるボランティアとファミリー・サポート事業に登録している会員が同じ市民である場合が多く,複合的に活動することができ,双方の事業を支えるマンパワーを短期間に確保できている。
 また,子どもの預かりに抵抗感のあるファミリー・サポート会員にとって,広場での交流や託児の経験は,自宅一人で預かることに抵抗が無くなるまでのステップワークになり,スムーズな援助活動への移行を可能にしている。
 そういった点で委託事業と直営事業の併設は大きな効果を上げている。
 一方,情報発信事業においても,広場運営と同様に一貫した考え方が貫かれている。
 行政情報としての子育て関連情報は,制度や利用できるサービスの案内が多く,必要となる時期にのみ利用されるケースが多い。日々ページ更新をチェックしない場合,ホームページの利用者を通じて,スピーディーな広報をしたい場合には,必ずしも効果的な媒体であるとはいえなくなる。
 しかし,普段の子育て生活に役立つ地域情報を当事者の視点で発信する「くれパステル」や地域の身近な子育て情報を交換できる「わいわい掲示板」を設置し,日常的に利用する人口を増やし,(1日平均約500人,月訪問者数は約15,000人余 平成19年1月実績)同じTOPページに並べ,行政サービス等の申請や手続の周知をすることで,行政情報全体の広報力を高めることができた。

5  今後の方向性や展望
 地域の子育て環境の章でも述べたように,新たに合併した地域でのニーズ把握と地域住民がサービスを受けるための利便性を高めるための手法が当面の課題である。
 平成19年4月には,利用者となる子育て中の親たちが半年にわたるワークショップを経て,市に運営プランを提案,利用者とスタッフの協働運営で進める新しい子育て支援総合拠点施設を市内東部地区にオープンさせる。
 今後はこの2つの拠点施設を発信源にして,各地域で活躍する地域子育て支援センター,育児サークル,子育て支援グループ,また,それらを支える保育所,保健センター,主任児童委員,母子保健推進員等と,さらに密なサポート関係を構築していく必要がある。
 もうひとつは,先駆的な取り組みを続ける拠点施設にならって,子育て中の親が単なるサービスの受け手に埋没しないよう,子育て当事者自身をエンパワーメントしながら活動が継続的に行われるよう,単なる情報提供でなく,様々な事業を通じて連携を図っていく必要がある。
 子育て中の女性のニーズは,子育てについて話しができる友達づくりから,子育てと両立した社会参加まで幅広い。これらのニーズを,税金を投入する公的支援が必要なもの,公的サポートをベースに地域住民同士による安心した支え合いの関係が適当なもの,コミュニティビジネスも含めた民間サービスとして成立するものなど,役割分担を明確にしておくことも必要である。
 これまで本市が取り組んできた市民や様々な主体との協働(パートナーシップ)関係を活用し,公的支援から民間サービスまで,効果的で幅広いサポートシステムを構築していくという方向性を維持することが今後最も重要である。

6  担当者連絡先
 呉市子ども育成部子育て支援課家庭支援係 是貞 聡志(これさだ さとし)
 〒737-0041 呉市和庄1丁目2番13号すこやかセンターくれ4階
 電話: 0823(25)3254   ファックス: 0823(24)6720
kodosien@city.kure.hiroshima.jp

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