おや・ねっこ事業を通じた子育て支援団体との連携(神戸市)

おや・ねっこ事業を通じた子育て支援団体との連携

1  自治体・団体名: 神戸市,長田公民館

2  自治体・団体の概要
 海,山,まち,田園‥神戸の街にはさまざまな顔がある。六甲山の緑と船が行き交う港。エキゾチックな異人館街や旧居留地。そして1,000万ドルの夜景。
 多様な都市環境を有するこの街は,歴史的には国際港湾都市として発展してきた。温暖な瀬戸内海に面する神戸の街は,古くは奈良時代に「大和田泊」と呼ばれた港が中国など諸外国との貿易拠点として栄えた。江戸時代に入り鎖国によって外国貿易は途絶えたが,1868年(慶応3年)の兵庫開港により再び活気を取り戻した。
 戦後の高度成長期には造船,鉄鋼,機械などの基幹産業が集積する都市として発展したが,現在ではファッション,ケミカルシューズ,洋菓子などでも有名である。
 昨年2月には空港が開港し人・物・情報が行き交う観光交流都市を目指している。
 1995年(平成7年)に発生した阪神淡路大震災は,わが国で初めての都市直下型大地震であり,本市だけでも約4,600名の尊い人命が失われるなど未曾有の被害をもたらした。
 特に長田区では大規模な火災が相次ぎ,既成市街地の中でも被害は甚大であった。震災により神戸市の人口は約10万人減少したが,さまざまな震災復興事業に取り組むことによって次第に回復し,平成18年12月現在の人口は約153万人,世帯数は約65万,面積は約552平方キロメートルである。
長田区位置図

3  地域の特徴
 長田区は市の中央部よりやや西に位置し,北の高取山,南の長田港に挟まれた南北に細長い形をした区域で,平成18年12月現在,人口約103千人,面積約11.5平方キロメートルである。長田区では,戦後にゴム工業やマッチ,金属機械工業などが盛んになったが,とくにケミカルシューズ産業など労働集約型産業が発達しており,神戸でも下町的な雰囲気が残る地域である。
 現在,市内には7つの公民館があるが,長田公民館のある地域は「番町地区」と呼ばれている。この地区は長田区内でも東部に位置し,周囲は高層の市営住宅等が林立する住宅地であるが,都市計画道路の山手幹線に面しており,市営地下鉄西神山手線「長田駅」から徒歩で5分という交通至便のところにある。
 また,公民館には長田児童館が併設しており,近くには長田・長田東・菅原の3保育所がある。さらにこの地区は室内・御蔵・水木の3小学校の校区と,丸山・長田・兵庫の3中学校の校区にもまたがっている。
 したがって,公民館を中心に半径約500メートル以内に児童館や幼稚園,3保育所,3小学校があるため,行政機関や児童支援 施設・団体が非常に集まりやすいという利点がある。
 一方で,長田区内の65歳以上の人が人口に占める割合(高齢化率)は市全体の約20パーセントに比べて,約25パーセントと非常に高く,館の利用者も高齢者が多い。児童数の減少とあわせて,少子高齢化へ対応が急務である。
 公民館は本来,公的な教育施設として社会教育や生涯学習の「場」と「機会」を提供するという役割があるが,全市的に子育て支援に取り組む中で,今日では他の行政機関や学校園,団体との中継(ハブ)機能を果たす事が求められている。


4  連携の取組状況
1  八者懇談会(連携にいたるまでの経緯等)
 八者懇談会とは子育て支援や児童育成などに関わる八事業所が,情報交換と連絡調整を目的に定期的に開催する会議のことである。平成7年1月17日に未曾有の大震災に遭遇し,この長田東地域も多大な被害が生じた。平成7年8月に,この地域で子育てに関係する事業所が集まり,「震災復興や地域の子どもたちのためにできることは何か」というテーマで話し合い,互いの悩みなどを解決する場として始まった。当初は長田公民館,長田文化会館,長田区保健分室,菅原・長田・長田東保育所,長田・長田中部児童館の八者が構成員であったが,その後,幼稚園,区役所,小学校などが不定期に参加するようになった。平成17年度から公民館と文化会館が統合したほか,西野幼稚園,長田区子育て支援室,長田区社会福祉協議会を加え,現在に至っている。各事業所の情報交換と課題を多方面から議論したり,子育てネットカレンダーの編集会議も併せて行っている。また夏・冬の長期休業前には,地域の室内・御蔵・水木小学校の校長を招いて助言をもらうなど,長期的視野に立ち,子育て支援を行っている。
2  おや・ねっこ事業と子育てカレンダー(連携した取組の具体的内容・方法・実施状況)
 長田公民館を含む長田東地域の家庭教育支援事業は「おや・ねっこ事業」と総称しており,広く全市に広報をして事業展開を図っている。
 右の図はおや・ねっこ事業(別名「おや・ねっこ広場」ともいう)の概念図であり,主に「おや・ねっこセミナー」と「おや・ねっこふれあいランド」から成る。
 まずおや・ねっこセミナーは公民館の企画による親の学びの場であり,平成13年度から始まる。これがおや・ねっこ事業の出発点であり,名称も当時の指導主事が「親の根っこ,子育ての根っこを育てる」という考え方から名づけられた。基本的に3週連続の3回講座を1期とし,年に3期行っている。内容は発達に応じた子どもの理解,しつけの仕方など親の関心の高いものをテーマとし,子育て中の母親の不安を少しでも取り除く手立てを企画段階から考えている。また子育てを終えた方々に託児ボランティアをしていただき,託児後は母親と子どもについての情報交換を行い,子育てを通じて異世代交流が行われているのが評判である。
 次におや・ねっこふれあいランドは親子のふれあいの場としてセミナーを補う形で平成14年度から始まった。保育所が企画運営する母子ともに楽しめる内容を年間6回実施しており,今年度は公民館・保育所などで「紙で遊ぼう!」「運動会ごっこ」などのテーマで行った。
 その他,児童館と連携した集いや子育ての悩みを聞く場づくりなども行った。
 こうした「おや・ねっこ事業」の案内や各事業所の情報をとりまとめたものが「子育てネットカレンダー」である。平成16年度から前掲の八者懇談会で各事業所同士の情報交換と編集会議を行い,平成17年4月から現在の形で毎月1日に発行している。長田公民館が事務局となり,A2判のポスターにして,各事業所で常掲するほか,年間4回(4月,7月,9月,3月)は,番町地区ふれあいのまちづくり協議会の協力を得て,A3判の公民館だより(情報誌ながた)とともに地区内全戸(約2,500戸)に配付している。
おや・ねっこ事業の概念図

おや・ねっこセミナー

託児風景

おや・ねっこふれあいランド

長田東地域 子育てネットカレンダー 10月
3  取組に至る過程での課題や工夫した点・対処法
 子育て支援を行ううえでの課題は,いかにして多くの人に情報を提供し,継続的に活動に参加してもらうかである。おや・ねっこ事業に関しては,今年度毎月第2,4木曜日の午前中に集中して行った。その理由は子育て中の親が第2,4木曜日に公民館周辺に来れば,子育てに関する何らかの情報が得られる,行事に参加できるという意識の定着を図るためであった。また子育てネットカレンダーで各事業所の情報を一元化することによって,互いの事業所の広報や募集事務を協力できるようになった。
4  連携した取組の成果
 これまで互いに子どもに携わる事業を展開しながら,教育委員会と保健福祉局それぞれの観点から子どもを見ていたために,中・長期的な視点で子どもの成長を理解できていないところもあった。懇談会を重ねることで,互いの事業を理解しあうことができ,子どもの交流も増えた。同じ地域で交流する子どもは同じ小学校へあがることが多いため,小学校でスムーズに人間関係が築ける一助となっている。懇談会に小学校の校長先生を招くことで,横のつながりだけでなく,縦のつながりもでき,小学生と幼児の交流も進んだ。
 またおや・ねっこ事業や子育てネットカレンダーを作成することで,互いに協力して地域の子育て支援を考えることができるようになった。
5  連携した取組の課題
 今日では,市の子育て支援事業のメニューも増え,NPOなどの民間活動も含めると,いろいろな形で取り組みが行われるようになった。
 しかし支援を必要とする人への広報は必ずしも十分とはいえない。子育てネットカレンダーの各戸配付の回数を増やすなど,より効果的な情報提供が重要である。
 また,支援事業の内容をより魅力的なものにするために関係団体による連携と協力が必要である。

5  今後の方向性や展望
 今日では核家族化や少子高齢化の急速な進展などにより,次第に家庭や地域の養育力が弱まりつつあるように思われる。
 しかし子育てや子どもの健全育成の主体はあくまでも家庭やそれを取り巻く地域であり,保育所や学校,行政はそれを補完し,側面的に支援するものである。
 子育て支援に関わる団体や行政は,たえず成長過程にある子どもたちを中・長期的な視点でとらえ,相互に情報交換や連携をしながら支援を行うことが重要である。
 また高齢者といえどもまだまだ元気なお年寄りも多いので,このような人の生きがいづくりと子育て支援への活用も必要である。
 したがって,今後の公民館は子育て支援という分野において,自ら事業を行うだけでなく,事業所や団体,ボランティアとのコーディネート,情報提供,事業所間の中継機能などの役割を果たすべきと考える。

6  担当者連絡先
 神戸市立長田公民館 館長 吉山 幸男
 〒653-0004 兵庫県神戸市長田区四番町4丁目51
  TEL   078(575)1374

前のページへ 次のページへ


 

-- 登録:平成21年以前 --