コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

平成19年度コミュニティ・スクール推進フォーラム事例発表(熊本県人吉市立第一中学校)

学校名 人吉市立第一中学校
所在地 熊本県人吉市土手町36-3
電話番号 0966-23-2295

1 なぜ「学校運営協議会」制度を導入したのか

 熊本県南部に位置する人吉市は、相良藩700年の歴史をもつ城下町として栄え、自然の美しさとともに特有の文化を育んできた。本校は、県や国の出先が集中する市内中心部に位置し、繊月城趾をはじめ、多くの歴史・文化施設にも恵まれ、絶好の教育環境にある。地域住民の本校教育に寄せる期待は大きく、市も「ふるさと感」の醸成を教育目標の1つとして掲げ、郷土愛・伝統や文化を重んじる態度の育成を目指している。
 生徒は明るく節度があり、全体的に落ち着いている。部活動等への生徒の参加意識も高く、広く活躍し成果をあげている。ただ、不登校傾向にあったり、思いやりに欠ける言動をする生徒など課題も散見され、本校に限ったことではないが、少子化・核家族化等の社会環境の影響により、道徳性、社会性が低下し、特に規範意識の希薄化が見られる。しつけや心の教育が学校任せになり、地域全体で子どもを育てるという考え方自体が危機に瀕しているといえる。学校はつねに潜在的課題を抱えたまま、家庭や地域の期待に応えるべく教育活動を展開しているが、いつオーバーフローしてもおかしくない状態にあり、学校・家庭・地域社会とともに地域の財産である子どもたちを育てるための連携・協力が必要である。しかし、連携・協力について、その「場」あるいは「機会」という視点で見たとき、子ども会活動や地域行事への参加など、中学校入学が、その断点となっている現状があり、地域から見れば、連携・協力の大きな壁であるともいえる。
 そのような中に、文部科学省コミュニティ・スクール調査研究校の指定を受け、これからの学校の在り方を模索することになった。前述の課題を解決していく突破口になればと思い取組をはじめたが、本校には、学校評議員もおらず、まさにゼロからのスタートとなった。

2 自校のコミュニティ・スクールの特色

(1)一中コミュニティ・スクールが目指すもの

 地域とともにどのような生徒を育てていくかについて、学校の課題をもとに検討した。本校教育活動を補完する形で地域の力を活用することで、社会性を身に付け、道徳的判断力・実践力を持ち、将来社会のために自分の力を発揮できる人間の育成を目指すこととなった。

一中コミュニティ・スクールがめざす生徒

【一中コミュニティ・スクールがめざす生徒】

(2)学校運営協議会の設置と組織づくり

 学校と地域社会とが一体となった活力ある校区づくりのために、どのような組織を作り、どのような取組をすればよいか。校内準備委員会やコミュニティ・スクール推進委員会で議論し、学校運営協議会の組織イメージができあがった。地域の声や要望を学校運営に生かすため、5つの「学校支援コミュニティ」を立ち上げ、その「長」を学校運営協議会のメンバーとして迎えることになった。

組織イメージ

【組織イメージ】

(3)「学校支援コミュニティ」の考え方

 「学校支援コミュニティ」はボランティアが前提であるが、活発に、かつ継続的に活動を続けていくためには、右図のような関係を築く必要があると考えた。学校課題の解消は、地域課題の解消でもあるが、それだけではなく地域のニーズに学校も応えていくという姿が重要である。

学校支援コミュニティ成立の前提

【学校支援コミュニティ成立の前提】

3 過去の課題と克服方法

 「知の充実」、「社会性の育成」、「教育環境整備」の3点から、5つの学校支援コミュニティを立ち上げた。本校はコミュニティ・スクールのイメージを右図のように捉えている。校長の教育方針のもと、本校教育活動とコミュニティ活動が展開されることになるが、各コミュニティはそれぞれ独立したものではなく、常に連絡を取り合い情報を共有し、協力しながら活動を進めていく。「人吉市教育委員会」「学校運営協議会」「校長」の三者は、それぞれの立場において、コミュニティ・スクールを円滑に推進していくための責任と権限を有する。

人吉一中 コミュニティ・スクール

【5つの学校支援コミュニティについて】

教科等支援コミュニティ

 地域の人材の専門的な知識を授業に活用し、学習への興味・関心を高め、学力向上を目指す。また、地域住民が授業に参画することで、学校への理解を深め、地域と生徒との関わりを強める。活動として、ゲストティーチャーの招聘や教科の補習などを通して、道徳・食育などを含む教科等指導の支援を行う。

地域文化コミュニティ

 郷土に残る地域文化を継承し、校区の有形・無形の文化について学ぶことにより、地域や人との関わりを大切にし、郷土を愛し郷土に誇りを持つ生徒を育成する。活動として、地域の文化的行事への参加及び地域文化の発掘を行い、伝統文化を継承し発信していく。

体験活動コミュニティ

 地域での体験活動を通して、地域を知るとともに社会の一員としての役割を自覚し、社会的資質を高める。活動としては、学校行事である奉仕体験活動や職場体験活動の支援活動及び地域行事への参加協力を行う。

安全コミュニティ

 校区全体で、生徒が安全に登下校できる安心な校区づくりを進める。活動として、年間を通して、校区全体での安全パトロールやあいさつ運動を行う。

環境美化コミュニティ

 環境整備や清掃活動により、潤いのある教育環境の整備に努め、環境に対する意識や奉仕の精神の高揚と他者に対する思いやりの心を育てる。活動として地域の方と生徒とがともに学校や校区の環境を整備し、潤いのある校区づくりを行う。

4 コミュニティ・スクールによる成果と携わっているものとしての手応え

 生徒を地域と結ぶ試みとして、実動1年目の特徴的な活動を2つ紹介する。

【地域文化コミュニティによるウンスンカルタ大会の実施】

 人吉球磨地方にのみ伝承されているウンスンカルタの歴史について学び、保存活動をされている方々の指導で大会を実施した。地域の文化を知る機会として企画したが、チームごとに役割分担をしながらゲームを進める中で、相手への思いやりや協力的な態度が随所に見られた。

【体験活動コミュニティによる「環境美化行動の日」への参加】

 生徒を地域(市内各町内)に出す取組として、6月の一斉清掃に部活動単位で参加した。生徒たちの参加に対する感謝の声や挨拶・態度のすばらしさについての便りが寄せられ、次の機会を望む声が強まっている。この活動は、地域主催の活動に乗じての参加である。ありのままの生徒の姿を見ていただき、意見をいただくことで、指導に生かすことをねらいとしたが、地域と学校の距離感は確実に縮まった。事実、4月の校区町内会長会の時点では疑義が出たが、活動後はコミュニティ活動への理解が促進し、町内広報で積極的に紹介いただいたり、今後の協力を申し出られる方々が出てきた。また、地域の方々が本校生徒に寄せる期待の大きさ、文字通り「待っている」という思いを痛感した。逆に、今までの教育活動に「地域の中の学校」という意識がいかに欠けていたかの証でもある。

5 今後に向けて

 学校運営協議会の設立により、地域のニーズを知り、学校の課題をともに解決する場ができた。コミュニティ・スクールを推進することは、学校が地域を意識した教育を進めることであり、学校への信頼を高めていくことに他ならない。今後の活動を通し、生徒は地域の一員としての自覚を高め、また地域に見守られているという安心感や社会・大人に対しての信頼感を増していくであろう。その中で、人との関わり方や規範意識などの社会的資質が涵養されていくと考える。一方、学校は地域の力を取り入れることで、授業内容の充実と環境整備や登下校時の安全指導など労力的に不十分なところが補われ、美しく、安心・安全な教育環境を実現できる。教師の意識改革が進み、地域との連携や住民との信頼関係が構築されていく。また地域は、本校教育に関わることで、教育への関心が地域全体で高まり、結果的に学校を地域の核として、地域・家庭の教育力を高めることができると考える。最後に、地域と学校の最終的な接点は「人」と「人」である。このことを基本に据え、永続的にコミュニティ・スクールを展開しくことで、学校と地域との結びつきは、さらに深まり、郷土を愛し、社会に貢献できる道徳的判断力・実践力をもった人材が育成されることを強く期待している。

-- 登録:平成23年11月 --