コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

コミュニティ・スクール推進フォーラムにおける実践発表資料(岡山市立岡輝中学校)

学校名 岡山市立岡輝中学校
所在地 岡山市岡町12番17号
電話番号 086-224-0358

1.実践発表のテーマ

中学校区を地域とした学校運営
-子どもたちが愛されていると実感できる学校づくり・地域づくりを目指して-

2.実践の推進体制

(1)コミュニティ・スクールに至るまでの経緯

1.学校と学区の概要と経緯

 岡山市街地に位置している岡輝中学校は、生徒指導困難校として知られてきた経緯がある。生活保護率の高さや、一人親家庭の多さは、家庭の教育力が十分なものではない理由の一部を数値で表している。長く校内暴力の嵐が吹き荒れた。義務教育の最終段階である中学校での荒れは、進路保障の問題もあり、当然問われる責任は重い。中学校の教職員はその責任を果たすべく必死の努力を続け、保護者や地域住民はそれを理解し終始協力的であったが、荒れの状況は波こそあれ、根本的に解決できることはなかった。

2.地域の力を学校へ

 岡輝中学校の教職員は厳しい現状の中で獅子奮迅の努力をしていたが、ほとんど事件の後処理に追われる毎日だった。2名の中学校長が相次いで倒れ、その後に赴任した校長・教頭が考え出した新たな手立てが「イベント」だった。落ち着かない学校の雰囲気の中でのイベント実施に危惧もあっただろうが、大小さまざまなイベントが続けざまに企画され実現されていった。これによりPTAだけでなく地域の耳目が中学校に集まり始めた。この時期に精力的に校内に出入りし、イベント実施に意欲をもって参画していた地域住民は、年齢的にも比較的若く、まさに実働できるスタッフだった。後の地域学校協議会委員の主要メンバーである。

3.保育園幼稚園小学校中学校の連携(15年間の一貫教育)

 義務教育の出口で目標を見失うことは進路を失うことでもあり、その後の人生に大きな影響を及ぼす。「出口を救うため」の手だては何か。それは長年、当事者である中学校が独力で答を出そうと苦労を重ねてきたことだったが、この「独力でやる」という一面潔いやり方にこそ限界があった。義務教育を一貫したものにするためにはまず小学校・中学校の連携が必要であり、また小学校の立場で言えば就学前教育との連携が欠かせなかった。
 異校種間の連携は容易なことではない。しかし就学前から中学校までが手をつなぎ連携するきっかけになったのが、平成10年から3年間の「岡山東警察署パイロット地区指定」、そして平成11年から3年間の「岡山県いきいきスクール支援事業」だった。これらの指定に前向きに取り組む中で互いの連携は深められた。特に平成13年度からは学区内の公立保育園2園が連携の仲間に入り、岡輝中学校・清輝小学校・岡南小学校・岡南幼稚園・清輝保育園・岡南保育園による「岡輝学区6校園」という概念が生まれた。これは、学区の0歳から15歳までの一貫した子育てや教育を実現させたいという願いをも表している。特に現在、就学前の家庭に支援が必要とされるケースが急増し、大きな課題となっている。学区の小学生・中学生の多くがこの公立保育園の出身であることから、保育園が連携の輪に加わることで初めて学区の一貫教育を論じることができるようになった。岡輝中学校区を地域と考えるコミュニティ・スクール構想の原型がここにある。

4.研究指定の経緯

 前述の指定の後、平成14年度から3年間、文部科学省による「新しいタイプの学校運営のあり方に関する実践研究」の指定を受けた。この指定により「地域学校協議会」が設置され、地域運営学校としての歩みが始まった。その後平成17年度から「コミュニティスクール推進事業」の指定を受け現在に至っている。また、平成17年には、岡山市教育委員会から「岡山市地域協働学校」の第1号として指定された。

(2)地域学校協議会の設置

 岡輝中学校区を地域とした学校運営を推進するための中心組織として、平成14年度に「地域学校協議会」を設置した。地域と学校園を緊密に結びつけるための情報の共有やさまざまな取組の基本的な方針についての協議を行い、また地域や保護者のニーズを代表して校園長に意見具申することがその主な機能である。協議会は意志決定機関であるが、協議会委員の基本的な位置づけは、学校運営に関わるコーディネーターである。
 委員は24名で構成される。内訳は、6校園の校園長6名、PTA代表4名、地域代表7名、学識経験者4名、行政関係者2名、事務局1名である。原則的に月に1回の定例会をもち、定例会の事前に議事の整理を行う役員会を委員のうち7名で行っている。

3.実践の成果と課題

 平成14年度に地域学校協議会が設置されて以来、多くの論議が積み重ねられた結果、協議会が承認し、また協議会が母体となって一定の成果を上げている諸活動を整理すると以下の4点になる。

(1)学校園の教育力を高める取組

・「岡輝中学校区研究推進委員会」の立ち上げ(6校園教職員の連携)
・学力支援サポーター、子育て支援サポーターの委嘱 等

(2)家庭の教育力を高める取組

・「岡輝版子育て法」の作成とその活用
・子育て支援、保護者相互の連携活動 等

(3)地域の教育力を高める取組

・シニアスクールの設置
・地域情報紙の発行
・学校園と地域を結ぶ諸活動を通じての、「地域力」の醸成 等

(4)学校園を支援する取組

・施設設備の充実等をめざす人的支援 等

 これらの諸活動を立ち上げていくことと同時に、「岡輝学区の目指す子ども像」が策定・承認され、6校園それぞれの発達段階で取組を進めていく方向が打ち出された。
 そして、それぞれの活動が現実のものとして動き始め、かつての困難校が現在落ち着いた状態にあることも相まって注目された。個々の取組それ自体が成果かもしれない。しかし、最も大きな成果は、6校園が共通の課題をもった運命共同体であるという意識が生まれたことである。
 6校園の日々の仕事は別々だが、協議会で論議を重ねることにより、深い部分に存在する課題は全く同一であることがはっきりとわかったのである。かつて中学校は最も厳しい現場を任され疲労していたが、まず小学校と、そして就学前までさかのぼって手をつなぎあうことで、岡輝中学校区の子育ての課題が、点ではなく連続した流れとして認識できるようになった。保育も教育も、0歳を源流としてとうとうと流れる。これこそ意識改革である。
 またそしてそれを論議する場(地域学校協議会)に、重要なパートナーとして「地域」と「保護者」が存在する。情報を共有でき、また学校園とは違う立場からの意見や評価が得られる。協力者ではなく守秘義務をもった学校運営への参画者として、地域や保護者の代表と自由な論議ができることの安心感は得がたいものである。
 現在、岡輝中学校では、生徒の問題行動は激減した。しかし不登校の出現率は岡山県平均をはるかに上回る。また、支援を必要とする家庭は明確に増加し、その厳しさはネグレクト等の事案として就学前(保育園)に頻発している。岡輝中学校区の最も厳しい状況は、はっきり子育ての源流の時期へと移動しつつある。このあたりに、コミュニティとして子育てに取り組もうとしている岡輝中学校区の大きくそして重い課題が見える。

4.今後の取組

 平成14年度に文部科学省指定を受けて岡輝中学校区地域学校協議会が発足し、さまざまな取組を続けてきた。シニアスクールのような全国的に注目された事業もあり、学区のイメージアップにも大きな効果があった。しかし、4年を経て、それぞれの取組を質的に充実させていくことと、そしてそれらの取組そのものを安定して維持していける体制や組織のメンテナンスが必要な時期に来ていると感じる。
 もはやルビコン川の渡河は過去のことであり、後には戻れない。研究指定という強力な電源が取り外されても、ちゃんと自走できるための仕掛けを構築しておくのが今の仕事だと思われる。以下にその柱になると思われることを挙げる。

(1)課題の整理と明確化

 前述したように、学区の課題は極めて根が深く、まず特効薬はない。しかしその本質に迫るための取組を検討し、具体的な方策を明確にし、優先順位をつけながら少しずつでも前進していきたい。また、現在の取組もただ維持するだけでなく、例えば地域情報紙にコミュニティファンドの機能を持たせることなどの新たな展開を検討している。

(2)保育園幼稚園小学校中学校連携の再検討

 6校園の一体感は実感できるようになったが、現場の教職員が日々の業務の中で「15年間一貫教育」を意識し、どれだけ具体的な連携活動ができるか。多忙な毎日であるからこそ工夫が必要である。また、保護者同士の連携も取り組むべき課題である。

(3)シニアスクールの今後

 シニアスクールそのものの運営母体はNPO法人化され、合理化されたが、生徒の募集やボランティア講師の確保、運営資金等の大きな課題がある。また、設置している学校とシニアスクールの交流や、NPOへの協力のあり方など、シニアスクール・NPO・学校の相互の望ましい関係や距離感を維持していくことも重要である。

(4)地域学校協議会委員の人選

 平成17年度から協議会の地域部会委員については地域情報紙で公募し、公募に応じた新委員も誕生した。今後恒久的な組織として外部に認知されるためには、委員の人選についての説明責任を明確にするとともに、地域の人的資源を有効活用できる手だてを工夫していきたい。
 最後に少々の私見である。岡輝中学校区の、一連の取組の最初には、「荒れ」という大きな負の要因があり、逆にそれが起爆剤となった。「義務教育の出口を救え!」という思いで、岡輝を愛する多くの人々の、知恵と汗が注ぎ込まれてできた一つの結晶体が地域学校協議会の設置であり、ひいては現在の落ち着いた岡輝中学校の状況だろう。「荒れ」は明らかに改善された。しかし、それが成果なのではない。中学校区を単位として子育てコミュニティをつくることのよさが、地域学校協議会委員の、特に6校園関係者にしっかりと浸透したことが主産物と思える。
 この状態を、岡山県と香川県を結ぶ、瀬戸大橋になぞらえてみる。瀬戸大橋と言っても、巨大な橋が一つあるわけではなく、さまざまな形をした6つの長大橋から成っている。しかし人はそれらを総称して瀬戸大橋と呼ぶ。6つの個々の橋にこだわる人はあまりいない。私はこの様子から「子育て」を連想する。無事に本州から四国までたどりつくからこそ瀬戸大橋である。自分の担当した橋だけ無事に通せばそれで仕事は終わりというわけにはいかない。岡輝中学校区で生まれた0歳児が、順々に橋を渡り、とりあえず義務教育修了という対岸の大地にたどり着くまでは、やはり「子育て」という連続したひとつながりである。分けられるものではない。それは当事者だけでなく、周囲の人々みんなが心から期待し、関心を寄せる大仕事である。
 岡輝中学校区では、6校園という6つの橋は、統一した「子育て」という意味をもつ大きな一本の橋になりつつある。このことが何よりも重要であり、今後協議会の委員として学校運営に参画する人たちにも、そして、人事異動で頻繁に入れ替わる教職員一人一人にも、きちんと継承されていかなければならない。そのための素地をつくること、これが最も大切な今後の取組であるかもしれない。

-- 登録:平成23年11月 --