コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

実践研究実施報告書、研究開発実施報告書 岡山県岡山市立岡輝中学校、清輝小学校、岡南小学校

都道府県名
 岡山県
学校名
 岡山市立岡南小学校
 岡山市立清輝小学校
 岡山市立岡輝中学校

1 実践研究の概要・成果及び課題

実践研究のテーマ
 地域における生徒指導の機能を生かした新しい学校運営の在り方」
 -子どもたちが愛されていると実感できる学校づくり・地域づくりをめざして-

1 研究の推進体制
地域学校協議会を中学校区の学校園運営の意思決定機関と位置づける。

【組織図】

 組織図

【活動図】

 活動図

 2 実践の成果と課題

(1)学校と地域との連携について
1.保護者や地域住民の参加による協議組織の活用について

○協議組織の構成
研究開始当初は,それまで行っていた「いきいきスクール推進委員会」を母体として学校
・保護者・地域代表と行政機関の担当者26名による「岡輝学区地域学校協議会」(以下「協議会」)がスタートした。
 現在は校園長6名,PTA代表3名,地域代表4名,学識経験者4名,行政関係者2名,事務局長1名(中学校教頭)の20名によって構成され,4つの部会を設けている。

◇ 成果
・中学校区で構成しているため,6校園(保育園,幼稚園,小学校,中学校)のことを中心としながら,地域全体,0-15歳の子どもたち全体を視野に入れた議論ができた。

◆ 課題
・協議会が責任と権限を担う中で,地域から承認された地域代表を選出する仕組みが構築されておらず,7年前から始まった「開かれた学校」づくりに実践力を発揮した人が継続して委員に選出されている。
・平成17年度は公募を取り入れ,承認された形での地域代表委員の選出を計画している。

○協議組織の役割
 学校園の管理・運営に関しての承認及び意思決定機関と位置づけている。具体的には以下のような内容について協議した。
・年度当初の学校園の基本方針の承認(地域・保護者のニーズを反映)
・地域と学校園を結ぶ取組の基本的な方針と取組内容
・学校園の活動の評価
◇ 成果
・シニアスクールを始めとして,地域ニーズを反映した様々な取組を企画・検討・実践することができた。
・協議会の活動への評価方法が構築され,その評価を学校運営に反映するシステムを構築した。
・学区の子どもたちや家庭の状況,また,地域の活動等についてリアルタイムで状況を把握することができた。
・活動方針の決定後,担当部会の委員がコーディネーターとして活動することができた。
(シニアスクール,地域情報紙の発行)

◆ 課題
・地域と学校園を結ぶ取組について,地域の活動体との連携や新しく活動を起こす際,協議会が持つ権限があいまいであった。

○開催回数,協議内容
・協議会は毎月1回,18時30分~20時30分の開催を原則としている。
・平成17年2月末現在で計36回開催した(3月末で37回開催予定)。
・協議会開催までに役員会を持ち,議事や連絡事項の整理を行っている。
・協議内容は,各校園の報告や緊急を要するものから始まり,時間を要するものは継続審議とし協議を重ねた。

◇ 成果
・ 常にタイムリーな内容を議論することで,学校と地域の活動に常に新しいエネルギーと活力を投入することができた。

◆ 課題
・委員の意欲に支えられた協議会運営である。
・協議内容を整理し,効率の良い運用が求められる。
・子どもに寄り添った視点からの提案が出にくい状況となったため,会の運営等に改善が必要である。

○協議結果の学校運営・教育活動への反映状況等
 「地域の教育力を高める取組」「学校園の教育力を高める取組」「家庭の教育力を高める取組」「学校園を支援する取組」を展開し,出口となる中学校が落ち着きを継続している。

◇成果
・生徒の評価から,「学校が好き」という割合が高くなった。
・保護者の評価から,「信頼できる学校」への割合が高くなった。
・シニアスクール2教室の本格実施は教育及び福祉行政に実践的な提言をすることができた。
・地域情報誌「ちくたく」の発行により,「地域の子は地域で育てる」ことへの意識付けができた(計4回発行)。
・保幼小中の連携が「岡輝版子育て法」の作成と普及を通してさらに強くなった。
(0歳~15歳までの責任ある保育・教育に対しての教職員の意識改革が進んだ)
・不登校や問題行動に対して,地域関係者を巻き込んで,ケース会議やネットワーク会議を迅速に開催することができた。
・1学校園の課題を6校園及び地域の課題と捉え,支援する対策が提案されるようになった。
・学校園を支援する人的パワーの結集を可能にした。
・本研究の成果が,岡山市が進める「地域協働学校」づくりのモデルになった。

◆課題
・不登校児童生徒への対応及び学力保障の課題解決への様々な努力にもかかわらず,未解決になる場合が多い。
・保・幼・小(低学年)までの子育てや基本的な生活習慣確立に向けて活動を展開をしているが,保護者に対して任意のかかわりを促すだけでは解決できない現状にある。

2.地域人材の活用について
○学力支援サポーター
小学校教員免許保有者を2小学校に非常勤として採用した(平成16年度は岡南小のみ)。
◇成果
・学習の著しく遅れている児童や不登校傾向・別室登校に対して,その児童にあった個別指導を定期的に行い,学習補充に大変役立った。
・現在,対象の児童はもちろん保護者にも好評で,別室登校から教室復帰を果たしたケースもあり,継続を希望している。

◆課題
・学力支援は,著しく学習進度の遅い児童を対象にして授業を行っている。学習障害のある児童生徒や高機能自閉症の児童生徒には,個別の学習方法が必要である。そのためには人員の配置が必要になり経費がいる。しかし,研究指定が終了し,財政的な支援・協力を得られない現状から,今後はボランティアで対応していかなければならない。

○保育サポーター
元幼稚園長を非常勤として採用した。

◇成果
・幼稚園で行われる未就園児体験入園では,親子にかかわり,好評である。
・保育園では,保育支援を行い,子どもたちが来園を心待ちにしている。
・今後も継続を希望している。

○シニアスクール講師
公募により36名の講師を採用した。
◇成果
・70歳前後の講師が多いが,各教科のスペシャリストが揃っている。
・「教えることは希望を語ることである」という講師の話からも,シニアスクール生徒はもちろんのこと,2教室を持つ学校の教職員にも,教え方や生き方を学ぶ機会となっている。

○シニアスクール生徒の活用
 シニアスクールを終了した生徒が岡輝中学校区の学校園において,子どもたちを支援する立場として活動している。中学校では部活動の指導補助,全体では保育園における「だっこボランティア」として活動している。

◇成果
・部活動の指導や応援を通しての人間関係づくりは,子どもたちとシニアの生徒相互にとって学習や生活の意欲向上に役立っている。
・また,保育園からの要望で始まった「だっこボランティア」は,祖父母に抱かれる機会の少ない幼児にとって,心やすまる時を作り歓迎されている。

3.その他
 岡輝中学校区は7年前から始まった「開かれた学校」をめざし,地域・保護者と連携した行事を多く創ってきた。現在も進化しながら継続している。その中,小中学校の「不登校対策」において民生児童委員協議会の活動は大きな成果をあげている。また,保育園においても,子どもの子育てに不安を持っている保護者と人間関係をつくるための活動も展開し,地道ではあるが成果が出始めている。

(2)学校の裁量権の拡大に関する取組について

1.人事
・コミュニティサポーターの採用に当たって公募を検討したが,結局,教育委員会や地域の人的なネットワークを通しての採用になった。
・平成16年度末の6校園の教職員人事については,地域学校協議会として要望書を岡山市教育委員会及び保健福祉局に提出した。

2.予算
・小中学校の事務職連携を通して,予算運用について校内予算の有効な組み方を研修した。
・また,大型・高額備品の相互活用計画作成を通して効率的な運用ができた。

3.教育課程
・基礎学力の定着が本学区の最大の課題である。各学校園では学習習慣確立への取組として個別指導や,コミュニティサポーターによるTT等に取り組んだ。
・以前は小学校といえども落ち着いた授業が成立せず,十分な学力保障ができないまま中学校へ進学しており,その結果が学力不振による不登校や反社会的行動へ結びついていた。小学校では個々の子どもたちに対応するために,例えば学力支援サポーターによる別室での個別指導,全教職員で取り組む九九の指導,授業が空いている先生や中学校の先生の応援により復習を行う「進まない授業」など工夫した取組を行った。中学校でも,習熟度別,選択教科の増加,可能な限りのTT授業,場所を選ばない個別指導等の取組を実施した。その結果,小学校での取組の成果が中学校へ引き継がれていくことを可能にした。
・小中の学習連携については公開授業日を設け,教科ごとの研究協議も進み,授業研究が動き始めた。
・小中兼務教員の活用については,中から小への活用はあったものの十分とはいえない。
・保,幼と小との連携においても,交流学習や体験入学等を積極的に行い,スムーズな接続に努めた。
・全体をみると,保幼小中の学習連携は教職員研修を通して,0歳~15歳までのそれぞれの年齢に応じて身に付けるべき生活及び学習内容が明らかになりつつある。
・小中学校間の連携により,基礎学力の定着と学習状況に応じた学習の手立てについて,検討が始まりつつある。
・軽度発達障害等に関する研修会や連携を通して,特別支援にかかわる学校園の体制が確立しつつある。

4.学校評価
・各学校園経営方針を評価し,地域ニーズの反映を目的に,年1回児童生徒及び保護者,地域の方,教職員を対象にアンケートを行った。
・3年間の結果を比較検討すると,「学校が好き」と答えた子どもたちが増加したこと等,改善面がある一方,中学校区の取組が地域の方や保護者にあまり知られていないといった点が見られた。
・今後は評価の結果を十分に検討し,地域のニーズに応えられるよう活動に生かしていきたい。

(3)その他の取組について

1.「NPO法人子どもたちと共に学ぶ教室シニアスクール」の設立
・シニアスクールは,本研究指定において地域部会からの提案により生まれた。協議会での議論の中でも多くの時間を費やした。
・平成15年9月に岡輝中において試行開校し,平成16年4月からは本格実施として岡輝教室と清輝教室を開校した。
・平成16年9月にはNPO法人「子どもたちと共に学ぶ教室シニアスクール」として認可され,新たな展開を始めている。
・高齢化社会への1つの提言として,教育分野だけでなく保健福祉の分野からも注目を集めている。
・担任や講師等のスタッフの確保や必要経費等,今後とも継続への支援が必要である。

2.コミュニティファンド
・「価値の循環を通して子どもの活動に使える資金づくり」を目指して,平成14年度より議論を重ね,いろいろな具体案が提案されたが,実践に至っていない。
・しかし,ここで学習した考え方は,どこかの機会に生かされるのではないかと思っている。
・現在,地域情報誌「ちくたく」の企画・発行を通して,このアイディアを生かすことができないか議論を重ねている。 

3.地域サロン
・地域活動の充実とPTAを中心とする子育て支援についての活動拠点として「地域サロン」を計画した。
・PTAとして参画を促す取組が不十分であった反省から,ハード面の整備よりソフト面に力を入れるべき方向に変更し,行事での開室を数回行った。
・参加者は最近の子どもたちの現状や岡輝中学校区の取組について活発に議論していた。

4.児童生徒支援ネットワーク会議
・保・幼・小・中とも学校だけでは解決が難しい課題(問題行動,長期欠席・不登校,児童虐待等)に対して,地域と関係機関,学校園が連携を図りながら,子どもたち及び家庭の支援を進め,学区全体での生徒指導の機能を高めることを目的に事例検討を行った。
・3年間で約20ケースの会議を開いたが,かかわる人たちの多さを感じている。すぐに解決へ至らない課題も多いが,かかわる人たちが増えていく中で,少しずつ効果が表れてきている。
・情報の管理や会議後のフォロー体制(サポートチーム)にかかわる人材の確保等で課題がある。

5.岡輝版子育て法
・生活習慣,学習習慣の確立に向けて,家庭,学校,地域社会の役割を再認識し,共通の取組を進めるため,本冊子を作成し,学区の全家庭に配布した。
・岡輝学区の「学習四原則」については,6校園で共通認識して取り組んでいるので,効果がみられた。保護者への周知も進んだ。
・今後は,取組の成果等について検討し,更なる普及を目指す。

-- 登録:平成23年11月 --