コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

実践研究実施報告書、研究開発実施報告書 東京都足立区立五反野小学校

都道府県名 東京都
学校名 足立区立五反野小学校

1 実践研究の概要・成果及び課題

実践研究のテーマ
英国の学校理事会をモデルにした保護者・地域の学校運営参画制度へのチャレンジ

 「新しいタイプの学校運営の在り方」という研究主題に、学校、地域の協働関係を軸に積極果敢にチャレンジし、「学校理事会制度」という新たな学校運営参画のしくみづくりに結実させた。
 研究成果として、保護者・地域住民が直接学校運営に参画する制度を設置して2年が経過した。「これからがスタートである」いうのが理事をはじめ関係者の総意であり、制度の成熟化のためには試行錯誤が続く。

1 研究の推進体制

  • 地域においては、国の学校評議員制の発展型である、五反野小開かれた学校づくり協議会の中に、コミュニティ・スクール委員会を設置した。
  • 学校は研究主任を中心に、柔軟な教育課程の編成を含め、研究主題に取り組んだ。
  • 教育委員会は、課長級のポストを新設し、実践研究をサポートした。

2 実践の成果と課題

(1)学校と地域との連携について

1.保護者や地域住民の参加による協議組織の活用について
 平成14年度から3年間の実践研究において、保護者・地域の力を学校運営に生かす仕組みづくりを模索してきた。その結果、平成15年1月27日に「学校理事会」を設置し16年度末までに通算26回の理事会を開催している。 理事会活動を通して、教育課程の編成やその他学校運営の重要事項に、保護者・地域の意向を反映させ、それに基づく教育活動を展開している。従来学校だけで進めてきた学校の基本方針等の決定のプロセスに関与することで、教育課程に新たな発想や展望のある知見を組み入れ、校長が変わっても揺らぐことのない地域立学校の長期的な計画や方針を構築している。

ア、協議組織の構成
 学校理事会は、保護者代表(3名)、地域代表(3名)、学校代表(4名)、行政代表(1名)で構成している。保護者代表のうち、1名はPTA会長の充て職であり、残り2名はPTA会員の投票により選出される。一方、地域代表のうち、1名は開かれた学校づくり協議会長の充て職であり、残り2名は、広く地域人材の中から、協議会委員の投票により選任される。また、学校代表は校長が充て職であり、残り3名は校長が推薦する。行政は区教育委員会関係課の管理職である。

イ、協議組織の役割
 理事会規約において、以下の基本的な事項について審議し、これに基づき校長は校務を行うと定めている。

  • 教育課程に関わる事項
  • 校長の候補者の選定に関わる事項
  • 学校予算に関わる事項
  • 児童の安全及び危機管理に関わる事項
  • その他 理事長が必要と認める事項

ウ、開催回数、協議内容
 平成15年1月の学校理事会発足以来、2年余の間に26回開催した。16年度は月1回のペースで開催した。

エ、開催結果の学校運営・教育活動への反映状況等

  • 学校理事会の承認による教育課程によって、基礎的・基本的内容の定着のためのパワーアップタイム等に学校ぐるみで取り組み、学力アップにつながっている。
  • 学校理事会制度のもとで策定された学校経営計画によって、「地域からのニーズを学校運営に反映させる」「地域住民と協働した学校教育の展開」等が年間の学校運営のPDCAサイクルに位置づいた。
  • 地域調査の結果や学校理事会の意向をもとに、家庭・地域・学校が一体になって「あいさつ運動」に取り組む等、学校を核にしたコミュニティ形成の輪が広がってきた。
  • 学校理事会からの提案によって、モデル的に学校用務の業務委託を実施したことで、効率的な学校運営を具体化させている。

2.地域人材の活用
 図書ボランティアによる読み聞かせ・朗読会、文化団体連合会による室町文化体験、そして、のびのびスクール(学校週5日制の活動)の実施など、地域人材を活用した事業が増えてきている。
 また、今年度から総合的な学習の時間の中に、地域の文化や芸能を守り育てるとともに、「人・もの・自然」を大切にした五反野ふるさとづくりを「郷土学習」と位置づけ、地域との連携・協働による組織やカリキュラムづくりの取り組みを始めた。学校では、これらに対応するために、校務分掌の中に新たに地域担当を位置づけ、地域とのコーディネートを行っている。
 こうした取り組みの中で、実践研究以前と比較したとき、保護者・教員・児童・地域の意識等に一定の変化が見られた。

 ア、保護者の変化
 家庭、学校、地域の協働の取り組みのひとつに「あいさつ運動」がある。理事会がめざす5つのミッションの中に「望まれる家庭像」があり、この指針をもとに一体的な運動を展開している。家庭での挨拶の習慣化に努めるとともに、学校も各学級の生活目標として重点的に取り組んでいる。
 また、外部評価として実施する授業診断や学校評価にも積極的に取り組み、学校の経営改善にも協力的である。
 さらに、PTAは新たに「一家族一ボランティア制度」に取り組み会員意識を高める等、学校理事会制度に呼応した体制づくりを行っている。

イ、教員の変化
 当初、授業診断には戸惑いがあったようだが、実践を進める中で、授業に役立つ情報をもらっているというように肯定的にとらえる傾向に意識が変わってきた。特に、学校理事会の提案によって始まった基礎的・基本的内容の定着をねらいとするパワーアップタイムに学校ぐるみで取り組み、児童の学力アップを図っている。また、理事会が提案する効率的な学校運営にも理解を示し、会議時間の省力化や校務のスリム化にも取り組んでいる。

ウ、児童の変化
 来校者に対する挨拶を励行するなど、以前に比べ、楽しく、生き生きとした学校生活を送っている。また、パワーアップタイムやあいさつ運動に積極的に取り組み、学力アップやあいさつの習慣化に効果をあげている。

エ、地域の変化
 地域住民は、学校評価や学校理事会に関するアンケート調査結果から、新しい学校づくりに好意をもっていることがわかった。このことは、登下校時の児童の安全指導に、地域からも多数の参加があることで理解できる。

(2)学校の裁量権の拡大に関する取組について

1.人事

ア、校長公募
 校長の公募に関して、平成14年度に実践研究のテ-マとして取り組んだ経緯がある。しかし、区内の現職校長からのみの五反野小学校への応募制という、極めて限定的な公募形式しか実現しなかった。このときに、応募者は学校理事会が作成した「望ましい校長像」に対する自己アピ-ル文を書いて応募した経緯がある。
 平成15年度は、民間人校長を起用したいという要望があった。地域理事・保護者理事による選考委員会を実施し、選考委員会の結論を経て、理事会の議決によって、候補者が決定した。
 平成16年4月1日に、東京都の公立小学校でははじめて、民間教育系企業の管理職から転身した民間出身校長が着任した。

イ、教職員の人事
 教職員の人事に関して、本実践研究の中で、従来の区教育委員会から東京都に対する内申権を越える内容は実現しなかった。
 一方、非常勤職員の募集については、平成16年度に区の特別講師制度の運用によって、年齢制限の引き上げ、教員免許状の不問を内容とする、特例要綱を設置して2名を採用した。第二次試験には、保護者理事も評定者として加わった。この2名は、低学年における国語のT・T指導と総合的な学習の時間における英語活動の指導を担当した。
 平成17年度に五反野小に配置希望をする教員を公募したが、結果として、区内教員の中から五反野小の取り組みに共感する教員を募集するに留まった。

2.予算
 平成15年8月、理事による「意見・情報交換会」の中で、学校配布予算のしくみ・予算編成の流れについて明らかにし、弾力的な予算執行が可能となるように、科目間の流用を認める方針を打ち出した。翌9月の理事会において、保護者・地域の意向を反映した「学力向上対策」を重点課題とする16年度の学校予算案が審議され承認された。同様に、17年度の区の重点事業である「特色ある予算事業」の申請にあたって理事会の審議を経た。
 一方、教育委員会は、まず、包括予算の考えを取り入れて、学校配布予算の科目間での組替えを、16年度から可能とした。例えば、備品購入費で節約し残った予算を消耗品(一般需用費)に組替えができる、という方法である。次に、光熱水費は学校には配布されていないが、節水・節電等に取組み削減努力した部分について、翌年度に追加配当するしくみをつくった。
 また、地域理事からの提案で、用務業務等の民間委託を実施し、経営努力によりコストダウンした分を教育予算に回せるよう配慮した。

3.教育課程
 国語、算数における少人数指導(習熟度別指導を含む)により、一人一人の児童の学習状況に応じた授業を実施し、児童の基礎的・基本的内容の確実な定着を図った。さらに、中学校教育を視野に入れた選択学習(国語・算数)を実施し、教科の興味・関心を高めたり応用・発展的な学力を伸ばしたりしながら、生きる力の育成をめざした。
 また、基礎的な学力の定着のために、毎朝15分間をパワーアップタイムとして全校体制で取り組んでいる(計算、漢字、音読)。
 さらに、総合的な学習の時間においては、情報教育や英語活動を通して国際理解教育を進めるために、パソコン学習と英語活動を週1時間ずつ位置づけて取り組んでいる。関連して教育課程の開発及び授業の実践研究に取り組むとともに、研究の評価として児童による授業診断と児童の基礎学力調査を行った。

(3)その他の取組について

1.学校運営協議会への移行

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正による「学校運営協議会」の設置に伴い、平成16年11月に現行の学校理事会の活動形態等を維持しながら、法律に基づく制度に移行した

2 研究開発の概要

研究開発の課題
研究開発の課題 新しいタイプの学校運営の在り方に関する実践研究

1 研究のねらい

(1) 国語・算数の習熟度別授業や教科選択制及び「読み・書き・計算」といった基礎学力の徹底的な反復学習(パワーアップタイム)の実施を通して、児童に基礎的・基本的事項を確実に定着させるとともに、応用力を身に付けさせる。

(2) 生活科・総合的な学習の時間に、外部講師を活用したパソコンの操作・応用の学習、英会話を中心とした学習を実施し、これからの情報化・国際化社会に対応するための資質や能力を身に付けさせる。

2 研究の内容

(1) 国語と算数における習熟度別授業・教科選択制

1.習熟度別授業
 国語・算数において、加配教諭及び足立区が採用した特別非常勤講師を活用し、学校独自の指導計画のもと、習熟度別授業等を実施した。実施学年及びその内容等については、第1学年・第2学年では、主にTTを実施し、必要に応じ習熟度別授業を行った。また、第3学年以上については、少人数指導による習熟度別授業を実施した。
 習熟度別授業の適切な実施に向けて、児童の学習状況を把握するために、6月に足立区が実施した前学年までの既習事項の定着度を測るための「足立区学力向上に関する総合調査」の結果を、指導の参考とした。
 また、今年度は、教師の指導力の向上のために、学校理事会主催の研修会とともに、年間12回(国語・算数各6回)の研究授業を行った。

2.教科選択制
 第5,6学年において、国語・算数の教科選択制授業を週あたり1時間実施した。内容については、各教科とも苦手な教科の克服を目指す補充と得意教科の一層の充実を図る発展の計7コースを用意し、児童へのガイダンスを行った上、児童に選択をさせ実施した。この取り組みは、中学校における選択学習も視野に入れており、自ら教科や講座を選び選択する経験、自己評価能力の育成の機会を増やすことにもつながっている。

3.反復学習(パワーアップタイム)
 全学年において、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図るため、毎日パワーアップタイムを設定し、漢字・計算・音読等に取り組んだ。
 これは、各学年とも年間指導計画に基づいて計画的に実施されている。また、パワーアップタイムでは定期的に検定の機会を設けることで、児童の意欲の持続を図っている。ここで学習した内容をもとに家庭での学習に関する課題を与えることで家庭学習の充実も図っている。

(2) 生活科・総合的な学習の時間における情報教育・英語活動・郷土ふれあい教育

 生活科・総合的な学習の時間に、外部講師を活用したパソコンの操作・応用の学習、英会話を中心とした学習を実施し、これからの情報化・国際化社会に対応するための資質や能力を身に付けさせた。

1.パソコンの操作・応用を学習する情報教育
 児童が情報機器に慣れるとともに自分の必要な情報を主体的に収集・活用する機会を増やすため低学年においては生活科、中・高学年においては総合的な学習の時間に情報教育を位置付け、地域人材を活用し、年間計画にそって実施した。

2.英会話を中心とした英語活動
 外国語能力の基礎やコミュニケーション能力の育成を目指し、各学年とも足立区が採用した特別非常勤講師と担任のTTで授業(ハッピータイム)を行った。この英語活動は、計画的な学習が進められるように低学年では10時間、中・高学年では35時間の年間指導計画を作成して実施している。

3.保護者・地域が参加する教育活動
 地域を学ぶ活動を通して、「地域を愛し、地域を大切にする」児童の育成を目指し、これまで総合的な学習の時間等で進められていた地域の人材や学習材を生かした学習をさらに充実させるために、「郷土ふれあい教育」を位置づけて実践を進めた。これらの学習には、地域や保護者が学校とともに学習に参画する機会とし、保護者や地域と共同で学習材や地域教材の開発等を行う。

3 実践研究の成果及び課題

(1) 国語と算数における習熟度別授業・教科選択制

1.習熟度別授業
 一人一人に応じた学習の機会の保証という視点から、より個に応じた効果的な学習指導の充実を図ったことで、基礎的・基本的な内容の確実な定着につながった。
 コース内においても学習の習熟に応じたワークシートを設定することにより、より個に応じた指導の充実を図ることができた。コースによっては、発展学習につながる課題を提示したことにより意欲の持続にもつながった。
 今後は、一層の習熟に応じた適切な課題の設定とともに、児童・保護者との話し合いをもとにしたコースの選択やコースの人数の調整等をさらに検討していく必要がある。
 また、評価規準をさらに充実させることとともに、簡便で有効な評価システムを考えることも重要である。

2.教科選択制
 自分の興味・関心や得意教科の一層の充実、苦手教科の克服など自ら自分の課題を設定し、教科及びコースを選択して取り組むことで、意欲の持続が見られた。また、自ら教科を選択するという機会はこれまで経験がない取り組みであったが、選択の経験を重ねることで、自分の課題や興味・関心に応じた教科及びコース選択ができるようになった。今年度選択学習の評価としては、興味・関心・意欲に関する評価とともに、児童自身の自己評価を重視した。
 今後は、このコース別での学習をどのように評価及び評定に反映させていくかが検討が必要である。また、児童の興味・関心によっては、学習する教科が国語か算数のどちらか一教科に固定してしまうことも考えられ、今後はどちらの教科も最低1回は選択するような工夫も大切である。

3.反復学習(パワーアップタイム)
 基礎的・基本的な内容の確実な定着を図るため、朝の時間に反復学習(パワーアップタイム)を行う時間を設定した。このパワーアップタイムは、「漢字・計算・音読等」の反復学習により、児童にできるようになる満足感を味わわせるとともに、短い時間集中して学習に取り組む習慣を身に付けることにも大変効果的である。また、この学習を家庭学習と関連させることで、家庭学習の習慣付けにも大変効果的であった。実施に当たっては、年間計画を立て計画に取り組むことができた。特に国語や算数では、教科の学習と関連させた内容を取り上げたことで学習内容の定着に大変効果的であった。

(2) 生活科・総合的な学習の時間における情報教育・英語活動

1.パソコンの操作・応用を学習する情報教育
 児童は低学年より、パソコンに触れる時間が多くなり、以前に比べて進んでコンピュータを活用する機会が見られるようになってきた。特に低学年では、コンピュータに慣れることを中心に計画を立てたことで、児童は抵抗感なく活用することができるようになった。中学年以上は、各教科での学習に活用する機会を取り入れることで、課題解決や表現活動に活用することができるようになった。高学年では、自分に必要な情報の収集と活用を中心に学習を進めたこと、また自らの情報を発信することについても学習を深めた。各学年とも様々な表現方法についても学ぶ機会をもったことで、表現する内容によって、効果的な表現方法を選択し表現できるようになってきた。これらの学習を通して各学年ともパソコンを活用したコミュニケーション能力の向上が図られている。
 今後は、パソコン教育で学んだ力をどのように他の教科で活用していくかを明確にしていく必要があるとともに、情報に関するセキュリティー、ネチケット等については発達段階に応じた指導が今後も必要である。

2.英会話を中心とした英語活動
 本年度は、指導の重点を「英語を聞き取ろうとする態度の育成」「自己表現」の2点とし、それをもとに年間指導計画を作成した。年間計画をもとに計画的な学習を進められたことで、児童は自ら進んで英語活動に取り組む意欲的な姿が見られるようになった。
 今後は、特別講師と担任のTTで指導を進めていく上で、授業を進めるうえでの明確な役割分担や事前の打ち合わせの機会の充実などをさらに進めていく必要がある。英語活動を通して身に付けた力を生かした活動の機会を工夫していくことも大切である。また本年度作成した年間指導計画も毎年度改善しさらによりよいものに向上させていく必要がある。次年度以降今年度の評価を基に英語活動における適切な評価方法・評価内容等についてもさらに研究を深めていくことが重要である。

3.保護者・地域が参加する教育活動
 自分たちの地域に興味もつとともに自分たちの地域を愛する児童を育てるという考えから、地域を学ぶという視点での学習「郷土ふれあい教育」を設定した。この取り組みは、保護者、地域とともに地域の学習材や人材の開発も含めた指導の内容の検討を行う。

 学校としては、地域担当を窓口として地域の人材、学習材に関する情報収集にあたった。地域を絞って活動を進めたことで、地域の方々と学習を通じて触れ合う機会が増え、さらに地域に対する興味・関心が高まった。
 今後は、保護者・地域の協力を得ながらさらに地域の学習材、人材の発掘を進めるとともに、それらを活用した学習の計画を立てていくとともに、地域と共同で取り組む学習についてさらに検討を重ねていく必要がある。郷土ふれあい教育を通して学んだ内容をパソコン教育等で身に付けたプレゼンテ-ション能力を効果的に活用して発表するなど関連を図っていきたい。

-- 登録:平成23年11月 --