専門的・技術的な質問の詳細と回答(屋内運動場関係)

1.屋内運動場等の耐震性能診断基準に関する質問

(3.診断の方法)

No.3-1

質問

屋内運動場等の耐震性能診断基準(平成18年版)に関して6ページのAiを精算によらない場合はT=Tcとありますが、国土交通省告示第597号にあるT=h・(0.02+0.01α)により求まるTは、ここでいう「精算による場合」にあてはまるのかご教授願います。この式が「精算」と呼べるのかどうか判断つきかねます。なお、18年版の適用例では上式を用いているのでこの例にならえば、上式で妥当ということになります。しかし、T=Tcについては、建物高さを無視していきなりTをTcと同値にするのは安全側ではあっても、そこまで略算する意図がわかりません。FeやFsを1.0、1.5に略算するのは、複雑な計算を簡略化する意味がありますが上式は省略するまでもなく簡単に計算できますし、そもそもTcはRtを算定するためのパラメーター的役割だと理解しております。Tはあくまでも建物高さによる振動特性の一部であり地盤の固有周期に直結した値では工学的な意味が薄くなるのではないでしょうか。近県の団体の参考計算書などもT=Tcで行っているものが多数あり、あたかもT=h・(0.02+0.01α)は認められないというようにも判断できてしまいます。

回答

Ai係数を計算する時の固有周期Tの求め方について「屋内運動場等の耐震性能診断基準(平成18年版)」では、Tは基本的に精算することとしています。精算が出来ない場合は国土交通省告示第597号(建設省告示第1793号)の式を適用し、さらに式を簡略化してT=Tcとしてもよいこととしています。そこまで略算する必要はないのではないかというご意見ですが、平成8年に当該基準の初版を取りまとめた際の経緯として、できるだけ簡単な診断法とするようにとの要望が強く、結果的にこのような解説になったものです。したがって、基本的には精算か当該告示の式によりTを評価していただければよろしいかと思います。

No.3-2

質問

屋体基準(H18 一部変更)について P7-(3)内、「屋根面筋違の荷重伝達能力を示す係数(屋根面に生ずる地震力に対する屋根面筋違の耐力の合計値の比)Krと付4.1に示す水平震度Knを付記し、改修設計の際の参考とする。」と修正がありました。
そこで質問ですが Krの説明をお願いいたします。処々に判断が多くあると思いますのでお願いいたします。
・「・・・屋根面筋違の耐力・・・」:丸鋼のブレ-ス構造のみなのでしょうか?トラス構造の場合などを含むのでしょうか?
・「屋根面に生ずる地震力に対する・・・」地震力の範囲をお教えください。Ai、Fes、F値の項はどの範囲を考慮すればよろしいですか?補強の方法一例で妻面に屋根面筋違にて伝達させるときなどもお教えください。Knとの関係もお教えください。

回答

屋根面筋違の耐力は、屋根面にブレ-スが配置されている場合を対象としております。ブレ-スは、丸鋼に限らず、山形鋼などの場合も含みます。

屋根面に生ずる地震力の範囲は、方向別に定義します。

図1は、屋根面に作用する桁行方向の地震力を求めるための荷重範囲の例です。図示のような範囲と両側妻構面の重量を含みます。薄いト-ンの部分に左から右方向へ地震力を受ける場合を想定しています。妻構面の荷重領域に注意してください。ギャラリ-より下層部分の高さの1/2までの範囲を想定しています。

 

図1.桁行方向の検討用荷重領域

図1.桁行方向の検討用荷重領域

また、図2に示すように、ギャラリ-部分にRC造の大梁および下屋の屋根やRC造の床がある場合など、ギャラリ-より上層の高さの1/2までの範囲として考えます。

図2.桁行方向の検討用荷重領域(ギャラリ-レベルでの拘束がある場合)

図2.桁行方向の検討用荷重領域(ギャラリ-レベルでの拘束がある場合)

Ai 、Fesについては、精算することが望ましいのですが、そうで無い場合は、耐震性能 Is を算定する際のAi,Fesについて、通常は次のように考えればよいでしょう。
S1タイプ、R1タイプや鉄骨柱が1階RC柱に拘束されているRS1タイプではAi=1.0, Fes =1.0としますが、RS1cタイプで鉄骨柱の柱脚部が下部の鉄筋コンクリ-ト柱上部に十分拘束されていない場合は2層扱いとし、Ai = 1.0, Fes=1.5とします。
RS2a,RS2b, R2 は2層と考え Ai, Fesを算定します.いずれの場合も診断者自身が建物の応力状態や変形を考慮して診断することが原則です.
なお、これらは平面剛性の偏心が小さい場合(Fe=1.0)の取り扱いで、もし、偏心による割増が必要な場合には別途、Feを考慮してください。

ブレ-スの降伏耐力もしくはブレ-ス接合部の最大耐力のいずれか小さいほうの値をNbとすると、

   Kr = ΣNb・cosθ/Pi(ここで、Pi= kn・Wi)

となります。ここで、θは桁行方向とブレ-スとの角度、Wiは、図1または図2の範囲の重量とします。
また、F指標は、knの算定に用います(p.54)。
なお、水平震度knは原則として構造物全体の保有水平耐力(メカニズム)時に生じる値とすることとしますが、実際の保有水平耐力が必要保有水平耐力をかなり上回る場合に、このようなブレ-ス耐力を要求するのは過大になります。そういった場合は、必要保有水平耐力に対応するブレ-スの強度が確保されていればよいものとします。しかし、これは全体架構がメカニズムに至るよりもブレ-スの降伏が先行する可能性があるということであり、構造耐震判定指標(必要保有水平耐力)は、ブレ-ス(接合部)に一定レベルの靭性が期待できる場合に適用します。
張間方向についても同様に、図3のように考えます。桁構面の荷重は、ギャラリ-より下層の高さの1/2としますが、下屋がある場合の扱いは、図2の場合と同じです。
 図3のように、妻構面に取り付く屋根面ブレ-スには、屋根面に生ずる地震力Piと張間架構の保有水平耐力Qcの差分が作用すると考えます。その差分がブレ-スの降伏耐力もしくはブレ-ス接合部の最大耐力のいずれか小さいほうの値Nbより小さいことを確かめます。そうでない場合は補強が必要です。

図3.張間方向の検討用荷重領域

図3.張間方向の検討用荷重領域

knは、全架構が一体となって耐震判定指標Isoを上回るために必要な屋根面ブレ-スの耐力を震度で表現しています。kn=Iso・Fesi・Ai /Fiと定義されており、Iso/Fi ≒(0.70/1.3≒0.55)を想定しています。桁行方向では、架構の保有水平耐力が十分に確保されている場合でも、屋根面の荷重伝達性能の検討で、Krが1.0を下回る場合はブレ-ス耐力が不足する場合であり、補強が必要になります。

No.3-3

質問

「なお、桁行き方向(妻面と直交方向)について、妻面間柱など一部の部材のみが屋根面の荷重の一部を負担するようなゾ-ニングを行うと、極端に低いIs指標が生じる場合があるので、この値を建物のIs指標と即断することは避けなければならない。」
「・・・桁行き方向(妻面と直交方向)・・・」ですが形態を問わず主架構と分離して別記するように判断するのでしょうか?片持ち柱(RC造)タイプ、ポストタイプも同じと判断するのでしょうか?
・妻面の桁レベルまでRC造でその上部がかまぼこ形状屋根で妻壁を負担する柱なども「即断することは避けなければならない」に該当するのでしょうか?

回答

解説では、「(一部の部材の耐力を用いて)極端に低いIs指標を算定し、この値を建物のIs指標とする」ことが問題となっていることを説明しています。一部の部材として、妻面間柱を例示しております。妻面間柱は、本来、桁行方向の主架構ではなく2次部材として、壁面が受ける風荷重に対して設計されているので、Is指標を定義することは妥当ではありません。しかしながら、妻部分の面積が大きいと、壁面自身の重量に較べて、間柱や胴縁などの下地の耐力が不足することが考えられるので、別途検討した結果を示すことが重要となります。計算の方法は、特に定められておりませんが、間柱などの降伏曲げ耐力と柱頭・柱脚接合部の破断耐力を求め、それらの値を用いて算定したせん断力と負担する地震力との比が1.0程度を上回ることが一つの目安です。

No.3-4

質問

「屋内運動場等の耐震性能診断基準」8ページの鉄骨接合部では、接合部の耐力を1/α倍に低減した耐力(α=1.2~1.3)を用いる。筋かい接合部ではα=1.2、柱-はり接合部ではα=1.3とする。 とあります。
この規定は保有耐力接合検討用の数値でしょうか。それとも曲げ耐力を低減するための係数なのか。また、梁のジョイントも接合部の一種と考えられますが、この規定がどのように適用されるのか。

回答

元々が保有耐力接合検討用の数値であり、「接合部係数」と呼ばれているものです。屋内運動場等の震性能診断基準(平成18年度版)第2刷9ページの解説をお読みください。
また、「梁の継手」についても保有耐力接合である条件は「接合部の最大耐力」が「部材の全塑性耐力」のα倍以上ということになります。「梁の継手」の中に塑性ヒンジができる場合には、αを1.2として検討してください。

No.3-5

質問

屋内運動場等の耐震性能診断基準(平成18年版)の中で鋼材の材料強度について、JIS規格品は1.1を乗ずることが出来るとあるが、調査においてJIS規格を確認するにはどのような調査を行なえば宜しいでしょうか。調査方法があるのであれば教えてください。また、調査を行なわない場合は何をもってJIS規格と判断すればよろしいでしょうか。

回答

正確に認定するには現地から鋼材の一部を取り出し、成分分析することになります。最近では鋼材の一部に火花を発生させその光を分析することで成分を特定することも出来ますが、いずれにしても少なからずの費用がかかります。JIS規格品と特定できなければ無規格品として扱い、材料強度を1.1倍しないことです。

No.3-6

質問

現在、柱・梁共にラチス部材の屋内運動場の耐震診断を行い、判定会で審議中です。ラチスのモデルを作成し、弾性応力解析を行い、解析いたしました。
梁間方向・・・・・ラーメン構造、柱ラチス材端部接合部の破断又は座屈
桁行き方向・・・・・ラーメン構造で柱が数本あります。1階、2階の柱弦材の大部分の座屈
以上の状況で保有水平耐力を決定しました。
判定会では「座屈や破断しても直ぐには倒壊しないので、線材置換しラーメン部材として耐力を維持し、塑性ヒンジの追従を行う必要があるのではないか」との指摘を受けましたが、私自身は確かに即倒壊とはならないが、ヒンジ追従は耐力を維持できる場合に用いる方法で、破断や座屈は不安定現象ではないかと考えています。「屋内運動場等の耐震性能診断基準(平成18年版)」9ページ(3)架構モデル、解析法の3行目までにも、「要素耐力が維持できない場合には弾性応力解析を行い、一部の構造要素がそのような状態に達した時点・・・」 と記述してあります。ラチス部材等の診断の場合、どのような考え方が適切かご教授願います。

回答

「屋内運動場等の耐震性能診断基準(平成18年版)」9ページ(3)架構モデル、解析法の3行目までは、通常の終局強度型の設計法について書かれたものであり、屋体についてはその後の文章でどのように扱うかが以下のように書かれています。判定会での指摘はこれに対応するものと考えられます。
「しかしながら、本基準では、対象とする屋内運動場等の架構の不静定次数が低いことを考慮して、(保有水平耐力を過大評価する可能性が小さいので)構造要素がそれぞれに達する終局状態の如何に関わらず、応力再配分効果に期待し塑性解析法(極限解析法)を適用してよいこととした。また、部材の塑性ヒンジ以外にも、接合部位置において接合部の等価な終局耐力で抵抗する塑性ヒンジ(接合部ヒンジ)を設けて塑性解析を適用する。もし接合部にヒンジが発生した場合は、その接合部が保有耐力接合の条件を満足していないことを意味するので、保有耐力接合の条件の検討も同時に行うことができる。しかしながら、構造要素が極めて脆性的な破壊を生じると判断される場合(例えば、施工不良・不適切な接合ディテールにより早期破断が生じる可能性がある場合等)には、この限りでない。」
「施工不良・不適切な接合ディテールにより早期破断が生じる可能性がある場合等」に当てはまるかについては、個々の事例毎に判断すべき問題ですので、判定会で十分ご審議ください。

お問合せ先

大臣官房文教施設企画・防災部参事官(施設防災担当)付

(大臣官房文教施設企画・防災部参事官(施設防災担当)付)

-- 登録:平成22年10月 --