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5 債券発行後の管理

(1)償還計画の管理

 債券発行は通常満期一括償還のため、一時期に多額の返済資金が必要となる。単年度の予算管理と異なって、債券発行期間中長期に亘る償還計画の策定が求められる。
 国立大学法人は、法律の定めにより、毎事業年度、債券の償還計画を立てて文部科学書の認可を得ることが求められている(国立大学法人法第34条)。これまで単年度の資金交付を受けて年度内に予算として費消する形態の資金繰りが主体であった国立大学法人にとって、毎年度の収益を原資として長期に亘って資金計画を策定する作業は未経験の業務であり、十分な検討を重ねながら対応することが求められる。
 具体的には収益の増減動向と見通し、償還期限時点に向けてのキャッシュフロー管理方法がポイントになる。収益原資である寄宿舎賃料、利用料等の増減は償還確実性に直結するファクターであり、毎年度稼働率、単価動向等を注視しておくことが必要である。キャッシュフロー管理では毎年度収益物件から獲得される利益を償還時までに適切に運用管理し、償還時の資金不足を回避する。長期の運用調達計画と短期の資金繰計画の両方が必要である。
 一般の企業では社債の償還は、一般的な現預金・有価証券の取崩や、遊休資産や周辺事業分野の売却で対応し、最近は保有資産の流動化等も行われている。また実質償還せずに、借換債を発行したり、借入金や増資等で対応することも行われている。従って選択肢が多く、償還時期近くになっても対応が可能なことが多い。
 国立大学法人の保有資産は教育研究の用に供していることから売却が困難であり、かつ、借換にも文部科学大臣の認可が必要なため(国立大学法人法第33条第2項)、現預金・有価証券の取崩での対応にほぼ限定される。したがってキャッシュフローの管理を確実にするためにも毎年償還計画を見直し確認することが望まれる。
 以上のように国立大学法人には、公募による債券発行は償還義務等の投資家に対する責任、資本市場への参加責任が伴うことを十分認識することが求められる。

(2)デフォルト防止への対応

 発行した債券の元本あるいは利息の償還ができなくなると、発行者は通常当該債券の債務に関し期限の利益を喪失し、投資家から全額の償還を求められる。このように、債券の発行者が約束している元本や利息の償還ができなくなった状態を通常デフォルトと呼んでいる。一般的には、公募債券がデフォルトになれば、発行者は破綻したとみなされる。そうなると、発行者に何らかの債権を保有する全ての債権者が、自らの債権への弁済を一挙に請求してくることが予想される。ここでいう債権には借入金等の金融債権だけでなく、発行者への販売債権や役務債権も含まれる。
 債権者は債権保全のため、発行者の保有する資産の差押さえなどを通常行うものと予想される。担保付の債権者は当該担保から優先弁済を受けられるが、担保等保全措置のない債権者は発行者の所有資産を差押さえ、その処分益から自らの債権の弁済確保を図るためである。国立大学法人法では、国立大学法人が破綻した際における対応についての規定は特に定められていないが、発行した債券を保有する債権者に対して、他の債権者に優先して弁済を受ける先取特権については規定されている。(国立大学法人法第33条4項)
 なお、社債を発行している民間企業が破綻した場合は、通常会社規模が大きいことから、民事再生法あるいは会社更生法等の破産法令に基づいた処理が行われることが多い。具体的には、破綻した企業の全ての債務を保全し、債権者の同意を得て再生計画や更生計画を策定し、債権の切捨てや債権への一部弁済が進行していくことになる。社債権者も債権者の一つとして一定の弁済を受けることになる。
 実際上は、現実に債務不履行が発生しなくても、債券発行者の支払い不能の情報が外部へ流出するだけで、当該発行者の全部の債権者が債権保全の行動を起こすことにつながり、実際には資金不足や支払い不能でなくても、結果的に支払い不能になってしまうことが想定される。そのため、債券発行時における債券内容説明書において、期限の利益喪失条項を特約条項として限定記載し、記載事項以外の期限の利益喪失を認めないといった対応が行われている。
 一方で、債券保有者に対して発行者である国立大学法人は、財務内容等を積極的に開示し、債券の償還可能性に対する情報発信を償還期間中継続的に行うことが、信頼獲得のために望ましい。償還計画の公表、資金使途である収益物件の収支状況等を、適切な形式で公表していくことなどが想定される。そのための方策として、国立大学法人の発行した債券を保有している投資家に対する専用窓口の設置や、投資家向け説明会・オープンキャンパスのようなコミュニケーションの強化が必要と考えられる。
 参考として、米国の大学で債券発行に関するコンプライアンス義務を明確にしている事例を示す。

図表13【州立ワシントン大学が公開しているコンプライアンス義務】

  • 債券発行に伴う財務コベナンツ条項の遵守を保障するための毎年度の財務監査の実行
    • →不履行:法的賠償を伴う債券デフォルトに該当
  • 市場の報告要請や投資家の関心に適った毎年の債券保有者向け報告書の作成
    • →不履行:法的賠償を伴う債券デフォルトに該当
  • 償還期間経過に伴う償還益の再評価を会計事務所と税務顧問により毎年実施
    • →不履行:内国歳入庁による罰金
  • 免税債で調達された設備の個人的な利用の有無をレビュー
    • →違反:内国歳入庁による債券の課税と罰金

(出所:ワシントン大学資料よりJRI整理)

 債券発行による資金調達を積極的に行っている米国の有力私立大学は、IRの一環として債券の償還計画について公表している。
 例えばスタンフォード大学では、同大学の債券保有者向けに下記のような将来の長期にわたる償還計画表をホームページ上開示提供している。

図表14【スタンフォード大学債務償還予定表】
(平成19年3月現在)
(出所:スタンフォード大学ホームページ)

-- 登録:平成21年以前 --