民間企業においては、以下のような様々な資金調達手法が開発され導入利用されている。(下記解説参照)
図表15【資金調達手法の全体像】
平成17年12月の国立大学法人法施行令の改正における、一定の収入が見込まれる施設の用に供される土地の取得等であって、当該土地、施設又は設備を用いて行われる業務に係る収入をもって、当該土地の取得等にかかる長期借入金及び債券発行という資金調達手法の実際の活用にあたり、金融機関が資金を融通することの可否を判断するポイントと考えられるものは下記のようなものが挙げられる。
貸出金額については、投資金額は妥当な事業計画に基づいたものか、貸出金額は諸契約書に基づく必要範囲内か、が主な判断ポイントとなる。については、具体的には、工事請負金額は妥当か、諸費用、付帯工事等に資金使途の不明なものは混在していないか等につき審査を行う。
民間金融機関では通常、設備資金を融資する場合、当該土地建物に第一順位の担保権を設定する(私学振興事業団も同様)。国立大学法人では新規に取得した土地建物物件のみ担保設定可能なため、民間金融機関は国立大学法人に対して無担保で融資を行わざるを得ない場合も想定される。
担保設定での担保評価方法としては、当該土地建物物件の時価評価、あるいは収益物件であることに鑑み、収益額を基準にした収益還元法などが想定される。担保設定額は、一般的には融資額を上回り、評価額を限度として設定される。
貸出期間は「償還原資」や「建物の耐用年数」等から判断して妥当と言えるか等につき審査を行う。
金利は固定金利か変動金利か、リスク対比妥当な金利水準か等につき審査を行う。
償還原資となる当該土地、施設又は設備を用いて行われる業務の収支計画が妥当で、安定性があるか、当該業務のみならず債務者全体の償還能力の検証が可能か、(仮に当該業務からのキャッシュフローで償還が不能となった際の償還原資は何か)、担保物件の処分性に問題はないか、等につき審査を行う。
前述したように、実際の資金調達手法の活用においては、当該土地、施設又は設備の所有者を誰とするか、資金を調達するのは誰か、運営するのは誰か、調達された資金の返済原資は何か、等によりさまざまなスキームが考えられる。以下に、学生寮の整備運営を例に取って、資金調達のスキームのバリエーションとそのメリット、デメリットを概観する。
図表16【民間における資金調達スキームのバリエーション】 |
(出所:研究会における民間金融機関発表資料) |
私立大学の資金調達は主として借入金であり、そのうち専門融資機関である私学振興・共済事業団からの借入が、約半分を占める。
図表17【私立大学の借入金・学校債の現状】
上記の表に見られるとおり、学校債は有価証券ではないため流通性がなく、管理回収の手間等から利用が低迷し、実際に学校債を発行している例は少ない(私立大学で約1割)。そもそも学校債は私立大学が資金を調達する方法の一つとして保護者学校関係者及び広く一般を対象として行われるものである。無利子で行われる例が多く(私立大学で約9割)、償還期日が到来してもそのまま寄附となる場合も多い。(出所:大学設置・学校法人審議会学校法人分科会学校法人制度改善検討小委員会;平成15年10月10日)
法律的には学校債は商法の規定にある社債ではなく、証券取引法(注5)上の有価証券にも該当しない債券であり、借入金の証拠証券と解釈される。従って私立大学は証券会社等を利用せずに自由に学校債を発行できるが、流動性がなく換金できない債券なので実際上学校関係者や学生の保護者などに調達先は限定される。
これまで学校債の発行先は学生の保護者、教職員、卒業生等に限定されていたが、平成13年に一般人向けの発行が認められた。なお文部科学省は学校債の発行が出資法に抵触する「出資金」又は「預り金」に該当する可能性があることから、調達された資金が施設整備事業や奨学事業などのために発行されることと,学校債が消費貸借契約に基づく借入金であることを募集要項等に明示して発行するよう指導している。併せて、学校債発行に当たって無理のない適切な償還計画を策定することも求められている(参考;文部科学省昭和29年10月13日付通知及び平成13年6月8日付通知)。一般への公募が認められてからは、一口10百万円と大口の発行も行われている。これは、小口だと印紙や通信費のコストがかさみ、事務処理も負担が大きいためと推測される。
私学事業団は、私立大学に対して様々なタイプの融資をしている。以下に私学事業団の行う5種類の融資(平成19年度)を概観するが、平成17年12月の国立大学法人法施行令の改正により追加された国立大学法人に関する制度は、下記のうち特別施設費(上段)がもっとも近い。
米国における大学の債券発行規模は2005年時点で、発行件数で665件、発行残高では約330億ドル(約3兆6,300億円)と報告されている。これは、2000年時点に比べ約3倍となっており、継続的に拡大基調にある。拡大している要因としては、金利水準の低下、大学側の旺盛な資金需要、投資先としての大学の見直しなどが影響していると同記事では報告されている。(出所:2006年5月20日-Economist誌)
債券を発行している大学は全米大学数約3,200校(うち公立約1,300校、私立1,900校;2年制含む)のうち約1/4を占めると言われている。実際に格付けを取得している大学数で見ると、公立で468校、私立で376校となっている(出所:全米大学経営管理者協会資料)。
発行されている債券には免税債と一般課税債とがあり、私立大学も州立大学もいずれも発行可能である。ただし免税債では資金使途について教育目的に限定という規制があり、資金運用等に充当することはできない。
発行されている債券の償還期間は、概ね20年、30年の長期債が主体となっている。そのため各大学には中長期的な資金調達計画を策定しておくことが求められている。
私立大学の中で大学としてのブランドや研究業績の面で名声を確立している大学は、投資家からの信頼、格付けの高さなどから比較的容易に資金が集まるため、免税適用となる教育研究用の設備投資のためでなく、資金運用を大規模に行うための資金調達を行っている大学が多い。
債券発行条件は発行の際に格付け機関が行う格付けによってほぼ決定される。格付けの水準が、一般的に企業より相対的に高く、殆どの大学がトリプルB(投資適格)以上に格付けされている。
図表18【米国主要大学格付け】
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(出所:George K. Baum & Company—2006年9月27日よりJRI整理作成) |
格付けの評価項目は格付け機関ごとに独自の方法で行っているが、基本的な項目は大きくは相違がない。
図表19【格付け機関の評価対象となる主要財務指標】 |
(出所:資本市場クォータリー2003年春—野村総合研究所) |
米国では各大学がこれらの格付け機関の評価、債券発行事務に対応するため、財務管理体制、資金管理手法の強化に努めている。一方で発行した債券の募集対策上、投資家向けの情報公開体制を整備し、ホームページ上に投資家向けのサイトを設けている。
財務管理体制、資金管理手法の強化事例として、州立ワシントン大学の資金調達計画プロセスを以下に紹介する。
図表20【資金調達計画策定までの全体プロセス】 |
(出所:ワシントン大学資料よりJRI整理) |
「債務管理面」
共同発行市場公募地方債は29(注6)の地方公共団体が共同して発行する債券で、平成15年4月から毎月発行されている。平成18年度では13,240億円の発行が計画されている。これらの団体は、毎月、発行額全額について連帯債務を負う。
地方財政法第5条の7
証券を発行する方法によって地方債を起こす場合においては、二以上の地方公共団体は、議会の議決を経て共同して証券を発行することができる。この場合においては、これらの地方公共団体は、連帯して当該地方債の償還及び利息の支払の責めに任ずるものとする。
正式には「住民参加型ミニ市場公募債」といい、地方自治体が、目的を明示した上で、住民などに限定して公募する地方債を指す。すべての自治体に発行が認められており、いくつかの自治体が共同で発行することもできる。
第一号は平成14年の群馬県の「愛県債」で、平成17年度の中間期(9月30日)までの実績では1,412億4,280万円の発行が行われている。(計数は総務省ホームページより)
これまでミニ公募債の募集人気は高かったが、預金金利水準の上昇、他の金融商品との競合等から、最近、販売した債券のうち県内でさばききれず、売れ残る例が出てきており、追加募集を行っている例も見られる。
米国の州債で発行されている方式で、償還財源を特定して発行する債券。米国においても税収を返済原資とする一般財源債は発行されているが、レベニュー債の方が発行額は多く、州・地方政府の新規発行長期債券のうち、約6割を占めていると報告されている(出所:事業目的別歳入債券の有効活用に関する研究-国土交通省-2005年)。対象となる事業は、空港、港湾、大学、病院、道路、下水等広範囲なものが含まれている。なお米国の地方債はレベニュー債に限らず、連邦税、地方税いずれにおいても免税債とされていることが多い。
また非営利組織が資金調達を行うときに地方自治体関連機関がレベニュー債を発行し、債券発行費用等を控除した資金を非営利組織に低利で長期貸付を行っている。(但し利用可能な組織は法令で規定;大学含む)この場合、債券の金利等発行条件は、非営利組織の信用力と市場環境で決定されることになる。事業収益など特定の財源によって元利支払いが保証される債券であり、仮に対象事業が失敗し債務不履行を生じても、別段の定めがない限り、一般財源等、他の財源からの支払いはなされない。そのため、投資家は発行者ではなく非営利組織の信用リスクと収益リターンを考慮して投資判断を行う。そのために格付け機関の格付けを取得することが一般的である。
発行体全体に対する発行体格付けは、発行体の負担する金融債務についての総合的な債務履行能力の評価である。発行体格付けは原則としてすべての発行体に付与される。まだ社債等を発行していない大学に対して既に行われている格付けは、すべてこの発行体格付けである。
発行体の発行する債券等個々の債務に対する格付けで、一般的には既に発行体格付けが行われていれば、その水準と同じになる。ただし個別債券に財務上の特約など特別の契約条項などがある場合は、それらの契約の内容や償還の可能性などにより、発行体格付けを下回ったり、上回ったりする。
「東京大学」:格付け「AAA」(最優良水準)
日本で最も歴史のある国立大学。日本で最古の国立大学という歴史と伝統を背景に、各界で活躍する様々な人材を輩出している。東京大学の学部教育は、前期課程を教養学部で行い、後期課程を10の学部が担う。また大学院は15研究科・教育部で構成されている。学部および大学院在籍者数はそれぞれ1万4,000人あまりで、合わせて2万8,000人の在籍学生数は国立大学の中で最も多い。目黒区の駒場キャンパス、文京区の本郷キャンパスに加え、「三極構造」構想に基づいた千葉県の柏キャンパスの整備が進んでいる。
入学試験の難易度において東京大学は日本のトップクラスである。これは学生募集力が極めて高いことを意味する。また研究面ではさらに東京大学の強さが際立つ。例えば21世紀COEプログラムの採択数は全国で最多の28拠点、競争的資金である科学研究費補助金は配分総額、教員一人あたりの配分額とも常にトップクラスである。法人化を控えていち早く「東京大学憲章」を制定し、学部や学科、附置研究所などの部局が自律的に活動すると同時に、総長がリーダーシップを発揮する仕組みを整えるなど組織運営も先進的である。
国立大学は2004年4月に国立大学法人化し、政府の1機関という位置付けから独自の法人格を持つ存在に変わった。しかし日本における教育研究の位置付けを考えると、国立大学の重要性は依然として高い。学生納付金や附属病院収入などの自己資金に加え、国からの運営費交付金などによって運営に支障をきたさない仕組みになっている。経費削減努力は求められるが、余程のことがない限り、収支が恒常的に赤字になることはまずない。附属病院の施設整備などの面でも相応の制度が用意されている。こうした点を踏まえると国立大学法人セクターの信用力は極めて高い水準にあると考えられ、東京大学の格付けはAAAとした。国立大学法人セクターにおける東京大学の位置付けの高さからみて、格付けの安定度は特に高い。ただ、現行の制度のもとでは国の信用力の制約を受けざるを得ず、格付けの方向性は日本のソブリン格付けと同様にネガティブとした。
まず国立大学全体の経営の安定性の高さを評価している。国の支援のもと収支がマイナスになる可能性が殆どないと評価されている。
その上で、東京大学の国立大学法人の中における図抜けた位置を受験難易度にみる学生募集力、競争的資金獲得における研究力、法人化への対応に見られる組織運営力の面から評価している。
一般的な格付け作業のプロセスは以下のとおりである。
図表21【格付けの作業のプロセス】 |
(出所:株式会社格付投資情報センターホームページ資料に基づきJRI作成) |
格付けを申し込むタイミングは、具体的な資金調達計画がない段階では「発行者格付け」、具体的資金調達計画があれば「個別債務格付け」を取得申請することになる。
個別債務の調達時期や方法、調達額などがおおむね決定していて、細かい財務上の特約条項などが未確定の段階では、「個別債務予備格付け」を取得申請することになる。
前述のおおよその作業プロセスの中で、格付け機関が格付け作業に必要とする期間は依頼者から格付けのための資料を受け取ってからおよそ2カ月程度である。
格付けに必要となる資料は当該発行者の業種によって異なり、業種特性を反映した資料が求められる。データの対象期間は原則として過年度実績は5年、将来見通しは3年分を提出することが求められる。
(出所:株式会社格付投資情報センターホームページ)
格付け機関によれば、ヒアリングや事業拠点の実査は、通常提出された資料分析を基に問題点を洗い出した格付け機関側と、経営者等依頼側との質疑応答形式で行われる。期間的には概ね2日間で行われるとのことである。
ヒアリングでの重視項目として格付け機関では以下のような項目を提示している。
【事業環境の現状と今後の見通し】
【主要事業部門の損益・財務、キャッシュフローの安定性と今後の見通し】
【主要子会社・関係会社等、グループ全体の損益・財務】
【経営者の基本戦略と経営上の重要課題とその対応策】
大学に対して格付けをするに当たっての評価項目として、株式会社格付投資情報センターが下記のような格付けの視点を公表している。
(株式会社格付投資情報センターホームページ資料を基にJRI作成)
国立大学財務・経営センター(以下「センター」という)は平成18年2月8日に第1回の独立行政法人国立大学財務・経営センター債券(以下「センター債券」という)の募集を行った。財投機関債の発行は、一般的には債券の条件決定日(募集日)の3ヶ月前くらいから主幹事証券の選定等具体的な準備を始めることとなるが、初めて債券を発行する場合には準備期間はより長期になるのが通常である。センターにおいては、第1回センター債券の発行に当たって9ヶ月の準備期間を要した。以下に発行に至るスケジュールとその各ステップの概要について述べる。(以下の内容は、株式会社日本総合研究所がセンターからヒアリングによりまとめたものである)。
図表22【国立大学財務・経営センター第1回債券発行スケジュール表】
センターでは、国立大学法人を対象として、文部科学大臣の定めるところにより、附属病院整備等に必要な資金の貸付を行っている。貸付の財源は、財政融資資金からの借入金および債券発行により調達した資金である。
図表23【施設事業の現状】(単位:百万円)
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(出所:独立行政法人国立大学財務・経営センターホームページ) |
図表24【施設費貸付事業の概要】 |
(出所:独立行政法人国立大学財務・経営センターホームページ) |
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(敬省略;五十音順:役職名は平成19年3月末現在) |
開催日 | 開催場所 | 主な討議内容 | |
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第一回 | 平成19年1月26日 | 文部科学省内会議室 |
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第二回 | 平成19年2月9日 | 株式会社日本総合研究所内会議室 |
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第三回 | 平成19年3月2日 | 文部科学省内会議室 |
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-- 登録:平成21年以前 --