平成18年12月
防災分野の研究開発に関する委員会
文部科学省が推進している新世紀重点研究創世プラン(RR2002)は、研究開発分野における構造改革に資するため、我が国が取り組むべき国家的な研究課題について、産学官の優れた研究開発機関の能力を結集し、実施する事業であり、「ライフサイエンス」、「情報通信」、「環境」、「ナノテクノロジー・材料」、「防災」の5分野で構成されている。
このうち、「防災」分野の事業の一つとして、平成15年度より「東南海・南海地震等海溝型地震に関する調査研究」を実施しており、海溝型地震の地殻活動の現状把握の高度化、長期的な地震発生時期・地震規模の予測精度の向上、及び強震動(揺れ)と津波の予測精度の向上を研究の目的としている。
平成16年度からは、東南海・南海地震等海溝型地震に関する調査研究に加えて、日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震に関する調査研究を実施しているところである。この日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震に関する調査研究は、平成16~20年度の5ヶ年計画で実施しており、本年度で中間年度となる3年目を迎えたことから、国においてプロジェクト全体の進捗状況等について中間評価を行うこととしたものである。
なお、この評価結果については、今後のプロジェクトの推進に適切に反映することとする。
既存の地震計の電子回路を改良し、振り切れにくくする工夫を行うことで、広帯域高ダイナミックレンジ孔井式地震計を実現する。ほぼすべての地震動をカバーするために、高感度用と強震用の二つの広帯域地震計を開発する。
海溝型地震に関する過去(明治時代以降)の地震観測データの所在を調査し、デジタル画像データへの変換手法を駆使して、散逸・消滅が危惧されている過去の地震波形記録の整理・保存を行うとともに、データベースシステムの開発を行う。また、これらのデータベースシステムを用いて、アスペリティの位置や空間分布の把握など過去の地震活動の調査を行う。
日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震に関する調査研究の中間評価については、「新世紀重点研究創世プラン(RR2002)の中間評価について」(平成16年5月 研究振興局振興企画課)に基づき、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会の下に設置されている「防災分野の研究開発に関する委員会」を評価主体として実施した。
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 防災分野の研究開発に関する委員会の委員を評価者とした。(実際は、11月20日の委員会に出席した12名の委員(別紙4)が評価を行った。)なお、当該テーマに関係する委員は、その評価を行わないものとした。
平成18年11月20日に、「防災分野の研究開発に関する委員会」を開催し、評価対象テーマ毎に研究概要等の資料を提示するとともに、各テーマの研究代表者によるプレゼンテーション・質疑応答を実施し、これを踏まえて、各委員が評価票の各項目ごとに、評価を行った。
その後、事務局において、各委員の評価を取りまとめ、評価書(案)を作成し、各委員に確認を求めた後、最終的に主査一任により、12月15日付で評価書をとりまとめた。
長期間の海底地震観測により正確な震源分布を求め、地殻活動の現状把握の高度化を図るという目標については、着実に達成されつつある。
また、得られた成果は、地震研究にとって基礎的なプレート形状の解明につながり、将来の大地震の発生域の推定など、今後の地震調査研究の発展に大きく貢献するものと期待できる。
さらに、この研究によって得られた地震活動の情報を他のテーマと交換するなど、テーマ間で十分に連携を図りつつ、研究が進められている。
なお、情報発信については、これまでも熱心に行われているものと評価できるが、今後はより一層広範な分野の研究者や一般に向けて行っていくことが望まれる。
地震計の開発という研究の性質上、途中段階での評価は困難であるが、概ね計画どおり地震計の開発が進められおり、今後、開発した地震計が次世代の高感度観測網のための地震計として実用化され、データが蓄積されるようになれば、地震・防災研究に十分貢献するものと期待できる。
ただし、情報発信については、これまで十分行われているとは言えず、今後は積極的に行っていくことが望まれる。また、テーマ間の連携についても一層の努力が必要である。
過去の地震記録の復元・保存による地震観測資料のデータベース化については、順調に進められており、それらを用いた過去の地震活動の調査も含めて、目標は着実に達成されつつある。
この成果として得られるデータベースについては、地震・防災研究において基礎的・基盤的なものであり、今後の地震調査研究等に大いに役立つと期待できる。
また、過去の地震活動の推定に他のテーマの研究成果を取り入れるなど、テーマ間の連携も十分行われている。
ただし、情報発信については、これまで十分行われているとは言えず、今後は、積極的な情報発信を行っていくことが望まれる。データベース完成後には、その情報の積極的な発信がなされることを期待する。
評価項目 | コメント | ||
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1 | 目標達成度 | 本研究は、長期海底地震観測によって正確な震源分布を求め、地殻活動の現状把握の高度化を図ることを目標とし、正確な震源分布から、より詳細なプレート境界の位置と形状の把握を行う。また、地殻構造と地震活動の対比から、プレートカップリングの不均質及び対象領域の応力場の推定を行う。さらに、これらの成果を地震発生予測モデル及び強震動・津波予測モデルの高度化に活かすことを通じて、長期的な地震発生時期、地震規模の予測精度の向上、及び強震動と津波の予測精度向上に資することを目標としている。 海底地震計による観測は計画どおりに進行している。また、その観測結果の解析により、三陸沖北部及び根室沖の想定震源域及びその周辺域における地震活動の正しいイメージを描き出すとともに、震源決定精度向上により詳細なプレート境界の位置・形状を明らかにすることができるなど、計画どおりに研究が実施されており、着実に目標は達成されつつある。 |
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2 | 研究成果の実用性 | 三陸沖北部及び根室沖想定震源域及びその周辺域における地震活動をより正確に把握することができたことにより、地震研究にとって基礎的なプレート形状の解明へとつながり、将来の大地震の発生域の推定など、今後の地震研究の発展に大きく寄与するとともに、地震発生予測モデルの高度化、長期予測の基礎データとしての活用を通し、防災力の向上に結びつくものと期待される。 | |
3 | 次世代技術・学術への貢献 | 本研究テーマで得られた正確な地震活動の把握は、日本海溝・千島海溝周辺における海溝型巨大地震の発生メカニズム解明に向けての基礎データとしての活用が期待でき、今後の地震調査研究への貢献が期待できる。 また、対象地域のプレート境界位置の形状が明らかにされれば、地震発生予測モデルの高度化、長期予測の基礎データとしての活用が期待できる。 さらに、海洋プレート沈み込みのダイナミクスを理解することにより、地球内部の構造解明への貢献も期待できる。 |
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4 | 情報発信 | 研究内容を広く開示するためのウェブページの作成、一般に向けてのシンポジウム開催のほか、口頭発表や誌上発表も盛んに行われていると評価できるが、広範な分野の研究者、そして一般に向けて、さらに、情報発信を行っていくことが望まれる。 | |
5 | 進行管理 | 進行管理については、東京大学が中心となり、東北大学・北海道大学と十分に協力しつつ進められているとともに、東京大学、東北大学、北海道大学、防災科学研究所のほか、気象庁、海上保安庁等の関係機関、地震調査委員会、調査観測計画部会に関係する委員から選出された運営委員会を設置するなど、適切な進行管理体制を整えている。 | |
6 | テーマ内及びテーマ間の連携状況 | テーマ内では、海底地震観測作業及び観測データの一次処理作業を円滑に進め、かつ、多くの成果を挙げるため解析を北海道大学、東北大学との間で分担することで、着実に研究が推進されている。 また、テーマ間では、「過去の地震活動などの調査」と、プレート境界の形状等について研究成果の交換が行われるなど密接に連携を図りつつ研究が推進されている。 |
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7 | 総合評価 | 長期海底地震観測により正確な震源分布を求め、地殻活動の現状把握の高度化を図るという目標の達成に向けて、観測が順調に進み、また、データの解析により新しい知見が蓄積されつつあり、大きな成果が期待できる。 また、それらの成果は、地震研究にとって基礎的なプレート形状の解明へとつながり、将来の大地震の発生域の推定など、今後の地震研究の発展に大きく寄与するとともに、地震発生予測モデル、強震動・津波予測の高度化のための基礎データとしての活用を通じて、防災力の向上に結びつくと期待できる。今後はより一層、これらの防災課題との関係の強化を図っていくことが望まれる。 |
総合評価結果 |
◎(二重丸):4名 ○(丸):6名 △(三角):0名 ×(バツ):0名 利害関係者:2名 |
注)総合評価結果:
◎(二重丸):大きな成果が期待できる研究である
○(丸):一定の成果が期待できる研究である
△(三角):所要の見直しを行えば成果が期待できる研究である
×(バツ):所期の成果が期待できない研究である
評価項目 | コメント | ||
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1 | 目標達成度 | 本研究は、日本海溝・千島海溝において津波を伴う地震が発生していることを考慮し、長周期成分を含む地震を正確に捉えるため、広帯域(短周期から長周期まで)・高ダイナミックレンジ(微弱な振動から強震動まで)な地震現象を捉えることができる新型地震計を開発することを目標としている。 地震計の電子回路の改良による広帯域・高ダイナミックレンジ化のため研究が順調に進められている。試作機の基本的な動作については性能の確認がされており、目標達成に向けて成果を挙げつつある。 |
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2 | 研究成果の実用性 | 広帯域化・高ダイナミックレンジ化などの目標が達成され、次世代の高感度地震観測網として採用されれば、実用性は高い。 ただし、実用化のためには、耐久性の向上などが要件となるが、この点についての検討が十分とは言えない。 |
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3 | 次世代技術・学術への貢献 | 地震計が完成し、実用化され、観測データが蓄積されるようになれば、広帯域地震観測・長周期地震動観測の精度を格段に向上させることができ、地震・防災研究に十分貢献するものと期待できる。 | |
4 | 情報発信 | 研究の性質上、情報発信が難しいのは理解できるが、成果の公表・情報発信が十分とは言えず、今後は、積極的に行っていくことが望まれる。 | |
5 | 進行管理 | 研究は順調に進行しているが、年次計画や性能向上の数値目標がはっきりしておらず、今後とも適切な業務管理が望まれる。 | |
6 | テーマ内及びテーマ間の連携状況 | 観測装置の性能向上という研究の性質上、連携が難しいテーマであるが、一層の努力を期待する。 | |
7 | 総合評価 | 概ね計画どおり地震計の開発が進められているが、研究の性質上、途中段階での評価が困難である。次世代における高感度地震観測網のための地震計開発として期待できる。 | 総合評価結果 |
◎(二重丸):1名 ○(丸):6名 △(三角):1名 ×(バツ):0名 利害関係者:4名 |
注)総合評価結果:
◎(二重丸): 大きな成果が期待できる研究である
○(丸): 一定の成果が期待できる研究である
△(三角): 所要の見直しを行えば成果が期待できる研究である
×(バツ): 所期の成果が期待できない研究である
評価項目 | コメント | ||
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1 | 目標達成度 | 日本海溝・千島海溝の海溝型地震を対象として、過去の地震記録を用いた地震活動の調査を行い、海溝型地震の長期評価・強震動評価等の精度向上を目指す。また過去の地震記録を体系的に整理し、それらを公開するためデータベースの作成を目標としている。 全国の大学などの古い地震記録のデータベース化に向けて順調に研究が進められており、また、それらを用いての過去の地震活動の調査も行われるなど、目標達成に向け着実に研究が進められている。 |
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2 | 研究成果の実用性 | 過去の地震活動を調査することは、地震・防災研究にとって基礎的・基盤的な研究であり、データベースが公開されれば、今後の地震調査研究等に大いに役に立つと期待できる。 | |
3 | 次世代技術・学術への貢献 | 過去の地震記録のデータベースが完成すれば、将来の地震研究に大いに貢献するものと期待できる。 過去の地震記録(スス書き・フィルム記録)が、観測点やセンサー特性などの情報を含めて一元的に得ることができる仕組みは、海溝型地震の長期評価・強震動評価等の精度向上に大きく貢献できるものと期待できる。 |
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4 | 情報発信 | これまでの情報発信は、十分とは言えず、今後、積極的な情報発信を行っていくことが望まれる。データベース完成後には、その情報発信が積極的になされることを期待する。 | |
5 | 進行管理 | 過去の地震記録の整理方法、データベースの仕様について、運営委員会で検討しながら、進められており適切である。 | |
6 | テーマ内及びテーマ間の連携状況 | 「より正確な地震活動を把握するための海底地震観測研究」で得られた成果を用いて、過去の地震活動の推定を行うなど、連携がなされているが、より一層の連携を図っていくことが期待される。 | |
7 | 総合評価 | 過去の地震の調査研究においては、重要な成果が得られ、また、過去の地震記録の復元・保存による地震観測資料のデータベース化という地震・防災研究において基礎的な調査研究であるが、重要な取組であり着実な成果が期待できる。 | 総合評価結果 |
◎(二重丸):4名 ○(丸):8名 △(三角):0名 ×(バツ):0名 |
注)総合評価結果:
◎(二重丸): 大きな成果が期待できる研究である
○(丸): 一定の成果が期待できる研究である
△(三角): 所要の見直しを行えば成果が期待できる研究である
×(バツ): 所期の成果が期待できない研究である
上田 博 | 名古屋大学地球水循環研究センター長 | ||
評価者 | 主査 | 岡田 恒男 | 財団法人日本建築防災協会理事長 |
評価者 | 岡田 義光 | 独立行政法人防災科学技術研究所理事長 | |
評価者 | 片山 恒雄 | 東京電機大学特別専任教授 | |
評価者 | 壁谷澤 寿海 | 東京大学地震研究所教授 | |
鎌田 桂子 | 神戸大学理学部助教授 | ||
評価者 | 亀田 弘行 | 京都大学名誉教授/独立行政法人防災科学技術研究所客員研究員 | |
河田 惠昭 | 京都大学防災研究所長 | ||
栗田 暢之 | 特定非営利活動法人レスキューストックヤード代表理事 | ||
評価者 | 佐藤 照子 | 独立行政法人防災科学技術研究所広報普及課長 | |
評価者 | 島崎 邦彦 | 東京大学地震研究所教授 | |
田所 諭 | 東北大学大学院情報科学研究科教授 | ||
田中 淳 | 東洋大学社会学部教授 | ||
土岐 憲三 | 立命館大学理工学部教授 | ||
評価者 | 中尾 正義 | 人間文化研究機構総合地球環境学研究所研究部教授 | |
永島 伊知郎 | 損害保険料率算出機構火災・地震保険部地震グループリーダー | ||
評価者 | 長棟 健二 | 兵庫県企画管理部防災企画局長 | |
評価者 | 林 春男 | 京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授 | |
評価者 | 古谷 尊彦 | 千葉大学名誉教授 | |
村上 ひとみ | 山口大学工学部助教授 | ||
評価者 | 渡辺 正幸 | 有限会社国際社会開発協力研究所代表取締役社長 |
-- 登録:平成21年以前 --