学校の取組例

茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校

 

GIGAスクール環境と1人1台端末を活用した

一人一人を大切にする授業づくり

 

 つくば市立みどりの学園義務教育学校(以下、みどりの学園)は、「Searching for the Better Future!」を学校教育目標に掲げ、「2040年の世界を変えるチェンジメーカーを育てる」ことを目指している。次世代で活躍をする子供たちの育成に向け、ICTやIoT、AI等を積極的に取り入れつつ、9年間の学びの連続性を生かして、日々の教育活動に取り組んでいる。
 また、みどりの学園では、よりよい学びが一人一人の子供が幸せな人生を送ることにつながるという理念のもと、「Well-beingな学び」という考え方を大切にしている。
 令和5年度は、文部科学省のリーディングDXスクール事業において、リーディングDXスクールに指定され、1人1台端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を十全に活用し、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた授業実践や校務DXによる働き方改革を目指した取組を行っている。
 今回は、これらの取組をみどりの学園で実現していくために必要不可欠となっている「GIGAスクール環境」とそれを活用した取組について紹介する。
 
- 1人1台端末を“日常的”に活用
- 校務でも活用
- 新たなチャレンジ
- 中等教育資料10月号

 

1人1台端末を“日常的”に活用

 みどりの学園には、「未来型アクティブラーニングPC教室」と名付けられた教室がある。その教室では、円卓にコンピュータが置かれている。つくば市では、約45年前からPC室には円卓を採用している。そこには、当時からコンピュータを用いた操作スキル等だけでなく、そこから得られる情報をもとに「対話」を広げることが大切であるという意識があり、1人1台端末が導入された今でも脈々と受け継がれている。また、「図書・メディア室」でも、豊富な図書だけでなく、端末を使い情報を得ることができるスペースがあり、多様な学びを支える環境が作られている。
 
円卓を使用した「未来型アクティブラーニングPC教室」(左)や、端末を使用することを想定したスペースのある「図書・メディア室」(右)など、子供たちの多様な学びを支える環境が作られている。
 
 また、汎用的なソフトウェアを活用することで、子供たちの学習活動に変化が起こってきている。例えば、これまでは連絡帳に書いていた内容を、グループウェアで子供たちに配信したり、その日のスケジュール等の情報を教師間で共有したりしている。さらに、様々な資料やデータのやりとりが、子供と教師、子供間、教師間それぞれで行われている。授業においても、学習で必要となる教材は授業開始前に教師から子供たちに共有されている。また、子供たちが共同編集をしたり、コメントを送り合ったりするために使用するソフトウェアのURLもグループウェアを活用し共有することでスムーズなやりとりが行われている。クラウドと汎用的なソフトウェアを活用することで、子供たちはいつでもどこでも自分自身の必要なタイミングで必要なデータにアクセスすることが可能になり、授業と家庭学習がシームレスに連携できている。
 ある理科の授業では、表計算ソフトがグループウェアで共有されており、子供たちは、実験から得られたデータをその表計算ソフト上でまとめていた。入力されたデータを使い、子供たちはグラフを作成し、そのグラフの特徴について考察していた。データをまとめる時に、「実験結果をまとめるのに何を使用したら良いと思うか。」と教師が子供たちに問うと、子供たちの方から「表計算ソフトを使用し、共同編集でまとめていけばよい。」と返答があったという。これは、まさに子供たち自身がそれぞれのソフトウェアの特徴を理解し、選択する判断ができていることを表すエピソードである。
 また、感染症が拡大した際の家庭科の授業では、学校で調理実習をすることが困難であったため、授業では必要な知識や手順を学び、実際の調理は各家庭で行った。その時の様子を、写真や文章を用いてプレゼンテーションソフトでまとめ、クラウド上で共有した。
 クラウド活用が「当たり前」の状態である、「クラウドバイデフォルト」であるからこそ、このような学習活動が可能となっている。
 
様々な情報やデータが共有されているグループウェアは、教師、子供ともに使用頻度がとても高い(左)。プレゼンテーションソフトにまとめる際には、写真や動画などのデータを貼り付けるなど、デジタルの強みを生かしている(右)。

 さらに、「日本最先端の先進的ICT教育」というみどりの学園が掲げる目標に向け、企業と適宜連携しながらプログラミング教育にも力を入れている。子供たちは、日常生活から生まれた身近な問題に対し、プログラミングによる解決に向け体験しながら学ぶという学習活動が行われている。その際、複数あるプログラミング教材の特性を、体験を通して理解し、課題解決の実現に向けて、別の教材でも試していた。このように、子供たちは試行錯誤を繰り返しながら、探究的に学習活動を進めていた。
 

 

校務でも活用

 校務においても、GIGAスクール構想下の環境を存分に活用している。例えば、これまで紙による申請が必要だった手続きを、クラウドを活用し、ペーパーレスで行えるように改善している。教職員は、アンケート機能を用いることで、出張の際の書類作成や出張後の報告までいつでもどこでも入力し、提出することができるようになった。
 さらに、休暇も同様に、アンケート機能を使い申請できるようにしている。その結果、申請にかかる時間や手間を大幅に削減できている。これは、事務職員が先頭に立ち、校務の中でクラウドを使って働き方改革を行った大きな成果である。みどりの学園では、100人を超える教職員が在籍しており、これらの改革は非常に効果があったが、このような取組は、どのような規模の学校においても、教職員の負担軽減につながるだろう。
 また、研修についても、グループウェアで共有された資料や動画を使い、オンデマンドで受講することが可能になっている。自分に必要なことを学び、必要なタイミングで自己研鑽できるようになっており、教師の学びの姿が、子供たちの学びと相似形になっている。
 
急に休暇の取得が必要になった場合も、アンケート機能を活用し自宅から入力することができる(左)。また、教職員全員で同じ時間、同じ場所で集まって研修するのではなく、グループや個人でタイミングを選んで研修を受けることができる(右)。

 

新たなチャレンジ

 「日本最先端の先進的ICT教育」の中には、生成AIをはじめとした、最新のテクノロジーを教育で活用することも含まれており、令和5年度は生成AIパイロット校として国の指定を受けるなど、みどりの学園は日々挑戦を続けている。例えば、メタバース空間を利用し、対面でのコミュニケーションとは違う視点のコミュニケーションスキルを高める活動を行っている。また、子供たちが将来的に生成AIを使い学習を進めていくことを見据え、生成AIの特徴や、生成AIを使用するときに必要な視点やスキルについて学ぶ機会を設けるなど、社会の変化をいち早く取り入れた学びにチャレンジしている。
 「Searching for the Better Future!」よりよい未来の創り手の育成を目指すみどりの学園の挑戦はこれからも続いていく。
 

 

中等教育資料10月号

以下、中等教育資料令和5年度10月号に掲載されたみどりの学園についての記事

 茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校(以下、みどりの学園)は、9学年を通して、「一人一人が幸せな人生を送る」という目標の達成に向け、ICTを活用した授業づくりを行っている。今回は、みどりの学園における1人1台端末を活用した授業の様子を、教師や生徒の言葉を基に紹介する。

〇一人一人の画面が違うことの意味
 9年生(中学校3年生)の教室では、外国語科の授業が行われていた。新出単語の意味を調べる場面において、どのような方法で調べるかは生徒に委ねられている。例えば、紙の辞書で調べる、翻訳サイトで調べる、さらに発音を音声で確認するなど、一人一人が調べ方を選択している。ある生徒は、「分からない単語があった時や、表現が本当に正しいのか不安なときに、音声を聞いたり、単語の意味を調べたりすることで、授業の中で生まれた疑問をすぐに解決できるので、私は1人1台端末を使っています。」と語る。
 
一人一人が異なる方法で調べられることは、学びやすさにつながる。知りたい内容や疑問点が一人一人異なることを踏まえれば、生徒自身が方法を選択できることは重要である。

 英文の内容を確認する場面では、学習者用デジタル教科書の読み上げ機能で音声を聞きながら、英文を声に出して読む活動を行った。音声を聞く際、英文を再生する間隔や速度を調整したり、文章の一部を隠したりするなど、生徒自身が自分の学習状況に合わせて再生方法等を選択した。
 
学習者用デジタル教科書の読み上げ機能を活用する際、一人一人に合った再生方法を選べるように教師が例示する(左)。学習内容と学び方をセットで指導することも必要である。教師は生徒の学習を見守り、適宜助言する(右)。

 個人でじっくり取り組んだ後、2人一組で英文を読み合った。ここでも、紙の教科書を使う生徒、学習者用デジタル教科書を使う生徒、と様々であった。教師の特別な指示がなくとも一人一人が学習方法を選択できることは非常に重要で、1人1台端末が日常的に使用されていることの証左に他ならない。

〇自ら学びを振り返る工夫
 授業の終末には、アンケート機能を用いて授業の振り返りを行った。授業者の別井教諭は、「この取組は単元を通して継続的に実施しています。入力できる枠が大きいので、字数制限も気にせず、思ったことをたくさん書けているようです。入力結果はエクセルシートに蓄積されていて、それを生徒に共有することで、自ら単元の学びを振り返ることができるように工夫しています。」と話す。
 様々な場面で自ら選択できる、一人一人の生徒が大切にされている授業から、「一人一人が幸せな人生を送る」という目標達成に向けた取組の一端を感じることができた。
 
振り返りの結果を蓄積し、それを生徒と共有することで、教師だけではなく、生徒も自らの学習状況を振り返ることが可能となり、次時以降の学びを自己調整することにつながる。
 
 
 
(文責:GIGA StuDX推進チーム)