有識者インタビュー

GIGAスクール構想×学級経営
(上越教育大学教職大学院 教授 赤坂真二 氏)



 1人1台端末とクラウド環境を活用し、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させる上で、児童生徒理解の視点や学級経営の視点は非常に重要です。
 今回は、GIGAスクール構想の環境下における「学級経営」について、上越教育大学教職大学院 赤坂真二教授に伺いました。(令和5年11月2日掲載)

 
○ 学級経営の充実
○ 子供同士の「対等な関係性」
○ 1人1台端末とクラウド環境を使う上でも重要な関係性
○ 1人1台端末活用や話合いの日常化


 

学級経営の充実

― 学習指導要領と学級経営はどのような関係にあるのでしょうか。
 現行の学習指導要領で私が大切だと感じるのは、ホームルーム機能への再注目です。これまでは、中学校や高等学校の学習指導要領には、学級(以下、ホームルームも含む)経営の「充実」に関する記載がありませんでしたが、現行の学習指導要領の総則に記載されたことにより、小・中・高等学校の12年間を通じた学級経営の充実がより重要になると考えています。
 では、学習指導要領には、学級経営全般について一体どのようなことが書かれているのでしょうか。簡単に言うと、「確かな児童生徒理解を基本に、ルールとリレーション(関係性)をもとに居場所を作ろう」ということです。現行の学習指導要領解説の総則編において、学級経営の「充実」の部分が具体化されたところに注目すると、その「充実」の部分は、「特別活動との連動」という観点で説明されています。現行の学習指導要領解説の特別活動編では、児童生徒の「自発的、自治的な活動を中心として学級経営の充実を図る」とされ、この主体的な取組を引き出すのが特別活動であり、その中における学級活動の大切さが整理されています。いわゆる「話合い活動」によって生活づくりをしながら、子供たちの自発的、自治的な活動を中心として学級経営の充実を図るということです。また、集団の質の高まりについての記載もあり、これまでは生徒指導の充実に紐付けられていましたが、学級経営の充実における学習集団の質の高まりに紐付けられたことが、これまでと比べて大きな変化だと思います。

 

子供同士の「対等な関係性」

― 「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」と学級経営の関係について教えてください。
 「個別最適な学び」という文言は、現場の教師の中で一人歩きしたような感覚が、私にはあります。GIGAスクール構想で初めてできた考え方のように捉え、端末を使って個別指導だけをやるというような誤った意味で受け止めた人が多かった印象です。
 以前、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」について、複数の現場の先生方にインタビューする機会がありました。
 子供の授業における学習の段階を、理解、習得、活用と整理すると、その前段に授業への参加があると思います。学級の子供たちが授業に参加できるようにしようと考えた時、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」がうまくいっている先生方は、子供たちの「関係性」に課題意識をおもちでした。さらに詳しく聞くと、どの先生からも、「対等な関係」という言葉が出てきました。そして、その「対等な関係」を支えているのは、教師の信念でした。つまり、「子供同士が対等な関係でないと対話が成り立たない」という信念をもっておられたのです。
 そして、もう一つ共通していたのは、社会で生きる力の育成を目指して、教科ごとに分断して考えるのではなく、カリキュラム全体を通して個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させようとしている点です。その先生方の授業構造は、二重の協働になっていました(図1)。まず、マクロの協働的な学びとして、学級が「みんなで高まろう」という一つのチームになっています。そして、そのもとに、ペアやグループ等のミクロの協働的な学びが成立します。例えば、授業の学習課題は共通で一つあるのですが、その課題に対する探究の過程は、子供たち一人一人違います。一人で黙々と進めたい子供も、複数人で話し合いながら進めたい子供もいます。また、中には、教師の周りに集まって学習したい子供もいるわけです。教室ではなく図書室等の別の場所で学習したい子供もいるかもしれません。「個別最適な学び」の最適とは何かというと、自分の学習の仕方を自分で選べる、問題解決の方法を自分で選べるということだと思います。すなわち、その時の子供たちの目的や状況次第でその協働の形は変わっていくということです。ですので、誰と学ぶか、どう学ぶかを自分で選択できることが大切だと思います。

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(図1)二重の協働

 インタビューをした先生方の学級では、ある時間になると教室に集まり、学びの共有が始まり、学習課題の達成状況をみんなで確認して授業が終わる、というようなことをされていました。学級担任をしている方の中には、この授業のように「緩やかな繋がりで、普段はバラバラでやっていても、まとまる時はがっちりまとまってほしい」という願いをもっている方はたくさんいるのではないでしょうか。
 特別な学校や学級ではないにも関わらず、インタビューをした先生方はそれを実現していたわけですが、どのように子供の一体感を育てたのかを尋ねてみると、共通していたのは、「みんなで問題解決する時間をもっている」ということでした。学級活動の時間を使って、自分たちの生活上の問題を話し合い、集団としてのアイデンティティやカルチャーを形成していました。その中で、合意形成や協力、意思決定等の技能を学んでいたのです。さらに、そういった「学び方」をカリキュラム全体で繰り返し学び、子供同士が対等に発言する経験を通して、子供たちは「対等な関係性」を学んでいたのでしょう。このようなことが、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」と学級経営の関係の一部ではないかなと思います(図2)。
 
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(図2)成功の循環

 さらに、インタビューをした先生方のお話を分析してみると、「人間にとって学習とは」ということの理解に共通性があり、「学習は個別には成り立たず、そもそも社会的な営みである」と考えていました。これは学習理論から見ると非常に真っ当な正しい見解で、そもそも学習は個別では成り立ちません。個別だけだと「作業」になります。要するに、「孤立した学び」ではいけない、ということです。子供の学習や発達は他者との協働の中で起こり、そこから内在化していくものが個人の力になっていくのだということを、インタビューをした先生方はそれぞれの言葉で語られていました。つまり、「環境によって子供たちは学ぶ」ということをきちんと理解されていました。その上で、問題解決の手順や方法を子供に指導しておられました。例えば、課題に対して、解決のための手続き、そのための援助要求スキル、人を助けるスキル等を指導されています。そして、それらを支えるのが、やはり「対等な関係」です。人間関係に上下を持ち込まないということを徹底して指導されており、人間関係について、競争ではなく、信頼と尊敬に基づく関係性の大切さを子供たちに語っていたことも共通していました。

 

1人1台端末とクラウド環境を使う上でも重要な関係性

― 1人1台端末を使った授業を行う上で学級経営の観点からポイントを教えてください。
 授業においてICTは、興味を引く課題提示や資料提示ができたり、視覚・聴覚等を活用した理解の促進ができたりする等、これまでも有効に使用されてきました。色・音・立体感等についても非常に効果がある場合があります。そして、今は1人1台端末があるので、一人一人の好奇心に合わせた学習のサポートができます。例えば、なかなか手先が上手く動かせず思ったような文字が書けない子供が、手書き入力の文字修正機能によって文章が書けるようになったという事例もあります。この時、自分の力で文章を書けた、つまり、自己決定できたということがその子供にとって自己有用感を高めることに繋がったと思います。
 また、1人1台端末を活用すると、資料や意見が共有しやすく、アンケート機能を使えば、振り返りの場面で瞬時に意見が集約できる等、多様なアイデアの創造、議論の活性化に繋がることが期待できます。クラウド環境を使えるようになって、いつでも友達の意見が見られたり、いつでも共有したりできるようになりましたが、そもそも意見を伝え合えるような関係性がなかったら難しいことだと思います。クラウドを使うと、全部の意見が一気に可視化されます。これまでのノートにだけ書いている時代だったら、意見を言いたくない子供は黙っていたわけです。しかし、共同編集をしていたら、一瞬で共有されます。そういう意味では、関係性が良くないと、自分の思っていることが書けません。1人1台端末とクラウド環境を活用した授業が成り立つ上で大事なのは、子供同士の関係性だと思います。

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 その上で、私がいいなと思っているのは、話合いでの端末活用です。これまでの話合い活動では、子供たちが話し合っている実際の姿や子供たちの考えを記録に残しにくいという弱点がありました。
 しかし、子供たちが話し合っている様子を教師が写真に撮り、大型提示装置の画面に映すことで、「今日はみんなのこんな姿が見えたよ」と意味付けをしながらフィードバックすることができます。これは、教師が端末を使う大きなメリットの一つです。また、子供たち自身が話し合った内容をクラウド上に保存しておくと、一覧にしてお互いに参照し合ったり、年間を通して考えの過程を振り返ったりすることも可能です。今後は、その考えの記録をAIで分析すれば、その子供がどういう傾向のある発言をしているかということも分かってくるかもしれません。そういう意味でも、考えの記録が残っていることの価値は大きいと思います。児童生徒理解という面でも、私は端末活用に高い可能性を感じています。
 その他にも、今のこの時代の可能性で言えば、オンラインで繋がれるということも重要だと感じています。例えば、学級の問題を話し合う時間に、様々な事情で学校に来ることができない子供がいた場合、その子供が「参加したい」となったときにオンラインで繋げば参加することができます。その時、同じ学級の子供が、休んでいる子供にもできれば参加してほしいと思えたり、休んでいる子供自身も元気であれば参加したいと思えたりする子供同士の関係性も、もちろん大切です。

 

1人1台端末活用や話合いの日常化

― 1人1台端末を活用できていない方が一歩を踏みだすために、どのようなことが必要でしょうか。
 端末や新しく入ってきたものを使う時にいくつか壁があると思うのですが、学級経営と絡めて考えてみます。学級の秩序の未定着と、端末等の「新しいモノ」に対する「分からなさ」が、子供への不信感に繋がり、子供への不信感が管理強化や過度な使用制限のような発想を招いてしまいます。すると、使用機会が減少し、使用機会が少ないから不適切な使用に留まる子供がいて、そのままでは秩序が未定着な状態なので、さらに使用機会が減少するというサイクルが見られます(図3)。逆に、端末をまずは使ってみて、使用頻度を上げている自治体では、サイクルが好循環し、教師のマインドセットが変わり、子供たちにもどんどん使わせようという方向になっている例もあります。それが、自治体による端末の使用頻度の差がかなり大きく開いている原因の一つではないでしょうか。これは学級の秩序の問題なのです。端末の向こう側のインターネットの世界には、教師や教科書すら超える内容やスキルがあるわけです。そのようなものがどんどん教室に入ってくることに対する不安が、安易な管理強化や過度な使用制限に繋がり、知識やスキルの未学習の状態が続いてしまい、さらにトラブルが増加するという流れを生みます。この流れは、必ずどこかで止めなければなりません。
 
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(図3)端末使用の壁

 実際に学術研究では、荒れた学級と通常の状態の学級の規範意識を調べてみたところ、実は有意差がないということが分かっています。ではどこに違いが出たかというと、荒れた学級では、クラスメイトの規範意識を低く評価していたということでした。つまり、荒れた学級では、周りの人のことを「ダメな人」だと思っている、ということです。ですので、何か問題が起こった時に、問題行動を助長したり、または仲裁行動をしなかったりします。だから、余計学級が荒れます。反対に、「私の学級は、みんなルールを守ろうとしている」と認識した場合は、子供たちの行動が変わるということも分かっています。「私の学級の人たちは、規範意識が高い」と思っている学級にいると、たとえ問題行動があっても、「やめなよ」というブレーキがかかる、というわけです。ですので、集団を正常化するためには、仲間の規範意識を高く認知することが必要です(図4)。そのためには、問題が起こった際に、「逃げないで話し合う」ことが重要です。お互いがこの状況をどう思っているか、お互いの考えを示し「知り合う機会」を作る必要があります。つまり、空気を読み合う関係から、議論し合う関係を作っていくということです。端末を使って何か問題が起こった時、「使わせない」と教師が判断するのではなくて、子供たちと向き合い、適切な使い方を話し合っていくことが大切です。教室で生き物を飼おうと思ったら、飼い方をみんなで話し合いますよね。あんまり触ったらいけないとか、餌をやりすぎちゃいけないとか、注意点を確認するのと同じように、教室に新しいものが導入されたら、みんなでその使い方について話し合うべきです。子供たち自身は、非常に真っ当な問題意識や規範意識をもっているので、子供たちを信頼して、端末活用の注意点についても子供たちと議論する場をもつべきだと思います。
 端末の活用は、「今から端末を出していいよ」と教師が決めるのではなく、子供が自分で判断できるようにしていく必要があると思います。それが端末の「日常的な活用」だと思います。そういう状況がまだ心配な様子であれば、子供たちとそのことについてきちんと議論することが大切です。全て教師が決めようとするから、いろんなことにブレーキをかけてしまうのだと思います。大事なことは、子供自身が端末とどう向き合っていくかを考えるということです。
 そして、その話合い自体も、もっと日常的に、当たり前にしていく必要があります。話合いも端末活用も、ある意味では同じです。特別なイベントではなく、日常化していくことが大切なのです。
 これから日常的に端末とクラウド環境を活用した授業を進めていくということは、自分では思いつかなかった意見や、同じグループのメンバーだけでは思いつかなかった意見を、お互いに受け取り合うということです。そのような授業は、自ら情報を発信し、それを受け取る側がいて初めて成立します。主体性には、「こういうことをしたい」という自己実現欲求と、「あなたの考え、いいね」と言ってもらえる他者受容感によって育つという、二つの側面があります。ですから、子供主体の学習を成立させようと思うと、やはり関係性を育むことが大切です。これは大原則だと思いますので、子供たちの関係性がさらに深まることで1人1台端末の可能性はどんどん広がっていくのではないでしょうか。
 
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(図4)議論する機会を通して、仲間の規範意識を認知する