学校の取組例

山形県米沢市立塩井小学校

「自走する学び」を創り出す学校DXの好循環
~校務・研修の変革が拓く、子供主体の授業風景~

【初等教育資料 令和8年7月号記事】 文責:山形県米沢市教育委員会教育指導部長 落合篤
(令和8年7月22日掲載)

はじめに

本稿は、昨年度まで勤務していた山形県米沢市立塩井小学校での実践をまとめたものである。
山形県米沢市北部の田園地帯に位置し、南に雄大な吾妻連峰を仰ぐ本校は「自分をみがこう! ともにのびよう! 塩井の子ども」という学校教育目標を掲げ、88名の子供の主体性を育む教育活動を展開している。また、昨年度はリーディングDXスクール事業認定校として、デジタル学習基盤を必要不可欠な「学びの基盤」として捉え、研究主題を「考動力を発揮し、学びを愉しむ児童の育成―主体的・対話的で深い学びにつなげるICTの活用―」とし、子供が「自走する学び」を目指し、日々授業改善に取り組んできた。

授業DXを支える「土台」の整備柱

授業の在り方を変えるには、まずは教師が働く環境と学び続ける姿勢を変える必要があった。本校ではDXによる校務の効率化が授業の質的向上へ好循環を生み出す仕組みを構築している。
その核となるのが、クラウドを活用した情報の一元管理である。行事予定や会議資料、授業時数などのデータをクラウド上に集約し、あらゆる情報にいつでも・どこでもアクセス可能となった。
また、教師間の連絡等はチャットを活用することで、会議や打ち合わせの時間を大幅に短縮した。その結果、教師が子供との対話や教材研究に注力できる時間が増加した。さらに、教師の研修にもチャットを活用し、参加した研修会や授業参観等での学びを各自が投稿している。
他にも、学習に活用している各種ツールの活用法が職員室の話題となることも多く見られ、日常的に教師同士が刺激し合う文化が醸成された。
校務や研修のDXは、教師の時間的な余白を生み出し、クラウドの有用性を体感する貴重な機会となった。教師自らが日常的にICTを使いこなす「当事者」へと変わったことで、ツールへの習熟度が自然に高まり、それが本校の授業のDXを支える強力な土台となっている。

キーボード入力が変えた「思考の解像度」

本校では、全校体制でキーボード入力検定に挑戦している。昨年度は全校児童の半数以上が最高位に到達する等、タイピングスキルの向上につながっている。
キーボード入力検定の掲示板
キーボード入力検定の掲示板
これにより、子供のアウトプットの質が大きく向上した。文字入力が思考の速度に追いついたことで、子供は文を書くことを苦にしなくなり、書きながらよく考える姿が見られるようになったのである。例えば、授業の振り返りをクラウド上のシートに詳しく綴つづり、自分の学びをメタ認知する姿がどの学級でも見られるようになった。入力スキルの向上が、子供の「思考の解像度」を上げることに大きく寄与している。

本質的な「学びの変容」と自走する子供

校務・研修で培った教師のスキルと、キーボード入力検定で鍛えられた子供のスキル。これらを融合しながら授業改善したことで、教室には本質的な「主体的・対話的で深い学び」の景色が広がり始めた。最大の成果は「指導の個別化」と「自己調整力の向上」である。本校の多くの授業では、単元のゴールや学びの進め方、資料へのリンクや個々の学習活動を可視化したホワイトボードソフトをクラウド上で共有し活用している。子供は自分の興味や課題意識に基づき、学ぶ順番や方法(何を使うか、誰と学ぶか等)を選択して進めていく。これにより、教師に指示されて動く受動的な姿ではなく、自らめあてを立て、端末を自在に活用しながら進捗を管理・調整し、必要に応じ他者と協働する「自走する学習者」としての子供の姿が定着し始めた。
学級全員の学びを共有
学級全員の学びを共有
また、使用しているホワイトボードソフトは、個々の思考を可視化し、瞬時に共有・比較するための「対話の場」となる。子供にとって、友達の考えを参考にできる他者参照は、自分の思考を深めるための手段として日常化している。低学年が算数科で図形の特徴を友達と見比べたり、高学年が体育科で作戦を動画分析に基づいて練り上げたりする等、デジタル学習基盤があるからこそ実現した、質の高い協働的な学びが展開されている。
対話しながら考えを深める
対話しながら考えを深める
このようなホワイトボードソフト活用により、授業中の教師の役割は知識の伝達者から「学びの伴走者」へと進化した。子供が自走する際には、教師は黒板の前から子供の傍へと立ち位置を変え、一人一人の進捗や表情を丁寧に見取ることに注力できるようになった。個別の状況に応じた的確な支援や、思考を更に揺さぶる問い掛け等、ICT活用は「個に寄り添う指導の充実」をもたらしたのである。

おわりに

校務や研修のDXが授業改善を支える土台となり、日常の授業風景が変わり始めた今、私たち教師には、これまで以上に高度な「指導性」が問われている。校務の効率化によって生み出された時間的・精神的なゆとりを、深い教材研究や確かな子供理解のための時間に充て、更に個に寄り添う指導の充実を図っていかなければならない。今後も、デジタルとリアルのよさを融合させながら、子供も教師も共に「学びを愉しむ」学校で在り続けたい。
(監修:GIGA StuDX推進チーム)