学校の取組例

神奈川県川崎市立南河原小学校

やってみることが大きな変化につながる
~挑戦し続ける集団が新しい道を切り拓く~

【初等教育資料 令和7年12月号記事】(文責:校長 宝谷拓之)
(令和7年12月17日掲載)

扉は開け放たれた

私が着任した令和4年度、前年度に1人1台整備された端末は、子供に学習資料を共有する用途が主で、それ以外では活躍の場が多いとは言えない状況だった。令和5年度、域内の中学校が市内GIGAスクール構想推進校であることが縁で、本校もリーディングDXスクール指定校となった。何をどうすればよいのか前途多難な状況ではあったが、親身になって伴走支援してくれる担当指導主事と、意を決した研究主任、そして何よりもやると決めたら前へと進む教師集団が、この後大きな化学変化をもたらした。

「見る」→「授業」→「見られる」のサイクルを大切に

どのように端末を活用した授業を展開すればよいのかを実感できたのは、先進校への視察であった。ここでは「見る」ことの重要性を感じた。また、リーディングDXスクール指定校として授業を見ていただく機会も増えた。そこで感じたのは、教師は「見られる」ことで授業のねらいや活動が明確となり、授業力が向上することだった。視察や動画、各々で受けた研修の内容は全員で共有した。校内の教師間での授業参観はもちろんのこと、見聞きしたことは必ず自分のクラスで実践する。実践した授業はできる限り見てもらう。「見る」→「授業」→「見られる」のサイクルを繰り返していくことで、自ずと授業力は向上していった。
授業参観の教室の様子
多くの方に授業を見てもらう

授業と校務の双方向から

デジタル学習基盤の活用に不慣れだった教師が、授業でいきなり使用を試みるのは、あまりにも無理があった。そのような中で、お世話になった有識者の先生から「授業と校務は相似形」ということを教わった。そこで、できることから徐々に活用し、教職員相互に情報交換しながらよりよい方法を見いだしていった。校務利用でよかった点は授業にもフィードバックした。逆もまた然りである。教師が校務でデジタル学習基盤を使いこなすことで、授業も自ずと改善されていく。授業から得た利点を校務に生かし効率化を図っていく。まさに前述のとおり授業と校務は相似形である。チャットを活用することで、資料共有が容易となり会議の数も削減されていった。一方で、長年ファイルやフォルダでの管理に慣れてきた教師にとっては、必要な情報が一元管理されていた方が使いやすいという声も出てきた。この声に反応したのが当時の教務主任だった。担当指導主事からのサポートを得ながら、校内ポータルサイトの立ち上げに一から取り組んだ。やがてはここからも卒業し、各種データをURLで共有する感覚が身に付いていくものと考える。

ゼロからのスタートから2年を経て

生徒の学習画面のキャプチャ
クラウドを活用し、子供一人一人が自ら学習を進める
1年目はとにかく必死に、教師も子供も新しい学びの形を吸収していった。子供一人一人が自ら学習を進め、友達と対話しながら学べるようになった。
しかし、ここで教師から疑問の声が上がった。
「これで教科等の学びは深まっているのか?」
初任者でも端末とクラウドを活用した授業を展開できるようになってきた。しかしその一方で、「端末を使うことがただの作業になっていないか?」、「『形』ではなく『本質』を追究しなくては」と私も同様に感じていた。
「各教科等の単元のねらいを達成するために、教科等の見方・考え方を働かせ、端末とクラウドを活用した授業を展開していこう」
これが2年目の研究テーマとなった。改めて端末とクラウド活用の利点も見えてきた。教師が子供一人一人を細かく見取れるようになり、子供間でも「見る」「見られる」の関係ができ、協働的な学びが定着した。さらに、教師の的確な問い返しにより、正しい方向に正しい方法で進むようになった。「みんなで学ぶ授業」から「みんなが学ぶ授業」へと転換していった。2年目も終わりへと差し掛かる頃、またもやある疑問が生じた。
「教科等の隔たりなく、基盤となるスキルがあるのではないか?」
そんな矢先、次年度のリーディングDXスクール指定校選定に当たり、情報活用能力育成を目的とした教科を、特例として教育課程編成できる研究開発学校の指定を文部科学省に申請できるお話をいただいた。端末とクラウド活用により、授業も効率的に進み、新たな時間を創出することもできた。そこに、子供一人一人が基盤となるスキルを習得することで、学習展開は更なるスピードを増すのではないかと考えた。大きなチャレンジではあったが、実践することでここまで進んできた経緯を考えれば、悩むよりもやってみる方向に大きく舵は切られた。各教科等から年間35時間分を捻出し、教科名を「学び方」と命名し、今年、3年目の船出を迎えた。「学び方」の時間で学んだことを意識し、各教科等の学習に活かしていった。
協働する生徒の姿
協働的な学びの充実

やってみなはれ!

「どうすれば、端末活用が進むのか?」
最近このような質問を受けることが多い。2年前の春、私が一番聞きたかった内容だ。この質問に対しては、とてもおこがましくて回答できない。ただ、今回の執筆に当たり、本コーナーの趣旨である、地域間格差解消に向けて全国的な取組の加速につなげる内容となるよう、これまでに感じたことをお伝えできればと思う。まずは本物に触れる・見るということだ。この新しい学習スタイルは、実際に間近で見て諸感覚で感じることが大切だと思う。先進校への視察がベストだが、無理な場合でも動画の視聴をお勧めしたい。あとは、とにかくやってみることである。端末利用に疑問を呈する方もいると思うが、やる前に判断せず、是非やってみてから判断することをお勧めする。何の知識も経験もない学校がここまで進んでこられたのは、繰り返し挑戦し続けてきた結果だと思う。
(監修:GIGA StuDX推進チーム)