株式会社スタイル・エッジ
奨学金を支給し、次世代のパラアスリートを育てる

●代表がパラアスリートと出会ったのが障害者スポーツ支援のきっかけ

株式会社スタイル・エッジが障害者スポーツ支援に取り組み始めたのは、2015年5月。同社代表取締役の金弘厚雄氏がパラアスリートと出会い、交流を続けてきたのがきっかけである。そのアスリートとは、視覚障害者柔道の初瀬勇輔選手。

初瀬選手は、1980年生まれで、現在39歳。弁護士を目指していた19歳の浪人1年目の時に、若年性緑内障を患い右目の視力のほとんどを失った。そして、23歳の大学2年生の時には左目の視力も喪失。

視覚障害者となり、今までの生活は一変した。初瀬選手は失意のどん底まで落ち込み、「これまでの人生23年間で積み上げてきたものが、全部無駄になった」と感じたそうだ。

しかし、初瀬選手は悲しみに打ちひしがれてはいなかった。中学から高校までの6年間打ち込んでいた柔道を再開したのだ。最初は、目が見えずに戦う怖さがあり、練習のみだった。しかし、ある日、障害者柔道連盟の方から大会へ出場しないかと誘われ、勇気を振り絞って出場。見事優勝を手にした。 その後も初瀬選手は練習に励み、2005年~2013年にわたり、全日本視覚障害者柔道大会で、90kg級、81kg級合わせて9回の優勝を飾った。さらに、2008年には北京パラリンピックへ出場を果たした。そして、現在も東京パラリンピックへの出場をめざして、練習を続けている。

2010年広州アジアパラ競技大会で金メダルを獲得
2010年広州アジアパラ競技大会で金メダルを獲得
2007年IBSA柔道世界選手権大会ブラジル大会
2007年IBSA柔道世界選手権大会ブラジル大会
2018年12月全日本視覚障害者柔道大会部
2018年12月全日本視覚障害者柔道大会

●起業家経営者とアスリートの二刀流

同社は初瀬選手を雇用し、初瀬選手に対し、遠征費、合宿費、旅費などの経済的な支援を行っている。なお、雇用といっても初瀬選手は、一般社員ではなくグループ会社である株式会社スタイル・エッジMEDICALの代表取締役のポジションが与えられている。この点が、他社とは異なり、ユニークな点だ。 スタイル・エッジMEDICALは、企業に対する健康経営のサポート事業として、嘱託産業医の紹介や衛生委員会の立ち上げ、マッサージ師やトレーナーなどの派遣、そしてオリンピアンやパラリンピアンによる各種健康増進イベントの企画・運営などを展開している。

また、初瀬選手は他にも株式会社ユニバーサルスタイルの代表取締役も務めている。こちらの会社では「ユニバーサルな社会を創る」ことを理念に掲げ、障害者雇用についてのコンサルティングや障害者の人材紹介などを通じて、障害者の社会進出を支援している。

初瀬選手は、会社経営をはじめ、講演やセミナーの講師をつとめながら、障害者と健常者の垣根をなくしていきたいと考えている。 このような活動を通じて、初瀬選手は社会での居場所を見出し、自分自身の存在価値を認識したという。

講演する初瀬選手
「日本におけるモスクワ市文化の日」と題した講演会(マンダリンオリエンタル東京にて)
講演する初瀬選手
「日本におけるモスクワ市文化の日」と題した講演会(マンダリンオリエンタル東京にて)

●奨学金の給付に協賛・協力して次世代アスリートを育成

スタイル・エッジは、一般社団法人日本パラリンピアンズ協会が創設した「ネクストパラアスリートスカラーシップ(略称NPAS=エヌパス)」に創設から協賛・協力している。

NPASは、パラリンピックへの出場をめざすアスリートの育成を目的とした給付型の奨学金制度である。次世代のパラアスリートを育成し、長期的な視野に立って支援するのが目的である。 応募資格は、以下の1)、2)の両方を満たし、3-1)、3-2)のいずれにも該当することである。

  • 1)パラリンピックに出場する意欲があり、かつ社会のリーダーとして活躍していく強い意志があること
  • 2)日本国籍を有し、パラリンピックの出場をめざしている競技で、クラス分けに該当する障害があること
  • 3-1)夏季・冬季、競技を問わず、これまでパラリンピックの出場経験がないこと
  • 3-2)学校(小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、大学院、 高等専門学校、専修学校・各種学校)の正規課程に所属していること

奨学生には、年間50万円の奨学金が支払われる。また、日本パラリンピアンズ協会が実施する各種勉強会への参加が可能となり、日本パラリンピアンズ協会の理事(パラリンピアン)に相談することもできる。

NPASは、東京パラリンピック後も、長期的に継続される予定だ。 2017年12月、第1期生の授与式が行われ、メディアに取り上げられた。それにより、同社がNPASに協賛・協力していることが広く告知され、障害者スポーツ支援の活動が高く評価された。

同時に、社内的にも従業員が障害者スポーツ支援活動を知り、障害者スポーツに対する理解が深まった。学生をはじめ中途入社を志望する求職者からも高評価を得ており、リクルート活動全般にも好影響が出ている。

2019年度ネクストパラアスリートスカラーシップ(NPAS) 授与式
2019年度ネクストパラアスリートスカラーシップ(NPAS) 授与式

●パラリンピックの先にある共生社会の実現をめざす

同社は、ビジョン(企業理念)「80億の人生に彩りを。」、ミッション「悩む人の明日をひらく。」を掲げている。事業を通じて人々の知識格差をなくし、社会的弱者のいない世の中を目指し、1人でも多くの人が安心して暮らせる、豊かな社会をつくる、といった想いが込められている。 そうしたビジョン、ミッションが障害者スポーツ支援においても貫かれている。障害者が何に悩んでいるのか、困っているのかを知るために、障害者と触れ合い、コミュニケーションすることを重視している。

トラブルを抱える人を助け、様々な社会問題を解決し、より良い社会を築くことが、同社の基本方針である。障害者支援はその一環であり、共生社会の実現に目を向けている。パラリンピックをきっかけに、どのように共生社会を築くかを考えながら、長期的な視野に立って、障害者スポーツ支援に取り組んでいく計画である。