目に関わる会社の強みを生かし、
スポーツを通じて目の社会課題解決につなげる

■参天製薬の視覚障がい者スポーツ支援

参天製薬は、眼科に特化したスペシャリティ・カンパニーとして、患者と患者を愛する人たちを中心に、社会へ寄与することを基本理念に掲げている。基本理念の実践の一環として、社会の眼疾患への理解、関心を高めるとともに、従業員に患者視点の意識を醸成することを目的に、視覚障がい者スポーツを支援している。視覚障がい者スポーツの支援を通じて、眼疾患がある方や家族をはじめ、全ての方々の夢や希望を応援するために取り組んでいる。

●NPO法人日本ブラインドサッカー協会(JBFA)とのパートナーシップ

同社は、NPO法人日本ブラインドサッカー協会(以下、「JBFA」という)のビジョン「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」および、ミッション「ブラインドサッカーに携わるものが、障害の有無にかかわらず、生きがいを持って生きることに貢献すること」に共感し、2017年3月、パートナーシップ契約を締結した。ブラインドサッカー男子日本代表および女子日本代表のスポンサーをはじめ、運動する機会が少ない視覚に障がいがある子どもたちがスポーツに触れ、取り組むきっかけとなる活動である「ブラサカキッズキャンプ(関西)」、小・中学校向けダイバーシティ教育プログラムである「スポ育」のパートナーとなり、JBFAの活動をサポートしている。

ブラインドサッカーは、団体競技であり、チーム内に視覚障がい者と晴眼者が協力し合い勝利を目指すという競技特性がある。また、サッカーは多くの国でプレーされており、たくさんの人の応援を得やすいスポーツであるため、多くの人々が、視覚障がいを身近に感じるとともに、目の健康への関心も高めてもらうことを期待している。

パートナーシップ締結後は、日本国内のみならずグローバルな大会にも支援を開始した。2019年には、タイのパタヤで開催されたブラインドサッカーの国際大会、IBSAブラインドサッカーアジア選手権2019に協賛した。本大会では、現地の視覚障がい児童のブラインドサッカー体験会が開催され、アジア地域各国から同社の従業員がボランティアとして参加した。

児童向けブラインドサッカー体験会(提供:日本ブラインドサッカー協会)
児童向けブラインドサッカー体験会
(提供:日本ブラインドサッカー協会)
ブラインドサッカーアジア選手権の試合 提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄
ブラインドサッカーアジア選手権の試合
(提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄)

●視覚障がい児スポーツ支援

視覚障がい児の運動能力やコミュニケーション能力の向上をはじめ、自律的な意識とリーダーシップの醸成を目的に、同社は視覚障がい児向けのスポーツ支援を行っている。視覚障がい児の運動能力は、視覚障がいのない児童の6割程度と言われており、その原因の一つに、安心して運動できる環境が整備されていないことが挙げられている。普通学級に通う児童の場合、同様の障がいのある児童や、障がいへの理解を示す児童が周りにいないことも多く、チームスポーツを行うことはさらに難しい環境にある。同社は、JBFAが開催する以下の活動に、従業員がボランティアで参加するなどの支援を行っている。

  • ・視覚障がい児が保護者と離れスポーツに触れることで自律心を育てる「ブラサカキッズキャンプ」や「ブラサカ・キッズトレーニング」
  • ・次世代を担うブラインドサッカー選手の早期育成・強化、リーダーシップの醸成を目的とした「ジュニアトレーニングキャンプ」

参加した児童のなかには、現在地元のブラインドサッカーチームのリーダー的な存在として活躍している子どももいるそうだ。 また、これらのイベントは、参加児童の保護者同士をつなぐ機会にもなっている。子育てにおける苦労や悩みといった共通点を抱える保護者同士がコミュニケーションをとり、知恵を出し合いながら、困りごとへの対応を共有し、日常生活で感じている不安を取り除く機会になっているようだ。また、この取組みについての情報が保護者間で口コミで広がり、参加児童も年々増加している。保護者からは、「障がいがある子どもにとって、集団の中に身を置き、他の児童とコミュニケーションを取りながら、自ら考え行動するという経験は、子ども自身の今後の人生に強く影響を与えるものとなるでしょう」と、心温まるお言葉もあったそうだ。 

参加した従業員からは、「自分の仕事が社会にどう役に立つのか考え直し、モチベーションを上げる機会になった」「目に関わる企業としての理念や社会的責任を再確認できた」「より一層、患者さんや患者さんを愛する人々に貢献したいと強く思った」といった声もあり、企業理念を再確認する機会となっている。

キッズキャンプに参加した子どもたちとボランティアの従業員(提供:日本ブラインドサッカー協会)
キッズキャンプに参加した子どもたちとボランティアの従業員
(提供:日本ブラインドサッカー協会)
キッズキャンプでサッカーを楽しむ子どもたち(提供:日本ブラインドサッカー協会
キッズキャンプでサッカーを楽しむ子どもたち
(提供:日本ブラインドサッカー協会)

●視覚障がい者アスリート雇用とBlind Experience(見えない体験)の展開

同社は、2019年7月より視覚障がい者のアスリート雇用を開始した。2020年3月現在、2名のブラインドサッカーのアスリートが活躍している。主な業務は、視覚の大切さや視覚障がいに関する理解促進を目的とした社内外での講演会および体験会での講演である。行政機関、教育現場、企業など、さまざまな対象かつ幅広い年齢層に対して、講演会を実施している。社内では、目の社会課題を解決するという会社の存在意義を、従業員に再認識する機会を提供している。

視覚障がい者アスリート雇用を機に、パソコンのスクリーンリーダーソフトや、視覚障がい者用ソフトが充実しているiPhoneの準備など、働きやすい環境を整備した。業務上、出張を伴うことも多いため、視覚障がい者にとって困難と考えられる移動に関しても、安全に移動出来るよう、事前に経路を確認し、必要に応じて同行するなどの配慮をしている。またアスリートは、目の社会課題の解決につながるさまざまな実行策の企画立案等の業務も担っている。

小学校向け体験会で児童に講演するアスリート (提供:日本ブラインドサッカー協会)
小学校向け体験会で児童に講演するアスリート
(提供:日本ブラインドサッカー協会)

●視覚障がい者の支援を通じた、ダイバーシティ&インクルージョンの推進

視覚障がい者スポーツ支援は、視覚障がい者のみならず、晴眼者の視覚障がいへの関心を高め、理解の促進にもつながっている。また、地元のチームの応援や、競技に詳しくなるなど、ブラインドサッカーは、社会での視覚障がい者との関わり方を学ぶきっかけにもなっている。例えば、上述の「ジュニアトレーニングキャンプ」では、視覚障がい児童のチームと晴眼児童のチームが試合をした際、お互いが自然とコミュニケーションをとり、試合を共に観戦する場面が見られた。

視覚障がい者アスリートが、講師として教育現場に体験授業を行った際にも、はじめは視覚障がい者である講師への接し方が分からず躊躇している子どもたちも、授業が終わると講師に寄って行き、移動支援を自ら買って出るなど、子どもたちの行動の変化が見られるという。このような行動の変化が社会全体に広がり、視覚障がい者と晴眼者が混じり合い、いきいきと共生できる社会に変わっていくことを、参天製薬は目指している。

大勢の子どもたちが参加したキッズキャンプ(提供:日本ブラインドサッカー協会)
大勢の子どもたちが参加したキッズキャンプ
(提供:日本ブラインドサッカー協会)