●経営企画部にスポーツチームをつくり、障がい者スポーツ支援を開始
あいおいニッセイ同和損害保険は、2014年4月、本社経営企画部にスポーツチームを組成し、スポーツ支援を本格的に開始した。 当時、車いすバスケットボール日本代表選手らにヒアリングしたところ、約60%の選手が自動車事故により車いす生活を余儀なくされたという。そうした背景から交通事故による被害者の自立支援につなげようと、障がい者スポーツ支援から始めた。 現在では、障がいの壁なく取組みを実施している。
今でこそ、全社一体となった取組みとなっているが、地方の拠点に勤務する社員からは、“地方ではスポーツ大会は少ないから応援しづらい”“趣旨はわかるが忙しくて動けない”といった声があがった時期があった。 経営企画部スポーツチームは、全国に足を運び、現地の支店長らと会話を続けた。大会応援を地方の県大会まで拡大したり、所属アスリートを派遣し、講演会を企画したりするなど、あの手この手で全国の社員を巻き込む活動を実施した。約3年かかったが、現在では、首都圏と地方の社員の温度差はかなり解消できたという。
●取り組みの柱は“大会応援”~「見て、感じて、考える」応援が社内の一体感を生む~
同社が大会応援を開始した2014年当時、障がい者スポーツの観客席はガラガラだった。この状態をみた経営企画部スポーツチームは、まずは大会応援を実施しようと決意し、こまめに社内に向けて情報を発信し続けた。無理強いせず、「応援したいときに観戦すればいい」と敷居を低くしたこと、またボランティアとして参加する意識を醸成する取組みが功を奏して参加者が増加した。 直近2年間の実績は、次の通りである。
・主要大会観戦 | (2018年度)年間27大会 | (2019年度)年間22大会 |
・県大会運営ボランティア | (2018年度)年間11大会 | (2019年度)年間8大会 |
大会応援の際、コーポレートカラーのビブを着用して、同じ応援グッズを用いて参加者全員で応援している。 所属アスリートを応援することで社内の一体感が醸成されていることが社員アンケートなどで明らかになっている。多くの社員は、障がい者アスリートを応援し、彼らが競技に打ち込んでいる姿を見ることで、自分に置き換えて考え、仕事に取り組むモチベーションの向上につなげている。 一方、社員による熱い応援はアスリートにも伝わり、“応援が力になっている”という。所属アスリートが試合後に同社の応援席を訪れ、応援してくれた社員との交流を図る光景がしばしば見られる。
●アスリート雇用も進展 ~アスリートの活躍が社員の士気を高める~
同社は、2015年からアスリート雇用を開始した。所属するアスリートは20名にも及ぶ(2020年3月現在)。
特徴的なことは、そのうち14名が障がい者アスリートという点だ。オリンピック、パラリンピック、デフリンピックなどの日本代表選手から地域で頑張っているアスリートまで全国の拠点に配属されている。
同社は、アスリートを採用するにあたり、以下のような方針をとっている。
●アスリートによる社会活動 ~自治体と連携した地域貢献~
同社は、2017年より自治体と連携してスポーツ支援の取組みを展開している。自治体が、地域住民向けにスポーツのイベントを行う際、アスリートを派遣して、講演会や体験会を実施している。また、現地の拠点の社員が、自治体主催イベントの運営に協力している。そうした地道な活動が地域から評価され、自治体と会話しながら、地域課題に対峙する取組みにつながっている。
自治体と連携した取組みは、年々増加しており、現在では自治体から直接オファーを受けるまでに成長してきている。2018年度は全国で81回、2019年度は69回(2020年2月末時点)実施するまでに至った。
さらに、地域の小学校で体験授業を行う機会も増えている。アスリートが児童に語りかけ、一緒に考える場をつくることは、未来を担う子どもたちの意識変革を促す機会になる。
こういった活動を通じ、所属アスリートのコミュニケーション力、講演スキルなどの能力も向上し、アスリートが成長する場となり、さらに社会で活躍する場づくりにもつながっているという。
経営企画部スポーツチームのスタッフは、地域貢献活動を継続し続けることの重要性を胸に刻んでいる。
また同社は、2019年4月、マラソンの川内優輝選手と所属契約を締結し、契約選手という形態で支援を開始した。
川内選手の競技面の支援だけでなく、マラソンを通じた地域貢献を目的に「マラソンキャラバン」を立ち上げた。2019年度、日本最北端の稚内から最西端の与那国島まで全国12ケ所で実施したところ、マラソン大会を主催する自治体から高い評価を得たそうだ。
●学生教育にも貢献 ~スポーツを通した共生社会の実現を大学の授業で伝える~
同社は、2018年度から上智大学(東京・四谷)において「パラリンピアンと考える障がい者スポーツと共生社会」という講座を設置し、2020年度で3年目を迎える。
当該科目は、障がい者スポーツ支援を通じて共生社会への理解を深め、ダイバーシティ・インクルージョンの実現に向けて「自分ごと」として学生が考え、「どうあるべきか、どのようなレガシーを残すべきか」など、具体的行動を促すことを狙いとしている。
同社経営企画部 倉田秀道次長が担当教員・協働コーディネーターを担当し、学生に臨場感のある講義を行っている。
上智大学によれば、150名定員に対する学生の応募倍率は約8倍となっており、障がい者スポーツを切り口として共生社会を考える講座の重要性はますます高まっているという。
●アスリート研修会の開催 ~所属企業としてアスリートを育てる責任がある~
競技団体は、ナショナルチーム向けの研修(栄養、メンタル、トレーニングなど)を実施しているが、障がい者アスリートへの研修体系はなかなか確立されていない。そうした実態を鑑みて、2016年から同社は、「アスリート研修会」を開催し、所属アスリートの教育・育成を定期的に行っている。
研修内容は、アスリートとしての気構え、アスリートとして求められることなど、特化したカリキュラムを網羅している点に特徴がある。
これまで実施した主なカリキュラムは以下の通り、多岐にわたっている。講師は、経営企画部スポーツチームの倉田次長である。
障がいの有無に関係なく、すべての所属アスリートが参加しているため、「共生のコミュニティ」が形成され、アスリートたちは、 “スポーツはひとつ”であることを身をもって感じているそうだ。