競技力強化のための施策に関する評価検討会(第2回)議事要旨

1.日時

2021年5月31日(月曜日)16時30分~18時30分

2.場所

オンライン

3.議題

  1. (1)「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」に基づく施策の取組状況及び成果、課題について
  2. (2)競技力強化のための施策の方向性について(案)
  3. (3)その他

4.出席者

委員

石野枝里子委員、境田正樹委員、杉田正明委員、田口亜希委員、田辺陽子座長、
三屋裕子委員、大槻洋也委員、尾縣貢委員、久木留毅委員、森岡裕策委員

文部科学省

藤江スポーツ庁次長、豊岡スポーツ庁審議官、
村尾競技スポーツ課長、馬渡競技スポーツ課課長補佐

5. 議事要旨

(1)「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」に基づく施策の取組状況及び成果、課題について
・事務局から、資料1に掲げられている項目ごとに、資料1及び参考資料3に基づき説明があったのち、それぞれ意見交換がなされた。
 
<「3.アスリート発掘への支援強化について」について>
[アスリートの発掘について]
・タレント発掘には三つの種類があり、様々な競技の体験を通じて種目の適正を見ていく「丸1 種目適性型」は日本の各地域で実施されてきたが、オリンピアンの輩出は1名のみ。また、既にそのスポーツを実施している者がインターハイ、インカレと進んで日本代表に選抜されていく「丸2 種目選抜型」は日本で従来行われてきた。メダル獲得など世界で成功例が多いのは、アスリートが自身の特性を活かせる別のスポーツに転向する「丸3 種目最適型(競技転向、タレントトランスファー)」である。これら三つの型のどこにフォーカスしていくのか、もしくは今のやり方をどう変えていくのかという議論をした方がいいのではないか。
・鈴木プランにおける「日本体育協会の参画」との記載に基づき取組が進められてきたが、その成果としては、丸1 加盟団体である都道府県体育スポーツ協会が加わったことにより地域の誰にでもチャンスが与えられるようになったこと、丸2 47都道府県体育・スポーツ協会のネットワークが活用されることにより、各中央・地方競技団体としても地域の隠れた逸材をより発掘しやすくなったことなどが挙げられる。一方、課題としては、丸1 全国的なPRが必ずしも十分でなく、エントリー数を十分に増やすことができなかったこと、丸2 各地域で先発している既存のタレント発掘・育成事業との交通整理がうまくいかなかった部分もあることが挙げられる。
・タレントトランスファーの考え方は重要。一方で、好きでその競技を始めたわけではないがその競技に向いている子の発掘というのは難しく、どのように発掘していくべきかが課題。
・少子化が進んでいる日本においてタレントトランスファーは必須の課題だが、種目を変えることへの壁を取り払えるよう、アスリートパスウェイの中に明確にタレントトランスファーの考え方を反映していく必要があるのではないか。
・タレントトランスファーについて、その競技を一生懸命やっている最中で転向を勧められるのは、選手にとってなかなか気持ちの整理がつかないこともあるため、転向によって活躍できる舞台があるということを戦略的に周知しておく必要があるのではないか。
・重度障害の方にとってみれば、発掘事業が競技スポーツへの一番の近道であると感じているが、パラの選手は根本的に人数が少ないため、競技を移行することを、競技団体もあまりよく思わない風潮があることも課題である。
・年齢的に早くなければ転向できない競技もあれば、ベテランになっても転向できる競技もあるので、いつ発掘・転向するのかは、ある程度、年齢ごとに競技を絞って焦点を当てることが重要なのではないか。
・シーズンごとに異なる種目に取り組むクロストレーニングの考え方は、選手生命を長続きさせるためにも重要。
・メダル獲得に重点を置いて今後の国際競技力向上を進めていくのであれば、体形や体力などを踏まえて、本当に日本人が活躍できるスポーツを客観的に見極める必要があるのではないか。
 
[アスリートの育成について]
・アスリートパスウェイにおいて、各主体が担うべき役割や連携の在り方を1つのパスウェイとしてしっかり落とし込むことが必要ではないか。
・JSCが作成した日本版FTEMは素晴らしい出来であり、よりアピールし浸透させることでFTEMに基づくアスリート育成の成功事例を多く作っていくことも重要である。
・各競技団体が持っている、トップレベルの選手の基礎体力や競技中の動作等のデータを分析することで、競技力強化やタレントトランスファーに生かしていくことが可能であり、こういったデータに基づく競技サポートを目指すことが求められるのではないか。
・競技力強化のために様々なビッグデータを使いこなしていくためには、データサイエンティストを活用し育成するとともに、競技団体の執行部がそのデータを使いこなすリテラシーを身に付けていくことが必要である。
・特にパラアスリートにはタレントトランスファーの考え方がよく当てはまるが、ある競技の大会に出場できるか、そこで活躍できるかというのは、体格だけでなく、障害のクラスにも大きく左右される(例えば、この障害ではこの競技の大会には出られないという場合もある)ため、発掘にはクラス分けの専門家を育成していくことが必要ではないか。
 
・発掘事業で発掘されたタレントが、必ずしもそのままエリートになっていくわけではないのが現状であり、育成プログラムの整備が最も重要。
・タレント発掘・育成の先進国であるイギリスの状況を踏まえると、タレント育成プログラムにおいて、可動域のトレーニング等ベースとなる動きをしっかりと落とし込むことが必要であり、基本的な運動能力を開花させるためのベースとなるプログラムをどう考えればいいのかについて、検討・検証するべきではないか。
 
<「4.女性アスリートの支援強化」について>
[女性特有の課題への対応について]
・高校で活躍した女子選手が大学で活躍できないことが多く、それは女性ホルモンの分泌が大きな要因ではないかと考えられる。この時期をどう過ごすかという具体的なプログラムが必要であるとともに、身体的な変化によりその種目での活躍が難しくなる場合は、タレントトランスファーをうまく進めていくことも必要ではないか。
・大学でいきなりパフォーマンスが落ちるというのは、セルフマネジメントにも課題があると思われるため、メンターの育成も重要ではないか。
・競技によって女性特有の身体的課題は異なり、例えば、長距離の陸上選手は高齢者のように骨密度がもろい状態にある一方、バスケやバレーの選手の骨密度は一般の女性よりも高いと聞く。もっと多くのデータを取って、それに基づいて対策を取るということが重要。
・女性アスリートの強化支援という取組は今年で10年になるが、この10年間でどれぐらい現場や地方で女性アスリートの様々なことが理解され、認知され、女性アスリートの環境がよくなってきたのかについては、きちんとした調査をして把握する必要があるのではないか。
・現在、女性アスリート特有の課題に関する研究やサポートを行っている大学等の組織はいくつかあり、その中でも主要な組織が三つあるが、それぞれの強みを生かしながら、各組織の連携と役割分担をどう進めていくかは、オリパラ後にしっかり整理していく必要があるのではないか。
・女性特有の課題について、女子選手は当たり前で我慢しなければならないものと思ってしまっている部分もあるが、そうした課題については婦人科に通うべきものなのだということを、子供の段階から教えることは競技力向上の観点からも必要ではないか。
・妊娠、出産を経験してカムバックする選手は少しずつ増えてきているが、妊娠中はいつまでトレーニングしていいのか、いつから復帰していいのかという明確な目安があれば、出産してもアスリートを続けたいと思う選手にとって有益ではないか。
・特に男性コーチ・指導者は、女性特有の課題に対する理解が不十分かつコミュニケーションが難しいので、男性指導者に対する研修等、指導者の育成が重要。
・女性特有の課題については、ジュニア選手やその指導者、保護者等への周知というのが非常に重要。
・身体的な不調があって、指導者から「休んでよい」と声かけがあっても、チームスポーツの場合は他選手にポジションを明け渡すことの不安から「大丈夫です」と無理してしまうのが選手の心情であり、指導者がどのように対応すべきか悩ましいところではないか。
 
[女性のコーチ・指導者の育成について]
・女性は育児などの不安からコーチにならない方も多いため、引き続きサポートが必要。
・パラ競技においては、特に女性コーチとトレーナーが少なく、選手からも、実際に身体に触れる方について女性の指導者やトレーナーが求められていることが多いことから、パラ競技にとって、女性コーチのサポートプログラムは大変重要。
・女性コーチ育成プログラムにおけるこれまでの実績(9競技18名の育成、1名の日本代表監督)が多いのか少ないのか、男性よりも女性のコーチが少ないのは能力の問題なのか、あるいは社会的な問題や競技団体内の問題なのかといった点も検証が必要ではないか。
・実業団に所属している選手の多くが高卒であり、地方のスポーツ教室などで教えることはあっても、オリンピアンがきちんとコーチできる場やそのきっかけが、特に高卒の場合は限られているのが現状。社会人の大学でコーチングを学びコーチになることもあり、リカレント教育が必要である。
 
<「5.ハイパフォーマンス統括人材育成への支援強化」について>
・森岡委員から、参考資料3に基づき、日本スポーツ協会公認スポーツ指導者制度について補足説明があった。
・大槻委員から、参考資料3に基づき、日本障がい者スポーツ協会障がい者スポーツ指導員制度について補足説明があった。
・JOCでは、今、コーチの育成を柱としたオリパラ後の強化の中長期計画を策定しており、その際、ハイパフォーマンス統括人材育成プログラムの成果を生かしていくことは重要である。
・競技が異なってもハイパフォーマンスディレクターが果たす役割は共通であり、海外では複数の競技で活躍するハイパフォーマンスディレクターが存在する。海外の事例だけで終わらず、日本でもそういった人材を育成できるようになることが重要。
・今後のスポーツ界の発展に向けて議論しなければいけないのは、努力して資格をとった人材がきちんと連動した職に就くことができる、資格と職域の連動ではないか。
・ハイパフォーマンスディレクターとしての十分な素質があれば、その競技の経験がなくても十分にこなせると考えられるので、そういった人材がその競技の強化全体をマネージしていくことが望ましい。
・ハイパフォーマンスディレクターが違う競技から来たとしても、1人でそれを改革することは難しく、その組織、競技のことが分かった人も含めたハイブリッドな組織であることが必要。
 
(2)競技力強化のための施策の方向性について(案)
・事務局から、資料2に基づき説明があったのち、意見交換がなされた。
 
・中央競技団体の自己財源の確保、経営力強化の重要性はその通りであるが、パラリンピック競技団体においては一番厳しい部分でもあり、実態に応じた取組を進めていく必要。
・例えばテニスの4大大会では、必ず車いすテニスの部門があって、そこでスポンサーがついてくれることもあるように、今後の取組として、オリンピック競技団体とパラリンピック競技団体が連携していくことで、スポンサー獲得や経営力の強化につなげていくことが重要。
・現在、企業のESG経営に対する関心が非常に高まっており、そうした動きとうまく連動すれば、パラ競技団体を含めて競技団体を支援する企業も増えてくるのではないか。パラ競技団体との連携が可能であれば積極的に進め、スポーツ団体側も企業が投資しやすいような仕掛けをしていくべき。
・デジタル技術の活用については、既に世界のいたるところで進められており、日本においてもしっかりと推し進めていかないと、世界のスポーツ強豪国から相当後れを取るのではないかなという危機感がある。しっかりと国が後押しして、強化活動の質をさらに高めていくことにつなげる必要があるのではないか。
・「今後、東京大会の結果も踏まえ、これまでの取組の評価検証を進め、今後の施策の在り方に向けた議論を深化することとする」、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)に基づくこれまでの取組」は、「必要な見直しを行いつつ、継続して実施していくことを基本」とすると書かれているが、どのような趣旨か。
→(事務局)これまでの御議論は、今まで進めてきた方向性や実施してきた取り組みが間違っているという意見ではなかったと理解している。継続して実施していくことを基本にしつつ、御議論も踏まえて今後もアップデートしていく必要がある。どのようにアップデートをするかについては、東京大会の結果も見ながら評価検証を進めていく、という趣旨で記載している。
・デジタル技術を積極的に活用することで競技団体の登録者への様々なサービス展開の可能性が広がり、企業も投資しやすくなり、スポーツ団体のみならず、社会全体に対してスポーツ界は大きな貢献ができるのではないか。
・今後、デジタル技術の活用については、この競技でこういうニーズがあるということと、そうした技術は既にここで開発されているとか、そうした情報提供を含め、企業と競技団体をマッチングさせる機能が重要。
 
・最後に、「競技力強化のための施策の方向性について(案)」の取扱いについては、委員の意見を踏まえて座長に一任することが了承された。