競技力強化のための施策に関する評価検討会(第3回)議事要旨

1.日時

2021年9月29日(水曜日)14時00分~16時00分

2.場所

オンライン

3.議題

  1. (1)オリンピック・パラリンピック競技大会の結果と、これを踏まえた競技力強化のための施策の評価及び改善の方向性について
  2. (2)令和4年度概算要求について
  3. (3)その他

4.出席者

委員

石野枝里子委員、境田正樹委員、杉田正明委員、田口亜希委員、田辺陽子座長、
尾縣貢委員、久木留毅委員、森岡裕策委員
※大槻洋也委員の代理として、日本パラリンピック委員会強化副委員長の櫻井誠一氏が出席

文部科学省

室伏スポーツ庁長官、串田スポーツ庁次長、
南野競技スポーツ課長、馬渡競技スポーツ課課長補佐

5. 議事要旨

(1)オリンピック・パラリンピック競技大会の結果と、これを踏まえた競技力強化のための施策の評価及び改善の方向性について
・事務局から、資料1に基づき、夏季・冬季オリンピック・パラリンピック競技大会の結果等について説明後、東京2020大会後の総括として、JSCから資料2、JOCから資料3、JPCから資料4に基づき説明があった。その後、それぞれ意見交換がなされた。

[資料1:NF強化戦略プランと東京大会の結果の関連性について]
・オリ・パラ共に、NFが策定する強化戦略プランに関する評価結果と東京2020大会のメダル数や入賞数の結果が概ね比例していることがデータから見て取れるが、NFによって、強化戦略プランの実行性と計画性の評価に差が表れている。NFが2032年までの10年間を見据えた強化戦略プランを策定し取り組むことができるよう、JOC、JPC、JSC、オブザーバーのJSPOとスポーツ庁がより協働するなど全体としてNFによる強化戦略プランの実効化支援を行っていく必要があるのではないか。

[資料2:メダルポテンシャルアスリート(MPA)指標について]
・今大会のMPAのメダル獲得率(メダルサクセスレート)は半分以下であったがMPAのカウントの仕方による若干の影響もある。メダリストのうち一定割合をMPAが占めているこれまでの傾向をみてもMPAの増加はメダル獲得の確率を上げることに繋がっていく。村外サポート拠点や選手村の機能を用いた直前のコンディショニング等、様々な要因がメダル獲得に影響を与える。
・P5に「東京2020メダルランキングの表」があるが、オリ・パラ共に上位5カ国に、アメリカ、中国、ロシア、イギリスの4か国が入っている。まさにMPA数が多い国がこの1位から5位を占めており、それ以外の国は格段にMPA数が少ない状況である。

[資料3:JOCによる各競技団体(NF)へのアンケート結果について]
・P13のNF調査「東京2020大会の競技成績についての質問」について、「とても満足」「やや満足」の回答が約4割程度にとどまるのは、各競技で定めた目標に到達してない場合に低い評価の回答をしているためである。例えば、柔道では、全階級制覇という目標値としていたため、客観的に見て素晴らしい成績であっても、競技団体としては満足していないといった評価をしている。

[資料4:JPC資料の方向性について]
・P3には、今後のパラリンピック競技の方向性について、マルチメダリスト養成の記載があるが、日本では主に重度障害のメダリストが多く、軽度障害のメダリストは少ない状況である。重度層に焦点を当てた強化を進めると同時に、軽度障害の選手にも焦点を当て、種目変更等を含め、育成・強化を進めていく必要があるのではないか。
・諸外国のクラブ制度の中では、障害者と健常者がともに競技しているケースも多く、今後の選手強化の道として、パラアスリートが健常者と同じ大会、同じクラブ活動の中で切磋琢磨できる環境を整備することが考えられる。ただし、こうした環境整備による成果は短期で出るものではなく、長期的には軽度障害の選手もメダリスト育成のターゲットに入れつつも、直近のパリ大会に向けては、重度障害の選手のメダル獲得可能性がより高いという趣旨での記載となる。

[コロナ禍を踏まえた環境整備について]
・コロナ禍において、大陸地続きの欧州等と異なり、日本の選手は東京2020大会前の国際大会出場や海外遠征ができず国内に留まらざるをえない状況もあった。大会の結果をみると、柔道やレスリングといった個人競技よりも、団体競技の方がメダルを獲得できた競技が少なく、海外遠征等ができない影響が大きかったのではないかと考えられる。
・例えば、卓球では、選手の海外派遣ができない中で、国内にいる中国選手を集めたり、苦手な左利きの選手を集めたりして選手強化活動を行い、競技初の金メダル獲得につながったと考えられる。このように、個人競技はある程度国内での工夫ができたのに対し、チーム競技は海外遠征の制限が諸外国との差を生んだのではないかとも考えられるだろう。
・今後、パンデミック等を想定し、国外遠征とともに、リーグを活用した強化など国内での強化をさらに進めることができるよう考える必要がある。


[資料5:競技力強化のための施策に関するこれまでの議論のポイントについて]
※事務局から、資料5及び参考資料3に基づき説明があったのち、それぞれ意見交換がなされた。

<1.中長期の強化戦略プランの実効化を支援するシステムの確立>
(強化戦略プランについて)
・2030年、2032年のオリンピック・パラリンピック競技大会に向けて全ての活動が連動して進んでいく道筋にあり、各NFが長期スパンにおける戦略プランの全体像(マスタープラン)を踏まえて取り組むことができるよう、関係団体が協働して支援していくとともに、NFとしてオーソライズされたプランを各地域にも共有していくことが、長期スパンでの育成・強化に繋がるのではないか。

<2.ハイパフォーマンスセンターの機能強化>
(国内トレーニング環境の整備について)
・パラリンピアンズ協会による、アスリートやスタッフに対するアンケート調査の結果、競技環境は本当に改善されたという声が多かった。特に強化合宿やそれ以外の練習機会の増加が顕著に見られ、強化費の増加とNTCイーストの整備が大きく貢献していると考えられる。
・NTCイーストが整備された一方で、各地のスポーツ施設については、障害を理由に利用を断られたり制限されたりする状況が、あまり改善されていないようである。特に地方のパラアスリートや指導者が、練習場所が無かったり、使いにくかったりする状況や、競技仲間がいない状況が発生しないよう、競技の裾野を広げるためにも、各地の競技環境の整備が引き続き必要ではないか。
・コロナウイルスのような感染症、大きな災害や問題が発生した時に、競技力強化を含むスポーツを持続させていくための理念や考え方をどこかに明示しておく必要がある。感染症や災害等による非常時には、東京のNTC中核拠点だけでなく、拠点のネットワーク構築を進め、各地のNTC競技別強化拠点も含めて、一定の対策を取った上で柔軟に施設を継続利用できるよう、理念として明示した上で、横断的に施策として取り組むことが大事ではないか。
・コロナ禍において選手の練習環境が制限されていた時期もあったが、練習したいときに練習できないと、その後のトレーニングや競技力強化にも影響を与えてしまうため、どんな状況下でも練習環境が確保できることが、今後、非常に重要な課題である。
・東京2020大会における諸外国のサポート拠点について、ブラジルは選手村の徒歩10分圏内にサポート拠点を設置していた。アメリカは世田谷区に大きな拠点を設け、イギリスは様々なところに拠点を点在させながらもお台場に象徴的なサポート拠点を作っていた。オーストラリアは感染症への配慮から選手村内でのサポート機能を高めていた。各国ともサポート拠点について想像以上に重要視して準備を進めている中、日本も大会開催地の環境等に応じて、こうした拠点機能の強化を早期且つ柔軟に考えていくべきではないか。スポーツ庁がマネジメントしつつ、最終的にオリンピック・パラリンピックの選手団編成をするJOC・JPCとJSCとが連携しながら準備を進めていくことが必要である。
・地域の競技力向上と、国際競技力向上は繋がっており、地域の競技力向上にしっかりとNFがコミットしていくことで、さらに地域の取組が生きてくる。アスリートは地域から輩出されるのであるから、国の施策としてもNFの強化戦略プランをうまく地域に落とし込み、HPSCの科学、医学、情報に関する知見のパッケージも活用しながら、中央と地域の一貫した取組をさらに進める必要がある。そのためには、NFがしっかりと地域に対して方向性を示すと同時に、モニタリングもしていく必要がある。
・日本でいう選手団団長にあたると考えられるが、国際的にはシェフ・デ・ミッションという役割がある。シェフ・デ・ミッションの役割は、国によって様々であるが、長期的にその役割を担い開催地や各国との情報収集や交渉を行う場合もある。こうした事例も参考にしながら、選手団の編成も含めた国際競技力向上やメダル獲得競争に向けた取り組みについて、オールジャパン体制で進めていくべきである。

<4.女性アスリートへの支援強化>
・女性指導者を育成・支援することは重要であるが、女性アスリートに対して同性のコーチが入ってうまくいかなかったように見受けられるケースもあり、性別が関係しているのか、コーチング能力の問題なのかあるいはその他なのか、その原因については検証が必要ではないか。

<5.ハイパフォーマンス統括人材育成への支援強化>
・スポーツ指導者の育成にあたっては、指導者の資格と職域の連動が重要だが、国際的に見ても資格をもってプロコーチとして活動しているのは2~3割程度という実態もある。
・スポーツ指導者の社会的地位を高めていくことが、今後のスポーツ界の発展に繋がる。
・3年、7年後のオリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、スポーツ指導者の育成に各団体が連携して取り組むとともに、トップ層はもとより、運動部活動をはじめ、地域におけるスポーツ活動等様々な段階のスポーツ指導者の育成が必要である。
・スポーツ科学、医学、情報等の活用について、専門的な人材の育成の必要性については認識が共有されていると思われるが、資格と職域の連動が重要である。コーチや科学スタッフを育成した後、どこに配置するのか。地域の医・科学センター、大学、企業等はあるが、育成後に活躍できる場所の確保や人材の配置に向けて政策化すべきだと考えられる。

<その他、今後の競技力強化を見据えた議論>
(競技団体の組織基盤の強化について)
・東京2020大会を成功裏に終えたが、各競技団体の経営状況は、想像以上に悪化している。令和4年度概算要求主要事項において、新規で「競技団体の組織基盤強化支援事業」を要求いただいており非常に心強いが、今後1年、2年間でコロナ禍による影響をどう払拭していくかが課題であり、スポーツ庁、統括団体、競技団体が一体となって乗り切らないといけない。

(デジタル技術の活用について)
・選手強化活動にあたってデータサイエンティストの知見・技能を生かすことが重要であるとともにデジタル技術を活用しながら開発されたメソッドを学生達にも展開していくようなサービス、データプラットフォームの仕組みが重要である。こうした仕組みにより、データが蓄積され、AIで解析し進化させていけば、個々のトレーニングメソッド、コンディショニングメソッドが開発できる。そしてデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)も含め、産学官が連携し、HPSCが中心となって、オールジャパンでスポーツの振興を図っていく。統括団体、NFの協力はもちろん、高体連、中体連、大学スポーツ協会 (UNIVAS)等と共にこうした仕組み・体制をつくり上げていくことができれば、最強のジャパンウェイができるのではないか。
・目利きのできるコーチや元選手も重要であり、目利き人材とDXの専門家、企業の方々との連携の中で、統括団体やNF、JSCの役割分担を明確にすることが、強いオールジャパン体制を構築していくために必要であると考えられる。

(アスリートのメンタルヘルスについて)
・世界各国では、アスリート・ウェルビーイングの研究が進められている。トレンドを早めに押さえて対応していくべき。例として、カナダでは、大きな競技会の前から、競技会中、競技後にわたっての心の在り方をどうするべきか、自分の人生の中でスポーツとどう向き合うかということが具体的に分かりやすくまとめられ、アスリートに届くよう整備されていた。
・東京2020大会の開催前から、コロナ禍の影響でアスリートは精神的に追い込まれていたが、SNSでの誹謗中傷がさらに重なったのはつらかったと思う。アスリートのメンタルヘルスのために様々な取り組みを行っていたが、なかなか相談に来るアスリートは少なかったのが実態であり、今後カウンセリングを受けることについての意識や雰囲気を改善するためにも、気楽に受けられるカウンセリングをJISS等の中で展開することも考えていく必要があるのではないか。

(2)令和4年度概算要求について
・事務局から、資料6、参考資料4に基づき説明がなされた。