資料7 スポーツ実施率向上のための新たな制度創設・制度改正も視野に入れた中長期的な施策の方向性について(案)

スポーツ実施率向上のための新たな制度創設・制度改正も視野に入れた中長期的な施策(案)

2019年3月28日

スポーツ庁では、昨年9月6日に、「スポーツ実施率向上のための行動計画」を策定し、スポーツ実施率向上のための新たなアプローチや即効性のある取組をまとめ、実行に移しているところである。
また、「スポーツ実施率向上のための行動計画」においては、今後、新たな制度創設・制度改正も視野に入れた中長期的な施策を取りまとめることとされており、昨年10月以降、関係各所へのヒアリング等も含め、スポーツ審議会健康スポーツ部会を中心に議論を行ってきた。
人生百年時代を迎え、生涯現役社会を構築していくためには、心身ともに健康であることが欠かせず、健康寿命延伸に向けた取組は、さらにその重要性を増しており、以下の取組を着実に実施していく。

1.地域におけるスポーツの環境づくり
(1)総合型地域スポーツクラブの質的充実
・現在、3,599(平成30年7月1日現在、創設準備中も含む)の総合型地域スポーツクラブが存在しており、全国の市区町村の80.8%に設置されている。しかし、クラブの活動実態や運営形態、ガバナンス等の状態は様々な状況にある。
・また、総合型地域スポーツクラブは、地域コミュニティの核として、地域スポーツ環境の充実やスポーツを通じた地域課題解決などの公益的な取組を通じて、地域住民から求められる役割を果たしていくことが期待されているが、現状、必ずしも十分に機能しているとはいえない。
・今後、総合型地域スポーツクラブがこれらの役割を担っていくために、さらなる認知度の向上とともに質的充実を図ることが必要である。
・これらを含めて、総合型地域スポーツクラブの有無によるスポーツ実施率の差異などデータを出していくことも必要である。

<具体的方策>
ア.総合型地域スポーツクラブが地方自治体等とパートナーシップを構築し、公益的な事業体としての役割を果たしていくため、活動実態や運営実態、ガバナンス等についての要件を基準とする登録・認証制度を整備する。
イ.登録・認証制度の的確な運用を図り、登録・認証を受けた総合型地域スポーツクラブの活用を図るとともに、広報活動の推進を図る。

(2)スポーツ推進委員の活用の促進
・スポーツ推進委員は、全国に約5万人が市区町村から委嘱されており、スポーツ基本法において、スポーツの推進のための事業の実施に係る連絡調整並びに住民に対するスポーツの実技の指導、その他スポーツに関する指導及び助言を行うものとするとされている。
・スポーツ推進委員には、地域住民や地方自治体、総合型地域スポーツクラブなどスポーツ団体等との間をコーディネーターとして、地域スポーツを推進する役割も期待されており、さらなる資質向上を図っていく必要がある。また、地域における障害者スポーツの推進役を担っていくことも求められている。
・そのためには、スポーツ推進委員としての役割を認識し、必要な知識の習得等がなされるようにする必要がある。また、スポーツ推進委員の知名度向上を図る等を通じ、活躍の場をさらに広げるとともに地方自治体による優れた人材の発掘を促進することが必要である。

<具体的方策>
ア.全国スポーツ推進委員連合と連携し、スポーツ推進委員の資質向上を目的とした、リーダー養成講習会等の研修の内容の充実を図る。
イ.全国スポーツ推進委員連合と連携し、人材不足解消のため、スポーツ推進委員の知名度を向上させる方策を講ずるとともに、地方自治体から関係機関への働きかけを図る。
ウ.地方自治体におけるスポーツ部局と健康部局等の連携を進めることにより、地域におけるスポーツ推進委員の活躍の促進を図る。

(3)スポーツをする場の確保
・スポーツを実施できない理由として、「時間」とともに挙げられるのが、「場」がないということである。今後、施設の老朽化等により安全面で課題を抱える施設が増加することや、利用できる施設が減少することも懸念される。
・財政難の中では、既存施設の活用、特に、交通至便な場所にあるという理由から学校施設(校庭・体育館等)の利用が有効と考えられるが、利用手続等が一般にわかりにくい、利用するための条件が厳しいといった声も聞かれる状況にあり、学校施設をスポーツの場として気軽に利用できるようにしていくことが必要である。
・また、公園や道路等の公共の場も含め、スポーツ施設以外のあらゆる空間を活用してスポーツをしやすい環境を整備していくことも必要である。
・これらのスポーツの場の確保については、民間との連携を一層図りながら効率的に進めるとともに、女性や小さい子供にも配慮し利用しやすさの向上を図る必要がある。
・以上のハード面の整備に加えて、地域のスポーツイベント等によりスポーツをする機会を増加・拡大させるとともに、スポーツ施設等の場やスポーツイベント等の機会の存在を共有するシステムの充実が必要である。

<具体的方策>
ア.学校体育施設の有効活用に関する検討を行い、手引きを策定する。
イ.公共の場をスポーツ実施の場にすることについて、関係機関との協議を進め、その活用を図っていく。
ウ.スポーツイベントや指導者も含む形でのマッチングシステムの構築を図る。
エ.地域において持続的に安全なスポーツ環境を確保するための施設整備への支援にあたっての計画策定の要件化、スポーツのしやすさを総合的に評価し公表する仕組みの構築等を検討する。

2.スポーツに関わる関係団体との連携
(1)医療機関等との連携の促進
・運動・スポーツは生活習慣病等の予防のみならず、治療中においても効果があると示されている例もある。しかし、医療機関等においては、国民が安全・安心に運動・スポーツを継続するために必要な情報について、スポーツ関係者との間で共有が進んでいないことも多い。
・このため、今後、医師等から生活習慣病や運動器疾患等に対する指導等を受けた者や病気療養(治療及び養生)中の者(以下「医療機関等を受診した者等」という。)に対して、運動・スポーツに関する情報が共有され、運動・スポーツをしようというきっかけづくりが促進されることが必要である。
・また、医療機関等と運動・スポーツ施設や運動・スポーツ指導者等との連携・情報共有を図り、個々人のリスクに応じた適切な運動・スポーツプログラム等の提供や危機管理体制の構築を図ることが必要である。

<具体的方策>
ア.スポーツ施設やクラブ等のスポーツ関係者と連携し、医療機関等の関係者に対しスポーツ教室等に係る情報提供の一層の促進・見える化を図る。情報提供に当たっては、日本医師会等と連携し、各地域の医師会等のネットワークを活用する。
イ.医療機関等を受診した者等が、医師が医学的評価に基づき作成する運動処方の情報を踏まえ、健康運動指導士等の助言も参考にしつつ、地域の運動・スポーツ教室やスポーツクラブ等で実施する運動プログラムから適切なプログラムを選択し、楽しく安全に運動・スポーツを実施できる仕組みを構築する。

(2)スポーツ実施率向上に向けた推進体制の構築
・スポーツ実施率の向上を通じた健康増進の取組については、それぞれの主体が独自に進めているところであるが、国のみならず、地方自治体、企業・団体等の関係機関が連携して一体感をもって取り組むことも必要である。
・このため、各主体がスポーツの実施に関する意識を向上させ、有機的な連携を構築するために、あと1年半後に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等を契機とした推進体制の構築を図っていく必要がある。

<具体的方策>
ア.「スポーツ実施率向上のための行動計画」における取組の連携感、統一感を図るため、キャッチフレーズである「スポーツ・イン・ライフ」のロゴを活用し、各主体が自らの取組にロゴを使用することを促す。
イ.本年のラグビーワールドカップ2019及び2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会、2021年のワールドマスターズゲームズ関西の開催に向けた機運の高まりを活用して、スポーツ庁が主導する官民連携による事業推進体制を構築し、一体となった取組を実施する。

(3)企業における従業員のスポーツ実施の促進
・従業員の健康を企業の経営課題として捉え、健康確保対策に取り組む企業が増加しているなか、国において必要な環境整備を行うとともに、これらの取組について関係機関・団体等との連携を図り、一層の促進を図ることが求められている。
・そして、健康確保対策の一つとして運動・スポーツの必要性が経営者層にも理解され、企業内で従業員のスポーツの実施が促進されていくことが必要であることから、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP(トータルヘルスプロモーションプラン)指針)が改正されることも契機とし、従業員が運動・スポーツを実施しやすい環境整備を事業者、保険者に促していくことが必要である。

<具体的方策>
ア.事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP(トータルヘルスプロモーションプラン)指針)がスポーツ庁とも連携の上、改正されることから、厚生労働省と連携しつつ、企業において従業員が運動・スポーツを実施しやすい環境整備を事業者に促す。

3.障害者スポーツの推進
・地域のスポーツクラブへの障害者の参加・受入れが十分でなく、運動部活動・クラブ活動がある特別支援学校が約6割にとどまる等の状況の中で、行動計画では、特別支援学校の体育施設の活用促進やそれらを拠点とした地域のスポーツクラブの設置を掲げているところ、これらをさらに促進するための方策を講じる必要がある。
・また、地域で障害者スポーツのコーディネートを行う人員の担当地域が広域にわたり、目配りに限界があるとの指摘があるほか、スポーツを実施する側にとっても、スポーツ実施に当たっての経済的負担が重いため、これらの負担を軽減するための方策を講じる必要がある。
・このほか、重度障害者でもスポーツ実施が可能となるよう、医療・福祉との連携をより促進するための仕組みを構築する必要がある。

<具体的方策>
ア.開放の推進等を含め、児童生徒が卒業後も学校の体育施設を利用できるよう、施設整備の在り方の普及啓発を図る。
イ.中・高等学校に在籍する児童生徒のスポーツ実施環境を把握した上で、実施促進に向けた課題を分析し、外部指導者の活用や教材の整備等を含め、スポーツ実施環境の整備を図る。また、学校における障害者スポーツ用具の整備の在り方を検討する。
ウ.スポーツ車いす、スポーツ義足等の地域の障害者スポーツ用具の保有資源を有効活用し、個人利用を容易にする事業モデルの構築に向けて、用具の保有者及び用具の調整を行う者等の関係者を含めて検討を行い、事業モデルの確立を図る。また、そのような障害者スポーツ用具の貸出を含め障害者スポーツの普及に取り組んでいる施設の見える化を行うこと等により、障害者スポーツ普及拠点の形成を図る。
エ.地域で医療・福祉・教育・スポーツをコーディネートする人材を育成し、障害者スポーツに関する情報共有と振興体制の強化を図る。
オ.スポーツイベントにおいて、障害者が観戦しやすい会場づくりや運営方法(チケット販売、駐車場確保、情報保証等を含む)について、好事例を収集し、周知を図ることにより、障害者がスポーツをみる機会の増加を図る。
カ.重度障害者や外出が困難な者でも無理なく実施可能な室内で気軽にできる運動・レクリエーションプログラムの開発や、医療機関・リハビリ機関との連携等により、重度障害者のスポーツ実施環境の改善を図る。

4.エビデンスに基づく健康スポーツ政策の取組の促進
(1)地方自治体における現状の「見える化」
・現在、我が国全体のスポーツ実施率については、スポーツ庁が実施している「スポーツの実施状況等に関する世論調査」において把握しているが、地方自治体においては、その把握状況がまちまちとなっている。
・このため、地方自治体において、スポーツ実施率を把握し「見える化」することで、スポーツ実施率向上策のPDCAサイクルの構築を図ることが必要である。

<具体的方策>
ア.国が調査票のひな形(調査項目等)を作成し、地方自治体が実施する別の調査とともにスポーツ実施率の調査を実施するなど、簡易な方法での調査を可能とする。

(2)スポーツに関する研究の充実・調査研究成果の利用促進
・スポーツを通じた健康増進施策のさらなる推進のためには、複数年にわたる「スポーツが健康に及ぼす影響(効果)等に関する研究」や「運動・スポーツの習慣化等のための行動変容等につなげるための方策等についてコホート的なアプローチを含めた調査研究」を実施していく必要がある。
・また、スポーツ庁で過去に実施した調査・研究のデータについて、公表されていてもローデータは利用できないという状況にあるものもある。
・このため、スポーツに関する研究の充実を図り、調査研究成果の利用促進を図るための環境整備が必要である。

<具体的方策>
ア.日本学術会議に依頼した「科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方に関する審議について」の成果の活用を図る。
イ.スポーツ庁における調査研究事業、JSC・JISSの調査研究、関係省庁とも連携した調査研究の活用を図る。
ウ.ローデータの扱いについて、個人情報等の取扱いに配慮しつつ、公開できるものについては積極的に公開を行っていく。


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スポーツ庁健康スポーツ課

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