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鳥取県

青翔開智中学校・高等学校

校長と探究主任の連携で成し遂げる。青翔開智中学・高校が取り組む「探究」とは

  • 取材・文:相川いずみ
  • 編集:森谷美穂(CINRA)
  • 画像提供:青翔開智中学校・高等学校

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2014年に鳥取県東部では初の中高一貫校として開校した青翔開智中学校・高等学校。建学の精神に「探究・共成・飛躍」を掲げ、2018年からは、文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定されたほか、大学との連携も積極的に進めています。開校当初から全学年で取り組む探究教育について、校長の織田澤博樹先生と、探究主任を務める田村幹樹先生にお話を聞きました。

お話を伺った先生

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織田澤 博樹(おたざわ ひろき)

校長。大手電機メーカーのシステムエンジニア、キャラクタービジネス業界を経て、青翔開智の立ち上げに設立準備室室長として関わる。2020年度より校長に就任。

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田村 幹樹(たむら もとき)

探究・SSH主任。2016年度より当校で勤務しSSH事業立ち上げに従事。2020年度より現職。

「受験のための学習だけでいいのか?」からスタート

──今年度で開校9年目となる青翔開智中学校・高等学校について教えてください。

織田澤博樹先生(以下、織田澤):本校は、2014年にゼロから新しく開校した私立の中高一貫校です。中学校、高校ともに1学年50人程度で、2023年度の全校の生徒数は287人となっています。

特徴として、開校当初から「探究」を学習の中心に位置づけており、週2時間の「探究」を中学1年生から高校3年まで体系的に行なっています。さらに、通常授業の国語、数学、理科、社会、英語、実技に至るまで、探究的なスキルを獲得する授業を実施しています。

織田澤博樹先生

織田澤博樹先生

──9年前から、いち早く探究を軸に置いた理由は何でしょうか。

織田澤:本学園は塾や予備校から始まったこともあり、受験のノウハウを生かした中高一貫校が元々の構想としてありました。しかし、「受験のための学習だけでいいのか?」という疑問も感じていて。そこで他校を研究したところ、探究学習を導入して目覚ましい成果をあげた学校があることを知りました。

もちろん、受験勉強も大事です。そこでこれまでの経験もふまえて考え、最終的に学校教育においては探究学習をベースに行う方針をとりました。それが、「探究・共成・飛躍」という、建学の精神にもなっています。

──中高6年間の一貫校ということで、探究的な学びを段階的に行なっていくねらいもありましたか?

織田澤:そうですね。現在は中学から高校1年生までチームで課題を見つけ、乗り越えていくためのアイデアを考えます。高校2年生からは自分が関心のある学問領域を選定し個人で研究し、その結果を論文にします。ただ、最初からこのかたちを取っていたわけではなく、1年目は思ったようにうまくいきませんでした。

当初は、京都市立堀川高等学校のような文献調査を行う探究に、中学1年生から取り組みました。それがかなりアカデミックな内容だったため中学生には難しく、調べて終わるだけのものになってしまって。探究1年目ということもあり、教え方にも準備不足な点があったと思います。

これではいけないと思い、中学生の段階では身の回りの社会で起きているような課題を、もっと創造的に楽しみながら解決し、発表したアイデアを評価してもらえる方向へと切り替えました。

──具体的にはどんな探究を行ったのでしょうか。

織田澤:「鳥取市にテーマパークをつくろう」というテーマで企画を立て、実行までの計画づくりを1年かけて取り組みました。わたしが前職で企画の仕事にずっと携わっていたので、企画発想のやり方であれば教えられると考えたからです。

企画では鳥取の海で釣った魚を自分で調理して食べられるレストランや、海外から潜水艦を購入し、日本海のきれいな海を見ることができる施設など、さまざまなアイデアが生まれました。さらにそれが机上の空論にならないよう、地元の銀行の方に来ていただき、収支予算などについても考えてもらいました。

青翔開智中学校・高等学校

織田澤:自分たちで考えた企画なので、生徒たちはとても一生懸命で楽しそうでしたね。最後に発表をしてもらい、それを聞いた保護者や大人たちは、「中学生が、こんなに創造的で面白い発表をできるんだ」と感嘆していました。こうした様子を見て、「探究はこの方向性でいい」と実感ができたのです。それが、現在の本校における探究プログラムの原型になりました。

──方向を切り替えることは結構大変だと思いますが、そこにはどんな背景があったのでしょうか。

織田澤:原動力となったのは、新しい学校をつくったときの想いと使命感です。

鳥取は日本で一番人口が少なく、人口減少も進んでいます。こうした状況下なので、学校という「箱」は足りている。それでもあえて新しい学校をつくったのは、探究がベースにある学校教育を行ないたいという想いがあったからです。

また、私立とはいえ、運営費の半分は税金で賄われています。建学の精神を基に、独創性のある教育サービスを提供することが私立の使命です。そう思っていたから、このままの探究学習ではだめだと直感したとき、すぐに切り替えることができました。

方向性はトップダウン、改善案はボトムアップ

──探究授業では、担任の先生とどのように連携されていったのですか。

織田澤:1年目は、各担任に探究授業の内容を説明し、発表の見学を誘う程度に留めています。2年目からはわたしが探究の授業をしているところに担任の先生も参加してもらいました。生徒のグループワークを一緒に見てもらい、だんだんと関わりをもってもらうよう工夫しました。

「1年で全員が探究の方向に向かう」という理想を掲げている方もいますが、実感としては、もっと時間がかかると思います。とくにわたしの場合は、まず自分一人で探究に全力投球していたこともあったかもしれません。先生は、生徒や保護者の反応を見ながら、少しずつ変わっていきました。探究学習は、長い時間軸で取り組むほうが良いでしょう。

──現在は、探究主任である田村先生が中心になって進めていらっしゃるのですね。

織田澤:そうですね。わたしが1年間の探究のプログラムをつくって、ある程度進めてきたところで、田村が本校に入り、その後は2人で話し合って改良を重ねていきました。わたしが校長になった2020年度からは、田村が中心となって各学年の担任の先生と一緒に探究の授業を進めています。

──田村先生は、もともと探究教育にご興味があったのでしょうか。

田村幹樹先生(以下、田村):はい、前任校でも探究の授業を担当していました。ただ、当時は学校特有の文化や制度のなかで探究活動を推進する難しさを痛感していました。そんなとき、探究を真ん中に据えて取り組んでいる新設校があると知り、新しいチャレンジができるかもと思い鳥取へ来ることにしたんです。

田村幹樹先生

田村幹樹先生

──青翔開智のようにトップダウンで探究を進めていくと、現場の先生も進めやすそうですね。

織田澤:トップが「探究やるぞ!」とならないと、現場に浸透しないとは思いますが、トップダウンと同じくらいボトムアップも大切だと感じています。

田村:織田澤の「こういった人材を輩出したい」「こういうことをやっていきたい」というビジョンや目指すべき方向性は、トップダウンとして大事なところです。そのうえで、ビジョンに向けて実現するために、「こういう具体的な方法が良いのでは」と各先生がボトムアップ形式でたくさん持ち寄っていくことが必要なのだと思います。

──探究の授業を進めるにあたって、苦労したことはありましたか?

田村:最初は外部の方に協力をお願いする際のコミュニケーションに苦労しました。外部の方は、場合によっては「仕事」として協力していただいています。ただ、当時のわたしはその感覚があまりもてず、「生徒の教育のためのボランティア」のようなお願いの仕方をしてしまったことがあったのです。

相手に無理のないスケジュールの組み方や必要な予算の手配など、継続して連携いただけるようにコミュニケーションを取り、お互いにとっていい方法を考える必要があるという感覚を持つのに何度も失敗をしました。

生徒の声や行動から探究の成果を実感

──探究学習に取り組んできた生徒についても教えてください。これまで取り組んできて、どのような変化がありましたか?

織田澤:「青翔開智を選ばなかったら、自分はあの学校に進学して、部活や勉強をひととおりやって、一般受験でこのぐらいの大学に行っていただろうと想像していた。けれど、青翔開智に入学したことで、自分で企画したイベントを市内でやるなど、全く想像していなかった変化と成長を実感できた」と、話してくれる生徒がいました。

建学の精神「探究・共成・飛躍」の「飛躍」を、わたしは生徒たちに「変身する」と説明しています。学校で育んできた探究的な非認知能力を生かし、学校外で活躍する生徒が増え、生徒自身も想像していなかった新しい自分に「変身する」。そういった生徒がたくさん生まれてきていることを実感しています。

ただ、生徒が変化していくには少なくとも3年ぐらいかかると考えています。中学や高校で入学した子が、どういう変容を経て卒業していくか。3年間続けていると、変容が見えてくるのです。

高校2年生の探究学習「青開学会」(成果発表会)

高校2年生の探究学習「青開学会」(成果発表会)

──田村先生から見ると、先生の変化も感じられますか?

田村:もともと探究が大前提の学校ですので、先生方は「探究活動をどうやったらうまく指導できるか」ということに対して、研究したり学んだりする意欲がとても強いです。

また、それぞれが持っている得意分野を、色々な場面で生かすことが増えました。例えば、デジタルデバイスを使うのが得意な先生であれば、どんなふうに教材として使えるか工夫して授業に取り入れています。

先生の授業は、生徒の模試の成績のように結果を数字で簡単に評価できるものではありません。これまでうまくできていた授業を改善するということは勇気が必要なことだと思います。ただ本校では授業改善のチャレンジを歓迎すると言い続けてきました。そうしていくうちに、「チャレンジしていいんだ」「意義があるんだ」「必要があるんだ」ということが、やっと広がってきた感じです。

人間だからこそできる「問答・感動・行動」

──探究の評価はどのように行なっているのでしょうか。

織田澤:ルーブリックを使って先生と生徒にタブレットで入力してもらっています。生徒はそれを見て、自分で入力した評価と先生が入力したものを見比べて振り返りができます。

いまはそのデータを分析し、本校の建学の精神に基づき、卒業するまでに身につけたいスキルを定義している最中です。ルーブリック評価で生徒の変容の結果を可視化していけば、「探究の通信簿」ができると考えています。

田村:担当の先生からはできるだけ多くの評価データを生徒にフィードバックしてもらうようにしています。あるべき姿としては、戻ってきたデータを生徒が見て振り返り、今後の活動を自分で調整できるようになっていくことです。

ただ、先生が評価に時間をとられてしまって生徒に向き合えないのは本末転倒なので、業務負担軽減のためにフィードバックを自働化できるシステムを企業と協働して開発しています。将来的にはオープンソースとして配布できたら、本校がSSH校として研究開発に取り組んでいる意味があるのではと考えているところです。

現在の「青翔開智の『育てたい資質』と『評価項目』」

現在の「青翔開智の『育てたい資質』と『評価項目』」。ほか授業の事例や開発教材が学校のホームページで公開されている。

──なるほど、素晴らしいですね。では、最後に青翔開智における今後の展望を教えてください。

織田澤:最近、「ChatGPT」が話題になっているように、今後デジタル技術が目覚ましい発達を遂げていくなかで、わたしたちが提供できる教育には、「問答・感動・行動」という3つの「どう」の力があると考えています。

問いを投げることも、感動することも、社会課題を解決しようと行動することも、人間だからこそできることです。とくに問いを立てることは、まさに探究学習そのもの。学校教育のなかで、そこをきちんと意識してやっていきたいです。

田村:社会課題を解決できるようになってほしいと考えた際、時代に合わせた技術を取り入れるという視点は大事です。学校現場でAIを学ぶ機会がなかった2018年には、スタートアップ企業にご協力いただき、AIの基本的な理解や、機械学習の基礎を教える場を設けました。

本校が私立学校として開発・提供している教育プログラムが、公教育として価値のあるものだとして、SSHに指定していただいています。今後もそうしたプログラムをつくり続けると同時に、常に次の時代に求められる価値を意識していたいと思っています。現在うまくいっているという実感があったとしても、それが有用でなくなればいつでもやめる覚悟を持ちながら、常に次に向けての準備をしていきたいと考えています。

青翔開智中学校・高等学校

併設型中高一貫制の私立中学校・高等学校。2014年に開校した比較的新しい学校で、鳥取県東部(因幡地域)では初の中高一貫校。2017年には鳥取県の「スーパーグローバルハイスクール」に指定され、翌2018年には文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール」に指定されている。