生徒が「リーダーシップを発揮できた」と実感してくれた

農業

公立

東京都

東京都立園芸高等学校

データ分析を通して「仮説・検証の大切さ」を学ぶ力を育む

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園芸科1年生向けの専門科目「農業と環境」のプロジェクト学習では、仮説を立て、実際のデータを用いて相関性を調べて検証を行い、班ごとに考察をまとめた発表資料を作成します。その際、活躍したのが、2022年から導入した1人1台の「Surface Go 2」や、圃場モニタリングシステム「みどりクラウドPRO」でした。授業を担当した戸部先生は、「共有機能や即時性を備えるICTは、手を動かして考察したり、他者と協働作業を行ったりできる非常に有効なツールだった」と話しています。

導入を検討している先生へ

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戸部 孝綱 先生 園芸科

生徒が探究や研究を始める前の仮説設定や、仮説検証を行う際、「データ読解」は重要な要素です。実際に、実験や調査をしなくても、公表されている資料を活かして、タブレット上で生徒が仮説検証やデータ読解などを行うことができます。私は農業科で実践していますが、社会科や理科などのアプローチや、探究の授業にも応用することができるので、ICT機器活用の場が広がると考えています。

授業資料

事例概要

実践している学校

東京都立園芸高等学校

実践している学科

園芸科

活用する場面・授業

プロジェクト学習「農業と環境」

デジタル教材等を導入したねらい

仮説をたてることの重要性を通して、自ら課題解決を行う力を育む。

デジタル教材等を活用した指導内容

校内の圃場などに設置されたモニタリングセンサーから得られたデータを活用し、生徒が一人1台のタブレット端末を使ってデータ分析を行い、自らたてた仮説を検証した。授業は3人のグループワークで行い、共有された「PowerPoint」のテンプレートを用いたワークシートに、「Excel」でグラフ化したデータを添付し、発表資料を作成した。また、事前の準備として、ICT機器の操作に不慣れな生徒に対しては、あらかじめ朝の時間にデジタルドリル「スタディサプリ」を使った学習を行うことで、端末の基本的な操作に慣れさせた。

  • 使用機材:Surface Go 2、マウス(授業ごとに貸与)、プロジェクタ、Wi-Fi環境
  • 使用教材:Microsoft 365 Education(Teams、Excel、PowerPoint、Formsなど)、圃場モニタリングシステム「みどりクラウドPRO」など
学習効果等

プロジェクト学習において、仮説をたてることの重要さを学ぶことができ、2年生以降の課題研究にも生かされている。センシング機器を活用することで、即時性のあるデータを使って分析を行うことができた。一人1台の端末を使いグループワークを行った結果、リーダーシップも育まれ、生徒同士の学び合いも生まれた。

先生の感想

ICTの活用によって、プロジェクト学習を限られた授業時間内で効果的に行うことができた。授業アンケートや、2年生以降の課題研究などを見ても、手ごたえは感じており、特にデータ解析や協働作業において有用性が高い。今後は、取り組みの横展開や評価についてはもっと検討していきたい。

どんな授業を実践したのか

1年生の「農業と環境」のプロジェクト学習は、週4単位の授業で、そのうち全5時間の授業をICT機器の活用による仮説検証の機会としました。3人1組の班でのグループワークで行い、仮説設定、データを用いた分析による検証、それらをふまえた考察を資料にまとめて、発表までを行います。

全5時間の授業の導入では、センシング機器によるデータはあえて使用しませんでした。「気温とスマートフォンの売り上げの相関性」「気温と炭酸飲料の相関性」といった生徒にとって身近なテーマを取り上げることで、自分事としてとらえて仮説設定を行うような仕掛けをしています。

また、この導入の時間を経験することで、データを「Excel」でグラフ化し、「PowerPoint」で仮説から考察までを入力し、まとめるといった一連の操作を覚えることができます。

校内に設置されたセンサーで圃場の様子を遠隔で確認できる

都立園芸高校が導入した「みどりクラウドPRO」は実際の農業の現場で活用されているITサービスのひとつ。校内に設置されたセンサーで圃場の様子を遠隔で確認できる。

2時間目からは、校内に設置した圃場モニタリングシステム「みどりクラウドPRO」の湿度や土壌水分といった実際のデータを使い、「作物を栽培するうえでの環境」について学んでいきます。班ごとに「気温と湿度」といったテーマを設け、それぞれの相関性について仮説をたてて、検証を行っていきます。

5時間目である最後の授業では、班に分かれて発表を行いますが、プロジェクタで大きく見やすく映し出すことができるため、時間をかけて紙の模造紙で書くよりも、はるかに利便性が高いといえます。

班ごとに分かれてつくった資料も、PowerPointデータであれば容易に共有できる

班ごとに分かれてつくった資料も、PowerPointデータであれば容易に共有できる。進捗をプロジェクタで投影し、生徒同士の活発な議論を促せる。

現在、都立園芸高校園芸科の生徒の多くは農家に生まれ育った子どもたちではなく、卒業後の進路としても必ずしも就農を志しているわけではありません。そうした背景のなか、課題研究が自分事ではなくなり、課題設定やデータ解析などの目指す力が、生徒たちに根付いていないことに危機感を抱いていました。

各自のタブレット端末を使うことで、一人ひとりが自分の画面でデータを確認し、手を動かして作業することができます。協働作業をするにも便利ですし、たとえセンシング機器がなかったとしても公開されているさまざまなデータを探して分析が行えることなど、ICT機器を活用するメリットは大きいです。

どのような工夫をしたのか

授業中の指導については、基本的に生徒の自主性にまかせることで、班の中で分担した協働作業を行ったり、ICT機器が得意な生徒がサポートをしたりといった学び合いも生まれるようになりました。

また、生徒たちが立てる仮説について、特に「正しい」「間違っている」といった手直しはしません。むしろ、色々な仮説があったほうが、結果として生徒の学びになると考えています。

授業中は教室内をまわって生徒たちに声がけをする一方、教員のタブレットから各班の進捗も確認できる。

授業中は教室内をまわって生徒たちに声がけをする一方、教員のタブレットから各班の進捗も確認できる。

どのような苦労を、どのように乗り越えたのか

年度によっては、生徒一人ひとりのICT機器に対する経験に大きな差があり、「Excelを使ったことがない」「Wordで入力したことがない」といった生徒もいます。昨年度は、IDやパスワードを入力するといったタブレットの基本的な操作からはじめ、Excelの使い方までで、全5時間しかない授業の貴重な1時間をとられてしまったのは想定外でした。

そこで、朝の時間に全員がタブレットを使ったデジタルドリル「スタディサプリ」に取り組むことで、授業外でも自ずと操作を覚えられるように努めました。スタディサプリは各生徒の進度にあわせて学べるため、一人ひとりの基礎学力の向上をはかる目的もあります。その結果、今年度はスムーズに進められるようになりました。

ICT機器はトラブルがつきものなので、授業中の機器のトラブルについては、教員がサポートをするようにしていますが、「隣の班が困っているから助けてあげて」と声がけをするなどして、生徒同士の教え合いができるように心がけています。

導入時は、スマートフォンや炭酸飲料といった、生徒にとって身近で興味を持ちやすい題材のデータを使用した。

導入時は、スマートフォンや炭酸飲料といった、生徒にとって身近で興味を持ちやすい題材のデータを使用した。

生徒にどのような学びの効果があったのか

2021年度に行ったプロジェクト学習の授業について、実際に学んだ生徒を対象にアンケートを採りました。

「仮説設定について、理解が深まったか」「タブレットの操作についても習熟ができたか」「チームプレイができたか」という3点について質問したところ、9割の生徒が「仮説設定・検証を行う意味が理解できた」と回答しました。さらに、2割ほどの生徒が「リーダーシップを発揮できた」と回答しており、グループワークの意義や、ICTによる協働作業の有用性を感じています。

また、進級して2年生から始まる専門科目「課題研究」の授業では、生徒たちの口から「自分の仮説では……」といったことばをよく聞くようになり、「仮説設定」が重要であるいう課題研究の本質の部分が、少しずつ伝わりつつあると思っています。

自ら、仮説設定をしていく経験を積むことで、社会でも通用する課題解決力を育む。

自ら、仮説設定をしていく経験を積むことで、社会でも通用する課題解決力を育む。

先生にはどのような意識の変化があったか

これまでは、紙のプリント等のアナログでプロジェクト学習に取り組んでいましたが、独自教材をつくる手間のわりに、生徒たちへの効果を感じることができませんでした。ICTを活用したことで、限られた授業時間内で効果的に行うことができるようになった点は大きなメリットです。

特に、班で仮説検証を行う際や、発表資料を作成する際、「Teams」上で共有したPowerPointのワークシートを使うことで、班の中で分担して作業を進めていくことができたため、時間のロスがなく進めることができました。また、環境データ解析に、センシング機器の即時性のあるデータを使うことができた点も大きいと感じています。

生徒に行った授業アンケートや、2年生以降の課題研究の取り組みの様子を見ていても、一定の効果は得られていると感じています。この取り組みを横展開して、ほかの単元や授業にも広げていくにはどうしたらよいか、また、まだまだ評価の方法が難しく、どのように行っていくかといったことを、引き続き試行錯誤していきたいと思います。

 

(取材・文:相川いずみ 写真:前田立 編集:CINRA)

※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。