初中教育ニュ-ス(初等中等教育局メ-ルマガジン)第387号(令和2年5月22日)

【特別寄稿】
尼崎市の臨時休業期間における学習支援(ICT活用)に向けた取組について
~教育用PC環境10人に1台の自治体の挑戦~ Vol.2

〔尼崎市教育委員会教育長 松本 眞〕

 前回の初中メルマガへの特別寄稿については、多くの方々から反響をいただきました。
 ※前回の特別寄稿については以下をご参照ください。
  https://www.mext.go.jp/magazine/backnumber/1422844_00018.htm
 とりわけ、「通常時であれば、約5%のご家庭が、インターネット受信が難しい状況であれば、「やめよう」という発想になるところ、全ての家庭が学校で十分に学習できない状況の中で、95%の家庭がインターネットを受信することが可能であるならば、まずは、これら家庭に対して電子教材等を提供しつつ、残り5%の家庭に対して、例えば、学校のPC環境を提供するなど、個別の対応をしていこうという「発想の転換」を図り、今回、クラウドを活用したICT活用の環境を整えることとした」という点については、教育委員会・学校関係者からも、そして文部科学省関係者からも共感と応援の声をいただきました。
 その時々の置かれた状況によって「公平性」の概念は変わり、時宜に応じて柔軟に判断していくことの重要性、そして、そのことに対するリーダーの判断の重要性を改めて考えるよい機会となりました。
 また、学校現場の先生方からも、「各学校・担任も、初めてのことばかりで、戸惑いながら、試行錯誤しながら、学習保障の取組を進めています。我々教育委員会も学校管理職も、そして、各ご家庭も、こういう時だからこそ、「あれはダメ」「これはダメ」ではなく、様々な工夫をしようとしている学校や担任を応援する姿勢が重要」という点に対して、多くの共感の声をいただきました。
 実際に、今回の臨時休業に伴う家庭学習の支援で、多くの先生方が、自ら、創意工夫をして奮闘している様子が、そこかしこで感じられます。
「授業研究」(Lesson Study)が文化として根付いている我が国の学校現場では、子どもの学習支援に向けた創意工夫は、「教師」のDNAに埋め込まれており、そのことを大事にしてこそ、日本の教育の質が上がっていくことを改めて実感しているところです。
 さて、今回は、この5月の期間において、本市の学校でどのような家庭学習の支援に向けた工夫が見られたか、その一旦を紹介し、最後に、私自身の課題意識をお伝えしたいと思います。

1.臨時休業期間中における学校現場でのICT活用

 前回の寄稿で述べた通り、本市の臨時休業期間中の家庭学習支援の設計のポイントは、以下のようなものでした。

(1)「担任」を中心に位置付ける
 ・学校再開後を見越す
 ・子どものモチベーション維持
 ・各教師の創意工夫こそが最大の力
(2)積極的なICT活用 ― 逆転の発想 ―
 ・基本スタイルは「教科書とワークシート」
 ・発想の転換 -家庭のICT環境の活用-

(市教委の支援)

 「担任」を中心と位置付けた以上、教育委員会としては、クラウドストレージサービス「Box」や、YouTubeなどの動画配信システムを活用可能とするなど、できる限りの環境を整えた上で、どのようなコンテンツを配信するかは、現場の学校・教師に委ねることとなりました。
 このことは、もちろん、教育委員会が、家庭学習支援の対応について、学校現場に丸投げすることを意味するものではありません。誰もが経験をしたことのない中にあって、教育委員会が、学校現場に事細かに口を出すことは、かえって、学校現場の創意工夫、すなわち「イノベーションの創出」を妨げることにつながるとの認識のもと、教育委員会としては、学校現場に対するICT活用に向けた技術的な支援を最大限行いつつ、各校の活用事例を収集し、積極的に、全校に共有していくことに注力をしました。
 具体的には、担当部署である教育総合センターが、「GP(グッドプラクティス)だより」という広報紙( http://www.ama-net.ed.jp/ )を作成し、定期的に、各校でどのような取組が展開されているかをまとめ、市内の学校に展開をしていきました。
 5月21日現在で、既に、第3報まで発行を重ねており、学習動画を活用している学校の取組事例などを共有しているところです。

(予想を超えた学校・教師による創意工夫)

 ICT活用の方針を示した当初は、教育委員会として、期待したような取組が現場で展開されるのか、大変心配をしましたが、それが杞憂であることは、すぐに分かることとなりました。
 教育委員会において5月の臨時休業期間中の取組方針を定め、環境を整えた直後から、各学校の先生方は、私自身が想像していた以上に、子ども達のことを考え、様々なICT活用の工夫を始めました。そして、教育委員会には、各校の取組が、随時情報として寄せられることとなりました。
 そのことは、本市がICT活用のプラットフォームとして位置付けた「Box」の利用実績を見ても明らかで、4月30日時点では9.3ギガバイトほどの使用ストレージ量が、5月19日には112.8ギガバイトとなるなど、その利用量が指数関数的に増加をしていきました。
 これまで寄せられた学校現場におけるICT活用事例を整理すると、現時点では、おおむね以下のような類型として整理ができます。

(1) 子どもたちへの「メッセージ動画」等の作成・配信
 子どもの学習を直接的に支援するというよりは、「子どもたちと学校、担任をつなぐ」、「子どもたちのモチベーションを引き出す」ことを主な目的とした動画の作成・配信

(2) 「学習支援動画」の作成・配信
 子どもの学習支援(「学習内容の理解」など)を直接の目的とした動画の作成・配信。また、この「学習支援動画」は、以下のように、いくつかのパターンが見られました。
・プリントや学習計画表などを解説した「学習の進め方」に関する動画
・学習内容を解説する、いわゆる「授業動画」
・(英語のヒアリングなどで活用するための)「音声のみ」の教材

(3) 「テレビ会議システム」の活用
 「子どもたちと学校、担任をつなぐ」ことや、子どもたちの健康状況等の把握を目的とした「オンライン朝の会」、「オンライン教育相談」等の実施

(4) 各担任が作成した「ワークシート(学習プリント)」等の共有
 担任による子どもたちへの配信のためのコンテンツ作成・配信だけでなく、各学校の担任が作成した「ワークシート(学習プリント)」等を、学校間で共有することにより、教師側の作業の効率化や質の向上のための仕組みを構築した地域もありました。

 上記に加え、図工の学習において、課題動画の配信だけでなく、子どもたちに、家庭において作成した図工の作品を写真撮影し、クラウドストレージシステム上にアップロードしてもらい、皆で共有するところまで取り組んだ先生もいました。いわゆる、ICTを活用した「インタラクティブな学び」です。
 子どもそれぞれの個人アカウントなしで、ICTを活用した「インタラクティブな学び」を実現させた点は、我々教育委員会の想像を超える取組だったと言えるでしょう。
 なお、これらの各学校における具体的な取組や子どもの反応については、最後の章に、「5.補論-ICTを活用した家庭学習支援に取り組んだ先生方の声-」として、本市の学校管理職や担任の先生方、担当した指導主事からも寄稿をいただいたので、ぜひ、あわせてご覧いただければと思います。

3.「With コロナ」、「After コロナ」に向けて

 以上が本市の5月の臨時休業期間中におけるICT活用の取り組み事例です。
 今回は、紙幅の関係で、主に義務教育を中心とした紹介となりましたが、本市の市立幼稚園や高等学校においても、YouTube動画の配信や、オンライン学習システムの導入、Google Classroomを活用したインタラクティブな学びなど、教師によるICT活用の工夫が随所に見られたことは、本市にとって、今後の大きな財産であったと考えています。
 また、全体の利用実績の把握はこれからであり、今回ご紹介できた取組事例は、各学校・教師の取組の一旦にしか過ぎません。ただ、私の印象としては、多くの担任を担っている教師が、ICT活用に関して非常に前向きな姿勢を示してくれたのではないかと思っています。
 よく、「なぜ、ICT活用が進まないのか」ということが議論され、その要因として、「教師の意識の問題」が取り上げられることが多いと思いますが、今回の経験を踏まえると、少なくとも、「担任」については、その指摘が的を射たものではないことがよくわかります。
 実際、尼崎市でも、毎年、全教員へのアンケートを実施しておりますが、アンケートの回答には「ICT環境の充実」に向けた要望が、かなりの量にのぼっています。授業を実際に担っている教師の多くが、授業でICTを活用したい、と臨時休業になる前から訴えていました。
 その意味では、「予算がつかない」、「セキュリティが心配」、「導入したところで本当に使うのか」、「格差が広がる」などを言い訳にして、本気になってICT活用に向けた環境整備を進めず、また、ICT活用に向け、教師の背中を押してこなかった、教育委員会をはじめとする管理部門全体の責任は、やはり大きいのだと思います。
 我々教育委員会は、学校が通常再開された後でも、現場の教師が、子ども達への学習支援ツールとして、ICTを当たり前に活用できるよう、ハード面、運用面の両側面の環境整備を全力で進めていかなければならないことを、改めて強く感じています。
 今、多くの地域で、緊急事態宣言が解除され、焦点は学校再開へと移行しています。しかし、新型コロナウイルス感染症の「克服」までの見通しが明確でない以上、新型コロナ「以前」の生活は、当面、戻ってきません。
 「With コロナ」を前提とした学校運営を考えたとき、今回の臨時休業期間中のICT活用は、「レガシー」として今後も持続させ、また発展させていかなければなりません。
 少なくとも、我々教育委員会・学校は、「With コロナ」「After コロナ」に向けて、文部科学省の「GIGAスクール構想」を最大限活用したICT環境整備を進めていくことと併せて、以下の3点についてコンセンサスを得ていくことが、今後の大きな課題だと考えます。

(1) 「公平性」の再定義-「実質」を重視した学習環境の保障―

 今回の本市の取組で、最も大きなポイントは、「95%の家庭がインターネットを受信することが可能であるならば、まずは、これら家庭に対して電子教材等を提供しつつ、残り5%の家庭に対して、個別の対応をしていく」という「発想の転換」を図った点です。
 この「発想の転換」を前提として進められたICTを活用した家庭学習支援は、出欠席連絡、事務連絡、宿題配信など、今後の学校と家庭との連携の観点から極めて有効であり、また、業務改善にもつながるものです。さらには、不登校の子どもや病気療養中の子どもの学習支援の充実の観点からも、不可欠なものとなります。
 その意味では、この「発想の転換」は、今回の臨時休業期間中の「緊急避難的」、「一時的」な発想ではなく、「With コロナ」「After コロナ」の状況下においても、学校の学びの環境の充実に向けた成否を握るものであり、まさに「肝」と言えるものでしょう。
 このような仕組みを維持・発展させるためには、引き続き、家庭におけるICT環境を活用していくことについて、社会全体で共通理解を図っていくことが重要です。
 公立学校は、「最後の砦」として、あらゆる家庭環境のお子さんに対して学習機会を保障する役割を担っていることは当然です。しかし、尼崎市のみならず、日本全体の教育環境を、世界から見ても遅れたものとしないためには、教育の機会均等は「形式的」に保障するのではなく、「実質的」に保障していく姿勢こそ、今求められているものと考えます。
 なお、教師のICT活用についても、私自身は、最初から全ての教師が、あらゆる教育活動で、ICTを必ず活用すべきとは思っておりません。
 むしろ、教育委員会としては、今回の臨時休業期間中の姿勢と同様、今後も、ICTを積極的に活用して、子どもの学習支援の工夫をしようとしている教師の試行錯誤を応援し、また、広めることにより、尼崎市内の学校全体に、ICT活用が普及していくようにすることが重要と考えています。

(2) 「家計負担としての通信料」の概念を持つこと

 子どもの学校教育に関わる経費は、義務教育であっても、全てが無償ではなく、例えば、個人に帰属するような教材費は「諸費」などとして、各家庭でご負担をいただいています。
 このため、家庭の経済力による教育格差を解消することを目的として、制度的には、生活保護の中に教育扶助費という費目が存在しており、また、就学援助などの仕組みがあります。
 この点、今後の学校教育におけるICT活用を考えれば、「家計負担としての通信料」を前提に考えていくことは避けることができず、このことは各ご家庭にもご理解をいただかなければなりません。
 そうであるからこそ、今後は、教育関係者が知恵を集めて、家計負担を全体として軽減する努力を進めていかなければなりません。生活保護(教育扶助)や就学援助の充実、また、今回の補正予算において文部科学省が実施しているモバイルルーターの貸出支援、さらには、既存の家計負担の見直しといった取り組みを、国や自治体、さらには、PTAなどの関係者を巻き込んで、充実・強化させていくことが必要です。
 その意味でも、厚生労働省が、5月15日付で、学校の教育活動として実施された家庭学習によって発生した通信費を生活保護費(教材代)として実費支給できるという通知を、全国に発出したことは、極めて大きな意義を有していると思います。
 本市においても、既に、家計負担軽減に向けた検討も進めようとしているところであり、今後、ランドセルなど実態として高額な費目も含め、家計負担の軽減及びポートフォリオの見直しに向けた検討を進めていきたいと考えています。

(3) 「教育情報セキュリティ」の考え方の見直し

 三点目の重要な点は、「教育情報セキュリティ」の考え方をクラウド前提にすることです。
 「学校情報セキュリティ」の考え方は、行政におけるマイナンバー制度導入の際の自治体情報セキュリティの考え方の影響を強く受けており、学校の学習においても、クラウド活用が認められていない自治体がほとんどです。
 本市も、多くの自治体と同様、学校におけるクラウド活用は認められていませんでしたが、今回の臨時休業により、「Box」などのクラウド活用はもとより、YouTubeやZoomなどのインターネット経由のサービスの利用制限を緩和することとしました。
 今後、家庭とのやり取りも含めてICTの活用を進めていくためには、「With コロナ」「After コロナ」のステージにおいても、クラウドの活用を前提としていかなければ成り立たないことは明らかです。
 そのためにも、個人情報保護等の観点も踏まえた上で、クラウドサービスの活用を進めるための留意点を整理するなど、教育委員会としての「教育情報セキュリティポリシー」の見直しを進めていくことも必要です。

4.おわりに

 今回の臨時休業を経験して、教育委員会や学校はもとより、子ども自身や各家庭も、「学校の果たす役割の大きさ」を、改めて実感したのではないでしょうか。
 学校は、単なる知識や技能を効率的にインプットする場所ではありません。
 子どもにとって「学校」は、教師や友達などの「他者」や「環境」との相互関係の中で、多様な意見や人間社会での生き方をはじめとする多くのことを学び、日々の活力を得る場であるのです。
 尼崎市のある兵庫県は、5月21日に緊急事態宣言が解除され、現在、段階的な学校再開に向けて準備をしているところですが、今後の学校再開に向けては、学習指導要領において学習すべきとされる内容を丁寧にフォローしていくことは当然に意識をしながら、あわせて、「学校でしかできない学び」をどう保障できるか、という視点も強く意識をし、再開後の学校運営が展開できるよう、準備を進めていきたいと考えています。

5.補論 -ICTを活用した家庭学習支援に取り組んだ先生方の声-

 以下は、この5月の臨時休業期間中に、本市の各学校において取り組まれたICTを活用した家庭学習支援の様子等を、それぞれの立場から寄稿をしてもらったものです。
 本市の各学校の先生方が、家庭にいる子ども達の学習支援のために試行錯誤した努力に対して、敬意と感謝を申し上げます。この経験は、必ずや、「レガシー」として、「With コロナ」「After コロナ」のステージとして生きていくことを確信しています。


【事例1:立花北小学校の取組 立花北小学校 教諭 畑彩香)】
 
(1)担任の顔が見える動画の提供
 本校では「Box」を活用して、さまざまな動画を子どもたちに届けています。各担任のメッセージ動画、授業動画、読み聞かせ動画、姿勢やランドセルの使い方などの生活指導動画、図画工作の作り方の動画など、動画の種類は多岐にわたります。保護者には5月頭の登校日で学校便り(紙媒体)で提供したURLから各学年のページや、教科のページへアクセスできるようにしています。

(2)アンケートの実施
 新年度になっても5月まで休校となり、インターネットやニュースでは、学校に対する保護者の不安の声が多く報道されていました。本校でも児童や保護者の声を確かめなければと思い、インターネットを活用したアンケートを行いました。アンケートは全家庭の3分の2程度の回答を得ることができました。
 その結果、やはり本校の保護者も授業に対する不安を感じており、「子どもたちが学習を頑張ることのできるような励ましの動画配信をしてほしい」「オンライン授業をしてほしい」など、たくさんの意見を得ました。また、自宅にインターネットに接続する環境がないと回答した家庭は1.4%と思ったよりも少なかったため、これなら多くの児童に動画を届けられるのではないかと考え、まずは担任の顔を覚えてもらうことを目的にメッセージ動画から作ってみました。そのあと、先生方の意欲的な取り組みにより、様々な動画やPDFを作って、学習ホームページで配信をしています。

(3)チーム立北(たちきた)
 教育委員会から「Box」の利用開始のお知らせを頂いたときは、正直なところ、どこまで職員が取り組めるのか、保護者の方々が見て頂けるのかという不安がありました。私だけでは判断ができず、他の職員の方に「メッセージ動画を配信したいのですが、、、」と提案してみました。すると私の不安を塗り替えるように皆さんがとても良い動画を撮影してくれました。
 メッセージ動画だけではなく、ベテランの先生方から初任の先生方まで授業動画も積極的に撮影してくれました。宿題の作成や、児童の預かり保育、校内の消毒など、感染症予防の為の仕事もたくさんある中で、「授業向上のための良い機会だね!」と前向きに取り組んでくださる立北(たちきた)の先生方には感謝しかありません。
 また、保護者の方々も動画配信を見ていただき、良かったところや改善点など、お忙しい中ありがたいご意見をたくさんいただくことができました。中でも、「先生の顔が見られて嬉しかったようです」「先生たちの姿が見られると、子どもは満面の笑顔になりました」「先生方の動画を家族で楽しく拝見しました」「先生たちの動画を見て子どもがにこにこしていました」という声をいただき、職員一同「やってよかった!」という達成感を感じることができました。

(4)インターネットとリアルのよいところを活かす
 しかし、リアルタイムでの授業を希望する声は多く、動画配信だけでは限界も感じています。また、アンケートは保護者の方の回答であるため、児童の反応が見たいという職員の声もあります。
 今回、このような状況になり、今まではICTを活用しきれていなかった私たちでしたが、今あるもので、児童と繋がるために職員全員で知恵をしぼりました。ここまで取り組むことができたのも、チーム立北として職員が一丸となって取り組めたからです。今後も分散登校が続いたり、休校措置がとられることを考え、インターネットとリアルの良いところ活かして児童に教育の機会を提供できたら、と思っています。


【事例2:小田地区小学校の取組 潮小学校 教頭 福田晃大】
※尼崎市は6地区に分かれており、小田地区には7校の小学校があります。

(1)授業用学習シート共有フォルダの作成
 ア.作成に至る経緯
 令和2年4月17日、臨時休業期間等に伴い学校に登校できない児童生徒の学習指導についての通知を受け、各校が授業用学習シートの作成準備に取りかかりました。翌々週4月27日の小田地区校長会において、作成中の学習シートを共有し、できる限り質の高い学習シートを作成していく方向が決定されました。そこで、教員一人一人がもつ知見やアイディアを共有し、小田地区の共有財産として蓄積していくことをねらいとして、小田地区では授業用学習シート共有フォルダを作成しました。

 イ.運用にあたって
 共有フォルダの作成・運用にあたって、意識したことはスピード感です。どんな便利なものも時を逸すれば無駄なものになります。そこで、運用のきまりとして2つだけ設定しました。1つ目はファイル名に学年・教科・単元・学校名を入れることと、2つ目は他校のファイルを使って編集したものは共有フォルダにあげないことです。他のきまりは運用しながら問題が生じたらその都度設定していくこととしました。

 ウ.今後の展望
 短期的には、5月15日(金)現在、小田地区授業用学習シート共有フォルダには384ものファイルがアップされています。まずは、共有フォルダ内の整理を進め、より活用しやすいようにします。再開後に学習支援が必要な児童に対してのフォローアップとして活用していきます。具体的には放課後学習で使用する学習資料や学習の定着を確認するミニテストなどを共有していきます。
 中・長期的には、現在の学習シートをブラッシュアップしていくことで、小田地区各小学校の学力向上施策のオプションの1つとして、各種学習シート(家庭用・授業補助用・学習支援用など)の共同開発ができればと考えています。

(2)その他の取り組み
 ア.小田地区教頭フォルダの作成
 小田地区7校の教頭が共有できるフォルダを作成しました。教頭間の迅速な情報交換ならびに知見の共有が作成意図です。ここでの情報共有をベースに地区教頭で協議を行います。

 イ.潮小学年会フォルダの作成
 在宅での勤務をより効率的に行えるように学年が共有できるフォルダを作成しました。働き方改革(勤務時間の上限規制指針)を考えるうえで有効なツールだと考えています。


【事例3:大庄中学校の取組 大庄中学校 校長 佐々野俊弥】

(1)Zoomで1対1 教育相談にチャレンジ
 「何時に起きた?8時?」「ごはん食べてる?」・・・ガランとした教室で、担任の先生がPCに向かって笑顔で話しかけます。その画面には、自分のクラスの生徒の顔が映っており、時折、生徒のお母さんがチラリと映ることも。本校では5月12~14日、「Zoom」を活用して、全クラスで先生と生徒による「1対1」の教育相談を実施しました。オンラインの活用は4月当初、ネット環境にない家庭の存在、脆弱な学校のICT環境・セキュリティ等の課題を心配し、肯定的な意見は少数でした。

(2)Zoomを使おう!
 本校の教育目標は「対話を大切にした人間力の育成」です。休業延長が議論される中、登校日がなく学校に行けない子ども達の「不安」を少しでも軽減するにはどうしたらよいか。校内で話し合う。不安軽減には、対話をしあう教育相談が必須です。そのためにはできることは何でもしようと私も後押しをして、4月初旬できなかったオンライン活用が復活。「全ての生徒とつなぐ」の思いで全クラス「Zoom」で対話し合う教育相談を実行。私自身も先進的に実施中の熊本市に問い合わせ、資料を活用しました。17人の担任中、「Zoom」初心者が15人。お互いに学びあいながら、設定から自分達で行いました。全校生徒625人、6回線設定。生徒1人につき5分間の教育相談です。時間割を組み、ポスティング、また、HPで保護者の援助も得て、子どもたちに面談時間や「Zoom」の使用方法等を伝えました。

(3)Zoomで笑顔
 そして迎えた当日。先生と生徒が初めての「Zoom」での対面ということもあり、どちらも初めは緊張気味の面持ち。しかし、接続が確認され顔が写ると「やったー」という声、そして、お互いに不安な顔から笑顔に変わりました。指定の時間につながらなかった生徒や、話し足りなかった生徒とつなぐ予備時間も設けました。3日間で、予想を上回る約7割の生徒と「Zoom」で対話できました。もちろん、つながらなかった生徒には、顔は見えませんが電話で、丁寧な対話をしました。

(4)子どもたちの不安を軽減する
 今回の取組の目標は「子どもたちの不安軽減」です。たとえ短時間であっても、先生の顔を見て話をすることで、子どもは安心します。学校が休校中の今、オンライン授業は勿論大切ですが、「子どもの様子を確認」「SOSをキャッチしやすいつながりを持つ」も同様に大切です。支援の必要な子どもや家庭を発見できるのは、私たち現場の教師をおいてほかにはいません。「子どもの悩み」「学習意欲の低い子、家庭の教育力の低い子をどう励ますか」・・・私たち教師の役割が大です。阪神淡路大震災で経験しましたが、休校中の子どもの不安は大きいです。その時も「とにかく話を聴く」でした。子どもが元気でも、経済的なことで親のストレスが子どもに向かうこともあります。私からは、先生方に「今、不安に思うことは当たり前。これを子ども達に伝えてください」「しんどいこと、不安なことをZoomや電話で担任が共感してください」とお願いしました。その中で、PC画面に向かうZoom初心者先生の声がどんどん大きくなり、子どもの不安とともに、先生の不安も小さくなっていく事が何より嬉しかったです。本格的な学校再開に向けて、2回目の「Zoom」も活用しています。今後、新型コロナウイルス第2波、第3波が来た時にも、先生と子どもの間の対話をつくるため、積極的に「Zoom」を活用していきたいと考えます。


【事例4:教育委員会の取組 尼崎市教育委員会事務局学び支援課 教育情報担当 係長 瀧本晋作】

 学校にいる教員が、家庭にいる子どもたちの学びを支援する。本課では、この特殊な状況下においても、子どもたちや教員がICTを活用して学びを継続できるように、さまざまな支援を行っています。

(1) 家庭学習支援サイトの開設
 今回の臨時休業を受け、最初に取り組んだのは「あまっ子 動画・番組学習 家庭学習支援サイト」の開設でした。このサイトは、NHK for Schoolなどの学習動画サイトへのリンク集です。当初は、指導主事などによる授業動画を提供すればよいのではないかという議論もありました。しかしながら、インターネット上にはNHK for Schoolを始め、さまざまなサイトで学習動画が提供されています。本課では、映像のプロが制作する良質な学習コンテンツを収集・整理した方が効果的と判断し、「家庭学習支援サイト」の提供を主軸とすることにしました。

(2)ICT学習支援ツールの提供
 一方で、担任の教員が自分の学級の子どもに向けた動画には、特別な意味があります。同じ内容であっても、「○○先生」が教えてくれる動画を視聴することは、学校の授業を受けている感覚に近く、子どもたちは安心感を得ることができます。実際に、4月の最初の登校日が終わったころから、「学校のホームページに動画を載せることはできないか」といった相談が、本課に寄せられるようになりました。ただ、現行のサーバーでは対応が難しかったため、動画のストリーミング配信も可能なオンラインストレージの「Box」を導入することにしました。
従来でしたら、アカウント管理の徹底や教員研修などを行ってから導入するところですが、今回はスピード感を重視しました。市内すべての学校で使える環境を整える一方で、あくまで使用については学校裁量にしています。そのため、「Box」を使わず「YouTube」で動画配信をしている学校や、ホームページのブログ記事を工夫して情報発信をしている学校もあります。そうした学校も支援するために、フィルタリングの制限を緩和し、HP更新の体制を強化するなどの対応もしてきました。
また、中学や高校には受験を控えた生徒を支援するために、民間のオンライン学習教材「スタディサプリ」を全校導入することが決まりました。さらに、教職員への支援という観点では、4月の半ばから研修に「Zoom」を取り入れ、子どもたちだけでなく教員の学びも継続できるように工夫しているところです。

 このように、3月から取り組んできたICT活用への支援ですが、6月からの学校再開に向けて、新たな局面に変容していく必要も感じています。これまでは、ICTを活用して教材や動画等の学習コンテンツの提供するための環境整備を中心にしていましたが、ICTの活用が学習コンテンツの提供に終始するだけなら、対面授業ができる環境に戻ればICTは無用の長物になります。
新学習指導要領では、知識伝達型から「主体的・対話的で深い学び」を生む学習者主体の授業観への変容が求められています。ICT活用についても、「教員が学習コンテンツをどのように提供するのか」という議論に加え、「子どもたちがどのように学ぶのか」という議論が重要になります。今後の1人1台環境を見据え、単に学習コンテンツを利用するだけではなく、学習メソッドを豊かにするツールとしてICTが活用されるように支援していくことが、教育委員会の使命だと考えています。

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