初中教育ニュ-ス(初等中等教育局メ-ルマガジン)第385号(令和2年5月8日)

[目次]


【お知らせ】
□新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について
□「初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド」について

【発行】
□「教育委員会月報」について

【特別寄稿】
□尼崎市の臨時休業期間における学習支援(ICT活用)に向けた取組について
~教育用PC環境10人に1台の自治体の挑戦~
尼崎市教育委員会教育長 松本 眞


□【お知らせ】新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について

  文部科学省では、新型コロナウイルス感染症関連のお知らせを随時更新しております。
「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」の延長等について最新の通知等を掲載しておりますのでご確認ください。

https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html#news

 

□【お知らせ】「初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド」について

〔初等中等教育局特別支援教育課〕 
 

 障害のある児童生徒に対する教育的支援として、「通級による指導」という指導形態があります。この指導を受ける児童生徒の数が増える中、指導の専門性の向上が課題となっています。文部科学省では、このたび、「初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド」を作成し、ホームページで公表しました。
https://www.mext.go.jp/tsukyu-guide/index.html
 通級による指導に限らず、通常の学級における指導にも参考にしていただける内容です。お手持ちのスマートフォンやタブレットからご覧になれますので、ぜひ、ご活用ください。
 
(お問合せ先)
初等中等教育局特別支援教育課支援総括係
電話:03-5253-4111(内線3254)

 

□【発行】「教育委員会月報」について

〔初等中等教育局初等中等教育企画課〕
 

 「教育委員会月報」は、文部科学省の実施する施策の論説・解説や各都道府県・市町村教育委員会の特色ある取組等の紹介など、全国の教育関係者に有用な教育行政に関する情報を提供している月刊誌です。
 5月号の特集は、「今年度の重要施策と課題」「「学校体育施設の有効活用に関する手引き」の公表について」です。
※詳細はこちら(第一法規株式会社ウェブサイト)
http://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/100408.html

(お問合せ先)
初等中等教育局初等中等教育企画課地方教育行政係
電話:03-5253-4111(内線4676)
 

□【特別寄稿】尼崎市の臨時休業期間における学習支援(ICT活用)に向けた取組について
~教育用PC環境10人に1台の自治体の挑戦~
 

〔尼崎市教育委員会教育長 松本 眞〕

 世界で新型コロナウィルスの猛威が振るっている中、兵庫の東の玄関口、大阪に隣接している尼崎市立の学校園では、3月以降、2か月間臨時休業が続いています。全国の自治体で同じような状況となっており、小学校、中学校、高等学校等にお子さんが通っている家庭においては、学校の勉強が遅れることへの心配も多いと思います。
 また、4月28日には、5月31日までの臨時休業の延長を決定し、公表いたしました。
 今回は、尼崎市が、5月からの臨時休業期間において、どのような家庭学習支援を行っていくのかという観点から、取組の一旦をご紹介したいと思います。

 尼崎市では、5月の臨時休業にあたって、学習支援について、以下の4点を柱に据えて進めていくこととしました。

1.新学年の学習内容の指導を開始
2.ICTを活用した動画や教材の提供
3.民間オンライン学習支援システムの導入(予定)
4.インターネット利用が困難な児童生徒への支援の実施

 次からは、各項目についての考え方を、それぞれ説明していきます。

 【1.新学年の学習内容の指導を開始】

 尼崎市において、5月の臨時休業が、3月、4月の臨時休業と全くことなるところは、「新学年の学習内容を始める」という点です。
 学校は、通常であれば、1か月ほど余裕を持って年間指導計画を組んでいます。このため3月の臨時休業の際は、本市の学校では、おおむね当該学年で学ぶべき内容は履修をしており、復習の段階に入ろうとしていました。このため、3月の臨時休業は、学習進度という観点で言えば、そこまで大きな影響を及ぼしませんでした。
 一方、新年度に入りすでに1か月が経過しました。5月に入り、今年度の年間指導計画の余裕(バッファ)も消化している中で、本市としては、「新学年の学習内容を始める」という判断をいたしました。
 もちろん、臨時休業期間中には新学年の学習内容は進めず、学校再開後に夏休みなどを短縮させて履修(キャッチアップ)するというやり方もありますが、新型コロナウィルスとの闘いは長期戦となることも予想され、学校再開の目途も不明の中では、まずは、自宅学習において新学年の学習内容を進め、定期的に子どもたちの学習状況をフォローした上で、学校再開後に定着度の確認、さらには、長期休業期間の短縮や放課後の活用等により、子どもの負担にも配慮しながら、補充学習を行う方が現実的であろうと判断をいたしました。

【2.ICTを活用した動画や教材の提供】

 家庭学習において「新学年の学習内容をはじめる」となると、家庭学習における課題の出し方も、夏休みのように、復習プリントなどをまとめて渡すというやり方ではなく、子どもたちが新しい課題に自分で挑戦できるような課題の出し方をしていかなければなりません。これは、全国のどこの学校でも経験のしたことのない新たな挑戦です。
 新たな挑戦をする際には、コンセプトと具体的設計が重要になります。今回の場合、「子どもたちが、興味を持って自宅で学習を進めることができる環境を整えること」が、目指すべき姿(コンセプト)としてあります。このコンセプトに向けて、今ある資源を最大限活用し、やれることは何でもやる、という発想で、具体的な設計をさせていただきました。
 以下、具体的な設計のポイントを解説します。

(1)「担任」を中心に位置付ける
 尼崎市では、家庭学習を進めるにあたって、「担任」を中心に位置付けた設計としました。
 実は、今回の臨時休業期間中に学校がやろうとしていることは、いわゆる「通信教育」と似ています。通信教育と言っても、(ア)紙媒体でのやり取りを中心としたサービス、(イ)オンデマンド型サービス(自分が見たい時にDVDやインターネットで講義動画などを見ることができるサービス)、(ウ)オンライン型サービス(リアルタイムで遠隔で授業を受けることができるサービス)など、様々なタイプがあります。
 これら、通信教育は、紙媒体でも動画等の媒体でも、一つのコンテンツ(課題や動画)を多数の人に一度に配信できるところに特徴があり、「生産性」の観点から見れば極めて合理的な手法です。このため、予備校等の民間の学習支援サービスでは通信教育は一つのビジネスモデルとなっています。
 今回の臨時休業期間中における学校の対応においても、地元ケーブルテレビを活用した授業動画の配信、YouTubeなどを活用した指導主事による授業動画の配信、遠隔授業システムを活用した授業提供など、様々な設計が考えられ、既にいくつかの自治体ではこれら取組が進められています。
 一方で、本市の場合は、全市一斉の動画配信などの設計とはせずに、「担任」が、課題(いわゆる「コンテンツ」)を提供し、子どもたちとやり取りをする形を採用することといたしました。その理由は三つあります。
 
 (学校再開後を見越す)
 一つは、学校再開後を見越しているということです。
 そもそも、本来の学校は、知識を効率的にインプットする場所だけではなく、生活面も含めた多様な経験をすることが期待されています。子どもたちは、学校生活を通し、多様な考え方を学び、人間社会の中でたくましく生きていく術を身に着けていきます。(この記事をお読みの皆さんの中にも、学校の記憶と言えば、授業以上に友達のことや、部活動のことなどを記憶している方も多いのではないでしょうか。)
 そのため、学校には、一日の生活リズムがあり、行事があります。そして、学校の教師は、これら子どもの学校生活の支援者として、授業を行うだけでなく様々な学校生活のサポートをする役割を担っています。
 そして、いつか学校は再開し、子どもは、また通常の学校生活に戻っていきます。臨時休業期間中であっても、このような学校に求められる本来的機能や、学校再開後のことを考えると、できるだけ担任とコミュニケーションをとりながら学習が進められる環境を整えることが有益と考えています。
 また、子ども達の学習は、最終的には、担任がその成果を評価していく必要があります。この評価は、学校教育の場合は、テストの点数だけでなく、課題に対しどのように思考し、判断、表現したかや、課題に対してどのような姿勢で取り組んだか(態度)なども含めて評価をしていくこととなります。このような評価は、子どもと日々のやり取りを通じて確認をしていくこととなることを踏まえると、一番身近な担任が、常に、子どもの学習状況を把握していくことが適切です。

 (子どものモチベーション維持)
 二つ目の理由は、子どものモチベーションを維持するためです。通信教育は、一つのコンテンツを大多数に提供することが可能ですが、一方で、課題への取組については各人の努力に委ねられることから、「モチベーションの維持」が課題となります。
 これは、臨時休業期間中における家庭学習が、個人や家庭のフォローの状況によって大きな格差が出るという懸念につながります。
 この問題を回避するためには、身近な担任が、個々の子どもたちの様子をできるだけ丁寧に把握し、励まし、コミュニケーションを取りながらサポートできる環境が必要です。
 なお、このような意味では、臨時休業期間中であっても、感染防止対策は徹底しつつ、定期的な登校日の設定なども重要になってくるものと考えています。

 (各教師の創意工夫こそが最大の力)
 三つ目は、各教師の創意工夫を後押しするためです。
 サービス業などでは、従業員の働きが決定的に重要になります。これは、学校も同じで、学校教育の成否は、教師にかかっていると言っても過言ではありません。
 学校生活において、教師は、子どもを励まし、時には叱咤し、見守ることにより、子どもは、モチベーションを維持しながら、勉強や運動に励み、そして、人間関係を構築していきます。
 子どもの伴走者としての教師が、よりよい教育を提供しようと自ら情熱を持って創意工夫をすることこそが、とりわけ、様々な家庭状況や精神状況にある子どものいる公立学校にとっては重要です。
 このことは、臨時休業期間中でも変わりません。一人ひとりの教師が、家庭にいる子供たちに対して、何ができるのか、最大限に知恵を出して取り組んで初めて、今回の学校教育史上初めての困難を乗り切ることができます。

(2)積極的なICT活用 ― 逆転の発想 ―

 本市の学校のICT環境は、お世辞にも整備されているとは言えません。教育用PCの児童生徒比は約10人に1台の割合です。全国平均の5.4人に1台には到底及ばず、また、兵庫県下41市町村の中でもワースト6位という状況です。
 もちろん、ICT環境整備が進まなかった理由は、これまでの本市の財政状況や人口規模が比較的大きい(投資額も大きくなる)ことも要因ではありますが、これまで教育委員会が計画的に整備を進めてこなかったことも要因としてあげられます。
 着任後、すぐにICT環境整備に取り組んできましたが、人的体制整備、予算の確保、調達に向けた準備(システム設計、仕様書準備等)等、どうしても一定の時間がかかり、一朝一夕にICT環境整備が進むわけではありません。その意味でも、毎年の計画的な整備がいかに重要かを痛感しています。
 いずれにせよ、今回の臨時休業期間の家庭学習は、今あるICT環境で臨まなければなりません。

 (基本スタイルは「教科書とワークシート」)
 このため、本市は、教科書とワークシートを基本スタイルと位置付けました。各学校には、教科書に沿ったワークシートの作成をお願いし、定期的に、各家庭にポスティングをするという、非常にアナログで確実な手法です。
 ワークシートは、課題に対する子どもの思考や表現が直接表現できるので、評価に活用しやすいという利点があるという積極的な理由もありますが、本市のICT環境の現状を踏まえると、このようなスタイルを採用せざるを得ないという状況もあります。

 (発想の転換 -家庭のICT環境の活用-)
 一方で、家庭学習を進めていくためにICTは強力なツールとなることは間違いありません。とりわけ、言語能力が十分に身についていない段階の子どもにとっては、教科書やワークシートといった、文字情報のみで学習することは、時に困難が伴います。また、モチベーション維持の観点からも限界があります。
 ICTを活用し、担任による動画解説や、クリップ動画の配信が可能となれば、子どもたちの家庭学習の環境は各段に改善されます。
 ここで、我が市が思い切ったところは、「学校のICT環境整備が進んでいないことを理由に、ICT活用をあきらめない」ということです。
 家庭に一定のICT環境が整っているのであれば、家庭のICT環境も積極的に活用させていただき、家庭学習を進める環境を整えようと考えました。
 急遽、Google フォームというクラウドアンケートシステムを活用し、家庭のICT環境の現状調査を実施し、最終的には8割近くのご家庭から回答をいただきました。調査結果では、95.1%のご家庭がインターネットを使っての動画教材等の受信が可能(これから整備をするご家庭も含む)という回答でした。
 本市は、生活保護率が約4%(平成29年2月現在)と、中核市の中では、函館市に次いで2番目の高い自治体です。また、就学援助率(平成30年度)も小中合計で22.1%と、全国の14.7%と比較しても高い割合となっています。
 通常時であれば、約5%のご家庭が、インターネット受信が難しい状況であれば、「やめよう」という発想になるところ、全ての家庭が学校で十分に学習できない状況の中で、95%の家庭がインターネットを受信することが可能であるならば、まずは、これら家庭に対して電子教材等を提供しつつ、残り5%の家庭に対して、例えば、学校のPC環境を提供するなど、個別の対応をしていこうという「発想の転換」を図り、今回、クラウドを活用したICT活用の環境を整えることとしました。
 具体的には、「box」というクラウド型のストレージサービスを整備し、各学校から家庭に対して電子ファイルを提供できる環境を順次整備しています。
 また、学校のセキュリティの運用方針を見直し、YouTubeなどの動画配信システムの活用も可能としました。
 これらサービスが各学校で運用できるようになると、例えば、担任が自己紹介動画を作成し配信する、教科書の単元に即して見ておいてほしい動画を配信するなどが可能となります。また、印刷物として配布までは必要ないが、目を通してほしい資料などを案内するなども可能となります。
 子供は自宅のパソコンや親のスマートフォンを借りるなどして、動画や教材等の電子ファイルを見ることとなります。
 また、担任と家庭間だけでなく、教員間での教材の共有も可能となり、各教師が協力して教材研究を進める環境が整います。
 最大のポイントは、どのようなコンテンツを提供するのかを、各担任が判断できるという点です。担任が創意工夫して自ら生み出したり収集したりしたコンテンツを中心に、それぞれの子どもがいる家庭に届けることが可能となります。
 5月以降、これらクラウドサービスを中心としたさまざまなツールを活用した教材の共有が始まります。主役は担任ですので、最初は活用をしない教師も多いかも知れません。しかし、教育委員会として、積極的な活用事例を提供するなど、その活用方法の発展に向けた支援をしていく予定です。

【3.民間オンライン学習支援システムの導入(予定)】

 次に、尼崎市では、中学生と高校生に対しては、教科書、ワークシート、「box」などのクラウド型サービスだけでなく、(株)リクルートマーケティングパートナーズが提供するオンライン学習支援システム「スタディサプリ」の導入を予定しています。
 中学生、高校生は、受験が控えています。既に2か月間の空白期間が生じており、また、学習塾も一部自粛をしているところもあります。さらに、図書館等の自習スペースも利用できない状況となっています。
 今後の先行きが見えない中で、多くのご家庭が、学習に遅れが生じていないかなどの不安を持っていることは間違いありません。
 このため、当面、年度末まで、中学生及び高校生に対しては、とりわけ「知識・技能」面における家庭学習の補充という位置づけで、「スタディサプリ」を導入し、各自において補強が必要と思われる分野の再勉強や学習の定着度確認のために活用することを予定しています。
 もちろん、学校再開後に補充学習は実施する予定ですが、限られた時間の中で、優先順位をつけながら補充学習を進める必要があります。
 尼崎市としては、中学生・高校生においては、可能な限り自主学習の効率・効果を高める観点からも、できるだけの支援を継続してまいります。

【4.インターネット利用が困難な児童生徒への支援の実施】

 先に述べたように、95%のご家庭は、学校からの配布物等をインターネット受信可能と回答しました。
 一方で、約5%のご家庭は、インターネット受信が難しいので、個別に対応をしていくことが必要です。例えば、感染対策を講じつつ、各学校においてインターネット環境を貸し出すなどの対応が必要となります。
 今後も、インターネット受信が難しいご家庭のニーズも踏まえながら、できるだけの支援策を順次実施していきたいと思います。

【5.最後に】

 以上が、5月以降の臨時休業期間における尼崎市の主な対応です。
 比較的人口規模も大きく、かつ、学校の教育用PC環境も十分とは言えない自治体でも、「発想の転換」を図れば、今回の臨時休業期間中であっても、ICTを積極的に活用する環境を整えることができます。
 今後、これら家庭学習を支援するツールを、各担任が創意工夫して活用することを通じて、家庭学習の質が向上していくことを期待しています。また、そのための情報発信も、教育委員会として、積極的に行っていきたいと思います。
 各学校・担任も、初めてのことばかりで、戸惑いながら、試行錯誤しながら、学習保障の取組を進めています。
 我々教育委員会も学校管理職も、そして、各ご家庭も、こういう時だからこそ、「あれはダメ」「これはダメ」ではなく、様々な工夫をしようとしている学校や担任を応援する姿勢が重要と考えます。
 なお、これら試行錯誤の取組は、これまでの学校の授業を改めて見直すチャンスでもあります。例えば、学校という集団学習というリアルな世界でしかできない学びとはどういうものか、家庭において自主学習しやすい内容はどのようなものか、限られた時間で効率的に学ぶためには何をどのように優先順位をつけたらよいのか、などを考えることは、通常の授業の質をさらに高めることと大きく関連をします。
 今回の経験を、この危機の収束後を見据えた良い意味での「レガシ―」として残していくという発想も持ちながら、この難局を乗り切っていきたいと思います。

 次回は、これら環境の中で、尼崎市の先生方がどのような工夫をし、子どもの家庭学習を支援していったか、その状況を調べ、報告したいと思います。

(次回につづく)
 

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