初中教育ニュ-ス(初等中等教育局メ-ルマガジン)第382号(令和2年4月10日)

[目次]


【お知らせ】
□新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について
□法教育教材を利用したモデル授業例の公開について
□2020年度日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)のパイロット事業公募開始について
□総合広報誌『文部科学広報』3月号について

【発行】
□「初等教育資料」4月号について
□「中等教育資料」4月号について

【特別寄稿】
□Zoomを使ったオンライン授業(2)
OECD政府代表部参事官 樫原哲哉
□ブラジルのオンライン授業に関する雑感 
在ブラジル日本国大使館一等書記官 鈴木宏幸

 

□【お知らせ】新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について

 文部科学省では、4月7日、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言を踏まえ、「臨時休業の実施に関するガイドライン」を改訂しました。
 また、緊急経済対策とその確実な実行を裏付けるための令和2年度補正予算案が閣議決定されたことを受け、新型コロナウイルス感染症に立ち向かうための文部科学省としての対策について、関係者のご理解を深めていただくため、予算関連以外の取組を含めた「緊急経済対策パッケージ」およびこれらの施策に必要な補正予算案を取りまとめています。
 加えて、本日4月10日には、新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒の学習指導についてとりまとめ、各教育委員会等に通知しています。
 
〇臨時休業の実施に係るガイドライン
https://www.mext.go.jp/content/20200407-mxt_kouhou02-000004520-4.pdf
〇文部科学省 緊急経済対策パッケージ
https://www.mext.go.jp/content/20200407-mxt_kouhou02-000004520-3.pdf
〇文部科学省 補正予算案
https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420672.htm
〇新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒の学習指導について(通知)
https://www.mext.go.jp/content/20200410-mxt_kouhou01-000004520_1.pdf
〇その他最新情報
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html#coronavirus0003

□【お知らせ】法教育教材を利用したモデル授業例の公開について

〔初等中等教育局教育課程課〕

 法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための教育です。法務省では、法教育に関する取組を推進しており、その一環として、小学生、中学生、高校生向けの法教育教材を各学校に配布しています。これらの教材を利用して、様々な学校で法教育授業が実施されているところ、今般、その一部をモデル授業例として法務省ホームページにて公開しました。
 授業実施内容やその成果が授業実施教員等による「法教育授業実践報告」としてまとめられており、「法教育教材の活用方法をより詳しく知りたい」、「児童・生徒のリアクションや学習効果が気になる」といった方々に参考にしていただける内容となっています。
 下記ページに掲載していますので、是非御覧ください。

<法教育モデル授業例掲載ページ(法務省ホームページ)>
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/houkyouiku_jugyou.html

(お問合せ先)
法務省大臣官房司法法制部司法法制課
司法制度第二係
電話:03-3580-4111(内線2362)

(本件担当)
文部科学省初等中等教育局教育課程課
企画調査係
電話:03-5253-4111(内線2565)

□【お知らせ】2020年度日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)のパイロット事業公募開始について

〔大臣官房国際課〕

 文部科学省では、関係府省や国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)、地方公共団体、教育機関、民間企業、NPOなどが協力してオールジャパンで取組む「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)を実施しています。
 このたび、「EDU-Portニッポン」の取組の一環として、2020年度「パイロット事業」(EDU-Port公認プロジェクト、応援プロジェクト)の公募を開始いたしました。
 今年度は地域を限定せず、公募をいたします。皆さまのご応募をお待ちしております。

 公募要領等の詳細については、こちらを御覧ください。
https://www.eduport.mext.go.jp/

(お問合せ先)
「日本型教育の海外展開推進事業事務局」
株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング
日本型教育の海外展開推進事業事務局
電話 :03-3288-1164
e-mail :ml-eduport@k-rc.co.jp

(本件担当)
大臣官房国際課日本型教育の海外展開推進プロジェクトチーム
電話:03-5253-4111(内線3407)

□【お知らせ】総合広報誌『文部科学広報』3月号について

〔大臣官房総務課広報室〕

 『文部科学広報』は、文部科学省が発行する唯一の総合広報誌(電子book)です。
 本誌は、教育、科学技術・学術、スポーツ、文化・芸術等、文部科学行政全体を網羅し、様々な重要施策や最新情報について、総合的な紹介を行っています。

○最新号の内容○
◆特集
・日本遺産

◆Monthly Line Up
・令和元年度全国いじめ問題子供サミット
・令和元年度全国学校給食週間
・みらプロ2020が始まります
・令和元年度「家庭教育支援チーム」文部科学大臣表彰式、全国家庭教育支援研究協議会を開催

※詳細はこちら
http://www.koho2.mext.go.jp/  

(お問合せ先)
大臣官房総務課広報室事業第一係
電話:03-5253-4111(内線2171・2243)

□【発行】「初等教育資料」4月号について

〔初等中等教育局教育課程課〕

 新学習指導要領が4月1日から全面実施となりました。そこで、今月号の特集1は「スタート!新学習指導要領」と題し、新学習指導要領の基本的な考え方を確認するとともに、各教科等における具体化のポイントを論説しています。また、新学習指導要領実施に向けて、各学校への期待と国としての支援策を示しています。さらに、文部科学省、教育委員会、学校現場の管理職や先生による座談会を行い、全面実施に当たって大切にしたいことを確認しています。
 特集2は、新学習指導要領国語科における「情報の扱い方に関する指導の改善・充実の在り方について」をテーマとしています。まず、各学年における「情報の扱い方に関する事項」について解説しています。また、「思考力、判断力、表現力等」の「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の指導における情報の扱い方について実践事例を紹介しています。

※詳細はこちらを御確認ください。→ (株式会社東洋館出版社HP)
http://www.toyokan.co.jp/search/g2796.html

(お問合せ先)
初等中等教育局教育課程課
教育課程第一係
電話:03-5253-4111(内線2916)

□【発行】「中等教育資料」4月号について

〔初等中等教育局教育課程課〕

 中学校においては新学習指導要領の告示から3年が経過し、令和3年4月からの全面実施まで1年となりました。令和2年度は、新学習指導要領の趣旨についての理解を一層図り、全面実施に向けた諸準備を確実に進める必要があります。
 そこで本号では、各学校における教育計画の立案等に資するよう、新しい教育課程の編成及び実施についての基本的な考え方や具体的な方策、各教科等における実践課題等について整理します。

※ 詳細はこちら(学事出版ウェブサイト)
http://www.gakuji.co.jp/magazine/chutokyoiku/index.html

(お問合せ先)
初等中等教育局教育課程課教育課程第三係
電話:03‐5253‐4111(内線3706)

□【特別寄稿】Zoomを使ったオンライン授業(2)

〔OECD政府代表部参事官 樫原哲哉〕

※前回の記事はこちらをご覧ください。
 https://www.mext.go.jp/magazine/backnumber/1422844_00014.htm

 前回は、小学校低学年でのZoomを使った授業の様子を紹介しましたが、その後、Microsoft Team やGoogle Classroom、Google Meet (Google Hangout)、などを使っている事例も耳にしました。今回は、Zoomの例を紹介しつつ、どのアプリを使っても生じる課題を中心に紹介します。

【多様な機能と取捨選択】
 様々なアプリが開発されたことで、教育委員会や学校が大規模なシステムを構築しなくても、オンラインで学習指導を始めることは容易になりました。パソコンやタブレット、スマートフォンがあれば、
 ・内蔵カメラとマイクを通じて、教師と生徒がFace to Faceで対話することができる
 ・ホワイトボード機能を使えば、黒板の代わりになり、教師も生徒も簡単に書き込むことができる。また、デジタル教科書を映したり、動画の教材を流したりすることができる
 ・紙のドリルの代わりにAIドリルを使うことで、生徒の学習履歴が記録され、一人一人の進捗状況に応じた問題が自動で提供される
 ・紙のノートの代わりにノートアプリと手書きペンを使えば、書いたものを一元的に管理することができる
 ・電子書籍の読み放題サービスを利用すれば、貸出中になることなく読みたい本を読むことができる
というように、機能だけを並べれば、普段の教室以上の授業ができるという期待は膨らみます。

 しかし、一つの制約は、全ての機能を「同時に」使うのは難しいということです。特に学年が下がるほど、使うべき機能の取捨選択が必要になります。私の子供のクラスでは、カメラとホワイトボードという視覚の部分が優先され、ドリルやワークシート、ノートなどの書く作業はすべて紙になりました。紙やプリンターを準備したり、宿題をアップロードしたりする手間は増えますが、少しでも通常に近い環境で授業を進めるためには合理的な方法とも考えられます。一方、中高生であればキーボード入力が優位かもしれません。
 カメラ機能とホワイトボード機能とが相反することもありました。先生がデジタル教科書を映したのですが、教科書が縦長、画面が横長なので、文字が小さすぎて読めません。今度はiPadを縦置きにすると生徒側の映像が小さくなり、教師から顔が見えにくくなります。iPadをくるくる回して最善策を探しましたが、手元にある紙の教科書を見る方が効率的でした。
 先生のカメラ映像とホワイトボード画面の切り替えがうまくいかないケースもありました。自動で画面が切り替わらない生徒がいたらしく、教師側が何度も挑戦しましたが、最後はその生徒に断った上で授業が進んでいきました。
 
 全ての機能を使いこなす際のもう一つの制約は、画面を見る時間(Screen Time)です。
 OECDのニュースレター(※1)でも、「デジタルとスクリーンを見ない活動(screen-free activities)のバランス」が課題の最初に掲げられており、学校の時間割を単純にオンライン授業に置き換えただけでは、生徒の健康に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しています。前回、最初の15分だけオンライン授業で、残りはオフラインで問題を解く時間に充てる事例を紹介しましたが、画面を見る時間を減らす点ではメリットがあります。
 この点は、保護者としても非常に気を配ります。せっかく学校が電子書籍の児童書読み放題のページを用意してくれましたが、オンライン授業のある日には使わないことにしました。
 
 「同時に使える機能」の限界と「画面を見る時間」の制約と上手につきあいながら、オンライン授業と向き合っていく必要がありそうです。

【教師・生徒の関係でみる、教室とオンライン授業の違い】
 授業は、教師が一方的に知識を伝えるのではなく、教師と生徒、そして生徒同士の対話を通じて理解を深めたり広げたりしていきます。通常の教室とオンライン授業を比べると、次の点で違いを感じます。
 まず、教師側から見ると、一度に視界に入る生徒数が異なります。通常の教室では、1クラス最大40人、多いながらも、体を少し動かして立ち位置や目線を変えれば、生徒の様子を掴むことができます。
 一方、オンラインでは画面が長方形に分割され、各生徒の様子が映ります。Zoomは最大49分割まで可能と言われていますが、実際には、12.5インチのパソコンでは20分割、9.7インチのiPadでは9分割が限界であり、それ以上増えるとスクロールする必要があります(1ページ目の左上には自分の顔が映るので、40人だと3ページ必要。)
 フランス語の初回の授業で、一部の生徒だけミュートが解除されなかったことがありましたが、2ページ目以降の存在に教師が気づかなかった可能性があります。
 次に生徒から見ると、授業中のように他のクラスメートに個別に話しかけることができません。生徒同士の対話がないので、「教師と生徒1人」「教師と生徒全体」の関係が一層重視されます。また、オンライン上では、教師と生徒の目が合うことはありません。その結果、自分の存在感を確かめるかのように、"Mr. XX, Can you hear me?" "Ms. XX, Can you see me?" という声が飛び交います。
 なお、教師側の設定次第は、生徒同士のチャットや「ブレイクアウトセッション」という班別学習も可能になりますが、チャットを許可すると制御が難しくなりますし、後者は初期設定にはないため、別途、設定作業が必要になるようです。
 特に低学年では、教師からのフィードバックがないと士気が下がるようです。算数の授業で、クイズ番組さながらに手元のホワイトボードに答えを書いて、教師が"XX, correct."、 "XX, check your answer." と一人一人確認します。自分の存在が忘れられていないと実感するためのテクニックです。

【「遠隔教育」の実施に向けて】
 4月7日に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定され、遠隔教育に向けた様々な施策が盛り込まれました。これから取り組まれる学校や自治体も増えてくると思います。所属する組織を代表するものではありませんが、短期間ながらオンライン授業の傍らに居た立場からの提案です。

(1)期待し過ぎない
 オンラインでの教育環境が整ったからといって、普段の教室が再現できるわけではありません。横で聞いていて、あれ?と思うことも何度かあり、機器のトラブルも多々発生しました。保護者の負担も決して小さくない中で、特に学年が下がるほど、遠隔でやれば学校はいらない、とは言える状況にはないと考えます。
 事前準備の時間が限られる中で、多くの学校が試行錯誤しながら進めることになります。保護者を含め全ての人が、過度な期待を持たず、寛容な心で向き合うことが大事です。
 それでも、今回の新型コロナウイルスへの対応やICT環境の整備は、これまでの慣行を見直すきっかけになるでしょう。例えば、欠席の連絡はメール不可、家族から友達や登校班に連絡帳を渡してください、という学校もありますが、このご時世、接触機会を増やすことはリスクを高めることにつながりかねません。メールのほか、連絡帳アプリなどを積極的に活用することも一つの解決方法です。

(2)気負い過ぎない
 子供達も不安になる中で、先生方が、できるだけ全ての子供達に平等に、普段と変わらない授業を届けたい、と考えることは大変理解できます。しかし、完璧を求めるがあまり、全ての準備が整うまで開始できないとなると、全体が遅れることになります。
 子供が通う学校では、パソコンなどは必須でしたが、例えばプリンターのない家には、宿題の答えだけを紙に書いて提出することを認めたり、マイクが壊れている場合には、チャットで参加することを可能にするなど、臨機応変の対応をしていました。オンライン授業も、対応できる人は参加して、対応できない人に別の手段で補完する方が効率的といえます。
 教師の視界に入る生徒数や、生徒の画面を見る時間の制限を考慮し、40人の生徒が一斉に45~50分のオンライン授業に参加する代わりに、2班に分け1班20人が20分授業、その後オフラインで演習という計画も考えられます。
 先ほど紹介したOECDのニュースレターでも、求められる取組の一つに「すべてのデジタル手段を適切に利用する:低学年を対象にした場合やインフラ整備が遅れている状況では、テレビの教育番組など昔ながらの手段の方が適している場合もある。」との記述があります。フランスでは、今回の学校閉鎖に合わせて、国民教育省が公共放送局とともにLumniという授業を流す番組を立ち上げましたが、日本にはNHKの教育番組という歴史あるコンテンツがあります。オンライン双方向型の授業だけが唯一の解ではなく、どの国も、あらゆる手段を活用して今回の状況を乗り越えようとしています。

(3)決め過ぎない
 オンライン授業が始まった時のルールは8つ、机で勉強してください、カメラ・オーディオはオンにしてください、などごく一般的なものばかりです。部屋の様子を隠す「バーチャル背景」の有無や柄なども特に指定はありませんでした。開始当初、派手なバーチャル背景で参加する生徒がいて何となく気になりましたが、今思えば授業の進行に妨げになるようなことは全くありませんでした。必要最低限のルールがあれば問題ないと思います。
 この期間中、学校から保護者宛のメールは多く届き、時間割や宿題の提出方法など、変更事項がたくさんありました。初めての事ゆえ、ルールが日々変わるのは仕方がありません。
 今回使用したZoomも、前回のメルマガの直後からセキュリティの問題が指摘され、対策が講じられています。現在、学校はイースター休暇ですが、休み明けに使用するアプリが変更される可能性も、全くないとは言いきれません。

【最後に】
 フランスでは、外出制限令からまもなく1か月が経ちますが、残念ながら終息の気配は見えません。新型コロナウイルスによる犠牲者は1万2千人を超え、パリ市では10~19時の間、個人の運動目的の外出も禁止されるようになりました。日本でも緊急事態宣言が発令される自治体が出るなど厳しい状況が続きますが、くれぐれもご自愛ください。

※1 OECDによるニュースレター
 Education Responses to Covid-19: Embracing Digital Learning and Online Collaboration(新型コロナウイルスに対する教育の対応:デジタル学習とオンライン協働を受け入れる(英語))
https://read.oecd-ilibrary.org/view/?ref=120_120544-8ksud7oaj2&title=Education_responses_to_Covid-19_Embracing_digital_learning_and_online_collaboration

□【特別寄稿】ブラジルのオンライン授業に関する雑感

〔在ブラジル日本国大使館一等書記官 鈴木宏幸〕


1.はじめに
 新型コロナウイスの感染拡大を受けて、日本でも緊急事態宣言が発出されたと伺っております。これを受けて多くの学校現場が、休校措置を継続するという苦渋の決断していることと思います。

 ブラジルでも、4月7日現在でコロナウイルス感染確認者約1万4千人と人数は増え続けています。そのため、大使館では2交代制をとり、私は週の半分がテレワークという状況です。私が住んでいる首都ブラジリアがある連邦直轄区(イメージとしては州)は発生の初期段階から感染の拡大を食い止めるべく手を打ってきました。その流れの中で、突然3月11日に連邦直轄区政府から命令を発せられ、「翌日(3月12日)から連邦直轄区内のすべての学校を休校する」という措置がとられました。我が家も含めて子供がいる家庭は「明日からどうする!」といったように大混乱、当然、学校側も大混乱でした。ただ、後ほど書きますが、子供が通っていた学校は「オンライン授業を実施します」といった決断は非常に早かったです。

 日本においても長期の休校措置を受けて、オンライン授業を検討若しくは実施している学校が増えてきていると聞いています。文科省が今回打ち出した補正予算案を踏まえた「GIGAスクール構想」の実現により、新型コロナウイルスの影響が収まった後も、オンライン授業の機会が増えてくることでしょう。そのような動きを地球の裏側から見ていますが、私自身、昨年7月にブラジルに赴任する直前まで初等中等教育局視学官として、この「GIGAスクール構想」の根っことなっている(と思っている)「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」という報告書をまとめるという仕事をしていました。これまで、何度か学校でのオンライン授業を見たことがありましたが、それは、あくまで第三者。今回、私がテレワークをしている間に、保護者として自分の子供たちのオンライン授業を間近で見る(時には深く介入する)という、ある意味貴重な機会が得られましたので、授業や子供たちの様子、そこから感じた雑感等についてまとめてみたいと思います。

 まず、初めに我が家の子供たちの状況を書かせていただきますと、日本でいう4 年生(4月から5年生)の男の子と1 年生(4月から2年生)の女の子がいます。当地の学校の定員の都合で運悪く同じ学校に通えず、兄はイギリス系のインターナショナルスクール(British School of Brasilia、以下「BSB」)、妹はアメリカ系のインターナショナルスクール(Brasilia international School、以下、「BIS」)に通っています。
 今回の内容はあくまでインターナショナルスクールでの事例ですので、必ずしも日本の公立学校をはじめとした、すべての学校のモデルになるものではないと思いますが、一部でも参考になることがあれば幸いです。

2.オンライン授業開始までの流れ
●3月11日に連邦直轄区政府の命令が発出された次の日(3月12日)には、兄が通っているBSBからは「Google classroomを活用して、これからオンライン学習の教材を毎日提供します」と連絡がありました。これ以後、毎日多いときは1日複数のメールが学校から届きました。内容としては
・Google classroomの設定の仕方や今後の進め方
・算数の計算や英語のReadingなどに関する様々な学習コンテンツ(これは補助教材として使ってほしいとのことで、日本の学校でいうとドリルのような位置づけでしょうか。)
・通常の学校の時間であれば、担任の先生に随時連絡・質問をすれば必要かつ十分なサポートをする旨の周知
・学校の運営の今後の進め方と見通し
・家庭から寄せられた主な質問への回答
などでした。
●学校の休校の長期化が予想されたことから、BSB は3月23日からGoogle Hangouts Meetを活用した本格的なライブによるオンライン授業を始めました。その前日には、1週間分の時間割と教科ごとのHangouts Meet参加のためのリンク(URL)が送られてくるととも(これ以降も毎週金曜日に送付)に、ライブによるオンライン授業の実施における各家庭への依頼事項が学校から届きました。内容としては、(1)生徒を常にサポートできる適切な大人の存在が必要なこと、(2)授業を受ける際には適切な服を着る必要があること、(3)生徒は静かな空間(ペットや兄弟から離れた場所)で照明の良い場所で作業できるよう配慮してほしいこと、(4)サポートする大人は授業中に質問をしたり、会話に参加しないこと、(5)授業やディスカッション中にカメラ/ミュート機能で遊んでいないか確認してほしいこと、(6)授業については録画すること、(7)欠席するときは、通常の場合と同様に担任にメールで伝えて欲しいこと、が挙げられていました。
●妹が通っているBISも対応が早く、3月11日に連邦直轄区政府の命令発出された日に「今後、オンライン授業に切り替えることとし、明日(3月12日)は教員のトレーニングあて、13日から開始する」とすごいスピード感でした。BISはZoomとSEESAWを活用して実施するとのことで、こちらもQRコードをはじめ様々なメールが毎日届きました。
●このように、オンライン授業移行期は、準備に関するお知らせについてBSBとBISから毎日たくさんのメールが来ました。うちの家族は2つの学校からということで、メールを読み込み、オンライン授業の進め方、設定の仕方を理解するのに非常に苦労しました(英語ということもありましたが)。時々、どちらからのメールなのか混同したこともあります。今回のように突発的な事案を受けてのオンライン授業開始なので、やむを得ないところはありますが、保護者の負担軽減・先生の負担軽減を考えるとオンライン授業実施ための保護者向けマニュアルがあると非常にありがたかったと思います。
●その一方で、学校のオンライン授業の決断は非常に早かったと思います。実施にあたり不安等はなかったのかと息子が通うBSBの校長先生に伺ったところ、「WiFiをはじめ本校はオンライン環境を整えており、日常において、本校ではカリキュラム全体で教員や生徒がlaptopやiPadを積極的に活用している」ので「日常の授業の延長と考えており、抵抗はなかった。」とのことで、このために教員に対して新たなスキルトレーニングをしなかったそうです。やはり、こういう面からも日ごろから学校・教員がICTに深く関わっているというのは重要なのだと改めて実感した次第です。

3.オンライン授業をするための環境の準備
●オンライン授業をするにあたり、まずは当然、ハードの準備は必要となります。我が家の場合、日本からlaptopとiPadをそれぞれ1台ずつ持ってきていましたので、兄にlaptopを、妹にiPadを割り当てることで対応しました。如何せん急な話であったため、BSBの保護者の中では、急遽iPadを買った方もいたそうです。ライブのオンライン授業でなくても課題の実施等を考えると兄妹での併用はほぼ不可能だったとも思います。なお、BISでは必要な家庭にはChromebookを貸出を行ったとのことです。ただ、貸出した台数はわずかで、新たに購入したという方が多かったようです。
●キーボードについては、学年が上がれば上がるほど必要不可欠だと感じます。後述しますが、兄の方は学校から送られてくる宿題や課題はGoogle Docsで、送られてくるファイルに記載して提出していましたし、授業中の質問はチャットで行っていましたので、キーボードがないと必要な活動ができなかったと思います。まだ、低学年の妹はまだPCを使った課題提出は難しいということで、ノートに書いたものを写真で撮って保護者が提出しました(これは保護者的にはかなり負担ではありましたが)。そのため、今のところキーボードは使っていません。
●ハードがそろったらオンライン授業が受けられるように設定し、使い方を理解しなければならないのですが、前述したようにBSBは、Google classroomとGoogle Hangouts Meetを使って、BISはZoomとSEESAWというように、まったく異なるアプリケーションであったため、はじめは非常に面倒くさかったです。そのため、我が家では、私と妻で担当を分けました(私は息子のGoogle classroomとGoogle Hangouts Meet、妻は娘のZoomとSEESAW)。これは通っている学校が異なったのでやむを得なかったのですが、アプリケーションは同一市町村内の小中学校は同じにした方が保護者としては助かると思います(子供の教育効果という点は別に考えなければなりませんが)。
●また、これは前回、樫原参事官も書かれていましたが(※2)、オンライン授業を家で受ける場所というのが大きな問題となります。我が家は2人(自分もテレワークしていると3人)なので、場所(部屋)を分ける必要があります。また、ライブのオンライン授業では基本的には背景がうつるため部屋の整理整頓、部屋の光の向きや洗濯機などの生活音が入らないようにするなどの配慮も考えなければなりません。そう考えますと、実施する場所を選べるWiFi環境は必須だと思います。また、オンライン授業により生じる音について、スペースの都合上問題になる可能性もあるかと思います。先生の説明などlaptopやiPadから生じる音については、ヘッドホンをつけて対応することも一案ではあります(事実、生徒の何人かはヘッドホンをつけて受けている)。ただ、ライブのオンライン授業の良さは双方向対話型の授業、友達と同時に同じ経験をすること(例えば、一緒に歌を歌うなど)を実現することかと思いますので、その活動が委縮しないように配慮や工夫の余地があるのではないかと思います(ただ、都市部の日本の住環境を考えるとなかなか難しい問題かもしれません)。

4.オンライン授業が始まって
 前回、樫原参事官は低学年の授業の様子を書かれていたので(※2)、今回、私の方はBSBのYear6、中学年~高学年あたりに位置する息子の授業の様子を中心に記載したいと思います。息子は、朝のクラスミーティングからはじまり、1日1時間授業が3コマ(English,Maths,Portuguese)と30分授業が1、2コマ(Science,Art,Music,Historyのどれか)とかなりがっつりとライブによるオンライン授業を受けています(低学年のコマ数はもっと少ないようです)。クラスの人数は20人弱。また、教科担任制をとられているので、教科によって先生が異なります。
 ミーティングや授業について、進み方を具体的にいくつか紹介していきたいと思います。

(朝のクラスミーティング)
・朝8時開始。送られてきた時間割から、Hangouts Meet参加のためのリンク(URL)をクリックして参加。時間丁度に始まるものの、生徒は必ずしも全員そろっていない(後から随時参加)。
・まずは、先生からみんなに簡単な挨拶をし、昨日先生が何したかとか、今日はこういうことを頑張ろうとかクラスみんなにメッセージ。その際は、メイン画面には先生、横の小さい画面には各生徒の映像。基本的にはリアルタイムの生徒自身の映像であるが、生徒は設定によって顔を出さずにアニメのキャラクターなどに置き換えることが可能(何人かはそうしている)。
・その後、一人一人に「Good Morning! XXX」と声をかけ、呼ばれた子はマイクをオンにして会話。話している内容は、「最近どう?」とか「昨日何していた?」、「授業でわからないところはある?」など、1人当たり1、2分程度。
・最後に、生徒からの質問タイム。いつ学校が再開するのか、コロナウイルスの影響はいつまで続くのかなどの質問が寄せられたりしていた。全体で正味30分程度。

(英語の授業:4月2日)
・Hangouts Meet参加のためのリンク(URL)をクリックして参加。
・先生から簡単な挨拶と一人一人に声かけ。名前を呼ばれたら、マイクをオンにして、挨拶を交わす。この間、授業で使うビデオ動画と教材(ほとんどGoogle Docs)がGoogle classroomにシェアされているので確認。
・今日の学習テーマは、文法の「同音異義語(homonyms)」の理解、サメに関するテキストを読んで内容を理解することであり、まず15分程度「同音異義語」について、事前にシェアされている教材を適宜画面に映し出しながら説明。「I went for a walk in the park」のように「公園」という意味で使われている「park」という単語を、別の意味でつかって文章を作って発表するよう生徒に質問。わかった人は、マイクをオンにして先生の名前を呼んで発言。先生は、生徒の答えを画面に映し出されたテキストに追記。その後、教材にある練習問題を実施し、答え合わせ。
・後半は、サメに関するテキストを解説し、それを参考にして、サメの特徴を調べて文章を作るよう指示(Google Docsで)。その際、留意すべき点を共有しているビデオ動画で確認するよう指示。
・生徒からは適宜質問があり、回答。同時にチャット機能をつかって、発言がない子や反応が薄い子にヒントなどのメッセージを送る。困っている生徒には他の生徒がチャットで助け舟を出してくれることもある(たまに、うちの息子のために、わざわざGoogle翻訳をつかって日本語でチャットしてくれる子もいて、ほっこり)。授業時間中に課題が終わった子は、Google classroomに提出して、先生にその旨伝え、退出。終わらない場合は宿題。

(ポルトガル語の授業:4月6日)
・この日は、班に分かれて「宣伝(propaganda)」についてプレゼンテーションの準備。班ごとにオンライン討議を始めるが、息子はポルトガル語がほとんどできないので、グループの議論には参加せず、1人取り出し授業、ポルトガル語の先生とワンツーマンレッスン。
・息子のための特別の教材をGmailで送信してくれ、それを画面に映し出しながら授業。私の方から事前に学校に対してポルトガル語の授業の内容が息子には難しすぎるので、配慮してほしいとのお願いをしていたからか、校長もこの授業に10分程度参加(日本で校長先生が各教室を巡回するようなイメージ)。
・授業後、ポルトガル語の教員から生徒に「親と話したい」との申し出があり、そのまま、私と簡単なやりとり(授業の様子はどうだったかなど)。その後、Google classroomに自学用の教材を共有してもらう。

5.授業を受けてみて感想
●このオンライン授業には我が家は非常にポジティブです。独学で勉強するよりも、先生や友達の姿が見えて、話して、一緒に勉強する方が、子供のモチベーションが全然違います。
 娘が通うBISでは、子供達が外出をほとんどしていない現状を踏まえて、運動不足解消のためオンラインで体育の授業を実施したり(体操・エアロビクス)、理科の実験をしたり(食紅を使った実験。いきなり言われたので準備が大変でしたが)と、学校の方でもバリエーション豊かな授業を工夫して実施してくれたと思います。
●学習教材は、Google Docsでつくられた説明資料(BSBでは教科書がないので、日本でいう教科書的な内容)と問題・課題がほとんど。先生によっては、単元の解説をビデオ動画で送ってきていたりしました。このビデオ動画も先生自ら撮った動画もあれば、日本でいうスタディサプリのように他の先生の解説動画を送ってくる先生もいました。
 問題・課題は英語の授業でも書いたようにGoogle Docsで出されるので、紙に打ち出さずに、送られてきたファイルにそのまま記入し、提出という形でした。したがって、「紙」という存在はほぼゼロで、調べた単語を忘れないようにメモしたり、途中の計算をする際に使う程度でした。提出したファイルは「Google classroom」のファイルには保存されているものの、「以前やった~を見てね」と言われたときに、子供は「あれ、どこだっけ?」と何度か探していました。
●また、ライブのオンライン授業を受けるためのHangouts Meetの入り方、Google classroom若しくはGmailを通じた学校から課題の送付や提出については、当然子供だけではできないので、初めは、親が完全バックアップしていました。ただ、息子くらいの年齢になれば1週間たてば、自分で勝手にどんどんできるようになると思います。下の娘はまだ一人ではできず、なかなか大変です。
●うちのネット環境と外出自粛で通信トラフィックの増大が原因かもしれませんが、たまに動画が途切れます。そのことを先生が気づかないため、授業が先に進んでいて、ただですらわからない英語での授業が、さらにわからなくなり、その授業の後半、息子はうわの空になるというケースがありました。そういう時は、親が授業中・授業後に多少なりともフォローしてあげる必要があると思います(樫原参事官は「授業中・授業後は、保護者はICT支援員の代わり」と書いていらっしゃいましたが、私は場合によっては学習支援員の役割も果たさなければならない気がします)。教室での授業であれば、教員の机間指導や子供たち同士の教えあいで補完できるかもしれませんが、教員のマイクによる呼びかけ・チャット機能では限界があるように感じます。特に息子くらいの年齢になると、マイクによる発言・チャットでの書き込みをするとクラス全員に「わからない」ことが知られることの羞恥心も若干あるようで、そのような機能をつかうのをためらっているように感じます。オンライン授業を実施する際には、授業の理解が十分でない子に対して、どのようにサポートしていくか(例えば、授業内容を補完する補助教材や解説動画を提供するなど)、について検討をしておいた方が良いと思います。
●また、兄の方は授業で分からなくても自分でなんとかしようとしますが、低学年の妹の方はわからないと隣にいる親に「わからないけど、どうするの?」とすぐ聞いています。近くに保護者がいるという自宅によるオンライン授業における1つの弊害だと思いますが、自分で考える、他人と相談してなんとか対処するということが学校の教室よりも身につきづらくなるかもしれません(うちは、突き放してますが、娘は「優しくない」と泣くこともあり、四苦八苦します)。周りがほどよく他人であるという学校の教室の環境は貴重だと思います。逆に兄の方には、ついつい親が「こうじゃない、こうしたほうがいい」と言ってしまいがちで、反省する日々です(ポルトガル語の授業を(自分の勉強のため)横で便乗して聞いているというのもありますが)
教育のプロたる教員の皆さんのこのあたりの指導の匙加減は、本当に絶妙で、すごいなぁと改めて実感する次第です。

 保護者目線でダラダラ書きましたが、オンライン授業の実施については保護者の一定の協力は必要不可欠だと肌で感じましたし、共働きの夫婦の場合はどう対処していくべきかという点は大きな課題と感じました。日本でもこの休校中、学校の先生をはじめ教育関係者の皆さんが、子供達の学ぶ環境の確保のために非常に苦労しているのを仄聞しています。次回は目線を子供・学校・教員にかえて、今回のオンライン授業をどうとらえているかについて記載してみたいと思います。

 日本でもコロナウイルス感染拡大がいまだ続いております、このメールマガジンをご覧の皆さん、健康には是非ご留意ください。
(次回につづく)

※2 初中教育ニュース第381号(令和2年3月27日配信)
【特別寄稿】Zoomを使ったオンライン授業(1)
https://www.mext.go.jp/magazine/backnumber/1422844_00014.htm

 

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