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開発当初における設計の考え方
機構は、SRB−Aの開発に当たって、信頼性を確保しつつ、H− ロケットで採用していたSRBの半分以下の低コスト化を実現するため、高燃焼圧力化に伴うノズル部の小型化を採用した。
ノズル部の設計は、高燃焼圧力化によるノズル部の小型化に対応して、ノズルスロートには、SRBで採用していたグラファイトに代わり、我が国で初めて国産の3DC/C複合材を採用した。また、ライナアフトは、SRBと同様に、CFRPとSFRPを採用した。そのうち、ノズルスロート下流のCFRP製ライナアフトは、開発当初は2部品構成とし、国内大型固体ロケットでの実績を踏まえ、開発リスクとコストを考慮して設計を行った。
また、ノズル部の形状は、第1段エンジンに対する噴射ガス流の影響を低減するとともに、国内大型固体ロケットでの実績を踏まえ、円錐型ノズルを採用した。
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2) |
地上燃焼試験(QM)の結果及びその後の対応
平成11年8月に行った地上燃焼試験(QM)において、ライナアフトBで、周囲に比べて広い範囲で表面後退が顕著に増大する現象(過大エロージョン)が発生した(図1−3−6)。
機構は、原因究明を行い、ライナアフトBと組み合わされていたライナアフトAの一部が欠落したことにより、ライナアフトBの加熱面と平行な積層面にフェノール樹脂の熱分解ガスによる層間剥離が発生し、近傍のCFRPが脱落したことが原因であると推定した(図1−3−7)。
この過大エロージョン対策のため、ライナアフトを当初の分割型から一体型に設計を変更するとともに、CFRPの材料を変更した。
これに合わせて、機構は、過大エロージョンに対しては、ライナアフトの板厚設定により対応することを設計方針とし、それまでのサブサイズ及び実機サイズモータの地上燃焼試験結果を基に、ライナアフトの板厚を増加した。
CFRPの材料変更に当たっては、当時使用可能であった数種類のCFRPについて、試験片を用いた加熱試験、サブサイズモータによる地上燃焼試験等を実施し、層間剥離に対する検討を行った。その結果及び従来の実績等を踏まえ、機構は、地上燃焼試験(QM)まで採用していたCFRPに替えて、SRBで採用していたCFRPを採用した。また、この設計変更にあわせ、製造工程における検査項目を拡充した。
機構は、これらの対策の妥当性を確認するとともに、技術データを充実するため、実機サイズモータの地上燃焼試験(QM)を新たに2回追加することとした。
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3) |
地上燃焼試験(QM2)の結果及びその後の対応
平成12年6月に行った地上燃焼試験(QM2)において、燃焼末期にスロートインサートがモータケース内に脱落し、CFRPの破片が飛散する不具合が発生した。
機構は、原因究明を行い、燃焼終了とほぼ同時期にスロートインサートがノズル上流側に移動したことにより、ラジエーションシールダの一部を破損し、これが破片となってノズルから排出されたと推定した。さらに、スロートインサートがノズルから脱落したことにより、その背面のライナーインサートが露出し、熱影響を受けて強度が低下している部位が脱落し、ノズルから排出されたと推定した。
スロートインサートの脱落対策のため、スロートインサートとラジエーションシールダの接合面に傾斜角を設けるとともに、ノズルを移動させる力となるガスの閉塞を防止するため、スロートインサートとライナアフトB2との間の隙間寸法を増加する設計変更を行った(図1−3−8)。
なお、機構は、地上燃焼試験(QM)後に取った対策については、地上燃焼試験(QM2)後のノズル部を確認することで、その対策が妥当であると判断した。
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4) |
宇宙開発委員会における対応(地上燃焼試験(QM2)後)
宇宙開発委員会では、平成12年6月7日の宇宙開発委員会定例会及び同年6月9日の第10回技術評価部会において、地上燃焼試験(QM2)の試験結果概要(速報)として機構から報告を受け、調査審議を行った。
また、その後、平成12年7月26日の第3回専門家会合エンジン推進系分科会において、それまでのSRB−Aの開発状況及び総点検結果の調査審議を行った。ノズル部に関しては、地上燃焼試験(QM)で発生した過大エロージョンの原因とその対策、及び地上燃焼試験(QM2)で発生したノズルインサートの脱落の原因とその対策等について機構から報告を受け、調査審議を行った。
平成12年7月28日の第12回技術評価部会において、地上燃焼試験(QM2)の対策について機構から報告を受け、調査審議を行った。 平成12年9月14日の第3回専門家会合において、それまでの調査審議を「H− Aロケットの打上げ前段階における技術評価について(中間報告)」としてとりまとめた。専門家会合では、専門家の経験に基づいて、効率的な評価を実施するため、H− ロケットから大きな設計変更等が行われた部分等の観点から評価項目を抽出し、調査審議を行った。その結果、その多くについては、H− ロケットの開発の成果を踏まえて概ね妥当な開発が行われていると考えるとし、特に早期に助言することが望ましい事項に関して中間報告としてまとめている。なお、早急に助言することが望ましい事項に、ノズル部に関するものは含まれていない。
さらに、平成12年9月27日の第13回技術評価部会において、専門家会合での調査審議の報告を受け、「H− Aロケットの打上げ前段階における技術評価について(中間報告)」としてとりまとめた。
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5) |
地上燃焼試験(QM3)の結果及びその後の対応
平成12年10月に行った地上燃焼試験(QM3)において、ライナアフトB2で、周囲に比べて比較的狭い範囲で表面後退が顕著に増大する現象(局所エロージョン)が発生した(図1−3−9)。
機構は、当初、この局所エロージョンの原因は、ノズル操舵等の影響に加え、ノズルスロート上流にて発生した渦及びノズル開口部流れの偏向等の影響により局所的にアルミナの濃度の大きい流れが誘起され、ノズル開口部CFRP内表面に接触して発生させたと考え、また、サブサイズモータの地上燃焼試験も追加実施したが、局所エロージョンのメカニズムについて、十分な解明までには至らなかった。機構は、局所エロージョンの対策として、メカニズムの十分な解明には至らなかったが、余裕のある板厚設計により対応する方針とし、ライナアフトB2の板厚を増加した。
さらに、安全余裕を確保するため、ノズル外周にCFRP製のアウタパネルを追加することとした(図1−3−10)。
なお、機構は、地上燃焼試験(QM2)後に取った対策については、地上燃焼試験(QM3)後のノズル部を確認することで、その対策が妥当であると判断した。
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6) |
宇宙開発委員会における対応(地上燃焼試験(QM3)後)
平成12年11月6日の第8回専門家会合エンジン推進系分科会において、地上燃焼試験(QM3)の結果、並びに局所エロージョンの原因究明及びその対策について機構から報告を受け、調査審議を行った。さらに、同年11月24日の第4回専門家会合において、「H− Aロケットの打上げ前段階における技術評価について(報告)」をとりまとめた。この報告の中で、SRB−Aのノズルについて、予測を上回る局所侵食が見られることから、侵食の深さの実測値から得られる確率分布を基にして、侵食が外壁に達する確率を評価するとともに、機器の保護のために外周に取り付ける予定であるCFRPパネルの接着剤強度の再吟味を行うことを助言した。さらに、侵食について、アルミナと炭素繊維との化学反応が過大な局所侵食をもたらしている可能性があることから、中長期的には、アルミ含有量の少ない推進薬組成の検討や、地上燃焼試験における計測技術の高度化やSRB−Aの飛行後の回収による侵食の詳細データの取得を行うことを助言した。
平成12年11月30日の第14回技術評価部会において、専門家会合の報告を受け、調査審議を行い、「H− Aロケットの打上げ前段階における技術評価について(報告)」をとりまとめ、平成12年12月20日の宇宙開発委員会定例会に報告し、了承された。
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H− Aロケット試験機1号機打上げ前における対応
機構は、上述の侵食の深さの実測値から得られる確率分布を基にして、侵食が外壁に達する確率を評価するべきという技術評価部会での助言を踏まえ、局所エロージョンがノズルホルダの外壁に達する確率について試算した。具体的には、機構が行ったサブサイズ(地上燃焼試験(QM3)後に実施した2回を含めた5回)及び実機サイズ(過大エロージョンが発生したQMを除く4回)モータの地上燃焼試験後の侵食の深さの実測データを基に、局所エロージョンがノズルホルダの外壁に達する場合と、CFRP製のアウタパネルを取りつけた場合の確率について、統計処理を行った。
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中長期的課題への対応
宇宙開発委員会から中長期的な課題を示されたことを受け、機構では、H− Aロケット試験機1号機の打ち上げ以降、次のとおり対応してきている。
局所エロージョンに関する詳細なメカニズムの解明については、平成13年度から、3機関連携事業融合プロジェクトの信頼性向上共同研究プロジェクト(3年計画)として取り組み、サブサイズモータ地上燃焼試験、顕微鏡観察等により、局所エロージョンの発現に寄与する要因及び低減の方策等に関する研究を実施してきた。また、同共同研究プロジェクトにおいて、アルミ含有量の少ない推進薬組成の検討については、第一段階として、局所エロージョンのメカニズムの解明及びアルミナによる影響の定量的評価について、取り組んできている。
これらの成果を踏まえ、SRB−Aを4本備えるH− Aロケット204型の開発を機会に、アウタパネルを廃止するとともに、局所エロージョンの低減を図るため、新しいノズルの開発を進めている。
また、飛行後の回収については、試験機1号機で探索を行ったが、落下海域が水深約4500mであり、一部部品を発見し、画像の取得はできたが、本体の発見には至らなかった。一方、機構は、試験機1号機において取得された飛行データから、ノズルの断熱性能は良好であったとの評価を行った。このため、機構は、探索の困難さ及び費用(探索のみで数億円)の観点から、試験機2号機以降の回収は試みていない。 |