教科書の改善について~教科書の質・量両面での充実と教科書検定手続きの透明化~(報告)〔概要〕

1 教科書改善に当たっての基本的な方向性

 本審議会において、今後の教科書の著作・編集及び教科書検定に求められるものを「教科書改善に当たっての基本的な方向性」として、次の六つの項目に整理し、これを踏まえ、「教科書改善の具体的方策」及び「検定手続き改善の具体的方策」を提示。

  1.  教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善
  2.  知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実
  3.  多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述
  4.  教科書記述の正確性の確保
  5.  児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
  6.  教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

2 教科書改善の具体的方策

1 教科用図書検定基準等の改善

(1)教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善 -基本的な方向性1-

  •  教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標を達成し、新学習指導要領の総則に示された教育課程編成の一般方針や各教科の目標・内容等を適切に反映した教科書の作成
  •  教育基本法、学校教育法、新学習指導要領についての周知を十分に行い、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善を推進するとともに、教科用図書検定基準等の改善を図る
<検定基準改善の視点1>
 教育基本法、学校教育法、学習指導要領に示す教育の目標の達成に資する「よりよい教科書」への改善を図るための基準の見直し
【見直しの内容】

◇ 教科書が、知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間、公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民、及び我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成を目指す教育基本法に示す教育の目標並びに学校教育法及び学習指導要領に示す目標を達成するための主たる教材であることを検定基準上明記する。
◇ 教育基本法に示す教育の目的・目標、学校教育法に示す義務教育の目標に一致していることを検定基準上明確化する。(教育基本法第1条、同法第2条、同法第5条、学校教育法第21条)
◇ 学習指導要領総則に示す教育課程編成の一般方針や、各教科の目標・内容等に一致していることを検定基準上明確化する。
◇ 検定基準の各教科共通の条件の分類について、審査の観点をわかりやすくするよう規定を整理。

☆ 上記の基準見直しに即して、検定申請時の添付書類を整備(学習指導要領との対照に加え、教育基本法等の目的・目標との対照も添付書類とする)。

(2)知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両 面での格段の充実 -基本的な方向性2-

  •  個々の児童生徒の理解に応じ、きめ細やかな指導ができるよう、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実
  •  幅広い教養・豊かな情操と道徳心、伝統と文化を尊重する態度などの教育基本法、学校教育法に示された目的・目標等の達成に資するための内容や話題・題材の充実
  •  基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう、既に学習した内容の系統的な反復学習や、練習問題などによる繰り返し学習に関する記述の充実
  •  知識・技能を活用する学習活動が取り入れられるよう、観察・実験やレポートの作成に関する記述の充実
  •  児童生徒の学ぶ意欲を高め、探究する力をはぐくむよう、他教科の関連する内容も取り入れ、学習内容が実生活・実社会に関連付けられるような記述や話題・題材の充実
  •  課題解決の喜びを得るような練習問題や、なぜ学ぶのかという目的意識を取り入れた話題・題材の充実
<検定基準改善の視点2>
 教科書発行者の創意工夫により、記述内容が質・量ともに格段に充実するための基準の見直し。
 国語や英語の題材の充実など、学習指導要領に即した各教科固有の基準の見直し。
【見直しの内容】

◇ 「発展的な学習内容」について、個々の児童生徒の理解に応じたきめ細やかな指導が充実するよう、現行の検定基準における記述上の例外的な扱い(「本文以外の図書の内容」「分量は適切であること(義務1割程度、高校2割程度を上限)」など)を見直す。
 ただし、学習指導要領の総則や各教科の目標や内容の趣旨を逸脱せず、適切な関連を有していることが必要。
◇ 「補充的な学習」「繰り返し学習」等については、例えば小学校算数の学習内容を中学校数学においても取り上げることなどにより記述内容の充実が図られるよう、「程度が低過ぎるところはないこと」「他の教科の内容と不必要に重複しているところはないこと」という、抑制的に働く側面がある規定を見直す。
◇ 他教科の関連する内容を取り入れながら、実生活・実社会と関連付けられるような記述や話題・題材の工夫・充実が図られるよう、「他の教科・内容と不必要に重複しているところはないこと」という規定を見直す。
◇ 教科書発行者の創意工夫により記述の充実が図られるよう、図書の内容について「厳選されて」いることを求める規定を見直す。
◇ 漢字の指導が充実するよう、小学校の国語科の教科書における漢字の扱いに関して「当該学年の配当漢字以外を使用できる場合について固有名詞などに限定する規定」を見直し、振り仮名を付すなど必要な配慮をした上で、当該学年の配当漢字以外も使用できるよう検定基準上明確化する。また、国語科以外の教科においても国語に準じた扱いができるよう、検定基準を見直す。
◇ 学習指導要領に示された教材選定に当たっての留意事項に基づき、国語や英語についての題材の充実が図られるよう検定基準上明確化する。

(3)多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述 -基本的な方向性3-

  •  教育基本法において示された教育の目標等や学校教育法に示された義務教育の目標、目的を達成するため、教師が自信と確信を持って児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた教科書記述がより一層求められる
  •  一面的・断定的でない多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述がなされることも重要
<検定基準改善の視点3>
 教科書の記述内容、話題・題材等の扱いについて、教育基本法等に示された目的・目標等を達成するため、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、公正性・中立性をより一層確保するための基準の見直し。
【見直しの内容】

◇ 「話題や題材の選択・扱いの調和に関する規定」、「事柄や見解の取扱いに配慮等を求めた規定」について、教育基本法において示された教育の目的・目標等や学校教育法に示された義務教育の目標を達成するため、教科書記述がより一層公正・中立でバランスのとれたものとなるよう、著者の一面的な見解を断定的に記述していたり、定説とされる学説が確定していない場合に複数ある学説の中の一つの説のみを断定的に記述していたりするなどの場合に当該規定を適用する。
◇ 政治・宗教の扱いに関する現行の規定について、教育基本法第14条(政治教育)及び第15条(宗教教育)に照らし、適切かつ公正な扱いがなされるよう検定基準上明確化する。
◇ 「特定の個人・団体などの権利・利益を侵害するおそれのあるところはないことを求める規定」について、「特定の企業・商品などの宣伝・非難に関する規定」との整合性に留意し、特定の個人・団体の活動に関する記述が、政治的・宗教的な観点から公正な扱いとなるよう、規定を整備する。
◇ 「引用する資料等は信頼性のあるものが選択されることを求める規定」について、より一層公正な扱いで適切な資料等が選択されるよう検定基準を見直す。
◇ 社会科の「未確定な時事的事象を断定的に記述しているところはないことを求める規定」について、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げないことについても検定基準上明確化する。

(4)教科書記述の正確性の確保 -基本的な方向性4-

  •  教科書の著作・編集、検定の過程において、教科の主たる教材としての正確性が一層確保される仕組みや、申請段階において客観的に明白な誤記・誤植等をなくすための仕組みを整備することが必要である
  •  発行後においても、客観的に明白な誤記・誤植等が速やかに修正され周知されるような取組を推進することが求められる
<検定基準改善の視点4>
 誤記・誤植等がない正確な記述と実質的な記述内容の審査を確保するための基準の見直し。
【見直しの内容】

◇ 現行の検定基準における正確性に関する規定について、客観的に明白な誤記・誤植等を区分して規定するよう見直すとともに、当該誤記・誤植等については、審議会での審議において、他の不正確な内容等にかかる審議と分けて審議を行い、専門的な審議が十分に確保できるよう検定手続きを見直す。また、客観的に明白な誤記・誤植等と判断された箇所数を検定手続き終了後、公表する。
☆ 著作・編集段階における校正体制の強化を図る観点から、校正体制・校正回数等を明示した書類を検定申請の添付書類に追加する。
☆ 責任ある教科書の著作・編集を求めるため、著作者・監修者の具体的な担当箇所・役割等を教科書上においても明記することを発行者に促す。

2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等

○児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進 -基本的な方向性5-

  •  学習指導要領の改訂による授業時数増にも対応し、新学習指導要領に示す内容を不足なく、丁寧にかつわかりやすく記述した上で、個々の児童生徒の理解の程度に応じて発展的な学習やつまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすいような教科書構成上の配慮・工夫。また、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続への配慮・工夫
  •  記述すべてを教えるのではなく、発展的な学習など個々の児童生徒の理解の程度に応じて学習する内容について、編集上の区分の徹底
  •  児童生徒が興味関心を持って読み進められるよう、話題や題材の創意工夫
  •  児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できるよう、丁寧な記述、練習問題、文章量の充実。また、児童生徒が学びやすいよう、学習内容を踏まえた教科書の体様への適切な配慮
  •  本文記述との適切な関連付けがなされたイラスト・写真などの活用。一方でこれらの多用によって児童生徒の想像力が阻害されないような配慮
  •  障害の有無にかかわらず、すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究
【求められる取組】

◇ 学習指導要領「解説」の活用など学習指導要領の趣旨等を適切に反映した教科書の著作・編集。
◇ 発行者がこれまで以上に自覚を持ち、徹底した校正を行うことができる体制の整備。
◇ 挿絵・イラスト・マンガ・写真等の使用に際しては、児童生徒が学習する上で効果があるか等について十分考慮。
◇ 教科書の記述内容の充実はもとより、全体的な構成、レイアウト等の教科書編集上に必要な配慮・工夫。
◇ 文部科学省において、教科書発行者の配慮・工夫を促すため、必要な改善モデル事業や調査研究を行う。
◇ 教科書採択においては、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」で示された内容を参考にし、十分かつ綿密な調査研究の下、適切な教科書を採択する必要。また、文部科学省としても採択の一層の改善方策について、更に検討を進める必要。

3 教科書検定手続き改善の具体的方策

○教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善-基本的な方向性6-

  •  申請図書に対し、審議会や教科書調査官がどのように関与し、結果としてどのような過程によって検定意見が付され、合否判定がなされたかなど審議結果に至る一連のプロセスを一層透明化する
  •  検定手続きの透明性の向上に当たっては、静ひつな環境における専門的かつ自由闊達(かつたつ)な審議の確保との十分な両立を図る
  •  審議に当たって特に慎重な判断を要する事項を審議会が選定し、より専門性の高い重点的な審議を行う
【見直しの内容】
1 教科書検定手続きの透明性の一層の向上
透明性の一層の向上

<検定における審査過程の一層の公開>
◇ 現在は公開対象としていない、教科書調査官が作成する検定意見書の原案である調査意見書や、審議会に付議する判定案等の資料について、検定審査終了後に実施する検定結果の公開事業において、新たに公開対象とすることとし、規則上も明確化。

【教科書検定の流れ】

教科書検定の流れの図

<部会、小委員会における議事の概要の作成・公表>
◇ 部会や小委員会について、開催日、出席委員、付議事項、決定事項、議事の概略を記載した議事概要を作成し、検定審査終了後に公表。
 なお、静ひつな環境の下、専門的・学術的に審議を行い、自由闊達な議論を通して合意形成を図る必要があることから、個々の意見のやりとりを公表し、作成することや、会議自体を公開することは行わない。

<委員分属の公表>
◇ 公表した場合に、静ひつな環境の下、委員が自由闊達な議論を通して合意形成を図るという審議を確保する上で、支障が生じるのではないかという意見もあったが、検定に対する信頼性をより一層高める観点も考慮し、審議会の各委員が、どの部会や小委員会に属しているのか、検定審査終了後に公表。

静ひつな環境の確保

<審査過程における申請図書等の適切な情報管理>
◇ 申請図書等の情報が検定審査終了前に流出し、調査審議に支障があると認めた場合には、運営規則(「会長は、調査審議に支障があると認めるときは、調査審議の一時停止その他必要な措置を講ずることができる。」)に従い、部会や小委員会の判断に基づき、一時停止等の措置をとることについて運用上明確化。
◇ 申請者は検定済図書の訂正申請の内容についても、他の者の知るところとならないよう、適切な情報管理を行うことを規定上明確化。

2 専門的見地からのきめ細やかな審議の確保

<より専門的できめ細やかな審査を行う場合の審議の方法>
◇ 特に慎重な判断を要する事項(例えば、「高度な専門性を要する新たな記述の審査」、「学説が複数ある記述に意見を付す審査」など)について、部会や小委員会の判断に基づき、専門委員の任命や、外部専門家からの意見聴取等を行うなど、より専門的できめ細やかな審議を行うよう審査の運用改善を図る。

<検定意見の伝達方法等>
◇ 検定意見の趣旨や理由、背景にある考え方等が、申請者に対しできる限り正確に伝えられるよう、特に慎重な判断を要する事項などは、必要に応じ検定意見書をさらに分かりやすく記述。
 また、検定意見の通知から時間的余裕をもって補足説明の場を設けるなど、より丁寧に検定意見が伝達されるよう運用改善を図る。

3 文部科学大臣と審議会の関係及び審議会委員や教科書調査官の役割・選任の改善等

<文部科学大臣と審議会の関係及び教科書調査官の役割>
◇ 文部科学大臣と審議会との関係については、審議会における教育的・学術的に公正・中立な審議の結果に基づいて、文部科学大臣が決定を行うという教科書検定制度の基本を十分認識し、引き続き以下のとおり対応。
・ 申請図書について、文部科学大臣が審議会に諮問し、審議会における調査審議を経て、審議会からの報告に基づき検定意見を付す
・ 検定意見に従った修正案について、審議会の答申に基づき検定の決定をする
◇ 審議会の調査審議における教科書調査官の具体的な役割・職務について規則上明確化。

<審議会委員の役割・選任>
◇ 審議会委員の選任については、引き続き、各年度において検定が実施される学校種なども勘案しつつ、各分野ごとのバランスにも配慮しながら、学識経験に優れた候補者の中から委員を選任。
 その際、指導や教科書の使用実態に詳しい学校現場の経験豊かな人材の活用についても引き続き配慮。

<教科書調査官の選任及び職歴等の公表等>
◇ 教科書調査官の選任については、高度に専門的な学識を有することや、視野が広く初等中等教育に関し理解と見識を有すること、関係法令に精通していることなどの観点から、能力・適正を総合的に判断して、職務に見合った適切な人材を確保。
 現行の「教科書調査官選考基準」について、より幅広く適材を確保する観点から必要な見直しを行う。
◇ 行政の適正・公正な遂行に対する国民の信頼を得るため、教科書調査官の氏名や職歴などの情報を公表。

お問合せ先

初等中等教育局 教科書課

電話番号:03-5253-4111(体表)(内線2396)