2. 教科書改善の具体的方策

○ 1で示した、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を踏まえ、「1 教科用図書検定基準等の改善」、「2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等」について、具体的な改善方策を示すこととする。
 なお、「1 教科用図書検定基準等の改善」については、「基本的な方向性」の1から4に対応するものであり、「2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等」は、「基本的な方向性」の1から4、とりわけ5に対応するものである。

教科書改善に当たっての基本的な方向性
  1.  教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善
  2.  知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実
  3.  多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述
  4.  教科書記述の正確性の確保
  5.  児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
  6.  教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

1 教科用図書検定基準等の改善

○ 教科用図書検定基準(※1)(以下「検定基準」という。)は、検定における教科書の審査が適正かつ公正に行われるよう、文部科学大臣によりあらかじめ告示されている審査の基準であり、教科用図書検定調査審議会において、これに基づき教科書の記述内容についての審査が行われる(※2) 。
 検定基準は検定の審査基準であるが、各教科書の著作・編集は、この検定基準に示されている規定を考慮しながら行われることとなるため、その見直しの内容は、教科書の改善に大きく影響するものである。

○ この検定基準について、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」の1から4を踏まえ、以下の視点から見直しを行うことを提言する。
 なお、この「基本的な方向性」に示された事項や、これを踏まえた具体的な改善方策については、高等学校の教科書の改善に当たっても多くの部分で共通すると考えられるが、今回は、小・中学校学習指導要領の改訂を踏まえ、義務教育諸学校教科用図書検定基準について提言するものである。

視点1.
 教育基本法、学校教育法、学習指導要領に示す教育の目標の達成に資する「よりよい教科書」への改善を図るための基準の見直し。
視点2.
 教科書発行者の創意工夫により、記述内容が質・量ともに格段に充実するための基準の見直し。
 国語や英語の題材の充実など、学習指導要領に即した各教科固有の基準の見直し。
視点3.
 教科書の記述内容、話題・題材等の扱いについて、教育基本法等に示された目的・目標等を達成するため、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、公正性・中立性をより一層確保するための基準の見直し。
視点4.
 誤記・誤植等がない正確な記述と実質的な記述内容の審査を確保するための基準の見直し。

※1 教科書検定における基準として、義務教育諸学校教科用図書検定基準(平成11年1月25日文部省告示第15号)及び高等学校教科用図書検定基準(平成11年4月16日文部省告示第96号)が定められている。
※2 教科書検定においては、各教科書発行者から検定申請された教科書(申請図書)について、教科用図書検定調査審議会において、この検定基準に照らして適切か否かの審査が行われ、その結果に基づき文部科学大臣が合否の決定を行っている。また、同審議会において、この検定基準に照らして、必要な修正を行った後に再度審査を行うことが適当であると判断した申請図書については、文部科学大臣は合否の決定を留保した上で、修正等を求める「検定意見」を教科書発行者に対して通知する。

(1)教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善-基本的な方向性1-

  •  教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標を達成し、新学習指導要領の総則に示された教育課程編成の一般方針や各教科の目標・内容等を適切に反映した教科書の作成
  •  教育基本法、学校教育法、新学習指導要領についての周知を十分に行い、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善を推進するとともに、教科用図書検定基準等の改善を図る。

○ 教育を取り巻く状況の変化等を踏まえて改正された教育基本法においては、知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間、公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民、及び我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成を目指し、従来から規定されていた個人の価値の尊重、正義と責任などに加え、新たに、公共の精神、生命や自然を尊重する態度、伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことなどが規定された(第2条)。

○ 教育基本法の改正を踏まえ、学校教育法において、公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画する態度を養うことなどが、義務教育の目標として規定された(第21条)。

○ 新しい学習指導要領では、これらの改正を踏まえ、「総則」の「教育課程編成の一般方針」において、1.教育基本法改正等で明確となった教育の理念を踏まえ「生きる力」を育成すること、2.基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成を図るとともに、主体的に学習に取り組む態度を養うこと、3.道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成することが示された。

○ 教科書は、各学校において、適切な教育課程を編成し、教育基本法に掲げる目標を達成するよう教育を行うための主たる教材である。このため、教育基本法で示す目標等を適切に反映した教科書の改善を進めるよう以下の視点で検定基準の見直しを行う。

検定基準改善の視点1.
 教育基本法、学校教育法、学習指導要領に示す教育の目標の達成に資する「よりよい教科書」への改善を図るための基準の見直し。

【見直しの内容】

(教育の目標達成に資する主たる教材)
◇ 教科書が、知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間、公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民、及び我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成を目指す教育基本法に示す教育の目標並びに学校教育法及び学習指導要領に示す目標を達成するための主たる教材であることを検定基準の総則において明記する。

教育基本法(平成18年12月22日法律第120号)
 (教育の目標)
第2条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

(教育基本法等との関係)
◇ 教育基本法に示す教育の目的、目標(第1条、第2条、第5条(※1))や学校教育法に示す義務教育の目標(第21条(※2))に一致していることを検定基準上明確化する。

(学習指導要領との関係)
◇ 学習指導要領総則に示す教育課程編成の一般方針や各教科の目標、内容等(※3)に一致していることを検定基準上明確化する。

(検定基準の構成の整理)
◇ 検定基準の「各教科共通の条件」の分類(「1 範囲及び程度」「2 選択・扱い及び組織・分量」「3 正確性及び表記・表現」)(※4)について、審査の観点をより分かりやすくするよう、例えば、「1」及び「2」の観点について、関係法令との関係、記述内容として取り上げる範囲を示した事項、記述内容の配列や取扱い方に関する配慮を示した事項などの事項に分けて、規定を整理する。

(検定申請時の添付書類の整備)
☆ 上記の検定基準の見直しに即して、学習指導要領との対照を示す書類に加え、教育基本法等の目的・目標との対照を示す書類も添付書類とするよう、検定申請時の提出書類(※5)の整備を行う。


※1 教育基本法(平成18年12月22日法律第120号)
(教育の目的)
第1条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
(教育の目標)
第2条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(義務教育)
第5条第2項 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。

※2 学校教育法(昭和22年3月31日法律第26号/一部改正:平成19年6月27日法律第96号)
第21条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成18年法律第120号)第5条第2項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
二 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
三 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
四 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
五 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
六 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
七 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
八 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
九 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
十 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

※3 小学校学習指導要領(平成20年3月28日文部科学省告示第27号) 〔第1章 総則 第1 教育課程編成の一般方針(抜粋)〕
1 各学校においては、教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い、児童の人間として調和のとれた育成を目指し、地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階や特性を十分考慮して、適切な教育課程を編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。
 学校の教育活動を進めるに当たっては、各学校において、児童に生きる力をはぐくむことを目指し、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で、基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない。その際、児童の発達の段階を考慮して、児童の言語活動を充実するとともに、家庭との連携を図りながら、児童の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。
2 学校における道徳教育は、道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり、道徳の時間はもとより、各教科、外国語活動、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて、児童の発達の段階を考慮して、適切な指導を行わなければならない。
 道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、人間尊重の精神と生命に対する畏(い)敬の念を家庭、学校、その他社会における具体的な生活の中に生かし、豊かな心をもち、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、個性豊かな文化の創造を図るとともに、公共の精神を尊び、民主的な社会及び国家の発展に努め、他国を尊重し、国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓(ひら)く主体性のある日本人を育成するため、その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。

※4 検定基準の全体的な構成は、検定審査の基本方針である「総則」のほか、「各教科共通の条件」及び「各教科固有の条件」について、「範囲及び程度」、「選択・扱い及び組織・分量」及び「正確性及び表記・表現」の三つの観点ごとに、具体的な規定が定められている。

※5 現在提出を求めている添付書類として、編集上特に意を用いた点や特色を記す「編修趣意書」や学習指導要領の「内容」と申請図書の内容との対比を記す「学習指導要領との対照表」などがある。

(2)知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実-基本的な方向性2-

  •  個々の児童生徒の理解に応じ、きめ細やかな指導ができるよう、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実
  •  幅広い教養・豊かな情操と道徳心、伝統と文化を尊重する態度などの教育基本法、学校教育法に示された目的・目標等の達成に資するための内容や話題・題材の充実
  •  基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう、既に学習した内容の系統的な反復学習や、練習問題などによる繰り返し学習に関する記述の充実
  •  知識・技能を活用する学習活動が取り入れられるよう、観察・実験やレポートの作成に関する記述の充実
  •  児童生徒の学ぶ意欲を高め、探究する力をはぐくむよう、他教科の関連する内容も取り入れ、学習内容が実生活・実社会に関連付けられるような記述や話題・題材の充実
  •  課題解決の喜びを得るような練習問題や、なぜ学ぶのかという目的意識を取り入れた話題・題材の充実

○ 教科書において、児童生徒が基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、それらを活用して課題を解決するのに必要な思考力・判断力・表現力等をはぐくむことができるよう、質・量両面の充実が求められる。教科書の充実に当たっては、個々の児童生徒の理解に応じたきめ細やかな指導の充実を図ることが重要であることから、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実とともに、実生活や実社会に関連付ける学習内容の充実などが求められる。

○ 現行の検定基準においては、例えば、「発展的な学習内容」(※1) を記述する際の留意点等に関する規定や他の教科の内容との重複に関する規定などを始めとして、教科書の著作・編集において抑制的に働く側面をもつ規定がある。教科書発行者の創意工夫により、教科書の内容が質・量ともに充実されるよう、これらを見直す必要がある。

○ 教科書の内容の質・量の充実に当たっては、多くの教員や保護者の間に定着している「教科書に記述されている内容は、すべて教えるものである」という教科書観について、「個々の児童生徒の理解の程度に応じた指導の充実に資する教科書」や「児童生徒の学ぶ意欲の向上に資する教科書」、「児童生徒の自学自習に資する教科書」といった見方に転換されていくことが求められる。

○ また、新しい学習指導要領では、国語科において、我が国において伝承されてきた言語文化に親しむという観点から、また、外国語科において、外国語学習に対する関心や意欲を高める、外国語で発信し得る内容の充実を図るなどの観点から、教材選定の留意事項が示された。このため、これを踏まえた題材の選択に係る検定基準の見直しなど、各教科固有の基準を以下の視点で見直すことも必要である。


※1  「発展的な学習内容」とは、児童生徒の理解をより深め、興味・関心に応じた学習を拡げる等の観点から、学習指導要領において当該学年の学習内容とされていない内容等について教科書上の記述を行うものであり、現行の検定基準においては、「発展的な学習内容」を記述する際の留意点等が規定されている。
 この規定においては、記述に当たっては本文以外で記述することや「発展的な学習内容」以外と区分すること、学習指導要領に示されていないことを明示すること等が定められている。さらに、分量については、検定基準上適切であることとされ、実際の検定においては運用上、義務教育については教科書全体の1割程度、高等学校については教科書全体の2割程度までとされている。

検定基準改善の視点2.
 教科書発行者の創意工夫により、記述内容が質・量ともに格段に充実するための基準の見直し。
 国語や英語の題材の充実など、学習指導要領に即した各教科固有の基準の見直し。

【見直しの内容】
各教科共通の条件

(「発展的な学習内容」の充実)
◇ 「発展的な学習内容」について、個々の児童生徒の理解に応じたきめ細やかな指導が充実するよう、現行の検定基準における記述上の例外的な扱いを見直し、その位置付けを明記する。これに伴い、「記述に当たっては本文以外で記述する」とする規定を見直すとともに、分量について「適切であること」と規定され、運用上、義務教育については教科書全体の1割程度、高等学校については2割程度までとされていることについて、量的な上限を設けないこととするよう、見直す。
 ただし、「発展的な学習内容」については、学習指導要領の総則や各教科等の目標、内容の趣旨を逸脱せず、主たる学習内容との適切な関連を有していることが、引き続き必要である。

◇ 現行の検定基準において、「発展的な学習内容」に関する記述は他の記述とは明確に区分され、すべての児童生徒が一律に学習するものではないということを示すこととされていることについては、今後も同様とし、著作・編集において一層徹底する。

☆ 「発展的な学習内容」に関する記述は、学習指導要領に示された内容ではなく、すべての児童生徒が一律に学習するものではないことから、入学者選抜における学力検査の問題作成に当たって、出題範囲としないよう十分留意することなどを、文部科学省として教育委員会などの関係者に求めていく必要がある。

(補充的な学習や繰り返し学習等の充実)
◇ 「補充的な学習」や「繰り返し学習」等については、例えば、中学校数学科において「正の数・負の数」を学習する際に、小学校算数科の「整数・小数・分数の四則計算」を取り上げることなどが考えられる。今後、このような記述の充実が図られるよう、「程度が低すぎるところはないこと」、「他の教科の内容と不必要に重複しているところはないこと」という、抑制的に働く側面をもつ規定を見直す。

(他教科と関連する記述等の充実)
◇ 他教科の関連する内容を取り入れながら、実生活・実社会と関連付けられるような記述や話題・題材の工夫・充実が図られるよう、「他の教科・内容と不必要に重複しているところはないこと」という規定を見直す。

(図書の内容の厳選を求める規定の見直し)
◇ 図書の内容について「厳選されて」いることを求める規定については、教科書発行者の創意工夫により記述の充実が図られるよう、見直す。

(安全に関する取扱いの充実)
◇ 教科書における安全面の取扱いに関し、「図書の内容に心身の安全について必要な配慮を欠いているなどはないこと」という規定について、教科書において、今後とも実験・実習における事故の防止等安全面について十分な配慮が求められる(※1)ことから、検定基準において必要な見直しを行う。

各教科固有の条件

(漢字の指導の取扱いの充実)
◇ 漢字の指導が充実するよう、小学校の国語科の教科書における漢字の扱いに関して「当該学年の配当漢字以外を使用できる場合について固有名詞などに限定する規定」を見直し、振り仮名を付すなど必要な配慮を行った上で(※2) 、当該学年に配当された漢字以外の漢字を使用できることを検定基準上明確化する。
  また、国語科以外の教科においても、国語科に準じた扱いができるよう、検定基準を見直す。

(国語科における漢字の繰り返し学習に対応した改善)
◇ 児童生徒が漢字を確実に書き、使うことができるようにするため(※3) 、中学校の教科書における漢字の扱いに関して、「中学校3学年間を通して『学年別漢字配当表』において小学校の第6学年に配当されている漢字を学習することができるよう必要な配慮を求める規定」を見直し、漢字の繰り返し学習がより充実されるよう、必要な配慮を行うことについて、検定基準上明確化する。

(文語文の歌詞の取扱いに関する改善)
◇ 小学校音楽科における文語文の歌詞について、現代仮名遣いを用いることとしている検定基準を見直し、教科書発行者の判断により文語文も記述できるよう、当該規定を削除する。

(国語科及び外国語科の教材の充実)
◇ 学習指導要領に示された教材選定に当たっての留意事項に基づき、国語科及び外国語科の題材の充実が図られるよう、検定基準上明確化する。

  •  新しい学習指導要領では、国語科において、我が国において伝承されてきた言語文化に親しむ観点(※4) から、教材選定に当たっての留意事項が示された。その中では教材を取り上げる際に配慮する観点として、自然や美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと、我が国の伝統や文化に対する理解と愛情を育てることなどが示された(※5) 。具体的には、日本の伝統や文化、自然や四季に関する題材、生命を尊重し、他人を思いやるなどの道徳的心情を豊かにする題材などを取り上げることへの配慮が望まれる。
  •  また、外国語科において、コミュニケーション能力の基礎となる4技能(「聞く」「話す」「読む」「書く」)が総合的に育成されることに資するため(※6) 、外国語学習に対する関心や意欲を高め、外国語で発信しうる内容の充実を図る観点から、教材選定に当たっての留意事項が示された(※7) 。その中では伝統文化や自然科学なども含め、教材を取り上げる際に配慮する観点として、外国や我が国の生活や文化についての理解を深めるとともに、言語や文化に対する関心を高め、これらを尊重する態度を育てるのに役立つことなどが示された。具体的には、実際に英語を使用している人々が見たり聞いたりしている新聞やスピーチ、いわゆる名演説などの様々なものの見方や考え方などに関する題材、昔から伝えられてきた伝統的な作品などを取り上げることへの配慮が望まれる。

(算数的活動・数学的活動への配慮)
◇ 算数科及び数学科においては、算数的活動・数学的活動が、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに、数学的な思考力・表現力を高めたり、算数・数学を学ぶことの楽しさや意義を実感したりするために、重要な役割を果たすものである(※8) ことから、教科書において、算数的活動・数学的活動を取り上げることについて適切な配慮を行うよう、検定基準上明記する。

(理科における日常生活や社会との関連への配慮)
◇ 新しい学習指導要領においては、理科において、科学を学ぶことの意義や有用性の実感、科学への関心を高める観点(※9) から、日常生活や社会との関連を重視した内容の充実が図られた(※10) ことから、教科書において適切な配慮が行われるよう、検定基準に規定を追加する。

(理科における安全に関する基準の充実)
◇ 理科においては、実験等に関する指導の充実に伴い、これまで以上に安全に関する配慮が求められることから、安全面についてより一層適切な配慮が行われるよう、安全に関する規定を検定基準に追加する。


※1 小学校学習指導要領 〔第1章 総則  第1 教育課程編成の一般方針〕
3 学校における体育・健康に関する指導は、児童の発達の段階を考慮して、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に、学校における食育の推進並びに体力の向上に関する指導、安全に関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導については、体育科の時間はもとより、家庭科、特別活動などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めることとする。また、それらの指導を通して、家庭や地域社会との連携を図りながら、日常生活において適切な体育・健康に関する活動の実践を促し、生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮しなければならない。

※2 中央教育審議会答申(平成20年1月17日) 〔8.各教科・科目等の内容  (2) 小学校、中学校及び高等学校 1. 国語〕
(2)改善の具体的事項
(小学校)
○ 日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
(ウ) 漢字の指導については、日常生活や他教科等の学習における使用や、読書活動の充実に資するため、上の学年に配当されている漢字や学年別漢字配当表以外の常用漢字についても、必要に応じて振り仮名を用いるなど、児童が読む機会を多くもつようにする。
 また、日常生活において確実に使えることを重視し、実際の文章や表記の中で繰り返し学習させるなど、児童の習得の実態に応じた指導を充実する。
 (中学校)
○ 小学校までに培われた国語の能力を更に伸ばし、社会生活に必要な国語の能力の基礎を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
(ウ) 漢字の指導については、社会生活や他教科等の学習における使用や、読書活動の充実に資するため、常用漢字の大体を読めるようにするとともに、学年別漢字配当表に配当された漢字を使い慣れるようにする。また、社会生活において確実に使えることを重視し、生徒の習得の実態に応じた指導を充実する。

※3 中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容  (2) 小学校、中学校及び高等学校 1. 国語〕
(2)改善の具体的事項
(小学校)
○ 日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
(ウ) 漢字の指導については、日常生活や他教科等の学習における使用や、読書活動の充実に資するため、上の学年に配当されている漢字や学年別漢字配当表以外の常用漢字についても、必要に応じて振り仮名を用いるなど、児童が読む機会を多くもつようにする。
 また、日常生活において確実に使えることを重視し、実際の文章や表記の中で繰り返し学習させるなど、児童の習得の実態に応じた指導を充実する。
 (中学校)
○ 小学校までに培われた国語の能力を更に伸ばし、社会生活に必要な国語の能力の基礎を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
(ウ) 漢字の指導については、社会生活や他教科等の学習における使用や、読書活動の充実に資するため、常用漢字の大体を読めるようにするとともに、学年別漢字配当表に配当された漢字を使い慣れるようにする。また、社会生活において確実に使えることを重視し、生徒の習得の実態に応じた指導を充実する。

※4 中央教育審議会答申 〔7.教育内容に関する主な改善事項   (3) 伝統や文化に関する教育の充実〕
○ このため、伝統や文化の理解についても、発達の段階を踏まえ、各教科等で積極的に指導がなされるよう充実することが必要である。
 まず、国語は、長い歴史の中で形成されてきた我が国の文化の基盤を成すものであり、また、文化そのものである。国語の一つ一つの言葉には、我々の先人の情感や感動が集積されており、伝統的な文化を理解・継承し、新しい文化を創造・発展させるためには、国語は欠くことのできないものである。
 このような観点から、具体的には8.で示すが、(1)で示したとおり国語科では、小学校の低・中学年から、古典などの暗唱により言葉の美しさやリズムを体感させた上で、我が国において長く親しまれている和歌・物語・俳諧、漢詩・漢文などの古典や物語、詩、伝記、民話などの近代以降の作品に触れ、理解を深めることが重要である。
〔8.各教科・科目等の内容   (2) 小学校、中学校及び高等学校  1. 国語〕
(2)改善の具体的事項
(小学校)
○ 日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
(ケ) 教材については、我が国において継承されてきた言語文化に親しむことができるよう、長く親しまれている和歌・物語・俳諧、漢詩・漢文などの古典や、物語、詩、伝記、民話などの近代以降の作品を取り上げるようにする。
 (中学校)
○ 小学校までに培われた国語の能力を更に伸ばし、社会生活に必要な国語の能力の基礎を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
(ク) 教材については、我が国において継承されてきた言語文化に親しむことができるよう、長く読まれている古典や近代以降の代表的な作品を取り上げるようにする。

※5 小学校学習指導要領 〔第2章 各教科  第1節 国語  第3 指導計画の作成と内容の取扱い〕
3 教材については、次の事項に留意するものとする。
(2) 教材は、次のような観点に配慮して取り上げること。
ア 国語に対する関心を高め、国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。
イ 伝え合う力、思考力や想像力及び言語感覚を養うのに役立つこと。
ウ 公正かつ適切に判断する能力や態度を育てるのに役立つこと。
エ 科学的、論理的な見方や考え方をする態度を育て、視野を広げるのに役立つこと。
オ 生活を明るくし、強く正しく生きる意志を育てるのに役立つこと。
カ 生命を尊重し、他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。
キ 自然を愛し、美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと。
ク 我が国の伝統と文化に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。
ケ 日本人としての自覚をもって国を愛し、国家、社会の発展を願う態度を育てるのに役立つこと。
コ 世界の風土や文化などを理解し、国際協調の精神を養うのに役立つこと。
※ 中学校学習指導要領においても、同趣旨の規定あり。

※6  中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容   (2) 小学校、中学校及び高等学校  11 外国語〕
(1)改善の基本方針
○ 外国語科については、その課題を踏まえ、「聞くこと」や「読むこと」を通じて得た知識等について、自らの体験や考えなどと結び付けながら活用し、「話すこと」や「書くこと」を通じて発信することが可能となるよう、中学校・高等学校を通じて、4技能を総合的に育成する指導を充実するよう改善を図る。
○ 指導に用いられる教材の題材や内容については、外国語学習に対する関心や意欲を高め、外国語で発信しうる内容の充実を図る等の観点を踏まえ、4技能を総合的に育成するための活動に資するものとなるよう改善を図る。

※7 中学校学習指導要領(平成20年3月28日文部科学省告示第28号)〔第2章 各教科 第9節 外国語 第2各言語の目標及び内容等〕
英語
3 指導計画の作成と内容の取扱い
(2) 教材は、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことなどのコミュニケーション能力を総合的に育成するため、実際の言語の使用場面や言語の働きに十分配慮したものを取り上げるものとする。その際、英語を使用している人々を中心とする世界の人々及び日本人の日常生活、風俗習慣、物語、地理、歴史、伝統文化や自然科学などに関するものの中から、生徒の発達の段階及び興味・関心に即して適切な題材を変化をもたせて取り上げるものとし、次の観点に配慮する必要がある。
ア 多様なものの見方や考え方を理解し、公正な判断力を養い豊かな心情を育てるのに役立つこと。
イ 外国や我が国の生活や文化についての理解を深めるとともに、言語や文化に対する関心を高め、これらを尊重する態度を育てるのに役立つこと。
ウ 広い視野から国際理解を深め、国際社会に生きる日本人としての自覚を高めるとともに、国際協調の精神を養うのに役立つこと。

※8 中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容   (2) 小学校、中学校及び高等学校  3 算数、数学〕
(1)改善の基本方針
○ 算数的活動・数学的活動は、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに、数学的な思考力・表現力を高めたり、算数・数学を学ぶことの楽しさや意義を実感したりするために、重要な役割を果たすものである。算数的活動・数学的活動を生かした指導を一層充実し、また、言語活動や体験活動を重視した指導が行われるようにするために、小・中学校では各学年の内容において、算数的活動・数学的活動を具体的に示すようにするとともに、高等学校では、必履修科目や多くの生徒の選択が見込まれる科目に「課題学習」を位置付ける。

※9 中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容  (2) 小学校、中学校及び高等学校  4 理科〕
(1)改善の基本方針
○ 理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会をもたせ、科学への関心を高める観点から、実社会・実生活との関連を重視する内容を充実する方向で改善を図る。

※10 小学校学習指導要領 〔第2章 各教科 第4節 理科 第3 指導計画の作成と内容の取扱い〕
2 第2の内容の取扱いについては、次の事項に配慮するものとする。
(3) 個々の児童が主体的に問題解決活動を進めるとともに、学習の成果と日常生活との関連を図り、自然の事物・現象について実感を伴って理解できるようにすること。
中学校学習指導要領 〔第2章 第4節 理科 第3 指導計画の作成と内容の取扱い〕
2 各分野の内容の指導については、次の事項に配慮するものとする。 
(3) 科学技術が日常生活や社会を豊かにしていることや安全性の向上に役立っていることに触れること。また、理科で学習することが様々な職業などと関係していることにも触れること。

(3)多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述-基本的な方向性3-

  •  教育基本法において示された教育の目標等や学校教育法に示された義務教育の目標、目的を達成するため、教師が自信と確信を持って児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた教科書記述がより一層求められる
  •  一面的・断定的でない多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述がなされることも重要

○ 教科書における記述内容や話題・題材等の扱いについては、児童生徒の多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれたものとなっていることが必要である。

○ 教育基本法の改正により、新たに、公共の精神、生命や自然を尊重する態度、伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことなどの教育の目標が示され、また、学校教育法の改正において、公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画する態度を養うこと、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うことなどの義務教育の目標が示された。

○ 教科書においては、教育基本法や学校教育法で示された目的や目標を達成するため、児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた記述がより一層求められる。

○ 学習指導要領では、総則において、道徳教育の目標等の教育課程編成の一般方針が示されるとともに、各教科の目標が示されている。例えば、小学校社会科の目標として、「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことが、また、中学校社会科の目標として、「多面的・多角的に考察し、我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め、公民としての基礎的教養を培い、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことが示されている。これらの方針や目標を踏まえながら、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、教科書記述においても一層公正・中立でバランスのとれた記述となるようにしていくことが求められる。

○ 教科書検定においては、教育基本法や学校教育法で示された目標等や学習指導要領総則の方針や各教科の目標等を念頭に、より公正性・中立性を確保する観点から、適切に対応することが必要である。

○ これらのことを踏まえ、以下の視点に基づき検定基準の見直しを行うとともに、運用の改善を図る。

検定基準改善の視点3.
 教科書の記述内容、話題・題材等の扱いについて、教育基本法等に示された目的・目標等を達成するため、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、公正性・中立性をより一層確保するための基準の見直し。

【見直しの内容】
各教科共通の条件

(選択・扱いの公正を求める規定のより適切な適用)
◇ 教科書の内容が公正・中立であり、バランスがとれたものとなっているかを審査する規定として、「話題・題材の選択・扱いの調和に関する規定」、「事柄や見解の取扱いに配慮等を求めた規定」が設けられている。これらの規定について、教育基本法において示された教育の目的・目標等や学校教育法に示された義務教育の目標を達成するため、教科書記述がより一層公正・中立でバランスのとれたものとなるよう、著者の一面的な見解を断定的に記述していたり、定説とされる学説が確定していない場合に複数ある学説の中の一つの説のみを断定的に記述していたりするなどの場合に、当該規定を適用していくことが必要である。

(政治・宗教の扱いの公正)
◇ 政治・宗教の扱いに関する現行の検定基準において、教育基本法第14条(政治教育)及び第15条(宗教教育)(※1) に照らし、適切かつ公正な扱いがなされるよう検定基準上明確化する。

(特定の個人・団体・企業などの扱いの公正)
◇ 「特定の個人・団体などの権利・利益を侵害するおそれのあるところはないことを求める規定」について、「特定の企業・商品などの宣伝・非難に関する規定」との整合性に留意し、特定の個人・団体の活動に関する記述が、政治的・宗教的な観点から公正な扱いとなるよう、規定を整備する。

(引用資料の扱いの公正)
 ◇ 「引用する資料等は信頼性のあるものが選択されることを求める規定」について、より一層公正な扱いで適切な資料等が選択されるよう、検定基準を見直す。

各教科固有の条件

 (社会科における未確定な時事的事象の扱いや引用資料の扱いの公正)
◇ 社会科の「未確定な時事的事象について断定的に記述しているところはないことを求める規定」について、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げないことについても明確化する。

◇ 社会科の「著作物、史料などを引用する場合には、評価の定まったものや信頼度の高いものを用いることを求める規定」については、より一層公正な扱いで適切なものが選択されるよう、検定基準を見直す。


※1 教育基本法
(政治教育)
第14条 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
(宗教教育)
第15条 宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

(4)教科書記述の正確性の確保-基本的な方向性4-

  •  教科書の著作、編集、検定の過程において、教科の主たる教材としての正確性が一層確保される仕組みや、申請段階において客観的に明白な誤記・誤植等をなくすための仕組みを整備することが必要である。
  •  発行後においても、客観的に明白な誤記・誤植等が速やかに修正され周知されるような取組を推進することが求められる。

○ 教科書記述における正確性の確保については、現行の検定基準における、「図書の内容に、誤りや不正確なところ、相互に矛盾しているところはないこと」という規定に基づき、記述に客観的に明白な誤記・誤植等がある場合や、それ以外の不正確な内容がある場合などについて、検定の審査が行われているが、客観的に明白な誤記・誤植等に関する審査に多くの時間が割かれている面がある。

○ 今後、検定における実質的な審査を確保するとともに、教科書の内容が、客観的に明白な誤記・誤植等のない正確な記述となるよう、以下のような視点に基づき検定基準の見直しを行う。また、申請図書の段階における完成度をより向上させる観点から、検定手続きの面においても方策を講じる。

検定基準改善の視点4.
 誤記・誤植等がない正確な記述と実質的な記述内容の審査を確保するための基準の見直し。

【見直しの内容】

(客観的に明白な誤記・誤植等に関する基準の区分及び当該誤記・誤植等の数の公表)
◇ 現行の検定基準における正確性に関する規定について、客観的に明白な誤記・誤植等を区分して規定するよう見直すとともに、当該誤記・誤植等については、審議会での審議において、他の不正確な内容等に係る審議と分けて審議を行い、専門的な審議が十分に確保できるよう検定手続きを見直す。また、客観的に明白な誤記・誤植等と判断された箇所数を検定手続き終了後、公表する。

(責任ある発行体制の確保)
☆ 著作・編集段階における校正体制の強化を図る観点から、校正体制・校正回数等を明示した書類を検定申請時の添付書類に追加する。

☆ 責任ある教科書の著作・編集を求めるため、著作者・監修者の具体的な担当箇所・役割等を教科書においても明記することを発行者に促すこととする。


◎ なお、(1)から(4)で見直しを提言した事項のほか、用語や記号、計量単位の表記の方法など、技術的に文言を調整する必要がある規定について、適切な見直しを行うこととする。

2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等

児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進-基本的な方向性5-

  •  学習指導要領の改訂による授業時数増にも対応し、新学習指導要領に示す内容を不足 なく、丁寧にかつ分かりやすく記述した上で、個々の児童生徒の理解の程度に応じて発 展的な学習やつまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすいような 教科書構成上の配慮・工夫。また、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続への配慮・ 工夫
  •  記述すべてを教えるのではなく、発展的な学習など個々の児童生徒の理解の程度に応 じて学習する内容について、編集上の区分の徹底
  •  児童生徒が興味関心を持って読み進められるよう、話題や題材の創意工夫
  •  児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できるよう、丁寧な記述、練習問題、文章量の 充実。また、児童生徒が学びやすいよう、学習内容を踏まえた教科書の体様への適切な 配慮
  •  本文記述との適切な関連付けがなされたイラスト・写真などの活用。一方でこれらの 多用によって児童生徒の想像力が阻害されないような配慮
  •  障害の有無にかかわらず、すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適 切な配慮の研究

○ 我が国の教科書制度は、民間の教科書発行者の創意工夫を生かした著作・ 編集を基本としており、今後より良い教科書が作成されるためには、教科書 発行者自身による創意工夫や適切な取組が大きな役割を持つこととなる。

○ 教科書発行者においては、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」の1から4を踏まえ、教科書の質・量両面での充実を図っていくことが必要である。

○ また特に、教科書編集上の配慮・工夫に関する観点を示した「教科書改善 に当たっての基本的な方向性」の5を踏まえ、著作・編集に当たり、以下の ような具体的な取組を進めることが求められる。

○ 文部科学省においては、教科書の著作・編集上に必要な配慮・工夫について、改善モデル事業や調査研究を行い、教科書発行者に対し周知していくことが必要である。

○ 教育委員会等における教科書の採択においては、教育基本法等の改正や新しい学習指導要領の趣旨を踏まえた「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を参考として、十分かつ綿密な調査研究を行い、適切な教科書を採択することが求められる。

【求められる取組】

(教育基本法で示された目標等や学習指導要領の趣旨等を適切に反映した教科書の著作・編集)
◇ 教科書発行者は、今後の教科書の著作・編集に当たり、教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標、新しい学習 指導要領に示された各教科の目標、内容等を正確に理解することが求められる。また、学習指導要領の記述の意味や解釈などの詳細を説明した「解説」についても十分に理解し、これを活用して、教科書記述に反映していくことが求められる。
 文部科学省においては、教育基本法等の改正や新しい学習指導要領の趣旨などが、教科書発行者に正しく理解されるよう、教科書発行者への説明会等を適宜実施するなど、関係者への周知を図る必要がある。

(授業時数の増加の趣旨を踏まえた教科書上の配慮・工夫)
◇ 学習指導要領の改訂により、授業時数が増えた教科があるが、授業時数の増加の趣旨は、基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得や、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続を図るという点にあるということを十分に踏まえ、つまずきやすい内容の繰り返し学習、及び補充的な学習を指導しやすくするための配慮・工夫を行うなど、児童生徒が、より一層意欲的に学習に取り組むことができるよう、著作・編集に当たることが求められる。

(公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述)
◇ 教科書発行者は、教科書が本来的に児童生徒のための図書であって、著者の学術研究の発表の手段ではないことを十分認識するとともに、 教科書の著作・編集に当たっては、内容が一面的・断定的な見解に偏っていないか、広く受容されているかなどについて、十分な吟味・検証を加えなければならない。
 特に、多様な説がある内容について記述する場合は、様々な視点からの記述を行うことなどにより、一層公正性・中立性に留意し、児童生徒の多面的・多角的な思考に資するものとする必要がある。

  

(正確な教科書記述を実現するための取組)
◇ 客観的に明白な誤記・誤植等のない正確な教科書記述は、教科書の作成に当たって最も意を用いなければならない事項の一つであり、教科書発行者は、この点については、例えば徹底した校正を行うことができる体制を整えて対応するなど、これまで以上に自覚を持って教科書の著作・編集に当たる必要がある。
 また、教科書発行者を対象とした教科書編集に関する研修会については、更なる充実が期待される。

◇ 現在、教科書の内容に誤りが発見された場合には、誤りを速やかに修正した上で、当該教科書を使用している学校等に周知することとなっている(※1) が、今後も教科書発行者においては、確実な周知が行われるよう取り組むことが求められ、また文部科学省においてもこれらに対応する取組を進めることが求められる。

(適切な体裁の工夫やイラスト・写真等の使用)
◇ 教科書の大判化、カラー頁やグラビア頁の使用など体裁を工夫することや、挿絵・イラスト・マンガ・写真等の資料を使用することについては、児童生徒の学習意欲を刺激したり、教科書の記述内容を理解する上で有効な面がある一方、児童生徒の理解に本当に役立っているのか、かえって児童生徒の想像の範囲を限定することになり弊害があるのではないかなどの指摘もなされている。
 こうしたことから、教科書発行者は、体裁上の工夫をより適切なものとするとともに、挿絵・イラスト・マンガ・写真等の使用に際しては、児童生徒が学習する上で効果的であるかなどについて十分考慮することが求められる。

(中学校理科の分冊形態)
◇ 現在の中学校理科の教科書の分冊形態については、学習する内容が第1分野及び第2分野に分けられていることに対応した分冊の形態となっているが、新しい学習指導要領においては、学年ごとの学習内容が示されたことから、教科書の分冊形態を学年ごとの分冊となるようにする必要がある。

(すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の 研究)
◇ 本年6月、教育の機会均等の趣旨にのっとり、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等(※2) の普及の促進等を図り、もって障害その他の特性の有無にかかわらず児童及び生徒が十分な教育を受けることができる学校教育の推進に資することを目的として、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が成立し、9月に施行された。
 教科書発行者は、この法律の趣旨を踏まえ、今後の教科書の作成に当たっては、障害その他の特性の有無にかかわらず、できる限り多くの児童生徒が支障なく学習することができるよう、紙面のレイアウトや配色、図や写真の使用方法、ルビの取扱いや紙質など、教科書の体裁や体様等について適切な配慮を行うことが必要である。

(文部科学省における取組)
◇ 文部科学省においても、児童生徒が意欲的に学習に取り組むようにするために、全体的な構成、レイアウト等の教科書編集上に必要な配慮・工夫について、教科書発行者の取組を促すため、必要な改善モデル事業や調査研究を行い、その成果を教科書発行者に周知することなどが必要である。

(公正かつ適切な教科書採択)
◇ 教育委員会等が行う教科書の採択は、実際に児童生徒の手に渡り、 授業等で使用される教科書を決定するという面で重要である。
 そのため、新しい教科書の採択に当たっては、各採択権者の権限と 責任の下、それぞれの地域の児童生徒にとって最も適した教科書を採 択するという観点から、教科書の装丁や見映えではなく、内容を考慮 した、十分かつ綿密な調査研究を公正かつ適正に行った上で、児童生 徒にとってより適切な教科書を採択していくことが求められる。
 その際、教育基本法等の改正や新しい学習指導要領の趣旨を踏まえ た「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を参考にし、十分な調 査研究が行われ、適切な採択がなされることが必要である。
 文部科学省としても、教育委員会等において、十分かつ綿密な調査 研究の下、公正かつ適正な教科書採択がなされるよう、採択の一層の 改善方策について、更に検討を進めていくことが必要である。


※1 教科用図書検定規則(平成元年4月4日文部省令第20 号) 〔第3章 検定済図書の訂正〕
(検定済図書の訂正の手続)
第14条
3 前条第1項若しくは第2項の承認を受けた者又は同条第3項の訂正を行った者は、その図書の供給が既に完了しているときは、速やかに当該訂正の内容を、その図書を現に使用している学校の校長に通知しなければならない。
教科用図書検定規則実施細則(平成元年10月17日文部大臣裁定) 〔第3 検定済図書の訂正(規則第14条関係)〕
(4)訂正内容の通知
 訂正の承認を受けた発行者又は届出により訂正を行った発行者は、図書の供給が既に完了しているときは、速やかに訂正の内容を、その図書を現に使用している学校の校長並びに当該学校を所管する教育委員会及び当該学校の存する都道府県の教育委員会に通知するとともに、訂正内容のうち誤記、誤植、脱字又は誤った事実の記載に係るものについては、この通知に加え、インターネットの利用その他適切な方法による訂正内容の周知に努めなければならない。

※2 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(平成20年6月18日法律第81号)
(定義)
第2条 この法律において「教科用特定図書等」とは、視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため文字、図形等を拡大して検定教科用図書等を複製した図書(以下「教科用拡大図書」という。)、点字により検定教科用図書等を複製した図書その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため作成した教材であって検定教科用図書等に代えて使用し得るものをいう。

お問合せ先

初等中等教育局 教科書課

電話番号:03-5253-4111(体表)(内線2396)